世界はあなたを愛してる   作:アビ田

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二匹は一緒に、暗くて狭い水槽の中に閉じ込められて泳いでる。


溺れたけど、誰にも引き上げてもらえず闇に沈んでいった紅い魚。

溺れたけど、誰かにその手を引き上げてもらった碧い魚。



一緒に泳いでる。一緒に、一緒にぐるぐる、ぐるぐる泳いでる。


溺れる

海賊王といった何かを成し遂げる男はこうも輝いているもんかと思った。

 

 

マリージョアにまさかの単騎で来た男、フィッシャー・タイガー。

 

おれは所詮闇の人間だから、光にきちんと当たって生きられる存在は眩しく感じる。

 

 

目がチカチカする感覚に襲われながら、その姿を遮るように視界を暗くする。

 

そうすりゃあ無駄な感覚は消えて、豚どもの悲鳴が聞こえた。

 

 

だが奴は甘ちゃんだった。

 

不殺で事を進めている。

 

混乱に乗じて数人殺してやろうと思っていたが辞めた。

 

変に相手の気を逆だたせるのは悪いだろうし、あいつの名を汚すことになるのは吝かでない。

 

 

それに知らしめるんだったらおれが殺したのだと世間に知らしめたい。

 

 

 

 

あいつが進みやすいよう糸で周囲の奴隷を人形のように操る。

 

その中にも強者はいるようだ。避けられた感触がした。

 

そいつらは危険な奴以外操った人間で錠を外させた。そうすれば抑えきれなくなった奴らの暴走はどんどん広まる。

 

 

そろそろ頃合いだろう。

ただ奴隷どもは天竜人を嬲っているようだが殺してはいない。

 

それも恩人のフィッシャーを見習ってのことだろう。揃いも揃って甘ちゃんか。

 

おれの煮えた腹はどうやら上手く昇華できなさそうだ。

 

 

演奏はもういいだろう。

 

糸を操るのを偽装するため、同時に弾いていたピアノをやめる。

 

見晴らしが良いこの部屋からは外の様が丸見えだ。

 

 

「そ、外がものすごく騒がしいえ……やばいえ…」

 

 

子犬のように震える天竜人の男を見ておれは笑う、大丈夫ですよと言った言葉に奴は少し肩の力を抜いた。

 

だがその場の雰囲気を壊すように窓ガラスが割れた。危ないだろ。

 

 

いくら暴走するとはいえこちらにまで危害が加わるのは困る。

 

別に天竜人の男がどうなろうが構わないが、この現状があるのはこいつのおかげだ。

 

我ながら自分の身分に歯ぎしりしたくなる。

 

 

今度は指を動かしおれたちがいる場所に鳥かごをイメージした網を張る。

 

網目を細かくすれば、自動的に通ろうとした物体は切れてこっちに来れない。

 

人間であればすぐに肉片になる。

武装色の持ち主や一部の悪魔の実の能力者は例外だ。

 

 

「フフフ、盛観だなァ」

 

「わたすはまだ死にたくないえ……」

 

「寄るな、切るぞ」

 

「エェェ」

 

 

別に本気で殺さねェよ。少しは感謝してんだ。

 

 

 

そして視界を外に移せば、やけに目立つ少女が走っていた。

 

隣にいるのは姉妹か、見目に差を感じてしまうのは仕方がないのか。中心で走っている黒髪の少女はエラくべっぴんだった。

 

カワイイの部類ではなく既に美人といえる。最早美の暴力だな。

 

じっと見ていれば頭上からジョーカーの声が聞こえた。

 

 

『おっ?』

 

(ん?)

 

『おおっ?』

 

(……何だよ)

 

『惚れたか?』

 

 

ジョーカーの長い指が向く方向はさっきおれが美少女といった少女に向かっている。

 

こいつ、ガチでおれをロリコンに仕立て上げる気か…!?

 

 

(死ね、おれはノータッチ少女だアホ)

 

『お前若いのに枯れてんな』

 

 

枯れてないわ!!!この中身老人が!!!

 

 

ムカついて糸を出しそうになりながらジョーカーを睨め付ける。

 

ジョーカーが美少女に向けた反応は知り合いを見つけたような反応。

近い将来会うのかもしれない。

 

ただ今は取り敢えず、おれが少女趣味じゃないことを腹を割って話し合おうかこの野郎。

 

 

あーだこうだと脳内で言い争いながらまた外を見る。

 

既に少女たちもいなくなっていた、恐らく彼女たちも奴隷だったのだろう。

 

 

少女が飼われる。

 

改めて胸糞悪い世の中だと思う。

 

 

腹に渦巻く感情を抑えるように、おれは手のひらに爪を食い込ませた。

 

 

 

 

 

-----

フィッシャー・タイガーによるマリージョア襲撃事件から時は少し経ち、おれは今スパイダーマイルズへ戻るため船の中にいる。

 

 

何がとは言わないが、でんでん虫が忙しなく掛かっている。知ってるヴェルゴだろ。

 

奴が久し振りに海軍から戻るめでたい日に席を外していたんだ、…まぁ影武者は置いていたが。

 

 

こちらのアレコレも終わり勘のいいあいつに、こちらの大きな仕事が終わったという形で連絡をしたらそりゃあもう怒鳴られた。

 

 

あの全肯定偶に否定なヴェルゴが……相棒が……地味に落ち込んだ。

 

 

もっと慎重にだの、怪我はないかだの、会いたかったよドフィ…だの。

 

 

ごめんごめん、本当ごめん。影武者の数はそれなりに置いて来たし、戦闘もそこそこ出来たはず。

 

そう思っていたら数日で全員死んでいた、8割コラソン、2割それ以外による仕業。

 

コラソン……帰ったら締めてやる。

 

 

長引いた相棒との連絡も終えながら、空を見る。

 

旅行客に扮したおれ以外にも幾ばくか人がいる。

 

 

政府の闇は深い。今回はそれを久しく味わったと言えるだろう。

 

腹のどす黒い渦巻きを少しは発散させようと思っていたのに、いつのまにかその渦が増していたんだ。

 

 

世界の頂点にのさぼっている天竜人。

 

危険性を顧みはしないが、確実に崩壊させるにはもっと別の手を考えたほうがいいだろう。

 

ならば政府に取り入るか、そう思ったが良いように利用されるのは癪に触る。

どうしたもんか、難しいものだ。

 

 

最近ずっと半ばおれの行動をほぼ監視レベルで見ていたジョーカーも寝ている。

 

疲労の限界ということか。

 

流石にやらかしはしないが気にしている辺り、とことん奴はおれに甘いと思う。

 

 

いや、おれにだけ向いた甘さか。二人揃って歪んでるよ笑えない。

 

 

「ハァ…」

 

 

その時だった、激しい衝突音が響いたのは。

 

 

「は?」

 

 

キレそうだ。色々腹の渦巻きと疲れが相まって殺意が湧いたが何とか抑える。

 

どうやら襲って来たのは海賊らしい。

 

一難去ってまた一難かよ、疲労で今なら過労死できそうだ。

 

 

乗客の悲鳴と海賊の罵声もあって船内が大騒ぎしている。

 

面倒なので先にそこらの人間を操って武器を持たせる。

 

ファミリーの人間は物のように操るのにかなり抵抗があるが、それ以外ならどうとも思わない。

 

武器を持たせ混乱したままの脳で人の肉を斬らせて、或いは潰させる。

 

 

それが正当防衛だ。

自分の身は自分で守るんだよ甘ちゃんども。

 

無論この甘さはおれの好きなもんじゃない、吐いて捨てるぐらいには嫌いだ。

 

幾ばくか静かになった辺りで今度は別の気配を感じた。

 

 

知らせを受けた海軍だろうか、だとするとやばいな。

 

変装もしてるしバレないだろうが、海賊なのに変わりはない。

 

怖がってた一般人Aということにしておこう。巨体のせいでベッドの下には入れないけど。

 

 

こっちには客がまだという声と、海兵らしき人物の声。

 

それに混じって小柄な足音、女か?

 

 

「この部屋にお客が……あ、いました」

 

 

船長の男の声がして、そうかいと礼を言う女の…少ししわがれた声。

 

……ん?

 

 

「大丈夫かい、もう海賊はいないから出ておいで」

 

「………」

 

 

震えている、演技もあるが半分振り向きたくない感情で震えてる。

 

偶々通りかかったのか、いや確実におれたちの動向探りの途中だろ、スパイダーマイルズの近海だもんなここ。

 

 

「…随分図体はデカイクセに根はビビリなんだね」

 

「……えぇ、はは……お恥ずかしながら」

 

 

おれの半分もあるかないかの身長。

 

……おつるさん………胃が…。

 

 

「中将、海賊の捕縛完了しました!」

 

「そうかい、じゃあまとめて船に乗せといてくれ」

 

 

こぎみよく返事をした若い海兵は敬礼をすると去って行った。

 

おつるさんも行っていいんやで?何でおれの顔ばっか凝視すんの??

 

 

「……何か」

 

「…いや、知り合いの誰かに似ていると思ってね」

 

「……はぁ、さいですか」

 

 

追ってるし追われてるよ、特に最近。

 

 

でもロシーが情報きちんと流してんだな?前と違って書類取るだのの大胆行動はせずにいるのも、おつるさんかロシーの上司のおかげか?

 

ちゃんと働いてんだなロシー…兄上は嬉しいよ。

 

 

まぁ勿論仲間に害は出させないが。

 

 

「随分と珍しい目の色だね」

 

「……目?」

 

「海の目だ」

 

 

海は海でも深海の色か?やたらと目について言われることは多いけど。

 

するとおつるさんは少女のように笑んで、おれを見上げる。

一瞬ドキッとした。

 

 

「浅くもあり深い色でもある。不思議な奴だねあんた」

 

「………」

 

 

さぁお行きと、呆けていたら足を蹴られた。イテェ。

 

 

「もう紛れ込んでんじゃないよ、()()()

 

「………敵わねェな」

 

 

糸を出して空を翔ける。

 

いつもの羽コートはないから鳥と比喩するには些か合わない。

 

だが確かにおれは名前からして鳥だ。

バレてないわけがなかったか、怖や怖や。

 

 

空を飛びながら、おつるさんをどこか母上に重ねてしまったことに少し頰が熱くなる気がした。

 

クソ恥ずかしい、子供か。

 

 

 

 

 

-----

1ヶ月とはいかなかったが、こんなに長く一人で出掛けていたのは久し振りだ。

 

船長というものは家で言えば家長のようなもので、簡単に一人になることはない。

 

 

能力の酷使で疲弊した体を動かしたくはなかったが、結局おれはおつるさんから追っ払われた船から数時間空を駆けた。

 

 

もう動きたくない。死ぬ。

 

 

内心ゾンビのおれはマリージョアの中継先で買った手土産を持ち、見慣れた街を歩く。

 

ちなみにおつるさんを何故“さん”付けで呼ぶかと言えば、ジョーカーが彼女を見た時にそう言っていたからだ。

 

確かにさん付けしたくなる人格者だ。

 

 

見慣れたゴミ山と貧相な人間を視界の端に入れながら歩けば見慣れたアジト。

 

変装も解いているので誰とは言われまい。

というか中が若干騒がしい。

 

 

おれもう胃が無理やで?そう思って窓から入ろうとしたらベビー5に見つかった。ちくしょう何で見つけちまうんだよ。何、土産?

 

渡したらめっちゃ嬉しそうにいつもの定位置である足にしがみつかれた。地味にこそばゆい。

 

 

「お帰り若様!一人旅どうだった?」

 

「疲れたな」

 

 

一人旅……ヴェルゴのフォローに流石初代コラソンと思う。

 

流石に一人で仕事行ってましたじゃファミリーに迷惑かけるもんな……事実は違うが。

 

 

お前がいたらロシーじゃなくヴェルゴのままだったのにな。

 

しかし甘く見てはいけないがロシーもコラソンとして、しっかり責務を果たしている辺り流石おれの弟と思う。

 

 

「あ、そうじゃなくて!若様大変なの!!」

 

「…騒がしいと思ったがやっぱなんかあんのか」

 

「そうなの!あのね、ファミリーに入れろっていう少年が来たんだけど…」

 

「ほぉ、そりゃあさぞコラソンに痛めつけられんだろうな」

 

 

コラソン…ロシーが子供嫌いの設定をつくっているだろうことはわかる。

 

麻薬殺人何でもアリな所に、そりゃあ未来を担う少年少女を置いておきたくないわな。

 

 

ただ世間はそんな甘い考えで全ての子供が生きていける世界じゃない。

 

 

暗い世界でしか自分を見出せない奴らもいる。

トレーボルやヴェルゴ、ベビー5やその他の奴らみたいに。

 

 

ロシーからすればおれのファミリー___家族は、家族じゃないと思うだろうが、あいつらは当時父上と弟を失って何も無くなったおれに居場所を与えてくれた。

 

おれの存在を求めてくれた奴らだ。

 

 

絶対に手出しはさせない。

 

 

そして不幸な奴らや、父上や母上の抱いた甘い理想を叶えられる世界をつくってやる。

 

今の全てを壊して正す。それが大事なんだ。

 

 

しかし父上よりはマシだが甘い弟が心配だ。

 

まぁ大丈夫だろう。じゃなかったら設定をきちんとこなせないだろうからな。

 

 

「うぅん、痛めつけられてはないの、というかその子供に近寄れないっていうか…」

 

「…なんか危険物でも持ってんのか?おれが行く」

 

「え、あ、待って若様落ちる!!」

 

 

ずっとおれの足にコアラ状態だったベビー5を手に抱えて玄関に向かった。

 

数人の呆れた様子が見て取れる。

入団希望の子供が持ってんのは銃か?それとも他に殺傷能力の高い…

 

 

 

 

「お前が船長か」

 

 

 

 

 

……白い子供だった。

 

 

雪の中にいたら分からなくなるような白さ。

 

そこに一種の美しさを感じたと思った瞬間、子供の顔から体に視線を移して目眩がした。

 

 

 

…爆弾かよ。

 

 

そんなもん効くわけはないが、それよりも気になるのは腐った目だ。さっきまでドブに沈んでましたぐらいには死んでる。

 

この子供もさぞ辛い過去を持っているんだろう。

じゃなきゃここまで死なない。

 

 

だがファミリーへの入団の打診は後だ。

 

こっちは疲労困憊なんだ。寝させてくれ。

 

 

「おい!!これが見えねェのか!!」

 

「……」

 

 

無視。

 

 

 

それに身長格差って知ってるか?

普通におれにとっちゃ小さ過ぎるお前の顔は見えない。

 

あまりにキャンキャン吠えるので糸で子供を拘束して自由を奪い、その間に爆破物を撤去させた。

 

子供の手から落ちた操作ボタンが虚しくも床に転がる。

 

 

 

そしてそのボタンをゲットしたデリンジャーが……………ア"ッ!!?

 

 

「キャハ!」

 

 

 

ポチッ。

 

 

 

 

 

…別にこれぐらいで倒れる程連中もおれも弱くない。ただ真っ白い子供を庇ったのはらしくなかったかもしれない。

 

久し振りに意識がブラックアウトした。

 

 

 

 

 

『ロー…』

 

 

 

意識が沈む中そんな声と共に、奴の特有な笑い声が聞こえた気がした。




主人公(おれ)
家族至上他人ゴミ。一定の甘ちゃんには弱い。最近胃痛と睡眠不足で死にそう。

モフモフ
主人公守り隊兼おとしゃん、ウォーミングアップは万端。ロー…^^

おつるさん
主人公の二面性には既に気付いてる、見守り隊。
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