寄り添う二人の姿。赤い液体は床を伝い広がっていく。
「お父様も…逃げればよかったのに……」
「私はもう動けない…最期ぐらい、お前と居よう」
痛めつけられたリク王の肢体は目に当てられるものではない。
スカーレットは血に染まった腹を抑えながら、父の手を握った。
ひまわり畑に行けなかったものの、妹と娘だけでも逃がせた事に安堵していた。
きっと今頃夫であるキュロスが二人と出会っているだろう。そう思い目を瞑った。
暑い気候地帯であるはずなのに、酷く寒かった。耳に届くのは己の心臓の音と、父親の微かに聞こえる荒い息遣い。
目前の死に募る恐怖。穏やかにいられるわけがない。強く手に力を込めた。
そして今までの感謝を父に告げる。
自分のワガママを許してくれた事に…愛してくれた事に、…こうして側にいてくれた事に。
朦朧とする意識の中、扉から現れたのは父親を目の前で虐げていた男だった。
しかし先程までとは違い、問う内容は国を渡せというものではない。
追い込まれた人間が見せた狂気。
_____娘を殺し国王が生き残るか、国王を殺し娘を生かすか、二つに一つ。
詰まる息の中、国王は自分の命を差し出すと声を荒げた。
敵は狂気で歪んだ顔を浮かべながら、しかし凶器の先をスカーレット目掛け振り上げた。
娘の心臓目掛け一直線に向かうそれにリク王は咄嗟に庇おうとして_____
「おれも混ぜてくれや」
_____声がした。
瞬間建物が真っ二つに斬られた。倒れていたリク王の頭上近くを両断している。
立ち上がっていた敵の肢体からは噴水のように血が飛び出る。斬られずり落ちた上半身を現れた男は外に向かって蹴り上げる。
数秒後、地面にぶつかり潰れる肉の音がした。
リク王は歩み寄る男を見上げる。
悍ましい程の殺気が漏れ出ているものの、それは自分たちに向けられているものではないと知れた。
血に濡れた男の金髪は暗がりによく映える。サングラスに隠れた瞳を見れないことが、何故か残念に思った。
「…貴様は…何者、だ」
「おれはドンキホーテ・ドフラミンゴ。お初にお目にかかる、リク国王。それとヴィオラ王女……か?」
跪いた男が視線を向けた先には、既に生き絶えた女性の姿。
それを目に入れた瞬間、男の殺気が更に膨れ上がったように国王は感じた。
「この娘は…姉の、スカーレットだ…」
その言葉に男は何かを察し、話を進める。
「微力ではあるが、海軍の命で仲間と共に貴方たちを救いに来た」
「そう、…か。国は…」
「大丈夫だ。今生き残った貴方の兵やおれの仲間が、残党を一人残らず駆逐している所だ」
「……よかっ…」
最後まで言葉は続かず、大量の血が口から溢れる。
嬲られた肢体___特に臓器部位はもうボロボロだ。自身の存命は限りなく不可能だと理解している王は、目の前に現れた男に最後の願いを託す。
「……国を……、たの…む」
「……今直ぐ助け出す。そんな事を仰るな」
「貴様……に、たのみ、たい」
「貴方が居なくなったら、国はどうなるとお思いか」
王が死ねば、王家は国王のもう一人の娘であるヴィオラとスカーレットの実子、レベッカのみとなる。
ヴィオラ王女が国を指導するにしてもまだ彼女は若過ぎる。例え一番に信頼を置くキュロスが支えたとしても、強襲後の国の混乱を立て直すのは難しい。
それに近隣の情勢悪化を修復するのは至難の業だ。
だからこそ王は、目の前に現れた王たる器を持つ人物に願い出た。
今後の国を指導して欲しいと、切望したのである。
___魅せられたのだろう。
それ以上に、男から聞いたドンキホーテの性に何かの
ドンキホーテ一族はかつてトンタッタ族を虐げていた歴史がある。しかしこの男がそんな野蛮な行為をするとは、リク王には到底思えなかった。寧ろ慈愛深く、強い_____だが脆い存在だと感じた。
「…ドンキホーテ……嘗て、リク家がこの地に……至る前に存在した…王家」
「……!」
ドフラミンゴはその言葉に目を見開く。
それと同時に王の意図を察した。
混乱後の国に必要なものは、圧倒的な指導者。現実若い王女では国の不安は大きい。
信頼出来る部下がいたとしても、所詮国民というのは“王家”と名が付くからこそ安心出来るのだろう。
今まで王制国家であったなら尚更だ。
現状メシアとなった人物は彼、ドフラミンゴである。皮肉にも男は己で否定しても、王家の血筋を引く者。
今の国民が欲するであろうものが全て揃っている。
リク王の強い瞳を見つめる。男はその意志に、王の手を握り頷いた。
「だがどうか…最後まで諦めないで頂きたい、国王」
「……あぁ……ヴィオ……ラを、たの………」
その言葉を最後に王の体は支えを失った操り人形のように力を失くす。
瞳の奥の光が消える瞬間を見た男は、歯軋りした。
背後からはドンキホーテの襲来に気付いた敵の足跡。恐らく二手に分かれていたのがバレたのだろう。
沸き起こるのは殺意。全てを壊せとドス黒い感情が囁いた。
しかしその声に重ねるように、奴が囁く。
『憎いか』
「_____憎い。壊したい、こわしたい。……殺してェ」
『フフフ、だったらお前の意思で殺せ。幼稚な感情になんざ簡単に飲み込まれてんじゃねェぞ』
「…分かってる」
深く深呼吸をして、まだ温かい屍を持ち上げた。
こんな所に残すわけにはいかない。
そこにあるのは忿怒と憎悪、悲哀や悲痛。
全てがごちゃ混ぜになった今、いつも通りに笑ったはずの笑みは歪んでいた。
-----
壊セ 壊セ
こわ せ、こ ここ wa背子わ
わ
わわ
わ
わわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ
わわわ
わわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ
耳鳴りと共に聞こえるのはそんな声。
まるでゲームのキャラが会話途中にバグったままのような音が延々続いている。
ジョーカーのおかげで先程よりはマシだが、しかし快調に向かう気配は無い。
どうしてここまでドス黒い感情が湧くのか。
いやきっと恐らく…無意識におれの家族の死に顔と重ねているんだ。
既に亡くなっていた女性の姿を思い出す。まさかヴィオラ王女の姉が生きているなど知らなかった。
情報不足もそうだが、何より到着に遅れた事が申し訳ない。
もっと早くに着いていればこうはならなかった。敵が思った以上に手強い。
おれと共に来たファミリーも他の場所で戦っている。
許しはしない。討ち取った敵の骸を全て晒し首にしてやる。
かのリク王は穏健派だったと聞く。だがおれは違う。
仇為したなら、そいつらを全員殺すまで止まらない。
目には目を、歯には歯を。
血には血を以って制裁を加える。
国王の目指した世界を形作るには今のこの世界では厳しかろう。
それを形作るならば毒が必要だ。
おれのような因子が暴れてこそ世界は進む。
破壊と再生。世界はそうして進む。理想へと少しずつ進んでいく。
理想の世界には犠牲が付き物だ。
「フ……フフ、フフフフ!」
敵が次々と出て来る。そんなに死に急ぎたいのか、滑稽な奴らだな。
同じ事を思っていたのかジョーカーも似たような事を呟き笑う。
敵の首を全部飛ばす。
「…汚ェ死に顔だ」
足元に転がって来た顔は恐怖に歪んでいる。実に見苦しい。
踏み潰せば固いものが割れる音の後に、柔らかい感触。血や髄液が飛び散り、靴だけでなくスーツも汚す。
王や王女の死に顔は何とも美しかった。恐怖があったはずなのに、微笑んで死んでいった。
そこにあるのは強さだけじゃない。もっと複雑なものが絡み合って最期はと、笑ったのだ。
死後硬直していた母上も、最期は笑っていた。父上は分からないが、きっと微笑んでいたのだろう。おれたち兄弟を…安心させようと。
ジョーカーはどんな顔をして死んだのだろう。シニカルないつもの笑みでも浮かべて死んだのだろうか。
『ガキッ、背後だ!!』
「____あ?」
らしくもなく青筋を浮かべて怒鳴る男の言う通りに視線を向ける。思考に耽り過ぎて意識が散漫になっていた。悪いクセだ。
視線の先には誰もいない。しかし下を促されて見ればシュガーの姿。
「……どうした?」
「……ワ、ワワ」
虚ろな目だ。不意に伸びた手に危機感を覚え避ければ、後を追うようにどんどん近づいて来る。動き方が不自然だ。
そこで漸く気付く。
「……誰かに操られてる……
後ろに逃れるように後ずさっていれば発砲音。背後にはベビー5。マジかよお前もか。
撃たれた脚を庇いながら二人を糸で拘束する。
糸で操れるものの、二人の目に生気が戻らない。恐らく精神にまで作用する類だ。覇気でも二人の意識は戻らない。
能力者かは分からないが、犯人を倒さないとまずい。催眠がかなり強力である事に違いはない。
二人を縛ったまま移動する。脚を撃たれたのは不味かったな。
「……操作対象の気配も消せるということは…大分面倒だな」
『背後は見ててやる。慎重に行け』
「…頼む」
ジョーカーは若干眠そうだが大丈夫だろう。一先ず前を気にしよう。
苦手な見聞色で周囲を探るが、敵の気配は無い。仲間が全員殺したか、はたまた敵さえも操られて気配が分からないのか。
探れる距離はたかが知れているためこれ以上は分からないが、他の仲間も操られている可能性が高い。
ベビー5やシュガーといった子供が操られていることから、成熟した精神には難しいのか。いや、見せかけて本当は大人も………
…駄目だ情報が少ない。不確定な情報の中考えてもムダだ。
取り敢えず敵の殲滅がてら仲間との合流が優先事項だ。未知数の能力者の相手は難しい。
腕に抱いた二人の様子を確認しようと思い目を向ければ、ギョッとした。
生気の無い目から溢れ落ちるのは…涙。
「あ」
小さく声が漏れた瞬間。一気に思考が真っ黒に染まった。
精神が壊れた経験があるからこそ分かる。今二人の精神は恐らく、壊れている。いや、現在進行形で
恐らく敵の能力なのだろう。
ファミリーの連中を苦しめる腹心か、もう既にテメェらの計画はおじゃんだろうが。イイ性格してんなぁ、おい。
「ころす」
明確な殺意は破壊欲と混じり合い、内側から溢れ出た。
-----
男は全てを蹂躙していく。敵を肉塊にし、次の獲物の首に喰らいつく。
まるで飢えた獣だ。
少女二人の精神を蝕んでいた能力者の攻撃を受けながら嚙み殺しても、獣はしかし止まらない。
途中で投げ出された二人の少女の肢体は床の上に落ちた。
ジョーカーが異常を察知し身体を奪おうとするものの、拒絶され侵入が出来ない。
敵の全てを殺し尽くすまでその目に浮かぶ獰猛さは消えない。
一人、また一人と死に行く敵。
だが飢えを渇かそうとする余り、一瞬男は気付くのが遅れた。
目の前に強い意志を持った目の男___キュロスが現れた事に。
「ぐっ……!!」
キュロスの片足が糸の攻撃により吹っ飛ぶ。舞った紅に、男の焦点は正常を取り戻した。
次いで見やれば地面に蹲る男の姿。
敵とは違う輝きを持つ瞳に、ドフラミンゴは漸く自分が何をしたか察した。
口を開こうとしたが、しかしキュロスの言葉により遮られる。
「スカーレットは何処だ…!!国王は……」
熱の篭った言葉が、男には酷く冷めたものに聞こえた。水中の中から聞こえるような曖昧さ。
何を言っているのか、暫し間を置いて理解する。
「国王…は死んだ。スカーレット王女も……」
「何ッ…!?」
そんなことより敵を殺さねばと、指を動かす。頭上からジョーカーの声が聞こえるが、それすらも曖昧に聞こえる。
ここは現実か、はたまた夢なのか。
段々茫洋としていく感覚を紛らわすように、肌に爪を立てれば血が出た。だが痛みすらも鈍く感じる。
「貴様が…貴様が殺したのか…!?」
何を言っているのだこいつは、そんな思いが頭を過る。
(殺した?あぁでもそうか。救えなかったのだ、おれが殺したと言っても過言ではないか。
人とは、嘘でも縋る先を欲するものだ。例えそれが憎しみだとしても。
そうでなければ生きて行けぬ者もいる。おれだってその中の一人だ)
間違った方向に思考は進んで行く。しかし正常ではない今の男は、歪んだ思考回路のまま進む。
(もう数え切れない程恨まれてきた。一人ぐらい増えた所で同じではないか?
だったらおれは…憎しみの捌け口となってもいい。縋れなければ、人間は壊れるもんだろ)
「…おれが、殺したようなもんだな」
男の不穏な気配にジョーカーは力づくで肉体に入ろうとするが、やはり拒まれる。
そして怒りに震えるキュロスの剣がドフラミンゴの心臓目掛け一直線に迫った。
「よくもスカーレットや国王を…!!お前だけは……お前だけは絶対に許さん!!」
その切っ先が届こうとした寸前、辺りに少女の声が響いた。
「若様ぁぁ!!!」
キュロスの肢体に後ろから突っ込んだ少女___シュガーの肢体は、勢いを殺しきれぬままそのままボールのように転がる。
少女の言葉に男の身体は力を無くしたように弛緩し、それを受け止めるように身体を乗っ取ったジョーカーは、先程とは違い突然入れたことに驚きつつも、片手で難なく少女を掴み抱き上げた。
「大丈夫か」
「わ、若ざま……わがっ……さま゛ぁああ」
泣きじゃくるシュガー。明らかに様子がいつもと違う。
能力の余波で精神衰退でも起こしているのだろうと、ジョーカーは推測した。そのため精神不安定になっているのだろうとも。
問題は多いが、一先ずオモチャにされたキュロスを見やる。
そこまで来て、ふと過ぎった違和感。
肉体に入れなかった事はガキの精神状態が影響していたのだろう。故にそれはいいとしても、気になるのはシュガーの能力だ。
本来なら己も奴の存在を忘れていておかしくない。
霊魂であるが故に効かないのか定かではないが、自分にシュガーの能力が反映されないことは知れた。
(ガキは覚えてねェのか?)
『……』
返事は無い。ただ心ここに非ずな表情で虚空を見つめている。
暴走列車気味になった男は既に能力者を殺してしまったが、攻撃を受けた時技の影響を受けていた。
それに気付けない程感情に呑まれていた。馬鹿な奴だと思う反面、焦りが募る。
今までに無い程、反応が薄い。
一先ず今の状態を収束させるのが先決だ。そう判断した男は気絶しているオモチャと未だ鼻を啜る少女を掴んだ。
能力の症状については体験したベビー5とシュガーに容態が落ち着いてから聞こう。それしか推測する方法はない。
それを念頭に置き、ジョーカーは後僅かに残る敵を殺していく。
「……しっかりしろ、クソガキ」
だがやはり、返事は無かった。
-----
もう何度も気絶又は意識を無くしてからの目覚めオチは多いので、慣れっこだ。
今回もそう思い目覚めれば、案の定ジョーカーが……
「ぐえっ」
え、待って殴られたんだけど、何こいつ。何人の身体勝手に動かして殴ってんの??勝手に操られるのは慣れたけど、余りにも唐突過ぎるだろおい。
(ちょっと待てテメェ何すんだこの野郎)
あ、めっちゃ微笑んでる。怖い怖い、怖い方の微笑それ。
何かやらかしたかと記憶を探る。そうだ、感情に呑まれたまま行動して……そう、敵を殺してった。
あと能力者も殺…………………
す前に攻撃受けてたわ。
(………)
『…どうした?』
攻撃受けて更に意識が可笑しくなったのは覚えている。甘い夢を見ていた。
「…ごめん」
『……おい、ガキ』
家族で過ごす夢。あれは恐らく敵の能力によるものだ。
人の一番望む幸せを夢として見せる。ただそれだけじゃない、甘い夢を見せてから地獄に落とす。
そうして精神を壊して、相手を蝋人形にする。
「っ、う」
背筋に走った悪寒。夢の内容は想像を絶するものだった。
人によるのだろうが、言葉では言い表せない程エグい夢だった。思い出したくはない、出来れば一生。
洗面台に顔を突っ込んで蛇口を捻る。前髪に結構な量の水が当たり、その飛沫が周辺に飛び散る。
胃の中の物が無いせいで余計にキツい。一通り胃の中身が消え落ち着いた所で蛇口を止めた。
胃液の臭いに顔を顰め、窓を開けて外を見ればおれの船の中だった。
すっかり日も暮れ、夜になっている。
「敵は…どうなった。国王の遺体や、あとヴィオラ王女は……」
『一旦おれの話を聞け』
「…わ、分かった…」
敵の殲滅から数時間も立っていないらしい。国で敵の残党を倒し終えた仲間とも合流して今に至っているという。今は戦いの後の休息中だそうだ。
国も今は同じような状態にあり、話し合いは数日後に行うと聞いた。
『二人の遺体は船にある。ヴァイ……ヴィオラとレベッカは既に保護されている。安心しろ』
(…………心中では何考えてんだか)
奴が何を考えているのかまだ知れない。あいつの方が頭回るしな…。
またシュガーとベビー5は無事らしい。能力にかかったのはおれを除いて、能力者と出会った丁度二人だけだったようだ。
ベビー5は大丈夫そうだが、未だシュガーの精神は安定していないそうだ。
「……黒幕は能力者の野郎で合ってるか?心身掌握に長けていた奴が中枢にいたなら、あの規模の組織も納得がいく」
『概ね正解だな』
各国と組んだ能力者の男。海軍でもかなりの厄介者だったらしい。というか奴ら能力者の事をおれに黙ってやがった。
後から聞けばそいつはル●ン宜しく変装が得意で、共通しているのは身にまとっている黒い衣装。
それから「黒い男」と呼ばれていたそうだ。
能力については今まで謎が多く、不明だったらしい。
しかし誰が相手だろうが、一度決めたんだ。おれがドレスローザを守るのに変わりはねェのによ。そんな気が回るんだったら、情報漏洩の防衛にもっと心血を注いどけって話だ。
にしても相当面倒な相手を押し付けられたもんだ。既に殺しちまったが、殺したシーンを曖昧にしか覚えていないのは残念だな。
もっとエグく殺してやればよかった。
『お前はリク王の意志を尊重する気か?』
「…おれが国王になるってことか?……話し合ってみないと分からないが…一応協定を結んで、国をファミリーの支配地にはしたいな」
『つまり王になるってことじゃねェか』
「違ェよ…王には裏切るようで悪いが、今考えているのは二重統治だ。王政国家のままで女王に国の采配は任せる。おれは相談役か、万が一の時国を他勢力から守る立場でありたい」
『裏で国を支配する摂政か…』
うん、だから違ェよ。
何でお前そんなに国を乗っ取りたいんだよ、元国王だからか??思考が恐ろしい程暴君だぞあんた。
「言っとくが周辺国家との安全確保が出来たら、二重統治も解除するからな。協力関係は出来るならそのまま残したいが」
『………』
ムスッとつまらなそうな顔をすんなバカ野郎。
『フフフ…まぁいい。おれはどうあれ話し合いにはもしもがあっても出ねェからな。助言ぐらいはしてやるが』
「…何でだ、珍しい」
いつも一線引くとか言いながら割と関わってくるあんたが……いや、おれがやらかし過ぎてるせいじゃないと思いたいけれども。
『…おれにも都合ってもんがあんだよ。少しはこっちの気苦労も分かれ』
「………」
都合ね…。まぁあっちにも何か考えがあるのだろう。おれはおれの道を行くのだし、そこまで深入りはしない。
にしてもやはりいつもの奴からすればかなり慎重だ。確実に企みはしているのだろう。
その中身まで知ったこっちゃないが。
「フフフ!そう言うってことは、あんたやっぱ何か企んでんだなァ」
『…煩ェぞクソガキ』
図星だ。フッフッフ…偶にはおれだってあんたの意表を突けるんだぜ。
笑っていれば安堵したように溜息を吐いて、奴は消えた。
(寝たのか…。流石に今回は苦労かけ過ぎたな…悪い)
『あ、シュガーん所も行ってやれよ一応』
(……え?)
思わず顔を上げる。顔の熱が上がっていくのが嫌に分かる。嘘だろ、寝たんじゃねェの?
何で視界に入ってんだよ。クソッ、ニヤニヤすんな。
『フッフッフ!お前も反抗期なんだなァ』
ウッセェ黙れ阿呆。……スゲェ恥ずかしい。ふざけんなマジで、ホント…………三十路に反抗期とかなんだよ。だったら一生反抗期だわ。
うわもう…エロ本を母親に見られた心境だ……例えが微妙過ぎて自分でも何を言ってるのかと思いたくなるが。
『誰も寝るなんて言ってねェだろ?まぁこれが終わりゃあ寝るつもりだが』
(……OK分かった。さっきの意趣返しだろ、あんた以外に小さい事に、いちいちイラつくタイプだろ)
趣味の悪いクソジジイめ……。
『ア?』
いかん思考が読まれている。にしても世紀末に見る悪魔の笑顔はあんな感じだな。
必死に平身低頭で奴のご機嫌を取る自分が惨めだ…。
そんなやり取りがあったが、功を奏して絞められずに寝たのでよかった。でも実質ジョーカー爺さんだろ。おれだって近頃おじさん呼ばわりされてきてんだからよ。
取り敢えず思い出すだけで背筋が凍るジョーカーのスマイルは忘れて、シュガーの容態を見にいこう。
いやでも今回助けられたからな…シュガーの好きそうな物でも持ってくか。
好きな物……人形か?
そう考え糸で人形を作ろうとした時、部屋の片隅に鳥かごを見つけた。こんなもんあったか?
中には人形が入っている。…片脚がない。
「シュガーの能力か?誰だこいつ…捕まってるってことは敵………?」
オモチャにされた人間は文字通り人間としての機能を多く失う。
しかし何故か無機質な瞳の奥に、熱い何かを感じた。
それも殺意と___何かもっと熱い……正義感…か?
…駄目だ分かんねェ。
おれが寝ていた間にジョーカーが何かしたのか?記憶が曖昧だ…それも含めてシュガーに可能であれば聞くか。
片手でオモチャを掴み部屋を出る。オモチャは抵抗したが力を込めれば、すぐに大人しくなった。上手く喋れないのか、何か言おうとしているものの理解出来ない。
そしてシュガーの部屋を訪れる。おれの突然の訪問で目が覚めたのか、肢体を起こした。
擦る目は赤い。泣いていたのだろうか。
「…わかさま、わかさま……」
「ン、どうした?大丈夫か?」
抱き着いてきた肢体を持ち上げ、片手に座らせる。
おれの首に腕を巻き付け擦り寄る姿は、宛ら猫のようだ。こそばゆいぞ。
「わかさま、生きてる?」
「フフフ、何言ってんだ。ピンピンしてんだろ」
「ちがうの、ゆめで、死んでたの」
…あぁ、能力者の能力で見たのか。
詳しく聞けば姉やおれが死んでいる姿を見たらしい。
本当にあの能力者はもっと凄惨に殺してやりたかった。場違いに殺意が湧く。
「おれじゃなくてモネにもっとショック起こすかと思ったが…」
「おねーちゃんは、大丈夫だもん。わかさまが守ってくれるから。…でも……でもね、わかさまは………」
「何だ?」
「わかさまは、ほんとうに、死んじゃうかもしれない…でしょ?」
「………」
だから怖かったのと、そうシュガーは続けた。
おれがそう簡単に死ぬわけないだろと言い、少女の頭を撫でる。
やわっこい毛は数年前から変わらない。年の取らない少女。
安心したのかシュガーはそのまま寝てしまった。そっと下ろし、シーツを掛ける。
部屋にはオモチャだけじゃない、人形やら色んな物が置いてある。
きっとシュガーは成人しきらないのだろう。ずっとこのまま、いつか死ぬまで年を取らない。
一人取り残される寂しさがあるのだと思うと、遣る瀬無い。
二人を飼っていた人間をぶち殺したい。既にシュガーに殺されてしまっているが。
どうにもならないことは仕方ないと諦めるしかない。しかしそのままにせず、これ以上被害が出ないように変えることが大人の役目だ。
子供の住み易い世界。理想郷は遥か遠い…でもと、思う。
「見てェんだよ…子供の、普通に笑ってる姿を……」
そこにあるのはファミリーの叶わない子供時代への想いもある。全員が全員ではないが、笑って幸せに過ごした幼少時代を持つ者は少ない。
家族と笑って過ごせる世界があったなら、おれたちはこうなっていなかったろう。
少なくとも道を踏み外しはしなかった。
おれは闇の中で依るべき場所のない存在に、傘となって雨から守るような存在。
そしてそうあり続けたいと思う。緩む笑みを戻さぬまま暫し少女の髪を梳いた。
オモチャの件は起きてからでいいか。何かあるんだったらジョーカーが寝る前に言うはずだしな。
殺意はあるが、悪い奴じゃないんだろう。
今それはシュガーの手の内にある。気に入ったのかおれが抱きとめた時に奪われた。
オモチャである以上少女の身に危険は及ばないだろう。
無理矢理引き剥がして起こすのも気が引けるしな。
そのまま部屋を出る。灯りを消せば、星を模した天井が微弱な光を吸収し、淡く輝く。
「おやすみ、赤ずきん」
_____バタン。
少女は閉じていた目を開け、胸の内にあるオモチャを見つめた。
呟く声はどこまでも冷え、人間に向ける目ではない。ゴミを見るような、そんな目。
「若様が…どんな風に死んでいたか、あんたにだけ教えてあげるわ」
「………」
オモチャはその手から逃れようともがいた。
「あんた、娘がいるんでしょ。殺してやりたいけど、きっと若様が悲しむから止めてあげるわ。その代わり、あんたに死よりも辛い罰を与えてやる」
そう言い少女はオモチャを持ったまま、窓を開けた。香る潮風から覗く景色は、未だ昨日の戦いの爪痕を深々と残している、暗闇に浮かぶドレスローザの姿。
ギシリと軋むオモチャにも気にせずシュガーは締め上げる。
どうせ壊した所でオモチャに痛みは無い。ただぼんやりとした感情の中で生きるのみだ。
それも、全ての人間から己という存在を忘れ去られた中で。
「一生、娘に忘れ去られたまま生きればいいわ。誰もあんたを覚えていない、ずっと一人ぼっちで死んだように生きればいいわ…!」
零れ出る涙は止まらない。歪む視界の中でシュガーは悪夢の中身を告げる。
「若様を殺させやしないんだから!!若様が
凍える瞳がオモチャを瞳いっぱいに映す。
少女の世界の中に、闇に生きる男の姿は既に姉に次いで大き過ぎる存在になっていた。
「お前みたいな奴のせいで、若様が傷付くんだ」
投げられたオモチャの肢体はそのまま窓を越えて海に落ちる。
「覚えときなさい。あんたの娘なんて、いつでも簡単に殺せるんだから」
波がオモチャを容易く飲み込んだのを見、少女は扉を閉める。
その様子はまるで、童話の本を閉じ終幕を告げるかのようだった。
「おしまい」
シュガーは笑って、そう言った。
主人公(おれ)
身内に甘い打倒天竜人。偶に抜けてる。精神弱め。頑張ってるけど頑張れ。人生ハードモード。
ジョーカー(モフモフ)
主人公守り隊兼おとしゃん。基本一線引いてる。主人公カバーしつつ企み中。キュロスの処遇云々は計画通り(某デスノ●ト顔)。
シュガー
シスコン。滲み出る狂気。主人公に依存気味。
キュロス
主人公の発言から敵と組んで街を救い、国を乗っ取ろうとしていたのではと思っている。