世界はあなたを愛してる   作:アビ田

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*「(セン)」………日が昇ること。

※最後軽度ですが拷問シーンのため、苦手な方はすっ飛ばして下さい。
()()()()からご注意。


落陽後暹

 七武海会議の前に、知り合いの天竜人から会いたいとの連絡があったので、こっちから赴いてやった。

 

 

 残念ながら人間としての感性を得つつある野郎だが、自分から行くという考えがまだない。

 憂さ晴らしに軽い挨拶がてら戯れようと思い、扉を開けた。

 

 

 以前奴との戯れ=イジメだと言われたが、知らんこっちゃない。だったらテメェで少しは動け、痩せろ少しは…と思ったが、痩身の男が立っていて一瞬誰かと思った。

 

 喋り方は今までと同じだったので、すぐに分かったが。

 

 いつも通り座り、一方的に盤上のゲームで蹂躙する。

 さっきからもじもじウゼェと言い放ったら、意外な答えが出た。

 

 

「じ、実は……内側から改革しようと思うんだえ…」

 

「は?」

 

 

 

 どうやらおれに感化されて、天竜人を内側から変えたいらしい。外側から変えるのは難しいからと、そういう内容だった。

 

 その視点は無かった。今まで殺すという選択肢しかなかったからな。

 少し短絡的になっていた部分もあったのかもしれない。

 

 

 おれが考え込むようにしていれば、奴は震えていた。

 

 無意識に呟いたぶっ殺すというワードに恐怖を覚えたようだ。万が一にでも豚どもに情けをかけるわけないだろ。

 それにテメェも現在進行形で天竜人だ。利用価値が無くなれば即手を切る。

 

 第一こいつは分かっちゃいねェ。同じ天竜人だろうが、あのクソ野郎どもは簡単に陥れて殺す。

 

 

 おれたち……、家族のように。

 

 

 イラつく気持ちのままチェス盤を叩けば、激しい音と共に下の机も巻き込んで粉々に粉砕した。

 護衛兼部下として付けられ廊下に待機していたヴェルゴも何か察したのか、扉を蹴り破り、竹刀を持ったまま黒くなっている。

 

 いきなりの武装色の登場におれも少し驚いた。

 落ち着け…いや、落ち着くのは先ずおれか。

 

 

 深呼吸をして、頭隠して尻隠さずな天竜人を宥めようと動く。

 

 面倒だ。こいつを殺せばそれだけでおれたちに政府から抹殺の目が向く。

 ドス黒い感情が渦を巻く。

 

 

 

 ぐるぐる、ぐるぐる。

 

 

 

 その時「垂れてるえ」と小さな声が聞こえた。

 

 何だと下を見れば、床に赤い斑点がいくつも出来ている。次いでピリッとした痛みとぬるりとした生温かい感触。自分の手を見れば、ジワリと血が滲んで滴り落ち、掌には爪の食い込んだ痕と爪の中に肉がこびり付いていた。

 

 舌打ちをして、血を拭こうと服に擦り付ける。白いシャツに紅く擦れた跡が付いた。

 

 

 キレてるヴェルゴを宥めて外に戻し…というか何かやらかしそうな雰囲気があったので糸で抑えておき、慌てながら執事の女から包帯を貰い駆け寄る天竜人の手から、包帯だけ糸で奪う。

 

 包帯を巻きながら鈍い痛みで眉間に皺を寄せるおれの横で、ポツリと男が話し始める。

 

 

「…ごめんなさいえ」

 

「……いい、お前が悪いわけじゃない」

 

 

 内心では何度めかの舌打ちをする。奴は昔こそ弟を見下したとして殺したいリストに入っていたが、今は大分変わった。

 野郎自身が人間に近付いているのは確実だ。

 

 それも一番面倒なタイプ_____純粋な性格だ。

 

 

 おれの家族に似ているというのは烏滸がましいにも程があるが、おれよりは純粋な性格と言えよう。

 大人なのに子供っぽい純粋さを持つ。面倒だ、非常に。

 

 

「わたすはでも……変わりたいと思ったんだえ……だから先ず、自分から変わろうと思ったん……だえ」

 

 

 ガキじゃないんだからみっともなく泣くな、ウゼェ。

 変えるなら先ずその語尾を何とかしろ。というか痩せたのはそのためか。

 

 ………あれ、なんか数十年来のブーメランな気がする。

 

 

「わたすは……貴方と出会って変われたんだえ……人間として、少しは……物を見られるようになったんだえ……」

 

「………」

 

「今は……昔と違って、世界がキラキラしているんだえ…!」

 

「…そうかよ」

 

 

 クソ、こいつの場合本当に特殊だろうが、豚ども特有の考えを改心させて、人間として自分を捉えられるようになったパターンだ。

 そういったやつの多くは、完全に人間の感性を取り戻せない。

 

 

 父上や母上は甘過ぎた。こいつはどこか人間味が欠けている。

 おれはおれで、人間の大半がクズだと思っている。ロシーが一番マシと言えるだろう。

 

 目の前の体型ビフォーアフターした奴は抜けておきながら、しかし甘ちゃん野郎だ。

 

 面倒だ。クズのままなら目的後、殺すの一択だったのによ。

 勝手に一人宗教立てて、人のこと崇めやがって…。

 

 

 …いや待て、わざわざおれのこと呼び出すなんて、相当なことがあるんじゃないのか?今の内容だったら、電話でも済む。

 会いたいとかそれだけの理由だったら、皮一枚剥いでやる。

 

 

「テメェの意志は分かったが、わざわざおれを呼び出したのには理由があんだろうな?」

 

「!そ、それは……」

 

 

 お、図星か?本気でおれに会いたいだけで、自分から行かず呼び出したのか?やっぱ殺すか…。

 不穏な思考に走っていれば、小さな声で奴は話す。

 

 

「り、……利用されようと……思ったんだえ……」

 

「……ん?利用するんじゃなくてか?」

 

「と、とと、とんでもないえ!!!」

 

 

 首を濡れたばかりの犬のように振る。

 ロシナンテもそんな風に髪の毛の水分飛ばしてたな……。

 

 一人地雷を踏みつつ耽っていれば、奴が今回の本題であろう部分を話した。

 

 どうやらおれに操られて、改革を進めたらと、そういうことらしい。

 おれの歪んだ思考で今までになかった案だが、やはり色々抜けている。

 

 

 先ず上から目線過ぎる。

 

 いくら打倒天竜人でもおれが受け入れると思ったのか、まぁ考えはするが。

 それとお前は他人の害悪から身を守れる程強くない。

 

 あと操れってお前、これ以上おれの負担を増やす気か。少しは自分でどうにかしようという意思はないのか。

 

 

 ……いや、意思云々も元々無い奴が多いのか。

 あるのは、そこにある悦楽を享受する溶けた頭だけ。

 

 でも他の天竜人どもよりはマシだろ。せめて猿人より原人の方がいいぞ、おれは。

 

 

 まぁこいつは利口になったろう、昔と比較すれば。

 

 天竜人を懐柔する方法を探していたが、奴隷売買でコネをつくるよりも遥かにいい。確実に近付ける。

 バレた時のリスクは計り知れないが、そん時はそん時だ。

 

 命なんていつ失うか分かったもんじゃない。それを重々おれも理解したしな。

 

 

 

 生きてる内に、確実に天竜人を地に堕とす。

 想像したものの笑いが止まらなくなった。

 

 

「だ、大丈夫かえ…?」

 

「フ、フフフ……いいぜ、色々テメェの抜けの甘さには思う所もあるが……案はいい。協力してやるが、少しは自分で動けるように教育してやる」

 

「……」

 

 

 ゾッとした顔をするな。子供に教えるのと同じだ、精神に語りかけることもあるだろうが。

 

 

 奴の考えは言うなら天竜人の意識改革だろう。もっと言えばそれは人間へと成り下がることだ。

 

 生半可な覚悟じゃ難しい。

 それを揺るがすには圧倒的な力か、言葉が必要だ。

 

 力は貸せない。おれは所詮ただの人間だ。天竜人という圧倒的な権力を持っちゃいない。

 

 そこは奴自身の身一つで動くしか無いが、しかし言葉ぐらいは貸せる。

 人を誑かす狂言だ。面白いだろ。

 

 

「フフフ……目指すならそうだな、天竜人の『人間宣言』って言ったところか」

 

「……!」

 

「そうすりゃ奴らは人間、神様じゃなくなる。フフ、フフフフ、フフ……テメェ等の虐げた人民の人民による……殺り放題だ」

 

「…ヒェ」

 

 

 想像したのか、奴は顔を青くし蹲った。

 

 今こそ奴は奴隷ではなく使用人を雇うスタイルになってはいるが、昔は奴隷を虐げていた。

 いつから変わったかは興味がないが、大分前に変わったらしいことはここのメイドから聞いてる。

 

 自分にも思い当たる節が少しはあるはずだ、感性がきちんと人間になってるなら。

 

 

「わ、わたすも殺されるのかえ…?」

 

「テメェが虐げた奴らの顔が浮かんだか?うんうん、利口じゃねェか」

 

「あ、いやそういうことじゃなくて…」

 

 

 チベスナ顔でおれを見た。テメェそういう一瞬冷静になるとこあるよな、地味にムカつく。

 

 頭の上に置いていた手を拳骨に変え、脳天を軽く責めた。

 痛いだァ?良いマッサージだろ、黙れ。

 

 

「わたすは……貴方に殺されるのかえ?」

 

「……あ?」

 

 

 成る程、そういうことか。

 確かに打倒天竜人とは思っちゃいるが、全員おれが殺すわけじゃない。おれが殺すのはおれたち家族を陥れた奴らだ。

 

 お前は自分の虐げた奴らに殺されろと笑えば、眉を下げた。

 

 

「わ、わたすは……貴方に殺されたいえ……」

 

「…………」

 

 

 気持ち悪い。…とは思うが、まぁ協力してくれているのは確かだ。その位ならいいだろう。

 

 床に座っている奴の視線に合わせてしゃがみ、顎を持ち上げれば顔がエライことになっていた。だが痩せたこいつは意外に美形だ。歪めてやりたい。

 

 本当こういう加虐的な性格…ジョーカーに似てんだろうなぁ…。

 

 

「あぁ、いい子ですね。そんなに私に殺されたいなら殺して差し上げますよ。首を斬りましょうか?それとも鉛玉で心臓を撃ちますか?フフフ、どうであれ楽に殺して上げますよ」

 

「……あ」

 

 

 口を半開きにして、陶酔しきった目。

 

 カルト商法とはよく言ったもんだが、おれとこいつの関係はそれに近いのかもしれない。

 元々勝手に神聖視してきたのはこいつだが、長年それを利用してきたのはおれだ。

 

 終わりぐらいは楽に殺してやろう。磔にされて弓で射られない事を幸福に思え。

 

 

 生かしはしない。それは譲らねェ。

 

 

 

 …だからこれ以上、甘ちゃんにはなってくれるな。

 

 

 

 ジョーカーなら冷徹に殺せるだろうが、おれは甘い。最早直せない気しかしない。

 だから精々感情移入しないように極力……気を付けなければ。

 

 

 その後部屋を出て相棒と話したが、教育は自分がすると言い出した。

 

 

「君の苦労が___」「無茶をする気___」等色々。

 

 

 そもそも本来ここに来るのは一人の予定だったが、モネとシュガーを拾って来て以降、出掛ける際は誰か側に控えるようになった。色々不満はあったが、やらかしたのは重々理解していたので、一先ず甘んじた。

 

 場合にもよるが…、今回は何か察したヴェルゴが着いて来た。

 断ったのに押し問答の末おれが負けた。海図用の定規持っての脅迫は狡いと思うぜヴェルゴ…。

 

 

 奴は戻って来てから最近おれのオカンじゃねェかと思う程には、口煩い。

 

 今もそうだ。そしてそれを断れない程、おれもやらかしてる自覚はあるので、ヴェルゴの提案に今回は甘えることにした。

 教育係…と言っていいのかは不明だが、それ兼護衛役。

 

 

 あいつにもヴェルゴに手を出したら殺すと言ってあるので、大丈夫だろう。

 というかいつの間にか夕日に向かって走る生徒と先生になっている。

 

 

「ヴェルゴ()()だ!」

 

「はい、ヴェルゴさん!!」

 

 

 遠い目になったのは仕方ない。取り敢えずここに来たのは正解だった。おれの計画の一歩が進めた。

 後は世界政府……謂わば天辺崩し。

 

 

 

 考え方が少し変わったせいか、そこまで自分が保つのかは分からない。ただ天竜人を地に堕とすことだけは死んでも遂げてやる。

 

 それはおれの役目だ。絶対に果たしてやる。

 

 

 自分の進める量を見極めるのも必要だ。だが進める分は進む。

 おれの意志を継ぐ奴が現れるかは不明だが、恐らく天竜人が消えれば世界は変革するだろう。それも…大きく。

 

 

 時代は流れる。海賊王やフィッシャー・タイガーのように、何かを成し遂げる奴が必ず現れるだろう。

 

 

 穏やかな世界を見られるかは分からないが、その礎をつくるのも……悪くないかもな。

 

 

 

 

 

 青空に無数のカモメが映える。

 

 

 本格的な指導は後日からと言う事でお開きになり、今は船の上にいる。

 

 海風に当たりながら甲板に立っていた。サングラスに圧迫されてるせいか、少し左目が痒い。

 目に刺す光を耐えつつ眼帯を取って目を擦っていれば、声がした。

 

 ヴェルゴが口を開けてる。やべ。

 

 

「………失明したと聞いたが」

 

「フッフッフ!…悪の組織に移植されたのさ」

 

 

 何とも言えない空気が流れる。

 

 居た堪れなくなったため「おれにも分からねェ」と言えば、それが本心だと分かったのだろう。そうかとだけ告げられた。

 

 おれが嫌がる事は、昔からヴェルゴは余り詮索しない。

 本当に何度も言うが、こいつはいい奴だ…。それとファミリーの奴らもな…。

 

 ジョーカーの目はおれの家族の目の色と似ている。そのことからこの目は、おれ自身の色なのだろうと判断した。

 

 

 でもあまり好きじゃない。

 家族と同じ色の方がいいしな、一人だけ仲間外れな感じがして子供の頃は嫌だった。

 

 

「…そう言えばドフィ」

 

「ン、何だ?」

 

「君は大分…穏やかになったな」

 

 

 そうか?そう言って首を傾げれば柔らかく微笑まれる。どこか安心したような、そんな笑み。

 

 

「君は危なっかしいからな、昔から」

 

「フフフ、お前のクセも相変わらずだがなァ」

 

 

 そう、相変わらず何か頰に付いてる。今日はコップだ。しかも中身が入ったままの高度技。

 

 久し振りに相棒と対面して話した気がする。

 こいつもだが…仲間に支えられてるのを身にもって最近感じる。

 

 

「弱いな、おれ…」

 

「……ドフィ」

 

 

 らしくない、まだ引きずってる。だが弱いのを受け止めた今、大分自分に正直になった気がする。

 深く息を吐いて落ち込んでいれば、やっぱり変わったなと、そう言われる。

 

 

「煩ェ、お前も見ない内に髭こさえやがって…むさ苦しい」

 

「似合わないか?」

 

「……キノコヘアには……せめて坊主だろ」

 

「…そうか」

 

 

 何か納得したらしい奴は部屋に入っていった。

 おれは何が何だか分からず、そのまま一服がてら外の空気を吸っていた。

 

 数時間後、坊主になったあいつを見て、驚きの余り仰け反って海に落ち掛けた。

 

 

「!?!?」

 

「ドフィ!?」

 

 

 何やかんやあったが、懐かしい親友とのやりとりに和んだ1日だった。

 

 

 

 しかし次の日七武海の招集があり、肩を落とした。

 

 

 

 

 

 -----

 七武海会議後、おつるさんにお茶に誘われたおれは何故かセンゴクと対面していた。

 

 目の前にはおかきがある。食えとのことらしい。

 

 

「おかきだ」

 

「要らん」

 

「ロシナンテが昔喜んで食っていた」

 

「………」

 

 

 手に取って苛立ったまま思い切り噛み砕いた。ボリボリ音がする。おつるさんは隣で茶を飲んでいた。ただチンピラの座り方が目についたのか、行儀が悪いよと言われたので大人しく足は閉じた。

 

 すると広くなったスペースに深く腰掛けたので、どうやら狭かったため注意しただけらしい。おれを連れて来たのはいいが、このまま彼女は傍観の立場を取るようだ。

 

 しかし何つーか…母親に躾けられているというよりは、作法に厳しい祖母に注意されている感じが……いででで、脛抓んな。

 

 

 そのまま幾ばくか沈黙が続き、あちらが口を開く。

 

 

「貴様に頼みがある」

 

「…何?」

 

 

 眉を寄せて聞けば、内容はとある国についてのことだった。

 

 

 現在その国の近隣が秘密裏で組織をつくり、その国を滅ぼそうとしているとか。

 目的は領土拡大だ。

 

 馬鹿馬鹿しい。そんなもん滅ぼしたとしても、身内の領土分配で新たな火種が起こるに決まっている。

 

 

 人間の醜い象徴が戦争だろう。しかしそれをおれに止めさせようだなんて虫が良すぎやしないか。

 いくらあんたがロシーや父上の恩人だとしても、そこまでする義理はおれにはない。

 

 精々他の奴に頼めと言い帰ろうとすれば、センゴクが口を開く。

 

 

 

「_____ロシナンテが、救おうとしていた国でもか」

 

「……!」

 

 

 驚いて振り返れば、表情を変えていないセンゴクの顔。

 

 

 あぁ、流石海軍トップか。智将と呼ばれているだけのことはある。

 若造のおれの弱点を既に見抜き、それを利用しようとしている。

 

 そもそも前にジョーカーが良いように利用したせいだ。絶対こいつ根に持ってるぞ。笑顔の裏に仏が見える。

 それも青筋浮かべたおっそろしい笑顔。

 

 

 恐らくあの最初に勧めたおかきは、おれが弟に弱いことへの確認。

 

 内容を話したのは、おれが断り難いと確信を持っているから。

 

 

 残念なことにそれは正解だ。今こうして自身を分析しているが、内心は冷や汗もので、心が不安定になりつつある。

 このままこいつと話しているとヤバイ。

 

 

「……んなもん、あいつにやらせればいいだろ」

 

「ロシナンテ少将は怪我の為、会議でこれ以上この件に関わらせないという判断になった」

 

「…それが、どうした。海賊のおれに関係ないことだ」

 

「あいつが救おうとした国の名前を知っているか?」

 

 

 知るわけない。そう言おうとしたが、失敗した。

 

 

 

 

「_____ドレスローザ」

 

 

 

 

 一瞬、息が止まった。その様子に目敏くおつるさんが気付いたようだが、それを気にする暇はない。

 

 

 知っている。ドレスローザは、おれたち先祖の故郷だ。

 父上や母上、ロシーに……言うなればジョーカーの故郷でもある。

 

 先祖をリスペクトする精神は残念ながら無いが、家族の故郷をと考えると想うものがある。

 そこに危機が迫っているのか……。

 

 

 

 いや、だから…それがどうしたというんだ。おれには関係ない。おれには_____

 

 

 

「仮にも弟が守ろうとしたものを、お前は平気で捨て去るのか」

 

「センゴク……それ以上は…」

 

 

 おいおい傍観者だろう、おつるさんが入ってきてどうする。

 微かに残る冷静な部分がそう言う。だが身体は無理やり内側の全てが混ぜられたような感覚がする。

 

 酷い目眩と吐き気、えずきそうになってその場にしゃがんだ。

 

 センゴクの視線は冷ややかだ。おいこの野郎ジョーカーお前のせいだぞ、火ィ付けたのあんただろうが。

 

 

 ヒュッと、変な息が漏れた。

 ここまでおれは弱い生き物だったかと思いながら、立とうとした。

 

 「おい!」と後ろから声を掛けられるが、返事をする、しないの状況じゃない。そこまで会話したいなら床に吐瀉物ぶちまけるぞこの野郎。

 

 あいつが起きる前にとっとと退散しよう。ブチ切れて暴走されたら困る。最近あいつ夜型でよかっ……

 

 

 

『随分とまぁ…面白いことになってんじゃねェか』

 

(…………ちゃっす)

 

 

 

 別の意味で流れ出した冷や汗に焦りながら、この場から退散を図る。

 しかし虚しくも精神不安定になっていた為、体は奪われた。というか怒ると本当手が付けられないなあんた……。

 

 

 

 その後おれの変化を察したおつるさんが、ジョーカーがセンゴクに斬りかかる前に止めた。

 笑顔のまま急に糸出すとかあんた怖いよ、それを一喝で止めたおつるさんもすごいよ…。

 

 取り敢えず暴れ馬が落ち着いた後、代わった。

 

 

「ドフラミンゴかい?」

 

「……質問が変だぜおつるさん」

 

 

 センゴクも察したのか、言葉を選ぶように話し出した。目は明らかに海の屑と言っていたが。

 にしてもジョーカーが煩い。

 

 

『テメェはまた勝手に……』

 

(違ェよ、おつるさんに連れてこられたらセンゴクがいて……)

 

『言い訳は後で聞く。交渉に意識向けろクソガキ』

 

 

 かなり怒ってるのか、クソの部分がいつもの数倍強かった。そんな怒らせ……青筋すごいわ。

 

 ジョーカーの何か思惑もあったのか、交渉は受けた。あとこちらのというか、ジョーカーの要求としてバレルズの身を得る形になった。

 捕まってたのか、忘れてた。

 

 その考えがバレたのか、ジョーカーが遠い目をする。だって忙しいんだもん。

 

 

『……お前は……ったく』

 

(それよりあんたがドレスローザを救うの許諾するとは思わなかった……何か企んでんだろ)

 

『フッフッフ!お前にゃ関係ねェさ』

 

(………そうかよ。まぁいいけど_____あっ)

 

『ア?』

 

(…忘れてたで思い出した)

 

『…何だよ』

 

 

 

 

 

 _____ローのこと忘れてた。

 

 

 

 

 

 …沈黙。

 

 

 

 勿論忘れていたことを怒られるわけだが、ジョーカーとローを殺す殺さないの大喧嘩になった。

 

 

 元々はローがまだ船にいた頃、おれと良好な関係を築いていた為殺さないという考えに至ったらしい。

 そんなこと全く知らなかったが、その後おれの精神瓦解を経て、殺すことにしたそうだ。

 

 将来おれに噛み付いてくるのは驚いたが、ロシーの恨みを晴らすのだと知れれば成る程と思った。

 

 しかしロシナンテが命を懸けて守ろうとしたものを仮にも殺すって……しかも躊躇ない顔をしてやがる。

 

 

 結局は不安定に不安定を重ね、気狂う一歩手前になったおれに奴は引いてくれたものの、万が一おれを害する存在になったら、それ相応の対処をすることになった。

 

 おれが極力ローを回避するしかない。あいつと関わることがあればなるべく気を付けよう。

 ジョーカーの琴線に触れないようにも。

 

 

 精神内でそんなやりとりを終え、おれはそのままフラフラしながら、帰った。

 後ろでセンゴクの舌打ちと、おつるさんが船までずっと付いて来てくれた。

 

 あーあったけェ。

 

 

 おつるさんに散々皮肉を言われつつ見送られた。

 

 しかしそこでふと思い出す。

 ジョーカーはバレルズをどうする気か。

 

 あいつが交渉に入れろと言ってきたものの、おれとしては撃たれたこと以外に私怨がないんだが。

 あ、待てよ…それ関連か。

 

 

 おれの様子を見ていたのか、奴が口を開く。この野郎さっきは人の精神に余計負荷かけやがって…。

 

 

『フフフ…おれが殺る。テメェは手を出すな』

 

「……別に、牢屋にぶち込んだままでも…」

 

『おれが、殺る』

 

 

 ……顔には出さなかったが、ずっとこの機会をこいつは狙ってたんだろうか。

 

 まぁバレルズには最早無関心なのでどうでもいい。奴の息子の意思はと思ったが、あちらも見切りはつけていたようだ。

 それでもどこか、堪えるような顔はしていたが。

 

 だがおれが尊重する意思はドレークよりもジョーカーだ。奴に何か考えがあって殺すなら、そちらを尊重する。

 

 

『殺られる前に…フフフ!確実に殺しておかねェとな』

 

 

 横にいるジョーカーの機嫌はいい。

 どんな残虐な方法で殺すかは、おれが知ったことではないが、何となく考える所はある。

 

 おれも数え切れない程殺して来た。基本おれが自分で定義しているクズばかりだが、殺してきた中には、無垢の奴らも少なからずいただろう。

 

 

 そいつらの罪を、おれはいつか罰として受けるのだろうか。

 

 

 少し穏やかな心に浮かぶようになった死のイメージとそんな考え。

 それに恐怖するわけではない。然るべきものであるとおれも自覚している。

 

 だからこそ焦る気持ちが募る。あぁ、早く殺さなければ……奴らを、豚どもを。

 

 

「……早く、もっと早く…」

 

『……』

 

 

 そんなおれをジョーカーは目を細めて見ている。

 何だと言えば、死に急いでんじゃねェと言われた。

 

 

「…いつ死ぬか分からない。その前に豚どもだけは、おれが息の根を止めてやるんだ、急ぐのは当たり前だろ」

 

『……もっと、別の事も考えられないのかお前は』

 

「?考えてるぜ、あんたのこととか、ファミリーのこととか……」

 

『ハァ…お前本当……相変わらず本来の自分を形成する核が足りねェよな…』

 

「………」

 

 

 少しイラついて煩いとだけ言って、船首を後にした。

 どうしようもない部分をチクチク言われるのは好かない。

 

 おれは今の人生を悔いる気は無い。不貞腐れてる。そのまま自室に行ってうつ伏せになった。スプリングが軋んだ音を立てる。

 ベビー5が紅茶を持ってきたが飲む気分じゃない。

 

 

 

 その日は溺れて沈む夢を見た。翌朝も体調が悪いのか、身体がものすごく怠かった。

 

 

 

 

 

 

 

 -----

 

 

 

 

 

 _____ピチャン。

 

 

 

 

 

 暗闇の中、水が石造りの天井から滴り落ちる。

 

 

 色の違う瞳がサングラス越しにギラギラと輝き、エモノを見つめる。

 

 対してエモノは延々と続く激痛と恐怖に震え上がる。

 数時間行われ続けている拷問。

 

 

 少しずつ自分が減っていく。

 

 

 

 

 少しずつ。

 

 

 

 少しずつ。

 

 

 

 エモノは懇願もできない。毒の回った喉でか細い息しか出せない。

 

 

 ギラギラと、暗闇に浮かぶ微かな光からその目が輝く。

 ギラギラ、ギラギラ。己を殺そうとする目。

 

 

 震え上がる気持ちは抑えられない。死しかない。その死をどれだけ痛ぶって与えるか、このバケモノは思考し楽しんでいるのだ。

 後悔時既に遅し。

 

 

 そんなエモノの心情などどうでもいい男は、誰もいないように暗闇に話し掛ける。

 

 

「あいつは……本当に自分の道を歩いているのか?」

 

 

 ヒュウと下から息が漏れる。思考の邪魔をするなと言わんばかりに男はエモノの顔面を踏み付けた。

 

 

「フフフ……まぁいい。ガキの決めたことだ。その決定は奴自身が自分で行ったもんだ。それが全てだろ」

 

 

 笑いながら男は指を動かす。エモノの一部がまた削がれ、切断面から血がドプリと滲み出る。

 

 

「最後まで一緒に歩いてやるよ……溺れて、死ぬまでな」

 

 

 

 

 エモノにはそれが誰に向けて言ったのかは分からなかった。

 だがそこに深い慈愛があるのだと知れた。昔、自分が息子に向けていたものと同じもの。

 

 

 だが、歪だ。

 

 

 愛と呼んでいいものなのか判断しかねる程、歪みまくっている。

 そこで己の息子への後悔が頭によぎった所で___エモノの思考は途絶えた。

 

 

 

 床にゴトリと、何かが落ちる音。

 怒りは既に冷め、つまらなそうな目で男はそれを見つめる。エモノだった首を蹴り飛ばし、男はその場を後にした。

 

 

 拷問部屋から出れば、そこにあるのは朝日。

 流石に身体の酷使が過ぎたかと思いながら、自室に戻り元のうつ伏せの状態になった。

 

 

 

 

 「…朝は嫌いだ」

 

 

 

 そう呟き、男は目を瞑った。

 

 

 

 

 

 男が人生の最後まで拝まなかった光。まるで地平線に浮かぶ陽は、それを皮肉めいて笑っているようだった。




主人公(おれ)
身内に甘い打倒天竜人。猫被り時の一人称=私。甘ちゃんに弱い。体験した死を前に若干心境に変化。偶に抜けてる。

ジョーカー(モフモフ)
主人公守り隊兼おとしゃん。基本一線引いてる。怒った時は手が出る(物理的)。先のインペルダウン脱獄の可能性を考慮して先にバレルズを潰す。大半は私怨(だって守り隊)。

名無し天竜人
ドフィ教信者第1号。ライ●ップ成功。主人公に感化され天竜人の改革目論む。
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