L.S.R.   作:白山羊クーエン

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もしもの話です。もしも、世界が終わるのがもう少し遅かったら。
もしくは雪那救出がもう少しだけ早かったら。
今までの話とはいささか異なる傾向にある話の為、好き嫌いが別れると思います。本編は終わっているので、あくまで“おまけ”だと思ってください。

あ、なのクロ……


閑話 ~たとえ、全てが遅くても~

 

 

 

「はやてちゃん」

「ん」

 リインフォースⅡの声にはやては頷く。やおら夜天の書を開き、目を閉じた。

「はやて、どうしたの?」

「ごめんですフェイトさん、少し待っててもらえるですか?」

 なのはと顔を見合わせるフェイトをよそにはやてはそのまま一分弱を過ごす。そして目を開けるとにんまりと笑った。

 あ、何か企んでる。二人の内心は一致した。

「なのはちゃんフェイトちゃん、明日の予定は?」

「明日は休暇だけど」

「同じく。やっと寝られそうだし」

 その言葉に思い起こされたのか、フェイトはくあとあくびをした。流石に彼女も限界である。

 

「ほんなら二人とも今時間ええか?」

「……内容によりけりだね」

「ちょっとした世界旅行や――――なぁにすぐ終わるて、うちら三人なら余裕や」

「はやてちゃん、わたしもいるですよ」

「おっとごめんごめん、四人やな。流石にうちの子等は連れて行けへんか……」

 即ち四つの騎士のことだが、はやてが彼女らを除くのは珍しい。そして、これまでの会話の流れから察すると嫌な予感、なのはとフェイトはおずおずと手を挙げた。

「あの、はやてちゃん……?」

「世界旅行って、もしかして」

「もしも、うちらが世界旅行をしたらー!」

「大事なお友達を救えるかもですー!」

 

 白光の元、四人は掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 L.S.R. ~たとえ、全てが遅くても~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのは……」

 その笑顔は本当に優しくて、あふれ出した涙が止められない。ああ、泣いている。私は今、初めて泣いているんだ。

 悲しみに耐えられずに流すものと、喜びに満ち溢れて流すもの。そこには何の違いもないと思っていたけれど、きっとそれは間違いだったんだろう。

 経験できなかった私にはわからなくて、今の私にはわかること。そのこともまた、嬉しかった。

「よし! 勇気全開!」

 ぐ、と拳を握り締めて、なのははバリアジャケットを纏った。魔導杖レイジングハートもまた起動し、戦闘スタイルに切り替わる。

 

「私はずっと考えてた。助けを求めた雪那ちゃんをどこに連れて行けばいいのか。でも考えるまでもなかったよ、私が連れて行けるところなんて一つしかない」

 レイジングハートが応え、その形状を変える。空戦魔導師にして砲撃主である彼女の最も得意とする、高魔力による魔法砲撃。桜色の綺麗な魔力光、春のような暖かさに満ちた光。それを――

「――私たちの空は、きっと一緒だから!」

 夜天に向かって打ち抜いた。

 減速を知らない突撃はそのまま闇の雲間を突き抜けていく。まるで天に聳える塔のように、それは高く高く昇り続けた。

 

「聞こえていますかっ!?」

 なのはが叫ぶ。それは空間に木霊し、しかし誰に向かっての言葉かわからない。

「聞こえているのならっ、お願いです! 私たちに協力してください! 覚悟もあります、勇気もありますっ!」

 砲撃は細く糸のように、やがて消え去った。息を深く吐いて疲労を表すなのは、しかし先の魔法で得られたのはそれだけだ。

 彼女は、何をしようとしているのだろう。

「おかしいかな?」

「え?」

「雪那ちゃん、笑ってる」

 思わず手で頬に触れるが、流石にわからない。顔に感覚がないとでも言うのか、鏡でもない限り私には私の表情はわからなかった。

 

「でも、なのはがそう言うのなら、そうなんでしょうね……」

「でもさ、何に対して笑ったの?」

 もしかして私? と頬を膨らますなのはがおかしくて、たぶん、また笑った……ぎこちないだろうけど。

「違うわ。確かになのはが何をしているのかわからなかったけど、この世界で、私にもわからないことがあるんだなって思って」

「ふふ、もうこの世界は雪那ちゃんだけの世界じゃないからねー」

「……そうなの?」

「この世界は勇気で満たされたから、もう私の世界でもあるんだよ!」

「………………」

 沈黙が刺さるのか、なのははたじろぐ。ずっとこんな風に気取らずに接してくれていたんだと改めて思った。

 同期の憧れかもしれない、私の憧れだったかもしれないけれど、今ここにいるのは普通の私の友人だ。

 

「雪那ちゃん、ちょっとドライだよね」

「ご期待に添えなくて申し訳ないけど私は元々こんな感じよ」

 確かに私は感情を抑えていた人形ではなくなったと思うけど、だからといって根本の性格が変わるわけじゃない。物事に対し一歩どころか十歩くらい引いて見てしまうのは変えられない私なのだ。そこのところ、なのはは勘違いしているのかもしれない。

「私的には、雪那ちゃんがこう喜怒哀楽を爆発させてハイテンションになって――――ごめん、なしで」

 ほら、私のイメージじゃないから。

「話を戻すけど、君は何をしているの?」

「――真面目な話をするとね、勇気をもらっても私一人の力じゃ二人一緒には出られないんだ。外からの魔力攻撃とか、そんなきっかけに合わせてこっちも撃たないと扉は開けられない。だから保険として呼びかけたんだ」

 保険、ということは最善の案はあるということである。私の視線に気づいたのか、なのはは笑った。

「外にはフェイトちゃんがいる、ユーノ君がいる……きっとクロノ君もいるから」

 呼びかけはなくとも、その三人は必ず頑張ってくれていると信じているから、それが最初の信頼案。

 そんな風に私も、誰かを信じて生きていけるようになりたいと、なのはの顔を見て思った。だってそれは、私に向けてくれた笑顔と同じくらい、綺麗な微笑みだったから。

 しかし、二人、か。

「キリシマは、どうなったの」

「イッセイ君は雪那ちゃん――というかユキさんかな――に弾かれちゃったから、きっと気を失って外にいるはずだよ」

 イッセイ君を拒絶したでしょ、となのは。

 彼がいなくなったのは、確かに私のせいだ。彼と話をするのが怖かった。それだけの話だけれど、いつかは話さないといけないだろう。

 

 それはさておき。

「――ああ。確か君はハラオウン提督に気があっ――」

「ちょ!? せ、雪那ちゃん何言ってるの!?」

「フェイトさんも話していたけれど、そうすると君はフェイトさんの姉になるのね」

「…………」

 なのはは顔を真っ赤にして黙った。それはいいかも、と呟いているようだ。

「と、とにかく! なんとかあっちと協力して同時に攻撃しないといけないの。雪那ちゃん、何かできる?」

「無理ね。私は闇の書の主だけど、今の私は斉木雄一郎でもある存在だから、純粋な管制ユニットである彼女には対抗できない」

 

 

 ほんならそれは任せてや――

 

 

 突如聞こえた声は、少しイントネーションの異なる言葉。空を仰ぐと降り注ぐ声は、私の知らない、誰かの声。

「っ、届いた……!」

 なのはが喜色を全面に出して応答する。彼女はこの声の主が誰かわかっているかのようだった。

「聞こえますか!?」

「聞こえとるで。私たちは今外におる。合図出すから合わせて?」

「はいっ!」

 そして再びなのははチャージを開始する。桜が咲き乱れる。

「なのは、君はさっきの人がわかるの?」

「雪那ちゃんにもわかるよ、きっと。それにあの人だけじゃない」

 

 ――外の世界には、みんながいる!

 

 

 サインは思いのほか早く、高町なのはの閃光を再び目に焼き付けながら、視界はあっという間に光に包まれた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「ん、ここは……って!?」

 高町なのはとフェイト・T・ハラオウンが目を開いた時、そこは闇夜だった。

 いや、目を閉じる前から闇夜だったのだからそれは正しくはない。正確にはそこは夜天、瓦解したミッドチルダと噴煙、そして交戦する魔導師が数名という状況だった。

「なのは!」

「うん!」

 直ちに急行し状況把握、必要なら参戦する。二人は一気に加速して戦闘空域に突入する。そして、ありえない存在を見た。

「え……」

「…………はやてちゃん、やってくれるなぁ」

 なのはがぼやく。そこで魔力光を背景に戦っていたのは四人の魔導師、三対一。金色の髪の少女、黒髪の青年、淡い茶髪の少年。そして、白銀の髪と深紅の瞳の女性。

「リインフォース……?」

「ああ、フェイトちゃんが二人いる……」

 頭がくらくらするが、だからといって彼らが戦闘しているのは確か。二人は頷きあうと更に加速し、一端戦況の破壊にかかる。

 

“あ、二人とも下がって”

 

「へ?」

「は、はやてちゃん、待って――」

 

 そしてその前に、八神はやての極大魔法が戦場を貫いた。

「ちょっとはやて! 何やってるの!?」

「何って……とりあえず止めんとな」

 翼を生やして舞い降りたはやてがしれっと言うと、フェイトは思わず手で顔を覆った。

「さて、世界旅行の始まりや。とはいってもこんなコミカルにいける状況やないんやけど」

「なら真面目にやろうよ……」

「開幕前の一発ってやつやな。あのままつっこまれても動揺してたら蒐集されるに決まっとる」

 確かに、と思わないでもないフェイトである。さて、三人が揃ったところで状況整理だ。

 

「舞台はミッド、相手はリインや。協力者はクロノ君とユーノ君、それにこの世界のフェイトちゃん、なのはちゃん。目標は、この世界の闇の書の主を救うこと」

「え、あれははやてじゃないの?」

「それが、あの時言った雪那ちゃん?」

 せや、と頷く。いきなりの逼迫した状況に頭がおかしくなりそうだが、二人はやがて覚悟を決めた。管理局員として、あの事件に関わった人間として、この場を見逃すわけにはいかない。

「ということで回収した三人を召喚、と」

「はやてちゃん、手品師みたいだよ……」

 ぱっと現れる三人。全員意識を失っていたが、やがて目を覚ました。

 

「あれ、なのは……」

「おはよう、ユーノ君」

「あ、じゃあ僕も蒐集されちゃったのかな…………クロノ、フェイトも、フェイトも……」

 あれ、と開けた目を再び閉じたユーノ・スクライアは思考する。今、おかしなものを見たと。

 そして、フェイト(19)は一方で兄をじっと見ていた。

「クロノ起きてるでしょ」

「……ああ、正直目を開けたくない」

 しかしそんな要望をフェイトは許さず強引に目を開かせる。めりめりと頭に指が食い込んで悶絶したクロノ・ハラオウンは、そこで名状しがたい世界を見た。

「……お、大きくなったなフェイト」

「おかげさまで」

「さて、フェイトちゃんも起きーや」

「ん……君は、誰?」

「フェイトちゃんの親友や」

「そうなんだ……」

 おそらくはやての魔法が強すぎたのだろう、三人は緊迫した状況を忘れていた。

 

 ぱん、と大きな音を鳴らしたなのはに全員が注目したのはその30秒後、リインフォースが動き出す少し前。

「――初めまして、だね。私は高町なのは、違う世界から来たみたいだよ」

「まぁ私が二人いるからそれで納得してほしいかな……」

 フェイト(19)の言葉には哀愁が漂っていた。とはいえ間違いなく世界の危機、クロノは頭を振って常識を忘れた。

「なんでもいいさ。推察するにこの状況を止める協力者、それが来ただけで十分すぎる。君は――」

「八神はやて、闇の書の最後の主や。まぁこの世界じゃ主は違うけど。まぁそんな縁で私たちはあの子を救うんで、協力頼むな、クロノ君」

 初対面のはやての言葉に一瞬の間を置き、しかし結論は一つしかなかったのか、クロノは頷いた。

「言いたい事はいろいろあるが、協力は惜しまない。何をすればいい」

「この全員で特大の魔力ダメージを与える。そうすれば中にいる二人が出られる、はず」

「そうか、期待している。今近辺にいる魔導師は全員が自失状態だ、彼らを巻き込むわけにはいかないが……」

 最後の言葉をクロノは聞かなかったことにして、最後の力を振り絞る。これまでの戦いでもうぼろぼろな彼が込めた魔力に、遠い世界から来た三人はつい表情を緩めた。

 残り少ない魔力なはずなのに、そこに込めたのは特大の力。他人のために全てを尽くせるその姿は、やはり彼女らの知る彼に違いなかった。

「かっこいいよ、お兄ちゃん」

「っ、君に言われるとむずがゆい」

「……お兄ちゃん、妹は私なのに」

 フェイト(16)が拗ねるが、笑っていた。極限の状況で固まっていた表情は和らいでいた。どうなっても、これが最後になると感じていた。

「見知らぬ私を信じてくれてありがとうな、クロノ君」

「人を見る目はあるつもりだよ。おいフェレットモドキ、もっと踏ん張れ」

「やってるよ!」

 ユーノに発破をかけ、自分もなけなしの魔力を溜める。

「ありがとうな、皆。闇の書の悪夢はもう終わるから、だから力を貸してな」

 

 

 六人の魔力砲が彼方を撃ち抜き、光が満ちた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 そして、私はその光景を見た。

 夜天に浮かぶ六人のシルエット。私の知る五人と、知ってるが知らない一人。

 こちらに杖を構えた姿で、彼女らはまだ、世界にいた。

「……ありがとうございます。応えてくれて」

「いいんよ。雪那がフェイトちゃんと約束したからな、それを守った結果や」

 なのはが見つめる先にいるのは、私の知らない闇の書の主。闇の書の、最後の主。

 約束とは、きっとフェイトさんと交わした連絡のこと。それがきっと彼女らを導き、今がある。

 なのはが言わなかった、管制ユニットのやっていたことだ。

 

 そしてふわりと彼女は私の前に舞い降りた。私と同じ格好のバリアジャケットでありながら何もかも違うその姿が、何故か本当に鏡写しのように見える。

「初めましてやな、雪那。私は八神はやて、夜天の書の主や」

「……君が、闇の書を終わらせたのね」

「雪那、夜天の書や。闇の書やない」

 夜天。それがあの書の本当の名前。そんなこともわからない、主である私。

 

 魔力ダメージによって管制ユニットは奥に引っ込んでいて、私は表に戻ってくることが出来た。しかし優先権は相変わらず管制ユニットのほうが上にある。彼女が消耗した今しか、私には選択権がない。

「ハラオウン提督、スクライア司書長。感謝します、そして申し訳ありません」

 頭を下げる。どんな理由があろうとこの惨状を生み出したのは私、ならば私はここで贖罪をする以外にはありえない。

 司書長は提督を見つめ、提督は私を見た。

「一刃査察官、君のしたことに非がないわけじゃないが、これは闇の書というロストロギアが原因だ。頭を下げる必要はないし、今後のことのほうが重要だ」

「……はい」

 

 そして、彼女がいた。

 

「フェイトさん……」

「セツナ、大丈夫?」

「はい、大丈夫です。フェイトさん、私は約束を守れませんでした。ごめんなさい」

 頭を下げると、その肩に手が置かれた。引き寄せられ、抱きしめられた。ぼろぼろの身体、私の魔法で傷ついているはずの精神。それでもなお、私に何かを与えてくれるというのだ、この人は。

「良かった。君が、なのはが、無事で」

「……」

「私が来た時にはもう、二人はいなくなっていたから……っ」

 声が滲んでいる。きっと彼女は泣いている。それは哀しみじゃなく、嬉しさから来るもの。私はようやく、この人の涙を理解できる。

「ありがとう、ございます……フェイトさん、私はあなたに会えてよかった……」

 再び胸の痛みが襲いかかった。感情が魔力となり、いずれ彼女は回復する。だから時間は少ない。

 

 フェイトさんから離れ、全員から距離を取る。視線が集中したのを機に、口を開いた。

「――時間はありません。私はすぐにまた奥に戻り、管制ユニットは世界を滅ぼすでしょう。その前に、終わりにします」

「……」

 八神はやては黙っていた。きっと、彼女は知っているから。

「終わりって、どういうこと?」

 フェイトさんが不安そうな顔で言う。そんな表情をさせたくはないけど、でももう遅いことだ。

 なのはを、フェイトさんを――他の人をどれだけ救えても、私は助からない。

「闇の書が暴走した以上、私が死ぬか停滞しなければ終わらない。ならばそれは、私自身がやらなくちゃいけないことです…………でもよかった。傲慢だけど、私は二人を殺さなくていいのね」

 それだけは良かったと思う。たくさんを思うことは私にはできないから、せめて、大切な友達の安全にほっとさせてほしい。それくらいの贅沢は許して欲しい。

「雪那ちゃん……」

 なのはは、何も言わなかった。彼女に思いつく代案はない、私のしたいように背中を押すことしかできない。

 きっと歯がゆいだろう、苦しいだろう。だからこそ、申し訳ない気分だ。

 

「あの……! えっと……」

 フェイトさんが成長した彼女に話しかける。しかし呼び方がわからないので詰まってしまった。

「フェイトでいいと思うよ」

「……フェイト。フェイトは、何かないの? そっちの世界でははやてがいたんでしょう? はやては助けられたんでしょう? なら、それと同じ方法で――」

「無理や」

 八神はやては断言した。非情に、しかし情を持って断言した。

「私の時とは状況が違いすぎる。守護騎士が起動せず、書本体と主の肉体の結合も完了してもうた。闇の書と呼ばれた所以である闇の書の闇と雪那を切り離す手段はない」

「そんな……だからって」

「フェイトさん、これは救いなんです」

「救い……?」

 フェイトさんがこっちを見る。何のことだかわからない、そんな顔で見つめてくる。

 確かに私がこれからすることは傍目から見ればそうなのかもしれないけれど、私にとってそれは救いと同じこと。だから彼女の言葉は嬉しいけれど、これ以上選択肢を増やして欲しくない。

 そしてこれは仕事じゃない、あの時の約束も今果たそう。

 

「きっと私は全てを壊していた。でも今は、そうならない未来を選べるわ。だからこれは救いなのよ、これ以上を望んだら罰が当たってしまうくらいのね」

「でも、でもセツナ……」

「いつものフェイトさんらしくないわね。そんな狼狽したら、未来の君に笑われてしまうわ」

 フェイトさんは振り返り、ずっと見守っている未来の自分を見つめる。彼女らがどこまでを把握してやってきたのかは知らないけれど、八神はやてを見る限り、理解はしてくれているようだった。

 もう、十分すぎるということを。

「ハラオウン提督。一度だけ、魔法を使わせてもらってもよろしいですか?」

「……ああ、構わない」

「スクライア司書長、協力してくれますか?」

「もちろん」

 スクライア司書長が倒れている魔導師たちの位置を教えてくれる。もう永い間使っていなかったデバイス・アクターを起動、思いを込めて魔法を作る。

「キリシマ、いつか言ってくれたことを君に返すよ」

 聞いていないだろう彼に届くと信じて、残りの魔力を感情で補う。闇の書の最後の配慮か、込める感情はその全てを魔力と化し、それは吸収されることなく魔法として構成されていく。きっと、餞だ。

「勇気、希望――未来」

“Courage, Hope, Future”

「ごめんなさい」

“Feelings explosion”

 未来という感情なんてないけれど、私が奪ってしまったものへの償いにはそれを込めるべきだと思う。

 白色の魔法はしかし、仄かに桜を帯びて、世界を余さず包み込んだ。

 

「ああ、綺麗だ。これが私の魔法なんだ――」

 

 闇の書が思い出したかのように痛みを発するが、私はその感想を否定しない。この感情は私のもので、私は私なんだ。

 

「これで、すぐに大勢の人が来るわね」

「……君の魔法がそういうものだからこそ、犠牲は最小限になったと僕は思うよ」

「……ありがとうございます」

 戦う気力を奪われたことで傷つく前に戦場を去る。だからこそ、ミッドの被害は交戦した極少数の損傷と破壊痕だけになっていた。管制ユニットの彼女が配慮したかどうかは定かではない。

 これで私は、少しは彼に償えたかな。

「雪那ちゃん、でいいかな?」

 少し成長したなのはが話しかける。頷くと、彼女は笑った。私の知る笑顔で、言ってくれた。

「すごく、いい魔法だね」

「はい…………私もそう思います」

 私はこの魔法をずっと憎み続けてきたと思う。これがなければと思ったことだってあるはずだ。だけど、今は少しだけ誇らしい。勇気そのものだと言ってくれたことが懐かしく嬉しく思えるほどに。

 

「これで思い残すことはない、か……」

「……また嘘を言って、仕方ないなぁ雪那ちゃんは」

「ふふ、なのはに否定してもらいたいから言うのかも知れないわね」

 なのはは、涙を溜めて私を見ていた。彼女は私に勇気をもらったと言っていたけれど、それは逆だ。私が彼女に勇気をもらったんだ。

 だから、これからもそう在ってほしい。

 

「なのは、君は太陽みたいだ。私の魔法を勇気と言ってくれたけど、君こそが多くの人にとっての勇気なんだと思う」

「そんなこと、ないよ。太陽はみんなを救ってくれるけど、私はみんなを救えないもの」

「それでも、君には笑っていてほしい。太陽の光に耐え切れなかった私だけど、そんな私だからこそ言える。耐えられなくてもいいの、ただいてくれればそれでいい」

 これを遺言としてくれるなら、忘れないでほしい。

「フェイトさん」

「もう、決めたんだね……」

 フェイトさんも、もう私を止めようとしない。それが自分にできる最後のことだとわかっている。だから私も、私にできる最後のことを。

「君は月。太陽とともに空を照らしてくれる、夜天にも輝いてくれる。そんな穏やかな光だから、私は君に惹かれたのかもしれない」

「……でも私は、助けられなかったよ」

「ううん、助けてもらったわ。こんな風に誰かに感謝を伝えられるなんて、君がいなければできなかった――――心を、感情をありがとう」

 

 最後に、八神はやてと将来の二人を見た。違う世界の違う彼女らだけれど、旅を続ける魔導書は、もしかしたらいずれ落ち合うかもしれない。

「私から言えるのは一つだけ。なのはを、フェイトさんを助けてくれてありがとう」

「雪那――――またな(・・・)

「――――ええ、またいつか」

 三人に頭を下げる。すると、頭に微かな感触が舞い降りた。見上げれば、雪。

 そして雪の到来とともに、三人の姿は消えていた。夢現、しかし確かにいた、いつかの誰か。

 

「…………」

 目を閉じる。闇の書の鼓動が聞こえてくる。

 自壊のプログラムと無限再生による矛盾は永遠だ。それがいつか終わるまで、記憶の中の月と太陽に見守られながら過ごそう。

 それが死という形ならそれでもいい。ただし、友達は絶対に傷つけさせない。

 結局は先送りになってしまったけれど、許してほしい。いつか八神はやてのような主とめぐり合うから、その日まで。

 

 

 私は、友達とその世界を守り続けていこう。幸せな人生と、満ち足りた心に誓って――

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 夢のような世界旅行から一年が経った。

 その間に次元世界を揺るがす大きな事件も起こったが、今はおおむね平和と言えるだろう。なのは、フェイト、はやてにもその間に家族が増え、より一層の大切な時間を過ごしている。

 そんな中、一通の通信に頬を緩ませる八神はやてがいた。急ぎ通信を二通、言葉は異なったが内容は同じものを送る。

 それを見た高町なのはは笑う。フェイト・T・ハラオウンも笑う。それは外から見れば微笑んだ程度のもの、しかし彼女らの内面はとても感慨深い。

 

 それは、たった一人の管理局入局の報。

 いつかの面影を残した、闇夜の彼女――

 

 

 

 




実は雪那の世界もはっぴーに解決しようとしてたプロット。あえて言うならプロット補完。
はやての万能性は最早ギャグ。だからご都合主義。
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