世界はあなたを愛してる   作:アビ田

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ほぼ本編な番外。シュガーの狂気の所以と不安定なモネちゃんの話。微々甘。
モネちゃん可愛い…………。モネちゃんの羽に包まれたい……。

この後の三章はうっ…な暗さが終わりまで続きます。


番外:嵐が来る

 《今夜は嵐になると_____》

 

 

 ガタガタと揺れる窓。珍しくハリケーンが来るらしい。この天候のせいで今日の取引は延期になった。仲間も予定が無くなったため、自由に過ごせと言ったら大半がトレーニングだ。

 もう少しは休めよ…。

 

 

 おれはおれで他に書き物もあったので羽ペンを走らせていれば、ノック音がした。許可し、誰かと思い顔を上げてみればモネだった。

 

 

「どうした?」

 

「あ、あの……若さ…」

 

 

 様子がおかしい。何かに怯えているような状態だ。とりあえず書類は後にし席を立つ。

 

 いつの間にか雲が育っていたのか、部屋はかなり暗くなっている。電気を点けようと糸を伸ばした所で、一筋の光線が天から落ちた。

 

 

「お、雷……」

 

「〜〜〜っ!!」

 

 

 兎のように跳ね転けそうになったモネを掴めば、目尻に涙が浮かんでいた。

 

 一先ず雷が怖いという事は分かった。明かりを点け、序でにカーテンも閉じる。曇りの日特有の部屋の鈍い明るさになったのを確認して、先程座っていた椅子の上に乗せた。

 

 呼吸が浅い。おいマジか、過呼吸になりかけか。

 

 

「ゆっくり息を吐け、大丈夫だから」

 

「ふっ……ううっ……」

 

 

 背中をさすって、巻き毛だが柔らかい髪を撫でる。モネが椅子、おれが地べたに座った状態で漸く同じ目線だ。こんな時に身長差を感じる。

 

 大分落ち着いて来た頃合いを見計らい、水を持って来ようと立つ。生憎コラソンの時の名残で、液体類は置いていない。

 

 あいつがマジで何度やらか…………うんダメだ忘れろ、精神衛生。

 

 

「ちょっと待ってろ、水持って来る」

 

「わ、わかさ、待っ………わ、分かり、まし…た…」

 

「…大丈夫か?」

 

 

 顔が青い状態で慌てて大丈夫と言う。絶対大丈夫じゃないだろ。

 

 影騎糸に持って来させモネにコップを渡したが、震えのせいで水が飛び散る。支えようと手を伸ばしたが遅く、思い切りデスクの上に水が舞った。

 

 書いたばかりのインクが滲む。コラソンと比べりゃよっぽどマシ……だから精神衛生な。

 

 

「あ…」

 

「大丈夫だ、気にすんな」

 

 

 あぁ…でも拭くものないか。確かおれの替えのシャツがそこらに……ん、んん?

 モネが上を脱ぎ出し……

 

 

「…!?ど、どうした?落ち着け」

 

「で、でも拭か、拭かなく…ふ、か」

 

「……」

 

 

 慌てて手を止めさせたが、ビックリしたわ。

 

 拾って数週間が経ち薄々感じてはいたが、モネは時折精神的に落ちる事がある。

今はそれが苦手な雷と重なり、余計不安定になっているのだろう。

 

 シュガーが時折ベッタリとモネに張り付いている事があったが、こういう事だったのか…。

 

 優しく手を掴み、彼女の膝の上に置かせる。瞳の奥は風に吹かれた蝋燭の炎ようにゆらゆらと揺れていて、まるで心の底を映しているようだ。

 

 

「深呼吸してみろ」

 

「……」

 

「じゃあ一緒にしてみるか」

 

 

 そう言えば小さく頷いた。真似てみろと言えば同じように繰り返す。数分行い少し血色の戻った肌に息を吐き、糸で近くにまで持って来ていたコートを頭から身体全体を覆うように被せた。

 

 そのまま握っていた白くしなやかな手を、柔くマッサージする。

 

 

「あった…かい」

 

「ここらは寒いからな。後でジョーラ………やっぱりベビー5と服でも買いに行って来い。シュガーは平気そうだけどな」

 

「ふふ…シュガーは、昔から…体温高いの」

 

 

 漸く笑った。そのままモネはおれの手を握り返した。おれの方が体温が高いと思ったが、ほぼ同じくらいで驚く。

そういや自分も元々低体温だった。

 

 

「若様は、心があったかいのね」

 

「フフフ、家族にはな」

 

「か、ぞく……」

 

「お前も家族だよ、モネ」

 

 

 彼女は溢れんばかりに目を見開く。勿論シュガーもなと続けて、モフモフに隠れて見え難くなっていた顔が見えやすいよう、手で退かす。

 

 

「大黒柱が若様…」

 

「フ、フフフ…大黒柱…」

 

 

 真剣な所悪いがツボった。抑えきれなくなりそうなのを堪えながら聞く。だがトレーボルの所で危うくなった。

 

 

「親戚の…おじさん」

 

 

 突然家族の枠から外れた。何故突如外れたのか。若干ツボがおかしい気がするがいい。

 

 

「若様は…よくお笑いになるのね」

 

「フフ…ん?まぁな、笑っておいた方が人生マシだろ」

 

「……」

 

 

 笑っていた方が幸せは来るんだ。母上が歌っていた子守唄の歌詞にあった。

 それに暗闇の中笑わないで歩いていたら気をおかしくしそうだ。

 

 

「だからって無理して笑うなよ?自然でいい」

 

「…自然、に…」

 

「スマイル」

 

「スミャ……」

 

 

 スマイルと繰り返そうとしたモネの頰を引っ張る。感触が餅だ。

 

 

「わ、わかしゃま」

 

「フフフフ!」

 

 

 あ、これセクハラで訴えられたらおれに勝ち目ないなと思いつつ、じゃれ合う。最近ベビー5が素っ気なくなって来たのを思い出すと辛い。構ってくれる相手がいないのだ。

 

 デリンジャーもジョーラにベッタリ気味で来ない。

 脇腹を擽れば普通に笑った。

 

 

「ふ、ふふ、ず、ズルいわ…!」

 

「やり返すなとは言ってないだろ?」

 

 

 カーン!と、ゴングの鳴る音がした。モネの瞳から反撃の意志がよく読み取れる。ごめん流石にやり過ぎた。でもおれはそんなに弱くないぜ。

 

 来る攻撃を躱していく。これ以上の手出しはしない。モネの本気度から見てちょっとおれも反省してる。

 

 

「わ、若様速い…!!」

 

「頑張れ頑張れ」

 

 

 最早仕事云々、精神云々ではなくなっている。まぁ楽しいのでいいかと思い、後方に退けば壁にぶつかり驚く。尚も猛追が来るので横に避けようとし…何かに触れられた。

 

 は?と思い下を見れば、扉の隙間からにゅっと手が出ている。Ohホラーと言いかけモネの言葉で腕の正体が分かった。まぁその前に、触られたところが紫の果汁で染まっていたから分かったけれども。

 

 

「シュガー!」

 

「…おねーちゃん」

 

 

 視界がぐんぐん小さくなっていく。オモチャにされたと認識したのも束の間、少女の手に捕まった。おれをそのままモネに渡している。というか若干シュガーがわきわきしている。

 

 

「大人げない若様!」

 

「…?」

 

 

 モネが何故かおれを見ても気付かない。目の前で船長が妹に能力行使されたんだぞ。もう少し驚いてくれよ。別に捨て身でおれもなりに行ったわけじゃないが。

 

 

「これ…誰?」

 

「…!」

 

 

 ん?どういう事だ?もしかしてオモチャにされた奴の記憶は周囲から消えるのか?シュガーは心当たりがあるのか、姉の反応に少し驚いたもののすぐに戻った。詳しく調べないとな。

 

 というか能力を解除してくれ。

 

 

 自分の容姿を見ればフラミンゴだった、まんまかよ。サングラスが呪いのように付いていたので思わず笑った…が、声が鳥である。クエって何だ。サイズもモネの両手にピッタリ収まるほどの大きさになっている。

 

 羽をばたつかせて戻せアピールをしてもシュガーはニヤニヤしたままだ。

 

 

「おねーちゃん、今日は嵐だから一緒に寝よ」

 

「え、えぇ」

 

 

 待て待て、おれの意思を尊重してくれ。モネもおれを抱きしめるな、後で後悔するのはお互いさまなんだぞ。

 

 しかし虚しくも連行された。姉妹共同の部屋だが普通におれが寝たら足半分が地面に落ちそうだ。今は大きく感じるが。

 

 

「クエッ!」

 

「ふふふ、ふふふふふ」

 

 

 シュガーがいやーな笑みを浮かべている。お前船長にこんなことしたら、後でグラディウス辺りにシメられるぞ。

 

 

「若様いいのかな〜」

 

「ク、クエ…!」

 

 

 見せて来たのは擽っている時の写真。撮り主の悪意なのか何なのか、おれがモネを襲ってるように見え……ない、見えないぞ絶対…!

 

 だが自己暗示はものの数秒で失敗に終わる。

 

 

「若様…おねーちゃんの心をもてあそんで……責任取ってよね……じゃないと…」

 

 

 嘴で取ろうと思ったが避けられた上、風呂上がりのモネに捕まった。待って待ってジョーカー助けて。

 

 

 

 …………。

 

 

 

 こういう時起きて来ないよなあんた!!

 

 

「クエーー!!クエッ!」

 

「…そう言えばシュガー、この人誰か聞いてなかったけど…」

 

「おねーちゃんの恋人!」

 

「…え?」

 

「記憶が無いからおねーちゃん分からないんだよ」

 

 

 それになるほどと首を縦に振る。振っちゃダメだって、マズイって。とは言ってもモネに疑問というワードはこれ以上出て来まい。

 

 シュガーが自分を危険に晒すはずがないという無意識下の思考がモネにはある。故にこの人形___即ちおれ、モネからしてみれば見ず知らずのオモチャでも、警戒心が薄いのだ。

 

 確かに傷付けないが、おれダメだと思うんだこういうの。

 

 そう思っていればモネが離れた所を見計らってシュガーが近付いて来た。

 

 

「おねーちゃん若様のこと好きだから…」

 

「クエェー…」

 

 

 違う、アレは信仰心の目なんだよ…。だが言葉は伝わらない。本格的に嵐が来たのか、壁に叩きつける雨音と、雷の音がする。

 

 モネもどうやらまた気分を悪くしたようで毛布を被って震え出した。

 心配の色を含めて見つめていれば、シュガーがポツリと零す。

 

 

「…私は覚えてないけど、私たちが売られた時も、こんな日だったんだって」

 

「クエ…」

 

 

 船に揺られて、着けば奴隷の競り場。服を脱がされるのは基本だが、場合によってはどこの出か分かるように身体に烙印を押される。

 

 

「私は本当に小さくて押せる場所がなかったからされなかったの。でも、おねーちゃんにはあるんだ」

 

 

 そう言いシュガーが自分の身体で示した場所は、丁度背中の中央より少し上の位置。見覚えのある蹄の形を思い出し吐き気がした。だがクエしか出ない。どうにかならないのかこの声、真剣に考えているというのに。

 

 

「痛くて、怖くて、それでも私をぎゅうって抱きしめて、守ってくれた。私は…おねーちゃんを虐める奴は全員殺すよ。絶対に、何をしてでも」

 

「……クエ」

 

「若様何言ってるか分かんない」

 

 

 おい、お前が言っちゃダメだろ。誰のせいでこんな姿になっていると…。

 

 

「私は、おねーちゃんを幸せにするんだ。恩返しするの」

 

 

 話した事は内緒ねと言い、シュガーはモネの元に戻った。姉を守るのだとシュガーが語ったように、モネも妹を守って生きて来たのだろう。

 

 精神的に不安定な事があるのも、おれの知らない…それこそシュガーも知らない過去の出来事が起因しているのだろうか。

 

 

 詮索はしないが、かなりセンシティブに扱わなければなるまい。ファミリーにも…特にトレーボルとデリンジャー辺りにはグイグイ来ないよう言っておくか。

 

 …おれももう少し気を付けよう。

 

 

 

 そしてそのまま夜、モネに抱き枕にされていた。しかし急に視界が変わったと思えば戻っている。おれの腹の上辺りにモネが、胸板辺りにシュガーがいる。というか少女に関してはぱっちり目を開けている。

 

 

「ふふふふ」

 

「ふふじゃねェぞ、モネに怒られてもしらねェぞ」

 

「私も…」

 

「?」

 

「私も、夜に…まど、ガンガンするのは……こわい」

 

「…しょうがねェな、今回だけだぞ。次からはジョーラかベビー5に頼めよ」

 

「うん。ありがと、わかさま…」

 

 

 ……結局、心の強いものは少ないという事だろう。いや、強いがそれ以上に社会が彼らを不当に扱い、社会の枠内から省いているんだ。

 理不尽で、傲慢な世界。フフフ…本当に、…要らねェなぁ。

 

 

「おやすみ、な……しゃい」

 

「あぁ、おやすみ」

 

 

 そう言った瞬間シュガーは眠りに落ちた。眠かったんだろうな、ずっと。

 頰を触ればやはり餅だ。…というかおれが眠れない。

 

 

『……何がどうなってる』

 

「あ」

 

 

 起きるの遅い。そう思ったが言いはしなかった。

 

 

(見ての通りだ)

 

『……まぁいい』

 

 

 ん?ちょっと察したみたいな顔してるけどアレだぜ?手は出してないからな?ちょっと現行犯逮捕を免れないシーンはあったが、あれは許してくれ。子供たちが誰も構ってくれないんだ。

 

 

『お前を気遣ってんだろ。隈も酷いしな』

 

「………」

 

『考え事やめて目を瞑ってみろ』

 

「あ?……目ェ瞑って、そんで考えるの、や……」

 

 

 

 

 _____ぐぅ。

 

 

 

 

 そのまま寝た。相当疲れていたらしい。

 二人の心音が温かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌朝。

 

 

 

「んっ……」

 

 

 モネが目を覚まし肢体を起こせば、固い感触。それが腹筋だと気付き、寝起きで視界が霞む目を擦りながら上に視線を逸らしていけば、シュガーが涎を垂らして黒いシャツを汚している。

 

 黒い……?

 

 

 ドッと出る何か分からない汗を拭き、腹辺りまで捲れていた黒シャツをそっと戻す。というか少し甘めな香水を使うのは一人しかいない。普段よりもさらに近いせいか、余計甘く感じる。

 彼女は無意識に唾を飲み込んだ。

 

 

 シュガーの更に上に視線を巡らせれば、行き場を無くしたサングラスがベッドの隅に落ちている。寝ている内に取れたのだろう。閉じられた瞼には長めの睫毛。体格には些か合わない、小さな呼吸音も感じる。

 

 

「……ふわわっ」

 

 

 一気に頭の天辺まで熱が昇る。何が何だか分からないほど混乱している。

 

 取り敢えず離れねばと中途半端に起き上がっていた身体を起こそうとし、しかしがっしりとした感触に阻まれた。

 

 

 腕が…腕が回っている。シュガーも同様だ。ベッドから落ちないよう無意識にしたのだろうけれども、今の彼女にとってはキャパオーバーだった。

 

 

「わっ、わかしゃ………」

 

 

 ボフン。

 

 赤面したモネはそのまま腹の上に顔を戻し、うわああ状態で二人が起きるのを待った。ドキがムネムネ。最早動悸に感じられる。後にこれほどまでに体感の長い10分は初めてだったと語る。

 

 

「シュガー!!」

 

「ご、ごめんなしゃい…」

 

「………」

 

 

 ドフラミンゴが起きた時、そこには床に正座させて妹に怒るモネがいたという。ただその顔は真っ赤で、シュガーは抑えきれないニヤニヤが漏れ出ていた。

 

 

 

「……仕事するか」

 

 

男が不意に窓を見れば、天高く広がる青空が浮かんでいた。

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