世界はあなたを愛してる   作:アビ田

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モッフモフにしーてーやんよ〜(ミックミック〜より)


無色に彩る悪の色

_____あにうえ、いたいえ…。

 

 

ドジって転んで、膝から血を流していた。

 

 

_____ぼくも、大きくなったら兄上みたいになりたいえ!

 

 

おれの後ろをいつもちょろちょろ着いてきた。転びやすいから手を握って、よく一緒に歩いた。

 

 

_____あんたを止めに来た!

 

 

あぁ…そんなに声低かったんだな、ロシー。

 

 

_____お前の理想の隣に居るなんて……反吐が出る!!

 

 

仕方ない。だってお前は正義を背負ってる男だ。おれとお前は違うんだ。仕方ないんだ。運命は揺るがない。

別れても弟が生きてりゃ、それでいいんだ。

 

 

_____あいつは自由だ!!

 

 

 

 

 

だからもう何も、喋らないでくれ。

 

 

 

 

 

 

 

おれを……ぼくをこれ以上、傷つけないで……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の何かが、パリンと割れた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

-----

硝煙が辺りに漂う。

 

裏切り者を粛清し終えたファミリーは、静かに帰路に就こうとしていた。

バレルズの財宝を持ち帰りながら歩く中、ただ一人船長は銃を撃った場所から動かないでいる。

 

ベビー5はどうしたのだろうと、足元を引っ張った。

 

 

「若様?」

 

「………」

 

「べへへ〜一人にしてやれベビー5」

 

「……分かった」

 

 

雪を踏みつける小さな足音は遠のいて行く。

 

 

(若様は…私たちを選んだんだわ。ケジメを付けたのよ)

 

 

しかしそこでふと過ぎった疑問。ブキブキの実の能力を持つ彼女だからこそ抱いた疑問。

 

_____血の出方が、少し変だった。

 

 

普通なら、撃たれた瞬間あんなに勢いよく血は出ない。ピュっと出たあの感じは、明らかにおかしい。

もしかして若様はと、そう思ったところで肩を叩かれた。

 

グラディウスだ。口元には人差し指が立っている。

 

 

「……若様は…」

 

「…どうであれ、俺たちは若の選択についていく。俺たちを選んで下さったんだ。それに応えなくてどうする」

 

「グラディウスさん…!」

 

 

銃を日常的に扱う二人だからこそ、感じたほんの少しの違和感。

 

きっとコラソンを____弟を生かして逃がそうとしているのだと思った。既に出血は多い為死ぬ可能性は高い。

それを受け入れて、耐えて耐えて___撃った。

 

最初から粛清をせず逃がそうとは言わなかった。ファミリーの信頼を、船長として裏切らないために。

 

 

若様は決めたんだ、弟との決別を。そうでなければ撃てるわけがない、あのブラコンの若様が。

 

それにと、ベビー5は続ける。

 

 

「そんな甘い若様も、私大好きよ。ファミリーのみんなもきっと大好きだわ」

 

「……そうだな。とりあえず今は一人にさせておこう」

 

「うん。きっと雪が全部隠してくれるもの。私たちは何も知らないわ」

 

 

そう言ってベビー5は駆けて行く。転ぶなよとグラディウスは言いながら、前方に進んでいるファミリーの跡を足早に追うのだった。

 

 

 

 

 

-----

 

雪の中、ただぼんやりと男は立ち竦んでいる。

 

 

 

撃った。弟を撃った。

 

 

撃った反動の痺れ。そんなもの慣れているはずなのに、何故こうも体まで痺れるような感覚がするのか。

 

動けない。早く助けなくては。出血は更に進んでいる。自分が撃った分も足された。

早く早く…早く。

 

震える手を握り締め、漸く一歩を踏み出す。既に猛吹雪となりつつある雪に、弟の体は少し埋もれている。

 

 

おつるさんが来るだろう。それを影騎糸(ブラックナイト)で運ばせて___

 

 

そこまで思った所で、男の体は崩れた。段々と意識が遠のく。怪我をしているわけではない。

 

ただ、胸が酷く痛かった。何かが壊れて行く気がする。ドス黒い破壊欲が、自分の内で暴れ回っている感覚がした。

 

 

 

(弟を……ロシーを…………助けななきゃ)

 

 

手を伸ばす。中指だけがピクリと動いた。

 

 

(ぼくが、ロシーを。ロシー………を)

 

 

届かない。尚も自分が壊されて行く気がする。いや、壊されている。段々と思考が黒一色に染まって行く。

 

 

_____壊せ

 

 

(いやだ)

 

_____壊せ

 

 

(いやだ…!!)

 

 

_____壊せ、目の前の男を

 

 

(いや……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「壊せ」

 

 

 

 

 

ポツリと男から声が漏れる。次いで指が意思に反して動く。

そうだ壊さなくてはと、ドス黒い感情一色に染まった。

 

 

最後に男の内で、子供のような声が呟かれた。

 

 

 

 

 

(たすけて、ジョーカー)

 

 

 

 

 

 

その瞬間、ロシナンテの首に這い寄っていた糸が一瞬にして消えた。

立ち上がった男の瞳に映るのは、いつもより獰猛さを宿す荒波の如き濃い碧色。

 

 

 

 

 

「おれが居ねェと、本当駄目なクソガキだな」

 

 

 

 

 

口角を上げ、ドフラミンゴは笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----

 

 

 

 

ここはどこだろうかと、少年は呟いた。

 

真っ黒な世界だ。触れても何の温度も感じないし、何の音もしない。まるで無の世界だ。

最後に確かジョーカーの声がしたのだっけと、ぼんやりと少年は思う。

 

 

眉を寄せ、突如現れた行方をくらませていた男に愚痴を零す。

しかし何をすることもできないので一人ポツンと体育座りをしていれば、奴が現れた。

 

 

「どこ行ってんだよ。ぼくを置いて」

 

「フッフッフ、随分ガキになったなァ」

 

「やめろ撫でんな!!」

 

 

噛み付くように歯を剥く。それにさらに愉快そうに男は笑った。

 

 

「テメェはずっと気付いていなかったろうが、おれたちは何度か混ざっていた」

 

「…混ざる?精神が繋がってるのは知ってるけど…」

 

「違ェよ。磔にされた時と、悪夢を見てた時、おれとお前の精神は混ざっていた」

 

「……!あの変な感覚……」

 

 

なるほどなと、少年はポンと掌に拳を当て頷く。

 

何かと共鳴していた感覚は、ジョーカーの精神と混ざっていたのだなと、頭の片隅で不思議に思っていた疑問が漸く解けた。

 

しかし聞きたいのは居なかったことだと、唇を尖らせる。

 

 

「もしかしてロシーの場所に行って、見張ってたのか?」

 

「……ずっといたさ。テメェの近くに」

 

「…?」

 

「お前は疑問に思わなかったのか、おれがテメェの腕を勝手に動かして撫でたり、部分的にお前の体を乗っ取ってたことに」

 

「……それは、気付いてたけど。それがどうしたんだよ」

 

「初めの頃、つまりテメェの体を最初に乗っ取る前、おれはお前の体に入ろうとしたが入れなかった。お前が気絶して漸く入れたんだ」

 

「………」

 

「その後も何度かお前の体に入る機会があったが、全部お前の許可ありきだった。だがここ数年は違う。入ろうと思ったわけじゃねェが、勝手に入れた。部分的にお前の体を動かせた」

 

「……気を抜いてたのはリラックスしてたからで…」

 

「咎めねぇよそんな事。それよりもだ、どうしておれがお前の中に入れたか分かるか」

 

「……いや、全然」

 

「…テメェの内が壊れてきてんだよ」

 

「……内?いや、ぼくは変わってないぞ」

 

「今それを言うかよガキ、アァ?」

 

 

青筋を浮かべて男は子供の襟を掴む。少年はやめろえと、首元を締める原因となっている手を精一杯掴んで抵抗する。

 

 

「おれの破壊欲に、お前はもう耐え切れなくなってる。お前はおれじゃねェ、小さな容器に大量の水を入れることは出来ない。それをお前は無理やり、ずっと耐えてきた。その結果がこれだ」

 

「………」

 

「コラソンを撃ち、感情の本流が暴走した。そこに破壊欲が追い打ちをかけてお前を壊した、違うか?」

 

「………」

 

 

少年は強く唇を噛んだ。もう少し強く噛めば、きっと血が出るであろう強さで。

 

 

「壊れて、今こんなガキにまで精神が戻ってる。いいか、おれは無茶をするなと言ったはずだ」

 

「……してないえ…」

 

「ア゛ァ?」

 

 

少年はヒッと、恐怖に濡れた声を出し怯えた。

 

男はしまったと舌打ちをし、少年を一先ず下ろして目線を合わせようとしゃがむ。少年の身体は産まれたての子鹿のように震えている。

 

今目の前にいるのは、男が思ういつもの生意気なクソガキじゃない、本当にただの小さな子供だ。

 

震えながら、小さな体を更に縮める。

男はその髪を優しく梳いた。

 

 

「お前は利口だ。これからどうすればいいか、おれが何故いなくなってたか分かるな」

 

「……分かんないえ…!!」

 

「おれがいるからお前は壊れる。おれの破壊欲に、テメェはこの先耐え続けられない。このままだといずれお前は壊れて_____消える。その場合、おれだけが残るんだろうな」

 

「いやだ!!」

 

 

少年は男の襟を掴み、首を絞めるように引っ張っる。大して威力にもならないそれに、男はやけに心臓を掴まれた気がした。

 

 

「消えちゃだめ!!ぼくを置いてかないで!!!やだ……やだ!!!」

 

「…………」

 

 

少年はもう察していた。何故男がいなかったのか、何故こんな言い方をするのか。そしてここがどこなのかも、薄々検討が付いていた。

 

 

ここは精神の中だ。どちらのものでもある、共通の場所。

 

 

 

男は混ざろうとしている、少年と混ざり、消えようとしている。

 

 

 

だからいなかったのだ。少年の精神の異常にいち早く気づき、混ざろうと精神の中に潜り込んでいた。

消える事が出来ないが故の、最終手段だったのだろう。

 

様々なシーンで見られた普段より暴力的な感情や思考も、混ざろうとした事が起因していたのだ。

 

 

混ざった所で、少年の破壊欲は変わらないのかもしれない。

しかしこのまま放っておけば、起こる未来は少年の自我の瓦解だけなのだ。

 

 

 

 

そしてそれを理解した少年にとって、その内容は残酷な事だった。

 

皮肉にも、昔同じことが起きた。それが今は逆だ。少年が必死に、男の腕を引っ張っている。

 

 

 

消えないでと、一人にしないでと。

 

 

その姿はまるで、父との別れを拒絶する幼子のようだ。

 

 

「うわぁぁぁああん」

 

「泣くなよクソガ………泣いてねェ」

 

 

涙は既に枯れている。少年には元から何も無かった。

 

この世に何の因果とも知れない数奇な運命を経て生まれ、多くの知識を有しながら、しかし肝心なことは思い出せない。

 

中途半端だったからこそ、余計に少年は歪んだ。

 

 

潜在的な強さがあるにも関わらず、内側は酷く脆かった。それをひた隠しにして現実を生きて来た。…いや、隠さねばならなかった。

 

 

生きたという感覚だけで、少年には感情も何も無かった。今なら分かる。

 

 

それがジョーカーと出会い、変わった。男の精神が、色のない少年を染め上げた。

 

 

歪んでいる感情だけれど、生きたまま死んでいるよりはよっぽどよかったと思う。

 

あのままでは、少なからず少年は何も得られていなかった。ただ何も助けられないまま、家族全員死んでいた。

 

 

 

しかし家族を救えた。親友と出会えた。仲間が出来た。

 

_____自分の決めた理想を片手に、ここまで来れた。

 

 

 

その原点が目の前の男だ。

 

 

 

今も足りない感情は幾つもある。それらは幼少期に形成されなかったものばかりで、恐らく一生育つことはないのだろう。

 

それでもいい。今があるのは彼と歩めたからだと、少年は自信を持って言える。

だから真っ直ぐな目で見つめる。

 

 

光り輝くのは海を宿す瞳だ。

 

 

「あんたはおれで、おれはあんただ。おれはおれの道を歩いて行く」

 

「…そうか」

 

 

 

その言葉にもうこのガキは大丈夫だと、ジョーカーは思った。

 

自分とは違う甘い男。綺麗な瞳を前に、自然と温かい眼差しが浮かぶ。

 

 

消えるわけじゃない、混ざるだけだ。

 

 

死んで霊体になったのだと分かった時は、正直ブチ切れを通り越して冷静になったが、それも今思えばよかったような気もする。

 

ガキは自分の道をもう一人で歩ける。自分で考え行動出来る。

 

ローという禍根も残っているが、自分とは違い執着を見せていない。

例え将来その首を取りに来られようとも、こいつならどうにかするだろう。

 

 

それにこいつの仲間は、もう既に依存しなくとも一人一人で歩めるようになってきている。

 

もしもの時、奴らがこいつを支えてくれるだろう。

 

 

それは男が先導してつくったわけじゃない。少年自身が導いた結果だ。

 

 

 

過るのは憎い麦わら。その器にこいつは似ていると感じた。

 

そして消えようとした所で、腕を掴まれる。

 

 

 

そこにいるのは、少年のままだがいつもの背ばかりデカくなったクソガキのようだった。

 

 

 

 

 

「おれの隣に、あんたもいるんだよ」

 

「…!」

 

 

 

おい離せと言い掛け、阻まれる。

 

 

 

「おれの心が弱いのなら、強くなればいい。あんたの破壊欲だろうが、理不尽な世の中だろうが、全部まとめて背負えるぐらい強くなってやる。

 

だから、消えるなジョーカー_______ドフィ」

 

 

 

その言葉に、男は目を見開く。この世で一度も呼ばれたことがない、その愛称。

 

あくまでこの世では奴がその名を冠する存在だ。自分はガキのお守りをするお節介な幽霊だと、一線を引いていた。

 

故に世界の流れにも希薄だった。少年のこと以外に構う必要はない。流石にファミリーに思う所はあったものの、予想以上に弟にもローにも感情を揺さぶられなかった。

 

 

それがどうだ、そんな自分をクソガキはただ真っ直ぐに見つめるのだ。

 

それに自然と笑みが漏れる。

 

 

 

 

飽きない男だ。本当に__

 

 

 

 

 

 

 

「クソガキだ」

 

 

 

 

 

そう言い、ジョーカーは少年の頭を無造作に撫でた。




主人公
身内に甘い打倒天竜人。精神瓦解コースが判明。でも一皮剥けた。頑張る。全部背負って歩いてやるぜ。

ジョーカー(モフモフ)
主人公守り隊兼おとしゃん。主人公救おうと混ぜ込みご飯…失敗。海賊王たる器に魅せられた。
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