L.S.R.   作:白山羊クーエン

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さあ行こう。


~風~

 

 

 

 

「斉木、時間あるか?」

 気がつくとまたファストフードの誘いが来ていた。

 今が何日で何時かもわからないが、場所が大学前であることはわかる。だからきっと講義が終わった後なのだろう。そして今日の俺はそれに乗ってもいいような気がしていた。

「ああ、大丈夫――」

「あ、ゆう君! 見つけた!」

 返事が終わりきる前に聞こえる声、見ると奥のほうから走ってくるぶるんぶるんの髪の毛お化け。

「後輩ちゃんか」

 ものっそいスピードは見る見るうちに距離を詰めてくる。おっかない形相である。

 と、ちょうど俺と彼女の間に挟まれていた彼女(・・)は苦笑し、

「じゃあまた明日ね」

 と言って消えていった。名前も知らない元野球部の貴重な友人――

「――って女の子なのに野球?」

 どうやら記憶がごっちにゃなっているようだった。

 

 その彼女と入れ替わりに近寄ってきて膝に手を当て肩で息をする後輩ちゃん。顔を上げるとまだ必死な様子が張り付いていた。

「穏やかじゃないね」

「とう、ぜん、でしょ……っ? はぁ、はぁ」

 何が当然なのか、そして私は彼女に詰め寄られる理由が思い当たらない。

「ふぅ……ゆう君、時間あるよね? さっきあるって答えそうだったもんねっ?」

「どんだけ地獄耳なんだ、君は」

 どれだけ離れていたと思っているんだ、後輩ちゃんのスペックがよくわからない。

 

「んとね、私の知り合い――先輩なんだけど――がこの大学にいるの。会う約束しているから一緒にいこ?」

「え、なんで?」

 きょとんと首を傾げる後輩ちゃん。彼女もまた、自分で決めたことが世界の決定事項になると勘違いするタイプである。

「なんでって、なんで?」

「いや……君の知り合いになんで私が?」

「だってせっかく同じ学校にいるんだよ? ならゆう君とも知り合いになったほうが楽しいじゃない」

 太陽のような眩しい笑顔が辛い。私のコミュニケーション能力では初対面の誰かさんとまともに話すのは無理ですよ。

 思わず眉間に皺が寄ったのを見られたのか、後輩ちゃんは安心させるように微笑んだ。

 

「確かに前のゆう君だと不安だけど、今のゆう君なら大丈夫だよ。だって前より感じいいもの」

「感じ、ね……」

 それは後輩ちゃん相手だけだと思う。前から知り合いで、女の子で、私が雪那としての記憶に引き寄せられているだけだから。

「――でも、だからって前のあなたが悪いってわけじゃないよ?」

「え?」

 

「あ、来たよ!」

 ぶんぶんと手を振るということは私の背後に忍び寄る影ということ。緊張する間もなく思わず振り向いた先には女学生の姿がある。

 眼鏡をかけ、ちょっと体格が良くて、あんまり顔は好みじゃない、アニメ好きで、私が私になった遠因の――

「伊西やん……」

「あれ、さいゆー!? な――本田さん、なんで!?」

「どっきりってやつ?」

 ブイサインがばっちり決まった後輩ちゃんは、とても楽しそうだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 と、いうわけで。

 後輩ちゃんと伊西の関係を追及する会の始まりである。舞台は一般的なレストラン、ドリンクバーだけで居座るなんてけちなことはしない。

「で?」

 ずずずー、と音を立てて不満を表しつつ睨む。伊西は口笛を吹きながら外を眺めていた。視線を後輩ちゃんに、プリンアラモードを頬張る彼女は、ん、と嚥下した後に話し始めた。

「私がトウコーさんに会ったのは、ゆう君が大学に入る前の年、だから今から2年前だね」

「伊西ってとうこって名前だったのか」

「違うけど、あだ名」

 しっかりと補足しつつ、続きへ。

「私が途方にくれてたのを助けてくれたんだよ。終わり」

「え、話終わり?」

「うん」

 会は恙無く終了である、というより始まった気すらしなかった。

 呆気に取られていると伊西がプリンアラモードを更に二つ頼んでいた。二つも食べる気なのかと思ったが、よく見れば後輩ちゃん食べ終わってやんの。早すぎる、胃袋は管理外とはよく言ったものだ。

 

「ちなみに伊西は後輩ちゃんと私が知り合いって知ってたの?」

「まぁね、とはいえ今日は私はさいゆーと会う気、なかったんだけど」

 若干怒り気味の伊西は普段と違い少し迫力がある。なんというか、納得がいかないというような感じだ。それを向けられている後輩ちゃんは柳に風だが。

「そんなに怒らないでよ。いずれはって思ってたんでしょ?」

「そうだけど。本田さん、せめて言ってよ。危うく失敗するところだった」

「あはは、それは私も計算外でした」

 ふふふ、とあはは、が飛び交う座席、絶賛場違い中である。

 なんだか二人は私に関して共謀しようとした感がある。失敗しそうになったらしいが、私的にはそんな違和感のある行動を確認していない。ま、詮索するだけ無駄か。

 

「――さて、後輩ちゃん」

 コップを置き、スプーンを銜えた後輩ちゃんを見る。かわいいじゃない。

「ゆう君、ちなみになんで私後輩ちゃんなの?」

「知らない。気づいたらこうだった」

 にまりと気持ち悪い顔になる二人。

「さては後輩を持ちたかったんでしょ、先輩ぶりたかったんでしょー」

「さいゆーってば見た目に寄らずおちゃめさんっ」

「ええい、うるさいなっ」

 振り払う仕草をすると口に手を当ておほほ笑いする二人、うざったい。

「とにかく! 君の目論見はなんだ?」

 後輩ちゃんは俺と伊西をサプライズで引き合わせ慌てさせるというものだけではあるまい。とはいえ、それだけと言われても別に構わない。それなら別れてさようならだ。

 すると後輩ちゃんは伊西に目配せした後、今までのおふざけを消し去るように真面目な顔つきになった。

 

「――ゆう君、なんか変じゃない?」

「え?」

「今まで避けるだけだった私に対して急にこんなに親身になるなんて、おかしいよ。とうこーさんからもちょっと変だって聞いてたし」

「……言っちゃえば、さいゆーの変化――異変のほうがいいのかな――に対して知りたくなったってだけの話」

「いい変化なんだと思う。でもさ、やっぱり原因がわからないのは怖いよ。三つ子の魂百まで、なんて言う気はないけど、それでも今までの自分を捨てたみたいじゃない」

「…………」

 つまりは、気にしないような素振りをしていても気に掛けてくれていたということだ。思えば割と存在な扱いばかりしていたが、彼女らは私と違いきちんと友達をやってくれていたということなのである。

 こんなに嬉しいことはないが、だからこそ言えないこともあるのだ。

「ありがとう。すごく嬉しい」

 アニメを見て前世を思い出した、前世の記憶に引っ張られて女性化してきているなんて口が裂けても言えない。

 このありがたい二人に対し正直でいることは半ば使命のようなものだが、それで二人が離れてしまうのはとても嫌だ。不誠実になってでも最悪の可能性を引き寄せる行為をしたくはない。

 それはとても傲慢で、だからこそ二人にはお礼しか言えない。

 

「…………」

「……そっか、話してくれないんだね」

 伊西は無表情に外を睨み、後輩ちゃんは寂しそうに微笑んだ。胸が痛い、闇の書に食い破られるかのような傷みだ。

 いや、あれよりも今のもっと痛い。辛さは同じでも、自分以外のことになるとこんなに痛さが伴うんだって今ならわかる。

 

 

 ――雪那は、それがわからなかったから、彼女を殺してしまったんだ。

 

 

 結局、それから何も話さずに店を出て、別れた。もともと二人は約束をしていたので私だけが離れることになる。

 去り際、きっと風の導きだろう、後輩ちゃんの呟きが聞こえた気がした。

 

『良かった……』

 

 それが何なのか、わからないでいた。

 

 

 

「斉木、時間あるか?」

「え?」

 

 

 そして、彼女がいた。

 

 

「斉木、時間あるか?」

「……お前、いつでも誘い文句が一緒だな」

 友人らしき奴の誘い、前までは男のような気がしていたのだが、今目の前にいるのは完全に女性である。中世的な顔つきであるのは確かだが間違えようもない。

 日の光によっては赤にも見える瞳が人気の一つである。純粋な日本人ではないのだとか。

「何、結構誘いを断ってくる相手に対するあてつけってわけじゃないから安心しなよ」

「……それは、ごめん」

 いいさ、とさわやかに笑う彼女は、今日は断られない自信でもあるかのようだ。

 

「で、時間、あるの?」

「…………怒らないでほしいんだが」

 途端に無表情になる彼女は、まるでいつかの雪那のよう。鏡越しに自分を見ているかのような錯覚に陥ってしまった。

「ふう、これは勘だけど、用事があるわけじゃないんだろう?」

「……本当に怒らないでほしい。なんとなく、私はその誘いに頷いてはいけない気がする。今の私は何かがおかしくて、だからこそ、今までと同じように安請け合いしちゃダメなんだ」

「…………」

 沈黙が怖い。どうしても顔を見ることができなくて俯いてしまった私はとても弱いのだろうけど、でも、それでも今回折れる気はなかった。

 私は一緒には行けない、まるでそれこそが先の二人への報いだとでもいうように。

「――――なるほど、意外に早かったね」

「え?」

「いや、わかった。暫く会えなくなるみたいだね、また明日は言えないな」

 よくわからないことを言って彼女は消えていく。

 本当に、今日の三人は意味深な発言が目に余る。まるで漫画かアニメみたいだ。前世じゃあるまいし。

「前世とかじゃあるまいし」

 そんなもの、私だけで十分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 L.S.R. ~風~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェイトちゃん、お疲れ様」

「なのは、ありがとう」

 差し出されたコーヒーにお礼を言い、フェイトは自室に持ち帰った仕事を切り上げた。既にパジャマ姿の高町なのはが背もたれに寄りかかってくる。それを背中に感じながらフェイトは入れたてのそれを味わった。

「最近よく持ち帰ってくるね。忙しいの?」

「ああ、うん。そんなことはないんだけど」

 言葉を濁す。なのはは微笑みを浮かべたまま、ん? と促し、フェイトは訥々と話し始める。

「ちょっと、眠りたくなくてね」

「……前に言ってた夢のこと?」

 こくりと頷き、コーヒーを一口。膝の上に乗せたまま、

 

「ユーノに調べてもらったんだ。そしたら無限書庫にはいくつかの可能性が記録されていたんだって」

 一つは、完全なる偶然。整合性は取れていそうで取れていない、全くの勘違い。

「それは、見も蓋もないねぇ」

 苦笑する。フェイトもつられて笑う。

 二つ目は、何らかのロストロギアの可能性。というよりは、実質二通り目のこれが多く分類されるという。

 その中で一つ目は、愉快犯的なロストロギア。勝手に作った映像を相手に見せるというもの。また実際の映像を送り込むというもの。これは二つほど過去にあったという。

「うーん、それだと理由がわかんないよねぇ。実質フェイトちゃんの睡眠不足にしかなってないわけだし」

「私としては続くと深刻なんだけど……」

 

 二つ目は、何かしらの情報が送られてきていて、それを夢という形で見ているというもの。その場合、送られているのは映像ではなく魔力波であると思われる。

「そうするとよほど特殊じゃない限りフェイトちゃんの魔力で弾いちゃう気がする」

「周りもわかると思うしね。だからこの説はちょっと低め」

 

 そして三つ目は、過去の経験を再生しているというもの。とはいえ、これは正直一つ目の唯の夢とそう変わりない。変わりないが――

「私の知らない人たちばかりだから違うと思う」

「そうだねぇ。ということはロストロギアが原因で、目的は睡眠阻害でいいの?」

「うーん……」

 謎は深まるばかりである。

 

 と、なのはが思いついたように笑いながら言った。

「フェイトちゃんじゃないフェイトちゃんが知っていることなんだよ!」

「私じゃない私って……アリシア?」

「違う違う、フェイトちゃんだけど、フェイトちゃんじゃないの。もし私が魔法と出会わなかったら、とかそんな感じのやつ」

「ああ、次元世界じゃなくて平行世界ってことだね」

 つまりはイフの話だ。自分ではないフェイト・テスタロッサ・ハラオウンの夢を見ているということなのだろう。

 それはありえないけれど、面白い話だ。

「もし私がなのはと出会わなかったらどうなっていただろうね」

「友達になったんじゃない?」

「誰と?」

「私と」

 意味がわからない、と首を傾げるフェイトと、上機嫌でベッドに向かうなのは。

「フェイトちゃん、早くシャワー浴びてきなよ。一緒に寝れば私も同じ夢を見るかもしれないしねっ」

「あはは、それはそれでどうかな……」

 笑いつつ、フェイトは身支度を開始する。ふと、なのはは前提の疑問を口にした。

 

「そういえばどうして夢を見たくないの? 聞くところによると不思議だけど嫌な感じじゃないみたいだし」

 ああ、とフェイトは頷き、そして困ったように言った。

 

「なんだか、早く続きを見たらいけないような気がしたんだ」

 

 

 

 

 




ウイニンラーン!
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