世界はあなたを愛してる   作:アビ田

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若視点から見た主人公について語るお話です。本編には読まなくても大差無いので流して頂いて大丈夫です。
捏造のオンパレードなので、大丈夫な方だけどうぞ。若に夢見てる。


番外:ガキと愛情

終わりは誰にでも来る。おれの終わりは独房なだけだった。

 

 

玉座から失墜し、そのまま檻の中で動物園気分だ。それも動物の方だから笑えねェ。

 

数年後だったか、はたまた数十年後だったかは記憶が曖昧だが、あの忌々しい麦わらが海賊王になった記事を読んだ。

 

 

それからさらに月日が経って、それなりの歳だった。おつるさんは化け物なのか魔女なのか知らねぇがおれよりも長生きした。本当色々敵わない。

 

 

行き先は地獄だろうと病の痛みに苦痛を漏らして死ねば、そこは亡者の集う場所でもなく、かといって極楽浄土なわけでもない。

 

記憶の隅にある光景、その景色と似ていると思った。

 

見渡せばやはり見覚えがある気がするが、らしくもなく混乱しているのか上手く思考が回らない。

 

そして目についたのが、自分と同じ金髪。それも赤子だ。

 

 

まさかと思ったが自分だった。さらにわけが分からないが、つい手を伸ばしてしまった。

無意識に殺そうとしたのか興味に駆られたのかは定かではない。

 

ただ自分と同じ存在であるはずなのに違う瞳の奥の色に、魅かれてしまったのかもしれない。

 

 

それがおれとガキとの出会いだった。

 

 

 

ガキは子供というには余りにも中身が成熟していたが、大人というには些かぴったりと当てはまらなかった。あいつ自体が体に精神を引っ張られていたからかもしれない。

 

何はともあれ奴はおれであろうが、魂の部分に関してだけ言えば別の何かであろうということは早々に分かった。

 

だが口にすることはないだろう、これまでも、これからも。

 

 

おれたちの距離感はそれぐらいが適当だった。

必然と己の過去についても秘匿し、お互い知らず探らずの関係に持ち込んだのは丁度良かったとも言える。

 

 

 

行く行くはロシーやあいつの父を殺そうとしつつ、時折あいつの体を乗っ取ろうとする。しかし精神の主導権は彼方にあるのか無駄に帰した。

 

今更自分の家族でもない存在の生死などどうでもよかった。

 

ただガキの今後を思えば、早めに殺しておいた方がいい、そう思っていた。

 

 

…もう大分この時点で絆されていたのかもしれない。

 

 

 

精神の端であいつと繋がっているのを偶に感じては、苛立つ。

 

根底はおれと同じだろうに育て方が悪かったのか、奴は随分甘かった。おれに比較すればの話で、普通よりは尋常じゃない気狂いなのだろう。

 

だが気狂いが大事なものはやはり家族かと思えば違う。自分だと、イコールでおれなのだと言った。

おかしい奴だとは思っていたが、相当におかしな奴らしい。

 

 

込み上げたのは嘲るような笑いと、久しい愛情だった。おれのそれは歪んでいる。

 

 

おれに愛されるなんざ、可哀想な奴だ。

 

 

 

 

そして過去を変えるでもなく、月日が経ちガキは地に堕ちる。不干渉だと自分に言い聞かせた。

 

関わるべきではない、もはや死んでいる存在が動くべきではないと思いながら。ガキの一にも満たない努力を眺めていた。

 

幸せなんぞすぐ壊れる。母の死であいつは簡単にそれを痛感しただろう。

惨めで哀れな奴だ。

 

 

甘い奴はすぐに死ぬ。だから今のうちにあの二人を殺すか、おいて逃げればいい。救う選択肢なんぞはなからない。

 

お前を…おれを地獄に堕とした存在を、裏切り続けた愚か者を救おうとするなんざそれこそ自分から進んで愚かになるというものだ。

 

だがガキはおれの甘言にも傾かず、そのまま家族を歪んで愛し続ける。

 

どこまでも甘ちゃんだと、頭の中で一人毒づいた。

 

 

 

そしてとうとう、その時が来た。人間どもの汚らしい罰と称した磔を。

 

 

もうなりふり構っていられないのか、ガキの心情がダダ漏れだった。もう少し利口になれと思ったが、その言葉も内容を聞いているうちに止まった。

 

 

 

___優しい、愚かな父上。ぼくは貴方を敬愛しているよ。

 

(違う、どこまでも愚かで救いようのない男だ)

 

 

___弱くて脆かった人。ぼくとロシーを何よりも愛してくれた人。どうか安らかに天国で幸せに暮らして欲しい。

 

(あいつがいなければ母上は死ななかった。おれもロシーも、地獄を見なかった)

 

 

___お前を汚す輩がいるなら、兄のぼくが全員殺してやろう。

 

(おれを裏切り続けた愚かなコラソン__ロシナンテ。おれはお前を愛していた。裏切ったのはおれじゃない、お前らだった)

 

 

 

どっと負の感情が渦巻いた。甘過ぎる考えだ。おれには到底理解出来ない。

 

だが繋がりのあるおれとガキは、恐らく多少は精神の影響をお互いがし合っている。

 

圧倒的にそれはおれだろうが、あいつの甘さにおれが少しは影響を受けたか否かで言えば、否とも言い切れない。

 

 

そのまま感覚が共鳴したおれとガキは覇王色を放った。どちらのものでもあったろう。

 

ガキは気絶し、いつのまにかおれがそのまま肉体を動かしたと理解した時は、情報量の多さに眩暈を起こしかけた。

 

長らく閉じていた感覚だ。酔ってしょうがない。

 

 

取り敢えずこのまま二人を殺そうと煮えたぎった腹のまま動けば、気付いたガキがおれとロシーの間に入った。

 

あぁお前もおれを置いていこうとするのか、ロシーがおれを裏切って一人にしたように、お前もおれを一人にするのか。

 

 

ガキのような感情に飲まれ、そのまま勝手に口が開く。何故裏切り者の弟を、お前をこんな惨状に巻き込んだ父を庇う。

 

(おれには、お前しか___)

 

 

 

どちらがガキかその時ばかりは分かったもんじゃない。

 

あいつもおれに引っ張られ、おれもあいつに引っ張られていた。らしくないが起こったことだけが真実だ。弱い部分を見せたことは認めよう。

 

 

ガキはおれの言葉に応えようとして、しかし辻褄の合わない話をした。

 

お前が死ぬのならおれも必然的に死ぬだろう。

 

それでもガキは自分の誠意だと言い切った。どこかギクシャクしたまま、懸命になって言う。

その姿はまさしく子供のようで、呆れ半分慈しみに似た感情半分。兎に角自分が馬鹿馬鹿しいと思った。

 

 

 

__こんなガキに、まさか絆されていたとは。

 

 

確実に理解したのはこの時だ。前々から絆されていたが気づかぬふりをして過ごした。

だがもう隠すには些か大き過ぎる感情になっていた。

 

 

初めて会った時、そして成長していく過程をガキの親よりもずっと近くで見ていたんだ。まぁ、そういう感情も芽生えておかしくないだろう。

 

自分にそんな感情が残っていたのは驚いたが、まだあったんだ。

 

 

(…家族の愛か…)

 

 

血が繋がっているわけじゃない。だが血の繋がりよりも面倒な鎖、一生これは離れねェだろうし、離そうとも思わないのが今の現状だ。

 

前よりも近寄ったのは確かだ。あいつはおれに近付き、おれもあいつに近付いた。

 

ガキは考えていないだろうが、もしかしたら将来精神が混じるのかもしれないと感じた。無くなるのがどちらかは定かではないが。

 

 

 

 

長くなったが、一先ずこれで終わりにしよう。

 

 

ガキは害にはならないだろうが変な虫を付けるわ、甘ちゃんな考えをするわ、目を瞑りたくなるようなことばかりをしでかす。

 

ロシーと逆の意味でドジっ子なのかと一瞬思うが、そこまで抜けてもいない。寧ろおれと同じで抜け目ない策略家といえる、歳にしてはだが。

 

 

そしてロシーとあの男。

 

恐らくは今頃海軍に保護されロシーは海兵としていつか潜入してくるのだろう。男の方に関しては知らないがセンゴクのことだ。手厚く守っているに違いない。

 

ガキのこともある、今更自分から進んで殺そうとは思わないが、害になった時は殺す。薄々ガキも感じている、暗黙の了解だ。

 

 

まだ先は長い。始まったばかりだ。大航海時代の幕開けもしていない。

 

ラオGの立場というのも少し奇妙だが、今はその位置に甘んじよう。ガキの行き先を間違えないよう、最低限の舵は取ってやる。光栄に思えよ。

 

 

(それに、お前もぼくの家族だもんな)

 

 

 

 

 

…やっぱりテメェは甘ちゃんだな。




副題「モフモフ、おとしゃんになる」

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