世界はあなたを愛してる   作:アビ田

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主人公の一日。


ONE-Day

 ドンキホーテ・ドフラミンゴの一日は大抵穏やかな朝か、戦場並みの騒がしさから始まる。

 その日は後者であった。

 

 

「キャーー!!若様おはよう!」

 

「若様起きて、若様!!」

 

「…………」

 

 

 元々低血圧な男は、特に朝の機嫌が凄ぶる悪い。しかしそんな中でもファミリー相手には強く怒らないと分かっている二人は、遠慮無しにベットの上で騒ぎ出した。

 

 

「若様の好きなロブスターよ!!私取ってきたの若様!!」

 

「若様オモチャでスプラッタごっこしよう!」

 

 

 デリンジャーの角が思い切り腹に刺さった男は呻き、ついでシュガーに肩を揺り起こされ渋々起きた。

 開けられた瞳は正反対の色で彩られている。

 

 それに特に深追いもせず、というより興味のベクトルがそちらに向かない二人は騒ぎに騒いだ。

 隠し事が多い男からしてみれば、そのファミリーの対処は非常に気が楽なものだった。

 

 

「……煩ェよ…お前ら………」

 

「「若様!!」」

 

「……わ、分かったから…ちょっと外で待ってろ」

 

 

 そのまま二人は起こしに来たベビー5に預け、ドフラミンゴは白シャツに袖を通し、緩いボトムを履いた。

 欠伸し、そのまま眼帯を付けサングラスを掛ける。

 

 窓を開ければ朝日が覗き、それに顔を顰めながら眉間に皺を寄せた。

 光の中でも早朝の朝日が特に目を痛めるのだ。

 

 

 ちなみに思い切り素足で歩き回るが、それを咎める幽霊は夜行性のため寝ている。

 それを知った上で確信犯は長い髪を結い、シャツの中に入れた。

 

 前髪は以前仲間となったヴィオラ王女___ヴァイオレットに切られたため、奇しくもジョーカーと同じようになっている。但し生え際は無事である。

 

 

「…眠ィ」

 

 

 

 

 ファミリーの仲間と食事を共にした後、直ぐに仕事に取り掛かる。

 今の所王政の業務が安定していな事もあり6割、ファミリーの仕事が4割。表と裏の仕事である。

 

 拠点は既にスパイダーマイルズからドレスローザに移したため、手に付ける悪事も多少なりとも変化した。

 

 麻薬や武器関連は元々であるが、王下七武海入りを果たしてから増えたのは奴隷マーケットの着手である。

 その内容はファミリーの中でもドフラミンゴと一部の者しか携わっていない。

 

 筆頭は船長だが、その他はヴェルゴといった彼が特に信頼を置く人物が関わっている。

 

 

「フフフ、金の亡者は殺しちまっていいさ。重要なのは愛情だろ」

 

 《君らしいな》

 

 

 ドフラミンゴが着手した奴隷…いや、奴隷を冠した子供の受け流し。

 単純に言えば里子探しだ。

 

 

 買い取った種族問わない奴隷にされた子供を、確かな愛情を持つ人物へと渡す。新たな第二の人生のスタートだ。

 

 それは今迄は出来なかった事でもあり、心の余裕が一切無かった男には更に不可能だった。

 

 しかし仲間も強くなり、それなりの権力を手に入れた今だからこそ、漸く叶えられた目的の一つでもある。

 第二の人生のスタートを切った子供の人生までは保証しない。それは自分で切り開くべきものなのだ。

 

 それでも懸命に生き、切り開いた人生を見せてみろと男は思うのだ。

 

 

「…あ、あいつどうなってる。少しはマシになったか?」

 

 《大丈夫だドフィ、教育は順調に進んでるよ》

 

 

 何だか不安な気持ちになりながら、まぁ大丈夫だろうと男は判断し電話を切った。

 いずれまた会った時に、少しでも人間性を取り戻していればいいのだ。

 

 そのまま仕事は続き、夕方になる。時折海軍から招集は来るものの多忙の際は男は基本向かわない。

 彼方には色々夢を操作する能力者を黙っていた事など、私怨があるのだ。

 

 

 一息吐いていれば、部屋に来たのはモネ。

 知識の吸収が早い彼女は、彼の秘書状態になりつつある。基本はファミリーの仕事の仲介役を担っている。

 

 

「若様、この件でお話が…」

 

「ん?」

 

 

 誰かが居ればその距離の近さにツッコむ。しかしトレーボルの近さで感覚が麻痺してきた男はそれに気付かない上、モネは若干天然の気がある。

 

 モネの妹であるシュガーが居れば確実に姉を茶化しただろう。

 

 お互いそのまま真剣に話し合いをした。不意に資料を読み込む船長を見たモネは、その目元に視線が行った。

 

 

「…隈」

 

 

 そう思いつい触れれば、ドフラミンゴは肩を大きく揺らした。ファミリーの前では気を抜きやすくなるため、不意打ちにとことん弱くなる。一部殺意を抱く者の前を除くが。

 

 

「…ど、どうした…?」

 

「……えっ」

 

 

 驚きに肩を強張らせる男と、自分が何をしたのか客観的に理解し頰を蛸のように染めるモネ。

 

 そのまま逃げたい衝動に駆られながら何とか留まり、心を落ち着かせようと軽く咳をし、まるで何事もなかったかのように取り合う。

 

 

「若様の意見をお聞かせ下さい」

 

「…あぁ、ここはだが___」

 

 

 仕事とプライベートのスイッチはしっかり分けられる二人。

 そのまま話を終えたモネが部屋を出た瞬間、テンパる余り転んでビン底眼鏡を壊すのを男は知らない。

 

 

「…コンタクトにしようかしら」

 

 

 

 

 

 そして夜。

 

 

 

 仕事が終わればファミリーと夕食を共にするが、ここ最近は朝以外殆ど共にできていない。

 

 恋愛感情程とは言わないが、元来男は食欲に関心を抱いていない、本人にその自覚がないが。ただジョーカーの影響なのかロブスターは好きである。

 

 あくまでファミリーと食べるからこそそこに感情を見出すのであって、一人ならば食事をエネルギー補給程度にしか捉えていない。

 

 合理的と言えば聞こえはいいが、実際は人間性の欠如である。三大欲求の一つを放棄している時点で、甚だ人間ですと言うには三分の一不足している。

 

 

 そんな男に微笑みながら来る殺し屋。

 男へと向ける殺意を仕事の中で昇華しながら、彼女は今日も紅茶を持って来る。

 

 内に秘めた感情を隠しながら、妖艶に笑むのだ。

 

 

「若、紅茶は飲むかしら」

 

「………」

 

 

 無論そこに何が入っているかなど男自身も分かっている。男の殺害のため、自分の手を汚す覚悟をした彼女は、自分の心と戦いながら殺しの道を選んだ。

 

 殺し屋ならば、数多ある殺し方を学べるのだから。

 

 ドフラミンゴはしかし躊躇せず毒の入った陶磁器を手に持ち、ヴァイオレットの目を見つめた。

 交わり合う視線。

 

 

 女の殺意を受け入れた男は、それと向き合う。

 

 男に非があるといえばあるのだろう。本人も国王や彼女の姉の死を自分の原因でもあると思っているが、だがしかし運命がそうであっただけだ。

 

 その優しさと愚かさを交えた感情は今彼を蝕む毒となっている。

 所詮己の感情など理解されないと諦めを持つようになった今、余計に男は自分の首を絞めているのだ。

 

 

 ヴァイオレットの瞳から目を離す事無く、紅茶を胃に流して行く。

 ゆっくり動く喉を、彼女はただじっと見つめる。

 

 そして中身が無くなったカップは、彼女が持っていた盆の上に置かれた。

 

 

「フフフ!美味かったぜヴァイオレット、ちと刺激が足り無ェけどな」

 

「…そう、喜んでくれて良かったわ」

 

 

 冷たい視線が絡み合う。先に外された女の視線はそのまま扉に向いた。

 

 

「また今度、持って来るわ」

 

「あぁ、楽しみに待っててやるよ」

 

 

 会話はそこで終了する。また自室で一人になった男は、軽く咳き込んだ。

 

 毒の耐性は下界に落ちてから他者の意図的な原因で散々口にする機会があり、幼い頃に付いた。

 効く物もあるが大抵毒物は彼には効かない。致死量を一気に摂取したとしても、死にはしない。

 

 数日身体の不調は続くが。また同様に薬物にも耐性がある。

 

 今回は何の毒だったかと洗面にえづきつつ、怠くなった身体をソファに預けた。

 

 

 男自身彼女との間のこの関係性は間違っていると理解しているが、どう動いていいのか未だ分からないでいる。

 

 一番単純なのは事実を伝える事だが、仲間になり彼女が殺意を潜めるようになり余計難しくなった。

 

 しかし己に向ける殺意は確実に彼女の内で増している。それに言ったところでこちらに微笑みながら「そうなの」としか言わないだろう。

 

 

 その中に「理解」のふた文字は無いのだ。

 

 あるのはひたすらの憎悪と殺意。

 ただ殺したいと願い、それ以外に目もくれない彼女は彼の言葉に耳を傾ける事はない。

 

 その時の最善の策を為したはずだが、間違ってしまったのかと瞼を閉じる度に思う。

 

 悩む事は多い。思考にいずれ潰されて死ぬんじゃないかと思いながら、夜の空を眺めた。

 身体をソファに縮こまらせ、アルマジロのように丸くなり肘掛けに頭を乗せる。

 

 

「………」

 

 

 自分で不安定だと思う辺り、かなり今の現状は危ういのだろう。

 

 瞳を閉じれば、暗い海の中にいる。泡が立ち、左右を見れども誰もいない。

 そんな光景がやけにリアルに感じられるのだ。

 

 

「フフ……フフフ………」

 

 

 不意に感じた視線。緩慢な動作でその先を見れば、欠伸を溢した夜行性の幽霊がこちらを覗き見ていた。

 

 サングラスの奥に隠された片っぽがない紅い瞳には、不安の色がさざ波のように揺れている。押しては引いて、押しては引いて…その光景が頭によぎり、瞼が重くなる感覚がした。

 欠伸をすると、鋭い犬歯が覗く。

 

 

『大丈夫か』

 

「……おう、生きてる」

 

 

 ジョークの時と同じ要領で手を振る。それに更にジョーカーは眉間に皺を寄せた。

 男の大丈夫は大丈夫じゃない。既に何度も経験してきた事だ。

 

 その時息だけ漏れるように続いていた笑い声が、突然止まった。

 

 

「…何かなァ…迷子みてェだ」

 

『ア?』

 

「…どこに泳いでいいか分からなくて、ただ沈んでるみてェな……そんな感じだ」

 

『………』

 

 

 目的も腹に宿る破壊欲も本当は変わってないのになと、男は呟く。

 

 だが穏やかな感情が強くなっているのもまた事実だ。海に落ちて以来その不思議な感覚は、まるで己を海の底へと(いざな)うように続いている。

 

 今の状況を例えるなら、まるで荒波と小波に交互に呑まれ遭難しているかのようだ。

 

 

『…だがお前は止まらない、違うか』

 

「フッフッフ…言わなくてもいい事は言わせんなよ。あんたらしくない」

 

『煩ェ』

 

 

 心配…そう、心配なのだ。

 しかしそれを伝えられない程不器用な人間である。ジョーカーとはそういう奴だ。

 

 

「心配なら溺れた時引っ張ってくれよ」

 

『…おれにどんだけ苦労掛ける気だテメェ』

 

「はぁ?そんなに迷惑掛け…」

 

 

 言いかけ不穏な空気に男は口を閉じた。いくらでも枚挙しますと言わんばかりの青筋に思わず後ずさる。

 

 

「……おぉ、怖い怖い……フフ……」

 

『おい、寝………ったく』

 

 

 一番に安心出来る存在がいる所為なのか、そのまま体格に見合わぬ小さな呼吸音で寝入る男。

 それに呆れながら、ジョーカーは指だけ動かしコートを掛けた。

 

 

 こうしてとある日の男の一日は過ぎる。

 

 ジョーカーはガキの寝顔に緩く笑みながら、窓から映る月を見やった。

 図体はデカくなっても、やはりガキのように見える。それは恐らく、男の内側に隠された幼さのせいもあるのだろう。

 

 大人のクセに、子供。

 

 それもまた男の異常性を助長させているのだろう。

 

 

 

『おれじゃ駄目なんだよ……共に溺れていいと思っちまうから』

 

 

 

 そうポツリと呟き、幽霊は姿を消した。

 

 

 

 

 

「……でもそれがきっと、おれたちの運命なんだろうよ」

 

 

 

 

 

 

 呟かれた声は、夜の空に吸い込まれていった。




主人公
身内に甘い打倒天竜人。時折抜けてるし精神弱め。頑張るけど頑張れ。海に愛されてる。髪型はランサー風味。

ジョーカー(モフモフ)
主人公守り隊兼おとしゃん。苦労人。今の状態からの回避に悪戦苦闘中。
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