世界はあなたを愛してる   作:アビ田

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兄弟のすれ違いはブラコンと正義感と勘違いで構成されている。仲良し兄弟が見たい。


胃痛兄弟

ロシーを拾ってから数ヶ月。

 

 

まだ期を窺っているのか海軍の動きはない。

 

そりゃあ来てから直ぐに奴さんが来たら当たり前だがロシーに疑いがかかる。

 

 

そんな最近だが拾った後日仕事モードでロシーの部屋を訪れたら、テーブルを盛大にひっくり返して倒れた。

 

どうやら別人過ぎて驚いたらしい。

 

 

久し振りに出会った時に、兄上を瞬時に分かってくれたと思って内心喜んでいた気持ちが沈んだ。

 

弟の一挙一動がボディブローと化している。

 

 

そしてドジな弟と比べはしないが、ドジっ子の才能を持つヴェルゴは海軍にスパイとして行った。

 

長年相棒をしてくれた存在がいないのは心許ない。

 

 

 

いざとなったらジョーカーがいるが、頼むのは御免被る。

 

おれは間違っても自分の宿題を親兄弟に押し付ける人間じゃない。

 

 

とりあえず胃が痛い毎日だ。

 

そして色々やらかすヴェルゴの後釜である“コラソン”___ロシーがここ一番のやらかしをした。

 

 

お兄ちゃんは胃が限界だぞ。

 

 

 

 

 

「……何してるロシー」

 

【ドフィにこうちゃいれようとおもって】

 

 

目が覚めたら朝日が眩しい。

 

 

 

ただそれだけでよかったのに、気配がして起きてみれば弟がおれの部屋にいた。

 

 

まだそれだけなら兄上もな、朝の初っ端から胃を抑える羽目にならなかった。

 

でもお前……本当な、重要資料を手に持ったまま口開けてるなよ。

ポカンじゃねぇよ。

 

全然スパイしてねぇじゃねぇか。

 

 

いや、気配にもっと早く気付かないで寝入ってたおれもおれか…。

 

 

だがいくら弟だからとはいえロシーは海軍スパイだ。

 

 

ファミリーもロシーもどっちも重要で選べやしないが、少なくともスパイ行動には気を付けないと駄目だろ…。

 

 

「…そうかロシー。ハハ、またドジったなこいつめ。紅茶はいい、さらにドジされたら困る」

 

【わかった】

 

 

そう言い去ろうとするロシー。だから!!誤魔化せてねェよ!!資料!!!

 

糸で弟を操りUターンさせる。

 

 

子供の頃はジョーカーに指南されてやっと使えたこの能力も、今じゃ自分で簡単に使える。

 

悪魔の実をおれ自身が食べたわけでもないのに、使えるのは至極不思議だ。

 

 

 

悪魔の実は能力者が死ぬとこの世のどこかにまた生える。

 

おれが調べた中ではイトイトの実の情報を入手したことはない。

 

 

つまりこの世界におけるイトイトの能力者は、必然的におれになるのかという個人的な見解だ。

 

 

まぁ、もしかしたら実は存在するのかもしれない。

 

 

しかしそこら辺の判断はそこまで重要ではないだろうし、おれが能力者であることには違いない。

 

だから海に浸かっても溺れる上に海楼石なんて以ての外だ。

 

一度やらかした時に使われたが気分のいいものじゃなかった。

 

 

 

おれはロシーの手を動かして資料を戻させる、兄上スマイルを付けて。

 

 

「全くイタズラなんかして、そんなに兄上と遊びたいかロシー?」

 

【キモい】

 

 

………おれだってお前を疑ってないアピール兼、話を逸らそうとしたのに何だその仕打ち。

 

 

ア?兄上泣くぞ??いいのかロシー???それとも反抗期か??反抗期ならしょうがねぇな…。

 

 

クソ、身長めっちゃ伸びやがって…。

あの可愛い「兄上!」って言ってたロシーはどこに行った。

 

 

そんなことを思っていればロシーはいつのまにかいなくなっていた。

 

 

一切弟が動いた音がしなかったのに…扉が開けっぱなしになっている。

 

閉めてけよ、行儀悪いぞ。

 

 

「ったく…ロシーが可愛くない…いや可愛いが」

 

『………』

 

 

視線の先に目を移せばジョーカーがなんか生温かい目をしていた。

 

 

『お前弟に対して色々抜け過ぎだ』…だそうだ。何だとコノヤロー。

 

 

 

そこから始まった精神内での罵倒対決、見事に負けた。

 

 

 

 

 

*****

【sideロシー】

 

8歳の頃俺は父上を連れて逃げ、第2の父ともいえるセンゴクさんに拾ってもらった。

 

 

あの時はとにかく必死で、寝ていた父上を無理やり起こしヴェルゴという少年から逃げた。

 

俺がドジって奴が気絶した時は本当にラッキーだった。

 

 

きっと兄は父上を見張らせていたのだろう。

 

 

小さい時の俺は磔にされた後、兄を前にして恐怖で思考が回らなかったけど、訓練に勤しみ多くの人間と戦って来た今なら分かる。

 

 

兄が俺に向けたあのどす黒いものは明らかに殺意だった。

 

 

だからあの時父上も連れて逃げられて本当に良かった。

 

じゃなければ今頃父上も…もしかしたら俺も兄に殺されていただろう。

 

 

 

…いや、きっともうアレは兄上じゃない。バケモノだ。

 

俺に向かって微笑んでくれた兄上も、頭を撫でてくれた優しい心もない。

 

 

兄は悪魔に魂を売ってしまったんだ。

 

 

人々が自分たちに向けた狂気の中で、兄はバケモノを生んでしまった。

 

 

もう俺の知っている兄はいない、そう思っていた。

 

 

 

「ロシナンテ中佐、お前に上から潜入捜査の命が来ている」

 

 

 

センゴクさんにそう言われ内容を聞いた時、俺の心はすでに決まっていた。

 

 

 

“ドンキホーテ海賊団”

 

 

今北の海で名を轟かせつつある海賊団だ。すぐに兄だということは予想がついた。

 

 

上も俺がその船長の弟ということに気付いたのだろう。

 

自分の悪魔の実の能力も考慮すればスパイに任命されるのは当たり前だった。

 

 

正直兄に殺されかけた時は恐怖しか無かった。

 

 

今ではどうやってあの時磔の火の手から逃れたか覚えていないし、センゴクさんに保護されるまでの記憶は途切れ途切れだ。

 

 

けどそれだけ怖かったのだ、兄が。

 

 

今でもそれは変わらない。

でもそこに一つ大きな感情がその恐怖を上回り存在している。

 

 

 

“ドフィ、ロシー…私が父親でごめんな”

 

 

 

保護されてから数年後、父上は穏やかな春島で息を引き取った。

病死だった。

 

あんなに大きかった背中はやせ細って、母上の時に感じた恐怖を思い出した。

 

 

 

失う恐怖だ。

 

 

でも俺は泣かなかった。

 

立派な男になるって……立派な海兵になるって父上と約束したから。

 

 

だから笑って父上の最期を看取った。

 

 

父は亡くなる前までずっと俺たちに謝っていた。

特に兄については殊更悲しんでいたように思う。

 

 

俺はあの時兄上を連れて行かなくてよかったと思っている。

 

きっと一緒にいたら殺されていた。

 

 

そう言っても父上は兄を残して行ったことを後悔していた。

 

 

あの子は強くて家族思いの優しい子だけれど、寂しがりやで一人で抱え込んでしまうのだと、言っていたんだ。

 

 

俺にとって兄上は強くてかっこいい存在だった。

 

 

だから寂しがりやだとかそんな印象がなかった。

 

母上が亡くなった時も泣かなかったし、兄はいつだって強かった。

 

 

 

俺は兄を置いて逃げた、それは正しい判断だと思っている。

でも同時に強い罪悪感に悩まされる。

 

 

兄から逃げてしまったことに、兄ときちんと向かい合わなかった自分の弱さに。

 

 

 

だからこれは運命なんだ。

 

 

スパイとして潜入し、兄を止めることがきっと神が俺に与えた試練なのだろう。

 

 

 

同時にそれが今の俺の大きな目的だ。

 

バケモノになってしまった兄をこれ以上苦しませないために、逃げた俺が始末を付けなくちゃいけないんだ。

 

 

 

 

 

そして海賊団の拠点がある付近まで来た。

 

 

予定としては偶然兄と出会い再会したゴロツキという設定だ。

 

重要なのは船長である兄と会うことだ。

 

 

上から取り入れられれば潜入に楽だ。それ以上にリスクは伴うけれど。

 

 

取り敢えず好機が来るまで付近に滞在しようと思った時、俺より少し身長の高い男が少女を肩車しているのを見た。

 

 

一瞬親子連れかなんて思って通り過ぎた。

 

 

でも余りにも特徴的な笑い声が聞こえたもんだから、急いで追おうとしてすっ転んだ。

 

屋台のおじさんにはめっちゃ謝った。

 

 

 

そうして何度かすっ転びながらもナギナギの能力を使って兄らしき人物を追った。

 

まさか娘がいるとは……と思っていたが違うらしい。

 

 

迷子か……俺も迷子にならないよう気を付けねェと。

 

その後も追って兄が迷子を送り届けた所までは順調だった。

 

 

だがドジって兄の目前を過ぎて思いっきり転けた。

 

 

誰だバナナの皮を投げ捨てたの……俺だよ!!小腹減ってたんだよ…。

 

あれは最早衝突だった、クソ痛かった。

 

 

俺はドジでうっかり色々喋っちまうかもしれないから、声が出せない設定のまま兄と筆談を通して会話する。

 

 

 

有り体に言えばモヤモヤした。

 

 

喫茶店のテラス席で兄が迷子の少女と話していた様子、そして俺と話している兄の様子。

 

 

その笑顔は正しく俺が子供の時に向けられていた優しい兄の笑顔だった。

 

ロシーと俺の名を呼ぶ声は甘い。

 

 

俺はもうガキじゃねェのに、まるで子供の頃みたいに頭を撫でられた。

 

 

もう子供じゃない。

 

そう言おうとしたがナギナギの能力使ってんだった。ドジった…。

 

 

兄の優しさに一旦毒気を抜かれたものの、俺は気を取り戻しスパイとして諜報責務をこなせばならないと動き出したのが、ファミリーに入ってから幾分か経った時。

 

 

センゴクさんともそろそろ頃合いだろうと話していた。

 

 

 

 

 

ごめんセンゴクさん、俺もう殺される。

 

 

 

そう思ったのが、その翌日…というか明朝。

 

 

 

丁度俺に疑わしいと目を向けていたヴェルゴもいなくなって、本当に格好の機会だと思っていた。

 

 

なるべく気配を殺して、兄の部屋に入る。

 

 

部屋の中は絢爛の一言に尽きる。

 

黒い金でよくこんな贅沢出来るなと思う。

 

 

 

目的は書類だ。

 

兄が最近取引しているこれまた薄暗い連中のリスト。

 

 

こういう金で成り立つ奴らを潰すにはまず財源を断つことが手っ取り早い。

 

これを撮ってセンゴクさんに送れば壊滅までとは行かずとも、大きなダメージは与えられる。

 

 

でも俺はやっぱりドジっ子だった。

 

思いっきり転けた…何もねェ場所で。

 

 

「……あ"?」

 

 

超重低音の声が聞こえた。

 

殺される、そう思いつつも蛇に睨まれたカエルになっていた。

 

 

 

でも結局殺されることはなく、ドフィは普通に俺のドジっ子のせいだと思ってくれた。

 

生まれてこのかたこのドジ性には感謝したこと……まぁ転んだ拍子にラッキースケベは無きにしも非ずだけどな?

 

 

取り敢えずドジっ子万歳三唱だった。

 

 

でも正直兄の能力である糸で操られるのは気色悪かった。

 

他人に勝手に体を動かされるんだ、そりゃそうだ。

 

 

あとロシーロシーの回数が多いし、甘ったるしく呼ばないで欲しい。

 

俺は8歳じゃねェ、もう二十歳は超えてんのになんなの?ドフィの脳内の俺は当時のままなの?

 

 

ひしひしと兄の固執具合は感じている。

 

“コラソン”の地位になる前は四六時中監視の目を付けられていたし、その理由が「お前が逃げないように」だそうだ。

 

 

普通に気色悪い。

 

 

 

…そうだ。

 

 

兄の家族に向ける愛は昔から少し歪んでいて、その歪みが年月を経て更に歪になった感じ。

 

 

子供の時はあまり違和感を感じなかったけど、というか兄上かっこいいってキラキラな目で言ってたんだからそりゃあ補正もかかってるか、それにしても歪んでいた。

 

ちょっと引くぐらいには。

 

 

「おれのロシー」とか「天使」とか、ちょっと胃が痛い。

 

普通にそう言っていたのに、何で当時の俺気付かなかったんだ…?

 

 

それにその言葉を今でも普通に言って来るんだからやめて欲しい。

 

 

ファミリーの前では言わないからまだいいけど、「おれの」じゃねェよ、あんたの所有物じゃない俺は。

 

天使はもうどこをツッコメばいいんだよ、俺結構目つき悪いのに。

 

 

 

 

 

そうやって色々悩みながら俺は今日も“コラソン”として任務をこなす。

 

 

ガキにからかわれるのはムカつくが嫌いなわけじゃない。

 

でもドジをからかうのは本気でムカつく。

 

 

帰って血よりも焦げが目立つ服を捨てながら道化のメイクを落とす。

 

鏡を除けば海軍時代に付いた傷やドジの傷やドジの傷や……まぁとにかく傷だらけの俺の体。

 

 

ドフィの体は傷が無い。

あるかもしれないが俺とは違う。

 

 

食い方も兄は綺麗だが俺は汚いし、カッチリしたスーツを着る兄とは違って俺は割とジーンズとかラフなものが好きだ。

 

 

 

兄弟なのにこんなにも違う。

 

でもかといって兄が真っ黒かといえば……分からない。

 

 

 

ずっと記憶にしまっていた兄の優しさ、歪だけど縒れた皺を必死に伸ばそうとしていたような優しさ。

 

それと俺を殺そうとしたあの時のどす黒い兄。

 

 

どっちがどっちなのか分からない。

 

 

悪魔に魂を売ったと思っていた兄が優しくて、でもあのどす黒い部分は確かにファミリーと同調して悪事を行っている。

 

 

頭をガシガシと掻く。

 

 

 

兄弟の筈なのに、こんなにも兄が分からない。

 

 

でも分かろうとせずに逃げたのは俺だ、ドフィに言わせてみれば自業自得だろう。

 

 

最初はただ兄を、バケモノを止めるために握り締めていた拳。

 

 

でも今この拳に宿る感情はそれとは違う。

 

自分でも分からない。

 

 

 

 

 

「……わっかんねェよ…クソッ…!!」

 

 

 

 

 

俺のこの声は誰にも届かず、ただ耳の中に反響するようにぐわんぐわんと脳を揺らした。




主人公(おれ)
身内には甘々。ブラコンの意識が無い、行き過ぎたブラコン。胃痛。自分のブラコ…行動が弟に勘違いを誘発させているのを知らない。

ロシ
打倒兄上だけど迷々。兄上ブラコンなんだな…。

モフモフ(ジョーカー)
基本主人公守り隊兼おとしゃん、ウォーミングアップなう。
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