閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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九十六話 彼等の目的

「紅蓮さん。『混沌派閥』の狙いはあの人です」

 

医務室の中で、負傷者の一人であるヘルはそう断言した。それは真実にして現実、しかしそれが正解とはまだ言えない。

 

「…………それでは」

 

震えた声で千歳が呟いていた。絶句してしまっている二人に代わって、その気持ちを代弁するかのように。

 

 

「蛇女子を襲撃したのも、私たちが戦わされたのも、全ては────『焔紅蓮隊』を誘い出す為だったって話………なんですか?」

 

「どうでしょう、それすらも手段の一つのかもしれません」

 

組織の一員だった彼だからこその冷静な判断だろう。考えや目的すら読めない以上、それだけで終わりとは限らない。

 

紅蓮を狙うことが『混沌派閥』の最終目的────『聖杯』による災厄を引き起こす事と何の接点もない。

 

 

 

ヘルは千歳たちを見据え、「それと皆さん」と平然と問い掛ける。ある種の決意をした顔つきで。

 

 

「この蛇女子について詳しく書かれてるもの、文献とかがある場所は何処です?」

「む、あそこか。それならここから離れた場所じゃが………」

「案内してください。下手に動くことが出来ないのなら力を貸して貰えますか?」

 

 

任せると言い、ヘルはベッドに腰かけた。それを聞いていた伊吹は不思議そうに首を傾げる。

 

自然な疑問があったのだ。

 

 

「あのぅー。そもそも蛇女子を襲撃したのは、紅蓮さんたちを誘き寄せる為なんじゃないんですか?」

「それなら他の場所でも良い筈です。何故ここを選んだかが分からない。貴方たちのような生徒たちのいる、この学園を」

 

ゆっくりと立ち上がるヘルは包帯を巻かれた胸に手を当てる。傷口がズキズキと痛むが、それでも今は何かをした方がいい。それだけでも苦痛が和らぐ感じがするから。

 

 

「ここで無ければならない理由が確実にあります。それを見つけさえすれば、活路は見えます。僅かながら手助けも出来る」

 

 

 

 

 

 

 

4対1の戦い、圧倒的に理不尽な戦いに紅蓮は勝てるかは分からない。しかし、そう簡単に敗北を認めるつもりはなかった。

 

 

「───さぁ、殲滅を始めましょうか」

 

キキキと笑いながら、邪悪は両腕を地面へと突っ込んだ。ドロドロとした液体のように腕がのめり込んでいき、地面から無数の魚が這い出てくる。

 

無数の魚の群れが一つの波となって、呑み込もうと襲いかかる。邪悪の『妖忍魔法』、海の生物を生み出す力。それは地上でも関係なしに扱うことが出来る忍法。

 

 

「クソ!」

 

紅蓮はすぐさまそれを回避する。魚の一匹が当たるだけで服がナイフに切られたようた裂けた。刀の炎を撒き散らし、魚を焼き焦がしながら、紅蓮は離れた場所に着地する。

 

このままでは駄目だと、紅蓮は噛み締める。傷つけずに相手を倒すことなど不可能だと感じ、本気で倒すことを誓った。

 

 

「烈火・肆式───灼熱(しゃくねつ)

 

日本刀の刀身そのものが白い閃光を放つ。ジ………ッ! と刀の近くにある物が熱で焼けていく。普通の炎の温度が約1800と仮定するのならば、現在日本刀に込められた熱は約5000を優に越している。

 

他の者には絶対使えないような力、まさに彼だけの領域。紅蓮に、普通の忍ではないホムンクルスの紅蓮にだけ許された技。

 

炎の異能使いはその刀を片手に──────跳んだ。踏み込むと同時に脚から爆発的な程の火力を放出し、ロケット砲のように突っ込んでいく。

 

 

「むッ!うぅんんンッッ!!!」

 

巨漢 盤銅は腕を、鎖の先にある巨大な鉄球を叩きつけるかのように振り下ろしてきた。グワン!!と遅れたスピードで鉄球が飛来してくる。

 

 

しかし溶岩程では無いにしろ、高熱の塊である熱量を宿す日本刀が鉄球を真っ二つに分断する。更に何十にも斬りつけ、微塵切りにも等しいサイズへと切り分けた。

 

 

自身の武器の一つを破壊された盤銅は「うぅぅんっ!!?」と驚きながら、後ろに倒れそうになる。紅蓮はその隙を逃そうとせずに追撃に向かう。

 

 

しかし他の二人、宗那と翠翔が迎撃するように前に出る。二つの拳銃と掌を向けられながら、紅蓮は即座に切り替える。白い閃光が赤の炎へと戻り、激しく暴発した。

 

 

 

「烈火・伍式!熔熱旋(ようねつせん)!」

 

刀ごと全身を捻り、渦を巻くように回転を引き起こす。熱風の刃を周囲に飛ばし、ホムンクルスたちを牽制する。

 

 

目的通り、ホムンクルスたちは尋常ではない熱と炎に距離を置くしかない。しかしそれでは時間稼ぎしかできない、炎の渦を解除すればホムンクルスたちはまた襲いかかってくる。

 

 

それに、『火力』が足りない。数の差を崩す程の、圧倒的な強さが。

 

 

(やるしかない…………彼等を倒すために、『アレ』を使う!)

 

「───出し惜しみは、しない」

 

紅蓮は回転させていた自身の体の動きを強制的に止める。日本刀を足元へと突き立てることで。ガクン!と肉体が軋むが、両眼をゆっくりと伏せる。

 

 

「“造られし肉体に宿る原初の炎よ、我が意思に答えよ”」

 

詠唱があった。

勿論彼は呪術のようなものは使えない、彼が使えるのは異能だけだ。

 

しかし4人の同族の一人、邪悪だけは違った。圧倒されてる訳ではなく、忌々しそうに顔を歪める。それが何なのかを話だけでも知っているから。

 

 

 

 

「“肉体を薪としてくべ────煉獄の業火で世界を包め”!!」

 

轟ッ!!!! と。

 

地中から溶岩の如くの高炎が炸裂した。地球の中枢に流れる源のような熱源が。巨大な嵐のように渦が紅蓮を飲み込み、一気に消失する。

 

正しくは違う。同一化したのだ、彼の中にある炎と。

 

 

「『炎獄王』、世界を焼き尽くした巨人の力ですか………!」

 

かつて『聖杯事変』にて、『闇の王』と拮抗した紅蓮の変身形態。もし事実であれば、これを倒せるホムンクルスはこの場にはいない。

 

 

そう、この場(・・・)には。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────」

 

千歳たちに案内・誘導されたヘルは文献は読み漁っていた。流れるように全ての文章を確認し、次へと捲っていく。どれだけの頁を読み終えたか分からない。

 

 

戦えないのなら、彼等の目的を探るしかない。彼女たちの力になるにはこれしか出来ない。

 

何より、『紅蓮』を狙うのもわざわざ蛇女子に呼び寄せる必要などない筈だ。半蔵学院の飛鳥たちのように孤立した所を襲撃すれば良かったというのに。

 

 

(何かある!この蛇女子でなければいけない何かが……!)

 

 

彼自身、気負っていたのかもしれない。元その組織に所属していたからこそ、焔たちと同じとは言えないが覚悟は重い方だ。

 

 

(こんな所で紅蓮さんを犠牲にさせない!あの人は、詠さんの………黄泉のお姉さんや皆さんの大切な人だ!決して殺されるなんて結末で終わらせるか!)

 

 

 

だが、しかし。

 

 

「─────っ」

 

ピタリ、と動きが止まった。四冊目の文献、その途中の頁を食い入るように見ていた。答えに繋がる、重要なものを見つけてしまったのだ。

 

 

「な、何か見つけたんですか?彼等の目的のようなものは………」

 

不安そうに見ていた忍学生の千歳が狼狽(うろた)えたような声を出していた。監視とは言っていたのにここまで心配してくれるのは有難い。しかし、今はそれどころではない。

 

 

 

「全ては──────この為に(・・・・)?」

 

その文献の名前は、古い物なのか掠れていた。時代は戦国時代の事を記してる、あまり授業でも使わないだろうもの。問題はそれではない、その中にあった一部だ。

 

 

城のようにそびえ立つ───絵を見るだけでも恐ろしい化け物の姿。化け物の正体を指し示すような文字を、ヘルは唖然としながら口にした。

 

 

「…………………『妖魔』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降臨した炎の魔王の姿に、ホムンクルスたちは圧倒されていた。話だけでも聞いた紅蓮の切り札。勝てるかと聞かれれば、無理かもしれないというしかなかった。

 

 

 

「────赫熱充填(かくねつじゅうてん)陽炎獄魔王剣(レーヴァテイン)!解凍!!」

 

膨大なエネルギーが魔剣へと収束される。溶岩にも等しい熱量が上昇し、紅蓮の内部に蓄積されていた。

 

 

 

これは最早、太陽。

 

世界を照らす程の熱の塊、炎の惑星と同等。その身に受ければ焼けるなどの話ではなく、灰すら残らず消え去ってしまう。

 

 

「────終わりだ、俺の同類たち」

 

だからこそ宣告する。たじろいている自分の後継たちに、同じ人形たちに向けて。

 

「お前たちを殺す気はない。けど俺も殺される気はないんだ。撤退をしてくれるなら、俺も剣を収める」

 

「……………なるほど、確かに貴方の言う通りだ。このままでは私たちはその炎によって消し飛ばされてしまう。これでは貴方を殺すとかの問題ではない」

 

しかし、と邪悪は付け足す。

 

その顔には笑みがあった。追い詰められた者が見せるとは到底思えない笑み。

 

重大な目的を達成したような満足そうな笑みを。

 

 

「────このままなら、ですけどねぇ?」

 

 

直後、

 

 

 

 

 

 

ズッッッドォォォンッ!!!

 

 

隕石でも落ちたかのような轟音と同時に、紅蓮の肩が抉られた。比喩抜きの事実、肩の部位にあった肉が持っていかれたのだ。

 

ボトッ、と地面にナニかが落ちる。

炎魔剣を握る方とは反対の腕が、大量の血を流しながら転がっていた。

 

 

左肩の中心を抉られ、腕を分断された。それを知覚する直前に、紅蓮は炎魔剣を肩に押し当てる。

 

血が噴き出しそうになる部位を焼いたのだ。焦げ臭いにおいを鼻に感じながら、比較にならない痛覚が神経に走る。

 

 

 

「─────がッ、ぼあァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああッ!!?」

 

絶叫するしかなかった。確かに皮膚を焼くというのは無謀すぎた。だがそうでもしなければ出血で死んでいたのかもしれない。生きることが目的であれば、これは間違いではないだろう。

 

 

「どれだけ強力であろうと意味はない」

 

紅蓮の肩を貫いた長槍を手の中で回しながら、男は告げる。冷静と言うか、棘のあるような痛みを感じさせる言葉を。

 

 

「どれだけ高温の炎を放出しようが─────我が槍と妖忍魔法の前には意味をなさない」

 

そう言って男、『黒雲(くろぐも)』は槍を握り直す。新たに現れた五人目のホムンクルス、紅蓮は直感的にそう察することが出来た。

 

その男は凄まじい速さで紅蓮の懐へと滑り込んでくる。人間離れした、肉食動物のような速度で彼は距離を詰めてきていた。

 

踏み込みながら、紅蓮の肩を喰らった槍で貫こうと放ってくる。狙いは様々、足や腹に胸、頭へとランダムに向けられる。

 

炎の魔剣で迎撃するが、それも追いつかない。防ぎ切ることが出来ずに小さな傷ばかりが増えていく。

 

 

「何故、その姿で勝てないか分かるか?」

 

炎の息吹を放つが、黒雲を焼くことはなかった。彼が手にする槍が炎を貫き通す。

 

しかし、それだけでは済まなかった。

 

 

「私の妖忍魔法は『吸収』、槍を介したものを取り込み力へと変えることが出来る」

 

槍の矛先へと炎が呑み込まれていく。ズズズ、と吸い尽くされるように。次第に炎は槍へと消えていた。

 

槍を払い、彼は嘲笑いながら告げる。

 

 

「つまり私は、君への切り札という訳だ。理解はしたかな?」

 

「ッ!!」

 

焦りのあまりに紅蓮は大振りに魔剣を払ってしまう。周りの木や建造物を切断は出来たが、黒雲は腰を落としていた。

 

 

「────飛べ」

 

平坦な声で、蹴りが紅蓮の腹部に突き刺さる。バギ!!! と骨そのものに入った一撃に、紅蓮は呼吸を失う。

 

 

蹴り飛ばされた体は砲弾のように飛んでいく。そして天守閣とも言える城の中へと突っ込んでいた。壁すら砕き、紅蓮は床に転がる。

 

 

 

「う………がッ」

 

骨が何本か砕けたかもしれない、少し触るだけで痛みが重い。容易に動くことは難しい、内臓に破片が刺さるかもしれない。

 

 

不意打ちを受けたとはいえ、『炎獄王』で太刀打ちが出来なかった。その事実に紅蓮は崩れ落ちそうになる。

 

激痛が更に重なり、意識が朦朧としていた。消えかけそうになるものを押さえ何とか立ち上がろうとするが、

 

 

 

「ハーーーーッハッハッ!彼等もよく働くものだよ!お陰でこの私もいくらかは楽が出来たとも!」

 

やかましい笑い声が響く。

誰かいるのか、と紅蓮はそちらを睨もうとするがそれすらも思い通りに出来ない。コツコツと近づいてくる足音を、紅蓮は聞くだけしか出来ない。

 

 

 

「─────さぁ、我らの本懐を始めようか。この私を捨てた蛇女子学園への復讐。そして世界を支配する為の一歩に」

 

男、道元は邪悪な笑みを隠そうとせずに、呻く紅蓮を見下ろす。自分の事しか考えない、独善的な思想で。

 

 

 

足掻いた所でもう遅い。『混沌派閥』の望む災禍は、後戻りできない程、深い位置へと進んでいた。

 

 

その計画の中枢、核である紅蓮を陣の中央に位置してしまった。それが表すのは彼等の計画の本懐。




今回話が短いのに弁明させてください!


…………仕方ないです、仕方ないんですよ。話に上手く間を作るには、短くするしかなかったんですよ………。


でも次回は凄いことになるので期待していただければと思います!

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