世界はあなたを愛してる   作:アビ田

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二匹は一緒に、暗くて狭い水槽の中に閉じ込められて泳いでる。



溺れたけど、誰にも引き上げてもらえず闇に沈んでいった紅い魚。

溺れたけど、誰かにその手を引き上げてもらった碧い魚。



一緒に泳いでる。一緒に、一緒にぐるぐる、ぐるぐる泳いでる。





疲れた二匹はいずれ、骸と化して、ただ沈んでいくんだろうか。けれどきっと、一緒に沈んでいくのだろう。






溺れて


溺れて



溺れて














でもやっぱり魚の死体は浮かぶから、そこらでプカプカ浮かんでいるのだろう。


ゴポ

 情熱の国、ドレスローザ。

 

 

 城から覗く民衆たちの平穏な様子を眺めながら、ヴィオラは深く息を吐いた。

 そこに現れたのは今は亡き彼女の姉、スカーレットの娘であるレベッカ。

 

 お土産を持ってきたのと言った彼女が背負っているのは、自分の背丈よりもあるドでかい魚だ。

 

 

「あんまり無理させちゃダメよ、キュロスのこと」

 

「はーい!」

 

 

 チャンドーラがドレスローザを襲った際、敵に操られていたキュロス。長年能力によって悪夢に犯された精神は当初、知り合いのヴィオラでさえ拒んだ。

 

 

 唯一彼が認識したのが、娘のレベッカだったのだ。

 

 

 レベッカはヴィオラとの戦いの後、真実を知った。恨んでいた元国王への気持ちは揺らぎ、今ではすっかり内にあった殺意は形を無くし、機会があれば謝りたいと切に望んでいる。

 

 現在は失くしてしまった親子の時間を埋めようと二人で世界各国を旅している。

 

 その甲斐もあり、段々とキュロスも総合的に見れば精神が快調に向かいつつあるものの、それに伴い、真実を知った精神はまた苦しみの中で苛まれるなど、一進一退の状態ではある。

 

 

 また失ってしまった片足は、以前シーザーが所属していた医療機関の協力を得て作られた、最新技術の義足が付けられている。

 

 若干室長を務めるモネの独特なセンスを感じるデザインではあるが。

 

 

「…お姉様も、幸せになっていいんだからね」

 

「……レベッカ…」

 

 

 憂いを見せるヴィオラにウインクし、レベッカは次のお土産も楽しみにしていてと部屋を出て行く。

 ピチピチと床の上を跳ねる魚の横で、ヴィオラは苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 あの後チャンドーラは壊滅した。また闘技場で行われた麦わら一味対ドンキホーテ海賊団の戦いも、最後は全員で乱闘するバカ騒ぎになり、敵味方関係なく飲めや歌えやの大宴会と化した。

 

 シリアスモードだった彼女からしてみればかなり気が削がれたが、これもいいものだと笑みをこぼした。

 

 

 モンキー・D・ルフィ。

 

 現在最も海賊王に近いとされている。あの時感じた既視感、それはあの人と同じものだったのだと思う。

 

 海賊王としての器。男に着いて行くことは終ぞ叶わなかったけれど、彼女にとってファミリーと共に過ごした憎しみと愛に焦がれた日々はとても輝かしいものだった。

 

 今も時折ファミリーのメンバーが来る。自分たちの家族だと尚も言う彼らに、思わず微笑んでしまう。

 

 男はヴィオラがスムーズに王女になれるよう、自分の元に国民から不信感が湧くように仕組んでいたが、それは全く功を奏さなかった。

 

 国民は王の性格を大いに理解していたのだ。

 

 リク国王とはまた違う形のカリスマタイプだった王、その例は今も尚良き君主のカタチとして挙げられる。

 

 

「何してるの、ヴァイオレット」

 

「……あら、シュガーじゃない」

 

 

 隠れていたデスクの下から出て来たのは、シュガーという赤ずきんのようなオモチャ。

 

 どうやらファミリーの一員らしく、ヴィオラを守るためにいるらしい…というのは本人談で、居心地がいいから居候しているのではないかと彼女は推測している。

 

 それと時折誰かの姿を探すように、王宮内をうろちょろしている。

 

 ペッドボトルほどのサイズしかないシュガーが、誰かとぶつかって壊れたら大変だと注意しても、それだけは言うことを聞かない。

 

 

 でも共にいて悪い気はしないし、時折来る刺客もシュガーが直ぐにオモチャにしてしまう。また能力者であることも、その能力の内容も知っている。

 

 だから自分も覚えていないのだ。

 

 まぁ騙していたとしても、このまま共にいていいと思うほどには良く思っている。

 

 

「なぁーんで隠れてたの?珍しい」

 

「ちょっとあの人にフルボッコにされた記憶がね…」

 

 

 そう言い遠い目をする。吹きながらヴィオラは再度外を見つめた。

 

 

 

 

 数年前、彼女は王女として即位した。

 

 一部からは反感はあったものの、その手腕を発揮し見事に混乱状態にあった国を立て直した。

 今でもドンキホーテファミリーとは交流がある。

 

 彼らはその後革命軍と組み、天竜人の地位剥奪を目指し動き出した。

 例外としてモネといった一部の者は、己で見つけた別の道を歩んでいる。

 

 

 ファミリーと革命軍の間で何かの取引があったのはヴィオラも知っているが、トップシークレットのため、その内容までは知らない。

 

 だが驚いたのはそれだけではない。何と世界会議で天竜人の半数が今の国家の在り方に異議を唱えたのだ。

 

 そこから急速に高まった人間化に反対する天竜人へ向かった反発や、世界政府への異論。

 

 

 そしてそれは数年後、天竜人の『人間宣言』を通し、より苛烈さを増した。

 

 

 それに準じ革命軍やドンキホーテファミリー_____それだけじゃない、九蛇海賊団や麦わらの一味、ハートの海賊団など多くの海賊たちが動いたのだ。

 その他には海軍から動いた者もいた。

 

 

 現在、天竜人の地位は完全に消滅した。一部の者は貴族として残っているものの、多くは反乱を起こした庶民の人間たちによって殺された。今まで行ってきた非道さが彼らに返ったのだ。

 

 残るは世界政府、それさえもかなり大きなぐらつきを見せている。もしかしたら自分が生きている内にさらに大きな変革が始まるかもしれないと、彼女は一国を統べる王女としてその行く末を真摯に見つめている。

 

 

 

 

 

「……ドフィ」

 

 

 

 

 

 世界を変革に導く礎を築いた男と言っても過言ではない。表に語られることのない、裏の存在。

 僅かな人間が知っているその優しさ。大半のものは男を悪という。

 

 彼女は男の優しさを知る数少ない中の一人だ。

 

 

 チャンドーラとの戦いの後、血相を変えた海軍将校が大参謀おつると話していた会話を聞いた瞬間、彼女の足は話に上がっていた場所へと向かっていた。

 

 

 

 男の失踪、そう言っていた。

 

 

 しかし大半は現場の状況と男の精神状態から自殺だろうと決めつけた。

 混乱状態のまま、チャンドーラの大将を操って刺殺させた後、海に飛び込み入水。

 

 能力者が海の中に入れば、そのまま浮き上がって来ることはまずない。溺れて、そのまま死ぬのみだ。

 

 しかし彼女は死んでいないと思っている。それを肯定したら、今の自分はもう歩めなくなるからと。

 だから死んではいないと信じて、今日も広大な海を見つめる。

 

 

 

 

 

「……帰って来なさいよ…バカ」

 

 

 

 

 

 今日も海は、穏やかに凪いでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -----

 

 海軍本部にて、バタバタと駆ける足音が響く。

 

 その様子に孫を慈しむような視線を送るのはセンゴクだ。少女はそのままセンゴクの腕に向かってジャンプした。

 

 

「おとしゃんどこー?」

 

「ロシナンテは仕事に行ってるよ。ほれ、おかきだ。食うか?」

 

「食うーー!!じいじ、だーい好き!!」

 

「おーそうか、そうか」

 

 

 デレデレである。

 

 人によってはあのセンゴクが…と思うだろう。その一人であるおつるは遠い目をしていた。しかしシャツをちょいっと引っ張られ、直ぐに足元に乗る少年に視線が戻る。こちらもこちらで本人は無自覚だが、デレデレである。

 

 

「おつるさん。ご本…よんでください」

 

「しょうがないねぇ、どれが読みたいんだい?」

 

 

 これと少年が指したのは料理本。若干チョイスがおかしいと思ったものの、意に介さず読み始めた所に扉を蹴破る音。

 センゴクは少女を抱いたまま躱し、おつるは悲鳴を上げた少年を側に置き、見事な蹴りを放った。

 

 吹っ飛んだそれに顔面から当たったのは、犯人である中将の男。もうすぐ大将になるのではと噂されている。

 

 

「またあんたかいロシナンテ!!何回も言ってるだろ、蹴るなって!!」

 

「ご、ごめんおつるさん…でっ、でも、大変なんだよ!!」

 

 

 あ?とドスを効かせながら泣き喚く少年を抱きしめ、拳骨を食らわす。大体ここは託児所じゃないんだよとため息を吐いた。

 

 

「父上…」

 

「おとしゃーーん!!」

 

「ぐえっ」

 

 

 猿のようにジャンプし、倒れている男の上に乗りトドメを決めた少女。

 

 容姿はロシナンテに似ているが、目付きは海兵の奥さんに似ている。性格はやんちゃ化した兄上のようだとロシナンテは語っている。

 

 

 もう一方、心配そうにおつるの腕の中からロシナンテを見つめるのは、少女の双子の弟。

 

 容姿はまるっきり兄上(ロシナンテ談)に似ているが、性格は子供の頃の自分と似ていると(これもまたロシナry)言う。

 

 双子は今年で4歳、つまりやんちゃ盛りである。弟の方は殆ど大人しいが。

 

 

「そういや何をそんなに焦ってんだい」

 

「あ、あのな……二人とも驚かないで聞いてくれよ」

 

 

 あまりの緊迫具合に、歴戦を積んだ二人も緊張する。

 

 

 

「六つ子なんだ」

 

 

「「……は?」」

 

 

 

 名前はどうしようだのと悩む男に、二人はぽかんとしたままだ。six?Ⅵ?

 

 

「だぁーかーらぁ!!次産まれんのが六人てこと!ローが言ってた!!!」

 

 

 そりゃあさぞニートな六つ子…と思った所で、漸く思考回路が追い付いた。

 悩むロシナンテの隣で、これまた真剣に悩み始めたセンゴクを横目で見ながら、おつるは目を細める。

 

 あぁもうそんな時が経ってしまったのかと、子供たちを見ながら呟いた。それを耳にしたロシナンテも娘を抱き上げながら、おつるを見る。

 

 

「おつるさん…」

 

「あのガキはどこでフラフラしてるんだろうねェ…」

 

「…兄上は…案外そこら辺にいるよ。自分で死ぬ人じゃないから」

 

 

 この世に新しい海賊王が誕生し、政府は代替わりを迎えようとしている。

 次の時代が到来しようとしているのだ。感慨深いと目を瞑った。

 

 

「おとしゃんおなか空いた!!」

 

「父上…」

 

「よし!仕事も終わったし、メシだメシ!!」

 

 

 二人を抱き抱えたはいいものの、見事に転んだロシナンテ。双子は年齢に見合わない身体能力の良さを発揮し、体操選手ばりに華麗に着地した。

 

 

「…そういうとこは似てないんだね…」

 

「いってェ〜〜」

 

「うえっ…おとしゃ、おとしゃん……死んじゃ、やだぁ」

 

「ち、ちちうえ……ぐすっ」

 

 

 父を心配し泣き出した二人を抱き抱え、今度こそ転ばずロシナンテは出て行った。三人に手を振りながら、おつるは未だ六つ子の名前を真剣に考えているセンゴクに、呆れたように息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 -----

 

 

 そこは、北にある小さな小島。

 

 

 

 

 

「お前のトーチャンって昔海賊だったんだろ!!やーい、海賊の息子ー!!」

 

「父さんをバカにするな!」

 

 

 そう言われいじめっ子たちに殴られているのは、黒髪の子供。

 

 やーいやーいと子供を貶す言葉が続く。

 普段なら大人が止めているが、運悪く町外れの空き地にはいじめっ子と黒髪の少年以外誰もいなかった。

 

 子供の父は、医者のいないこの小島に住む人々にとって大変に尊敬されている。治療後礼を言われるのが苦手なのも分かっているため、人々は敢えて口にしないが感謝していた。

 

 

「ほら、カエルやるからお前の口でカイボーしてみろよ!」

 

「離せ!!」

 

 

 少年を羽交い締めにし、口の中にカエルを突っ込もうとするいじめっ子たち。涙を堪えていた子供もついに瞳を潤ませた。

 

 土っぽい匂いと共に、あともう少しで招かれざる緑の小動物が口の中へ入ろうとした時、低い声が聞こえた。

 

 

「何してやがる」

 

「何だよジャマすん……」

 

 

 怒ったままいじめっ子たちが後ろを振り向けば、そこには身長の高い男がいた。パーカーの帽子を被っている上高い身長が影を作っていたため、その容貌はよく分からなかった。

 

 だが突然現れた男_____子供たちの身長からすれば巨人のようなデカさの人間に、一斉にいじめっ子たちは逃げ出した。

 

 

「ご、ごめんなさいぃいいい」

 

「ぎゃあああぁぁぁ」

 

 

 すっ転んだり、壁にぶつかりながら悲鳴を上げて逃げていく子供たち。黒髪の少年は呆然としながら、その様子を見つめた。しかしハッとして男の方を見やる。

 位置が変わり、見えた瞳はオッドアイ。不思議なそれについ魅入った。

 

 男は子供の身長に合わせるように座ったが、それでも幾分か高い。

 

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん……おじさん、ここの人じゃないでしょ?」

 

「…まァな、ちょっと訳ありでな」

 

 

 訳あり?そう言う子供を無視し、少年の腕を持ち上げ傷がないか調べた。特に大事に至るケガは無さそうだと判断し、一息吐いた。

 

 少年は父親に似た頭の良さで、何故見知らぬ男がここにいるのか考えを導き出す。

 

 この島は基本あまり外から人間はやって来ない。少年の父親の能力をいいように利用とする輩が多いため、隠れる意味合いもある。

 

 海賊王の知り合いというだけで、命を狙われるのはもうこりごりだと言っていた。

 それでも時折昔の仲間という人たちが、やってくるのだけれど。

 

 その中の少年が大好きなシロクマよりも、目の前の男は高い。首が痛くなりそうだと場違いに思う。

 

 

 何より男の雰囲気が父親と同じものを感じさせるのだ。血の道を歩んで来た者の匂い。

 

 この人は海賊で、父に会いに来たのではと考えた。でも悪い人じゃないと、子供のシックスセンス的勘が己に言っている。敵じゃないのなら…

 

 

「もしかして父さんの友人?」

 

「友人……友人…………ではないな」

 

「じゃあやっぱり父さんの能力目当ての人間…?」

 

「いや、忘れ物を取りに来た知人ってとこだ。………あ、何だよ?」

 

 

 そう言うと男は空中の一点を見つめ、何かと話し始めた。「折角記憶を取り戻したのに」だの、「久し振りに顔見てェ」だの言っている。

 

 精神的な病気なのかもと一人思いながら、少年は外が暗くなりつつあるのに気が付いた。

 

 

「帰らなきゃ。父さん怒っちゃう」

 

「…あ?悪かったな、送り届け……アァ?だから何だよ、そんなに会うの駄目かよ」

 

 

 今度は何かと喧嘩し始めた男を尻目に少年は歩き出した。暗いのは苦手だ、夜は幽霊が出るし。一応と思い、後ろを振り返る。

 

 

「おじさんも来る?今日は休診日だし、父さんうちに居るよ」

 

「…いやいい、また後で行く。ちょっと話が長くなりそうだからな」

 

「分かった、バイバイ!」

 

 

 少年が手を振れば、男も手を振った。ふいに男の視線の先にいる何かが見えた気がして、怖くなり一気に駆け出した。

 

 そして家に帰ればやはり電気が点いていて、暗い診療室を横切って父の書斎の扉を開けた。

 

 何か書き物をしながらコーヒーを飲んでいる父の背中を見て、もう大丈夫だと安心する。ただいまと声を掛ければ、気が付いたのか淡白にお帰りと言い、優しく頭を撫でられた。

 

 同じように棚の上にある、キキョウの花が生けられた花瓶の後ろの写真にもただいまと告げ、走って熱くなった身体を少し冷やそうとジャンパーを脱ぐ。

 

 

「ねェ聞いて父さん。オレ幽霊見ちゃったかもしれない」

 

「…俺は科学的に証明できない物体は信じないタチだ」

 

「えー」

 

 

 母さんの幽霊だったら絶対信じるクセにと思いながら暖炉の前であったまっている内に、そう言えばと声を漏らす。

 

 

「変なおじさんがいたんだ。その幽霊?っぽいのと喋ってたんだけど…」

 

「そりゃあ変質者だな。…お前そういう人間見ても絶対ホイホイ着いてくなよ」

 

「人をバカみたいに言うなよー」

 

 

 ぶーと口を尖らせ、コート掛けに向けてジャンパーを投げれば掠りもせず壁に当たって地面に落ちる。それに余計ぶすくれた少年は笑った父の背後を睨め付けた。

 

 すると父が振り向き、空になったコップが向けられる。淹れて来いとのことだ。

 

 息子への扱いがぞんざいであると少年は頰を膨らませつつ、意趣返しだと横腹に頭からタックルして、落ちかけたそれを華麗にキャッチし扉に向かう。不意打ちに呻いた男も直ぐに仕事に戻った。

 

 

「あーでも…おじさんの目…海みたいに綺麗だったなァ…」

 

 

 その言葉を言った瞬間、何かが落ちる音がした。父さんの羽ペンだと少年が気付く間もなく、肩を掴まれる。

 

 

「目って…もしかして碧っぽい目か!?右目が……」

 

「ちょ、ちょっと落ち着いてよ!」

 

「行くぞ!」

 

 

 は?という少年の言葉は無視され、手から滑り落ちたコップの割れる音が耳に響く。

 ただ視界の景色が前から後ろへ急速に流れて行くのをぼんやりと見つめた。

 

 この父の偶に出るこういう乱暴な所が嫌なんだと思いながらも、何かあるのだろうと口を噤む。実際少年自身にも似た気質がある。

 

 

 父曰く「D」の性質らしい。

 

 その隠し名の意味を少年は知らないけど、海賊王や父と同じ「D」を自分が持っていることは、少年の誇りだったりする。

 

 

 少年は父に不思議な男に会った場所を教え、空き地に抱えられたまま着いてみれば、一服している男がいた。

 

 

「…お、もしかしてローだよ…」

 

 

 男の言葉が言い終わる前に、少年の父___ローの拳が男の顔面に向けて放たれた。しかし空中で何かに巻きつかれたようにその一撃が止められる。

 

 

「どこ行ってたんだテメェ!!どんだけの人間が…」

 

「そう言うなよ。思い出したのはほんとつい数日前なんだからよ」

 

「は!?」

 

「ほら、世界には似た人間が三人居るって言うだろ?ロシナンテと似てる子供に釣られてよ、(あまつさ)え顔面ぶん殴られた」

 

 

 ロシナンテ、その言葉は少年も知っている。数年前に大将になった人だ。家族ぐるみで仲のいい家のドジっ子なおじさん。同い年の六つ子とは仲がいい。

 

 

「…コラさんの娘だ」

 

「へぇむす……………………ン?」

 

 

 時が止まったように停止する男。解かれた糸を確認したローは、男に一歩踏み出す。

 

 

「……取り敢えず話は後だ。積もる話もあるし、現状を色々説明してやる」

 

「フフフ、やっぱ最初にお前のとこ来て正解だったな。腕ないと不便でなァ……」

 

 

 腕とは、もしかしてホルマリン漬けされてるあの腕だろうか。あれなら父の書斎に今もある。医学的資料にしては腕だけというのも珍しいと思っていた。

 

 そう思いながら少年は二人の顔を見つめた。普通に喋っているだけなのに、何故かものすごく切ない気持ちになった。

 

 母親が海賊に殺された時も、こんな気持ちだった。

 

 

「……色々、変わっちまったな。天竜人のクソ共の中にも確実にこの手で殺したい奴はいたんだが………ったく」

 

「…お前は変わってないな……あん時のまんまだ。記憶が戻る前の記憶はあるのか?」

 

「残念なことにない、海に落とされて以降な」

 

「…やっぱ、自殺じゃなかったんだな」

 

 

 そのローの言葉にどうやらツボったのか、特徴的な笑い方で腹を抑える。

 

 

「フフ…言ってたんだよ、あいつらが」

 

「……あ?誰が、何を?」

 

「…いや、言ったら呪われそうだから言わねェ。でも、一度死んで……それからリスタートの人生なのは確かだ」

 

 

 そう言うと、男は空を見やった。満天の星の中に、黄金のまん丸が下界を見下ろしている。

 目を細める男に、ローは真っ直ぐな黒曜石の色の瞳を浮かべて言う。

 

 

「…一応、一番最初に会った代表として言っといてやるよ」

 

「ア?」

 

 

ローの言葉に、男は眉を顰めた。

 

 

 

 

 

「お帰り、ドフラミンゴ」

 

 

 

 

 

 それに一瞬目を見開いて、男は優しく照らす月のように笑った。

 

 

 

 

 

「……あぁ、ただいま」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴポ

 

 

 

 

 

 ゴポ

 

 

 

 

 

 ゴポポ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界はあなたを愛している

 

 

 

 故にあなたを殺すのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 愛を知りましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのために、わたしはぼくは殺すのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さぁ愛を知ったなら、歩き出しましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして微笑むのです

 

 

 

 

 

 

 _____大いなる海のように、優しく照らす月のように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死んで、貴方は本当の愛を知る。

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