世界はあなたを愛してる   作:アビ田

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黒空模様

 モネとシュガーをファミリーに引き入れてから数年。

 

 

 シュガーは順調に能力の使い方を理解し始めている。

 

 最初の内はおれやベビー5が指導係に付いていたが、直ぐに一人で上手く扱えるようになった。才能ということだろう。

 

 単純に能力の指導係におれやベビー5がなったのは、他がシュガーのドSに耐えられなかったのもある。

 

 

 対して姉のモネは会った当時から感じてはいたが、頭脳明晰な少女であった。

 

 それと純粋さが少々目に付くことがあるので心配だ。ただシュガーの姉といったところか、ドライな一面もある。

 

 知識欲に火を付けた少女は、嘗てのおれを想起させるほどの本の虫具合だ。

 その様子につい笑ってしまいモネは赤面したが、別にからかったわけじゃない。

 

 昔の自分を思い出しただけだ。おれと似ていると思ったんだ。

 

 

 

 この姉妹を見ていると自然と弟を思い出す。

 

 仲良く寄り添う二人を見る度に、考えなくてもいいことばかり頭に浮かんでしまう。ダメだと分かってはいるが、暗い気持ちはそう簡単に消せない。

 

 おれはきっと、二人が羨ましいんだ。二人で笑いあって過ごせる、そんなあり得たかもしれない姿に夢見て……馬鹿らしい。

 

 

 無い未来を望んでどうする。ロマンチストかおれは、笑わせる。

 

 

 そんな少数にしか得のならない事より、大多数の為になる事をすべきだ。

 甘さはどうせ捨て切れないならからこそ、おれはどこまでも現実主義者にならねばならない。

 

 いつ死ぬか不確定の人生の脆さを理解した今、その想いはより強固なものに変わった。

 

 覚悟は吐いて捨てる程ある。

 

 色んなもの背負っておれは今海賊の船長をやってんだ。奴らはおれに着いてきてくれる。

 おれが間違っているなら指摘もしてくれる。心置きなくおれは歩もう。

 

 

 

 

 改めて己の人生を振り返れば、そんな考えが頭に浮かんだ。

 しかし何故こんな考えが急に……

 

 

 そう思えば丁度ドアからノック音。何だと出れば_____そこにはファミリーの奴らが全員船長室の前に立っている。

 若干暑苦しい。

 

 

「…何だ急に」

 

「キャハハ!」

 

「べへへー」

 

 

 みんなニヤニヤしている何だってんだ……と思ったら、ベビー5とジョーラがバカでかいケーキを運んできた。

 

 

「…あ」

 

 

 思わず間抜けな声が出た。そうか、何か回顧してんなと思ったら、自分の誕生日だからか。忘れてた。

 

 嬉しさでらしくもなく全員にハグしようとしたら、ケーキをそのまま顔にスパーキングされた。

 滅茶苦茶周囲が笑っている。

 

 普段ならブチ切れているが、嬉しさとよく分からん感情で頭がごちゃ混ぜになった。

 おい待て、醜態はマズイぞ。

 

 

 そのまま自室に逃げようとしたら男衆に羽交い締めにされ、食堂まで連行された。パーティーだ?せめて顔は吹かせろ。

 

 しかし全員で過ごすのはいつものことだが、何かイベントがあると違うな。

 

 

 

 口元に付いたケーキは甘かったが、少ししょっぱかった。

 

 

 

 

 

 -----

 つい先日三十路に突入したばかりだが、ファミリー全員で飲めや歌えやの宴の後、酔ったまま寝入った。

 

 大抵この日はジョーカーは出て来ない。おれがファミリーと騒ぐのを爺さんみたいに眺めている。本人に言えば、殴られるので言わないが。

 

 

 ただ夜にポツリと祝いの言葉を言う、それも毎年。

 

 おれが狸寝入りをしていようが本気で寝ていようが、その言葉だけは必ず言う。恥ずかしい気持ちもとっくの昔に通り越して、純粋に嬉しいと思う。

 

 

『…クソガキ、おめでとう』

 

 

 例年通り今年も言われた。クソガキをわざわざ付けるのかという議論は置いといて、その言葉の後に結婚を急かすような言葉があった様な気もしたが、気にしない。

 

 幻聴だうん、寝よう。

 

 

 しかし翌日の電話で一気に気分が沈んだ。

 

 

「……組織が動き出した…?」

 

 《あぁ》

 

 

 電話の主はセンゴクだ。

 

 

 数年前ドレスローザの守護を約束してから、敵の襲撃まで待つ予定だった。

 

 情報ではもう少し先のはずだったが、どうやら海軍側の情報が漏洩していたらしい。隙を突かれたと、そういうことだ。

 

 しっかりしろとブチ切れたが仕方ない。起きてしまったのは覆らない。

 少しでも信用を置いていた自分がバカだった。最初から自分たちで動けば良かったのだ…いや、いくら後で考えたところで意味はない。

 

 

 敵が動き出した今、すぐに動かねばなるまい。ファミリーにもこの事は言ってあるため、問題は無い。だがやはり唐突過ぎる。

 着いた頃には多少の被害を既に被っている可能性が大だ。

 

 苛立ったまま電話を終え、受話器を切った。

 

 

『フフフ、何が起こるか分からないのがセオリーだ。無闇に焦ったってどうにもならねェぜ』

 

(……分かってる…分かってるよ)

 

 

 取り敢えずファミリーに伝えて直ちに向かおう。敵は狡猾だ。ファミリー総出で潰す。

 

 

『フッフッフ!懐かしいなァ、ドレスローザ…』

 

(何だ、昔行ったことあるのか?)

 

 

 そう言えば奴はニヤリと笑って、元国王だと告げた。へぇ国………ん?

 

 

 

 

 

 ……え?

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁ!?!おまっ、何し……」

 

『煩ェ、とっとと奪いに行くぞ』

 

「いや奪わねェよ。助けるだけだからなおれ」

 

 

 そう言えば舌打ちされた。『冗談も通じないのか、クソガキ』だそうだ。よく分からないタイミングで冗談言うなよ、心臓に悪い。

 

 しかし先程の会話で緊張も解れた。

 

 助かったと思いつつ、部屋を出る。乗っ取る気は更々無いが、予定としては敵をぶちのめした後、国王と謁見して国と何かしらの協力関係を得る算段ではいる。

 

 近隣国家との和平が確実に決まるまでは、守るつもりだ。今彼方は周辺と不穏な空気しか漂っていない。

 ここ数年で情勢が悪化したのだ。海軍側が調べたかは知らないが、明らかに敵側が仕組んでいると見て間違いない。

 

 

 守り通すと決めたなら、徹底的にやる。

 

 だが状況とは反して己の性なのか、滾る血に自然と口角が上がる。自分の性質上暴れるのは好きだ、好戦的とも言う。

 

 

「国に手ェ出す覚悟が本気であんなら、おれも全力でぶっ潰してやる…」

 

 

 おれの言葉に奴は横目で一瞬見た。

 何も言わなかったが、無言の空気の中に気を付けろという雰囲気があったのは分かった。

 

 大丈夫、もうやらかさない…多分。

 

 

 

 

 

 だがこういうのをフラグって言うんだよな…。

 

 

 

 

 

 -----

 突如国を襲った火の粉は、一気に大火事となった。

 

 逃げ惑う人々や悲鳴。銃声、剣同士ぶつかる音。

 

 

 海軍から敵襲の恐れがあると聞いた国王は、病の淵にあった身体を(なげう)ち尽力を尽くして兵を配備したが、間に合わなかった。

 

 それでも出来る限りの策は為した。

 しかし状況は悪くなるばかりであった。

 

 

 そんな中現れたドンキホーテ海賊団。

 

 

 

 戦況は一変した。

 

 

 

 

 

 敵を次々蹂躙して行く。その様は子供が蟻を潰しいていくのと大差ない。国民は救世主に歓喜した。

 船長のドフラミンゴは、敵を殺しながら国王の元へと向かう。

 

 城に着いた時既に火の粉が上がっており、酷い有様だった。兵はほぼ壊滅状態。

 

 火だるまになり全身が黒く焦げ、死ぬ寸前だった兵士にどうにか状況を尋ねれば、掠れた声と共にリク国王並びにその娘も攫われたと告げ、息を引き取った。

 

 

 

 

 _____コワ、ワ▶︎!せ

 

 

 

 

 聞こえた幻聴に男は眉間に皺を作り、数拍の間を置いて深く息を吐きながら、ジョーカーから聞いた言葉を思い出す。

 

 それを通常とは非通常であると自己解釈し、なるべく焦らないよう仲間と作戦を立てる。

 

 

「捕まっているのは恐らくこの場所だ。偵察の人数はどうだったバッファロー」

 

「結構居ただすやん」

 

「分かった。少人数で行こう。囮となるチームと裏から攻めるチームで別れた方がいいな」

 

 

 そうして国王たちの奪還作戦が次々と決められて行く。

 

 作戦の概要は船長の影騎糸(ブラックナイト)を使い、囮チームにもう一方のチームで向かうメンバーも入れ強襲。敵側にそこで全員が攻めて来たのだと勘違いさせる。

 

 別チームはその間、隙を突いて国王とその娘の奪還へと動く。

 

 

 

「以上だ。裏から強襲するチームは特に慎重に動け、捕虜を人質にされたら面倒だ」

 

 

 いつになく険しい船長の表情に、船員は気を引き締めた。

 しかしシュガーは違った。

 

 

「任せて。何人(なんぴと)たろうと若様に手を出したら、オモチャにして踏み潰しながら粉砕するから」

 

「べへへー頼もしいんね〜」

 

「近寄んないで」

 

 

 サッと船長の後ろに隠れるシュガー。ファミリーはどっと笑う。

 その様子に船長は目を細めながら、国王たちの奪還に意識を集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 -----

 

 

「ハァ……ハァ…」

 

 

 

 国王が囚われた敵のアジトから姉の元王女、スカーレットの協力を得て逃げ出したヴィオラは、森の中をひたすら走っていた。

 

 その腕の中で抱かれている子供はスカーレットの実子、レベッカ。

 

 

 

 

 _____私はもう逃げられない。せめて貴方たちだけでも…逃げて。

 

 

 

 

 スカーレットは既に深手を負い、自分が助からない事を悟った。故に妹と娘だけはと、腹の裂傷を抑えその背中を押した。

 

 逃げるタイミングはそこしかなかった。ヴィオラの脳裏には笑って自身を見送った傷だらけの父___リク王と、姉の姿が浮かぶ。

 

 

 

「おねぇ…さ…ま、おと、…さま…っ」

 

 

 裸足の足は草木に擦り切れ、血の跡を作っている。彼女たちが向かう先はひまわり畑。

 

 そこは本来ならスカーレットが夫と落ち合うはずの場所だった。しかし敵側はスカーレットが病気で死んでいないという情報を入手していた。

 

 街を襲った際、敵は掴んでいた情報を活かしてスカーレットとその娘も攫ったのだ。

 

 

 

 息が荒い。しかし早く行かねばと、前に泳ごうと必死にもがくように走る。

 

 自分に姉や父を救う事は無理だった。でもきっとキュロスだったらと、姉の夫の名を何度も頭の中で連呼する。

 

 

(_____あぁ、早く早く。この身が朽ちてもいいから)

 

 

 

 そして満身創痍になりながら着いたひまわり畑。

 そこにキュロスは居た。しかし妻がいない事に驚くと、お互いが辿った現状を知る事になる。

 

 

「国は大丈夫だ。加勢が入り、戦況は今こちらの優勢に進んでいる。しかし城はそんな事になっていたのか……」

 

「……そうなの…。私たち捕まっていたの、さっきまで。お姉様が逃がしてくれたの…」

 

「…っ、スカーレット…!!」

 

 

 ヴィオラが待ってと掛けた制止の声を聞かず、キュロスは森に向かう。恐らく前線にいたため自分たちが捕まっていたことを、知らなかったのだろう。

 

 かなり頭に血が上っている。ヴィオラと同じくらい…いや、それ以上に感情が揺らいでいるのかもしれない。

 

 どうしたら…いい…?

 

 彼女の頭は真っ白になった。ぐいと、その時襟を引っ張られる。

 

 

「こっち」

 

 

 レベッカが指した場所は街。

 

 

「兵隊さん、よぼ」

 

「…!そ、そうね…」

 

 

 自分よりももっと小さい子供の方が冷静だ。ヴィオラは冷静になる心にありがとうと声を掛けようとして、少女の手が酷く震えている事に気が付いた。

 

 そうだ。怖いわけがない。それでも勇敢に戦っている。母の為に、懸命になっているんだ。

 

 

「……よし、お姉様もお父様も、絶対助けるわよ」

 

 

 深く息を吐き、また駆け出した。

 

 

 

 

 

 街から出ている鎮火し始めた煙は空に上り、異様な色を浮かばせていた。




主人公(おれ)
身内に甘い打倒天竜人。時折抜けてる。弟地雷踏むと精神ぐらつく。頑張れ。

ジョーカー(モフモフ)
主人公守り隊兼おとしゃん。企み中。爺さんじゃないおとしゃんだ。
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