閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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なんとか百話にいったなぁ、けど文字数も少ないし。上手く書けた気がしない。…………困ったなぁ。


百話 『紅蓮』

暗闇というか、深淵と呼ぶべき場所。

その中で彼は目を覚ました。無理やり覚醒したというのが正しい。

 

 

────ここ、は?

 

目を覚ました■■は周りを見渡した。ここが何処だか分からなくなり、混乱が広がる。だが、あることに気づいた。

 

 

自分が誰なのか、そんな単純な事すら分からなくなっていた。どんな名前があり、どんな過去を過ごしてきたのかも。

 

 

矛盾が発生した。確かに自我はあるのに、自分が何なのかも理解できていない。

 

 

『ねぇ』

 

真後ろからほっそりとした腕が■■の首を撫でる。彼は後ろを見るが、誰もいない。優しく包み込もうとする感覚だけが全身に届き渡っていた。

 

 

『───皆殺されてきた。私たちは、使命なんてものの為に使わされて、自由に生きることも許されなかった。そうして死んできた、無意味な事をされてきた』

 

『もっと生きたかった』

 

『こんな風に死にたくなった』

 

無数の声が、嘆きが、後悔が波のようにせめぎあう。それを聞いていた■■は静かに受け入れる。

 

確かに、そう思ってしまったのだ。同情と同時に激しい怒りが沸き上がる。何故彼女たちが、このように苦しまなければならない。

 

自分達の利益のために無意味に殺し合わせ、最後は『道具』として切り捨てる。

 

そんな事をする者たちが笑って生きているのだ。上手くいったなぁ、と。自分達が一番だと思いたがってる、本当に不愉快で─────愚かなもの。

 

 

そして、無数の怨嗟を代弁するように少女の声が告げた。その内容は単純、

 

 

『だからね────全部、殺ソうヨ?』

 

 

 

────あぁ、そうだ。殺さなければ、殺し尽くさなければ。自分達を否定する者たちを、自分達を利用した者たちを、この世界の全てを。

 

それが願い、殺されていった同胞(ホムンクルス)たちの望み。最後の最後に、それを果たせる『紅蓮』へ届けた、簡単には解けない呪詛。

 

だからこそ、呑まれてしまう。自分の意思も見えず、圧倒的な負の怨嗟に押し負けてしまった。そんな事にも気づけず、■■は鋭い覚悟で決めた。

 

 

────まずは一人、目の前の少女を殺す。邪魔するなら、容赦せずに─────

 

 

 

 

 

 

「ギギャァァァァァァァォォォォォォォォォォォォォォォォ───────ッ!!!」

 

激しい咆哮が響き渡る。ギラギラと憎悪と怨嗟が、濃厚に煮えたぎったように感じられた。咆哮だけで蛇女子の校舎のガラスが砕け散り、壁が吹き飛ばされる。

 

『紅蓮』、今は目の前で暴れまわる怪物の呼称。背中から伸びた翼とは到底呼べない骨を広げ、ソレは血を求めた。強い忍と妖魔の生き血を。

 

 

「ぐれぇェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェんッッッッ!!!!!」

 

出し惜しみはしない、焔もそれは同意だった。7本目の刀を引き抜き、彼女は『紅蓮の焔』となる。咆哮に負けないほどの絶叫をあげながら、一つの炎となり突貫した。

 

 

「ッ!!」

 

『紅蓮』の背中が弾け飛んだ。肉体と同化している骨の腕が合計4本、それらは空へと勢いよく伸びる。まるで空間を削り、引き裂くかのように暴れ動いた。その内2本が、突っ込んでくる焔に目掛けて放たれた。

 

 

ドゴン!! と焔はその骨腕を迎え撃った。強引に、力だけで押し返す。

 

───グギャァアン!! 粉々にへし折れたかのような大音声だが、それでも骨腕は無傷だった。のたうち回りながらもすぐに軌道を変えて襲いかかる。

 

 

4本の腕が、焔と『紅蓮』の距離を大きく広げていた。何としても近づこうとする焔に、骨腕は連携しながら妨害と同時に攻撃を放つ。

 

 

「秘伝忍法!【紅蓮阿修羅】!!」

 

負けじと焔も秘伝忍法を行使した。6本の刀をジャグリングの如く回転させ、炎の斬撃を連続で振るう。

 

直撃した骨腕に大きな傷が出来る。それはついにダメージが通ったという意味、他の骨腕も激痛に耐えきれないように暴れ狂った。

 

 

 

戦ってる最中、『紅蓮』が身震いをしていた。カタカタと歯を鳴らし、全身の隅々へと光のラインを張り巡らせる。その合間に彼の口から、短く言葉が為されていた。

 

 

「───よウ、ま───二、んぽ──ウ」

 

放たれる言葉。

何とか形を整えていたが、詳しい意味は分からない。だがそれが有力なものなのは確かだ。

 

 

それを示すように、『紅蓮』が焔に飛びかかる。焔も応じるように刀を構えるが、4本の黒い茨の柱が地面から伸びた。そして焔を囲むようにうねったそれらは焔を縛りつける。

 

 

「くッ、ぅ!?」

 

鋭い棘が皮膚に刺さり、焔が苦痛に顔を歪めて呻く。腕や体の至ることを拘束しながら、彼女にダメージを与える────冗談とは思えない動きの止め方。

 

 

更に『紅蓮』が跳躍で距離を詰める。背中の4本の骨腕が周りの壁や天上、床を引き裂きながら彼は射程圏内へと入った。動きの制限された焔に目掛けて近づいた彼の両手がボコボコと変異していく。

 

 

指自体が鋭利な爪となり、焔の身体を切り裂いた。生肉を抉るように凄惨に、細切れにするような勢いで。

 

引き裂かれた血の跡は空中で複雑に絡み合い、薔薇のようになる。飛び散った鮮血によって。

 

 

 

 

────妖魔忍法 【鮮血薔薇】

 

本来であれば、妖魔が使えるはずの無い忍法。しかし『紅蓮』は例外中の例外、彼は多くの忍と妖魔の血と呪いを取り込んでいる。そんな彼は半分忍と言っても過言ではない。

 

相手を血で出来た茨で拘束し、切り裂く攻撃。他者を殺すこともあるが、最低でも傷つける事に特化した凶悪な技。

 

 

「────あああぁぁぁぁ!!?」

 

それを受けた焔の全身から血が溢れた。服は破れ、あられのない姿に成り欠けているが、そんなことはどうでもいい。

 

血の量は多くはないが、微量とも言えない。あまりにも笑えないくらいの出血に、焔は口からの血を拭うことしか出来なかった。

 

 

ニィ、と『紅蓮』は笑っていた。顔は無いが、その口だけが笑顔の形を見せる。肉食獣が獲物を相手に狩りを楽しんでるみたいだった。

 

 

(…………忍法、アイツ。忍の力を使えるのか!?)

 

焔は歯噛みしながら、目の前の怪物を見詰める。怪物も敵意の視線を受け、更に口先を深くした。ギラギラと血のこびりついた生々しい歯を露出させ、獣のような唸り声をあげる。

 

 

「ギャル、グルァァ!ゴォォォォォ………」

 

「クソ、学習してやがるな……ッ!」

 

悔しそうに焔は現実を再確認する。顔の無い怪物からそんな事が分かるかと言われるが、雰囲気と様子からして明らかなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「────クハハハ!ハハハハハハハハハッ!!素ッ晴らしいよ!『怨楼血』、いや『紅蓮』!まさか忍とほ戦いで受けた秘伝忍法を我流とするとは!」

 

 

圧倒的な破壊を振るう怪物に、邪悪は嬉々と称賛を送った。制御装置を片手に、その暴れ様を見て楽しそうにしていたのだ。

 

彼は楽しむことしか出来ないホムンクルス、そんな欠陥を内包した人物なのだ。自分を嫌悪したくなるほどのものだが、彼は今だけは無視することにした。

 

「この状態なら覚醒まであと少し。倒されることも恐れる必要はない。むしろ戦いを経て成長するのだ、是非とも戦ってほしいですがね」

 

しかし叶わないなら仕方ないと、邪悪はすぐに諦めた。そんなものよりも優先することがあるから。

 

 

「さぁさぁサァ! このまま殺し尽くしてくださいよォ!『紅蓮』ッ!! 今まで殺されてきたホムンクルス(私たちの同胞)の分も!!全ての生き物をなぶり殺してくださァい!

 

 

 

 

───『イブ』を殺した【混沌派閥】も!私たちを否定するこの世界も!全部関係ない!!全部!全部殺せェェェェェェェェェェェェェェェェェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 

 

邪悪は咆哮する。

怒りや憎悪、負の象徴といった感情が渦を為す混沌とした叫びを。全てに於いて楽しそうに振る舞う、彼の本心を。

 

顔に爪を突き立てて、血が飛び散るのもどうでもいい。眼からポロポロと涙を溢れさせながら、ありのままの感情を吐き出した。しかしその顔はあまりにも不気味だった。

 

 

 

────笑っていたのだ。皮膚を裂きながら、泣きながら、彼の笑顔は『楽しそう』な笑顔に包まれている。

 

 

そう、彼は壊れていた。ずっと前から。大切な誰かの死を前にしても、ケタケタと『タノシソウ』に笑う。自分というホムンクルスの構造を自覚した日から、彼は何もかもがどうでも良くなっていた。

 

 

例外があるとすれば一つ。今の彼の動力源、憎むべき相手に支えてきた彼の、真の目的。

 

 

何もかもを殺す。『混沌の王』も【混沌派閥】も、忍も、こんな腐り果てた世界も、何も知らずにヘラヘラと笑って生きてる奴等も、全てを。

 

 

 

 

 

 

 

ダァン!! と。

勢いよくこの部屋の扉が開かれた。突然の事に邪悪も心臓が止まったかと錯覚しそうだったが、すぐに平静を取り戻す。視線だけを動かし、扉の方を見詰める。

 

 

 

「…………見つけたぞ」

 

そこに立っていたのは雅緋だった。血に濡れているが、どうせ彼女の血では無いのだろう。

 

彼女を見た邪悪の顔に笑みが作られた。ホムンクルスの機能としてではない、彼自身が心から見せた笑顔だった。

 

そして、雅緋は静かに口を開く。静かに歩み寄りながら、彼女は落ち着いた声音で問いかけた。

 

「『紅蓮』を操ってるのは、お前だな?」

「えぇ、そうですよ?ここにいた私を見つけられた事は、褒めてあげしょう。────ですが、一体どうして私がここにいるのか分かったのですかぁ?」

「私の仲間に頼ったのさ。操ってるらしき者の匂いを探してほしい、とな。そしたら貴様を見つけ出せた訳だ」

「…………キキキ、なるほどぉ。それは少し配慮できてませんでした。学習しませんとねぇ」

 

敵を前にしても邪悪は笑みを深くする。落ち着いた態度とは違う、野蛮かつ獰猛な笑顔で。

 

 

「けれど、けれどけれどぉ。貴方の頼みは聞けませんねぇ、『紅蓮』はもっと必要です。私の目的の為には、彼には多く殺して貰いたいので」

 

「聞くつもりはないな、まぁ分かってはいたが」

 

「やりたいのならお好きに────この私から制御端末を奪えればの話ですが」

 

邪悪はその制御端末を掌の中に転がす。壊れる可能性を考慮してない危険な行為だ。けれど彼に関してはどうでもいい、知ったことではないのだろう。

 

 

 

「改めて──────私は邪悪、『災禍の剣』の一人。感情としては『楽』を司るホムンクルスであります。何卒よろしくを」

「…………感情を、司る………ホムンクルス」

「まぁそう簡単には理解できないでしょう。人の成底無いである私は人が持つ感情を分割されてますので。王もやることがおぞましいというか────単純に外道ですよねぇ」

 

ベラベラと、それはそれは楽しそうに話を続けた。彼の仮初の本質と思われる。そんな彼が笑いながら壁に背中を預けると、その身体がズブズブと入り込んでいく。

 

「………物体の中に入れるのか、器用な奴だ」

「キキキ、お褒めに預かりまして」

 

地中を滑るように潜泳する邪悪。まるで遭難した人々を襲う鮫のように、息を潜めて隙を伺う。何処から何処へと移動してるのか分からない、頼るとしたら勘のみだ。

 

 

「キキキ!私を殺せるか確かめて見てください!?まぁ、努力して────見事に玉砕してどうぞ!!」

 

 

 

ホムンクルスと忍、ある意味で言えば同じ血を流してる二人は────改めて敵対した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有無を言わさず、『紅蓮』が攻撃の用意を行う。傷を受けた焔を逃がすつもりはなく、慈悲もなく追撃を行った。骨腕を振るいあげ、叩きつけるように天へと伸ばした。

 

 

 

 

 

直後に、一本の杭がその骨腕を穿った。鋼鉄すら砕き、焔の秘伝忍法でも傷しか与えられなかった骨腕を、容赦なく。

 

ドサン!! と分断された腕が離れた場所に落ちた。校舎の壁を吹き飛ばし、奥へと転がっていく。断面から赤とも紫とも言えぬおぞましい血が噴出した。

 

 

「ギィァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!?」

 

『紅蓮』が悲鳴を鳴り響かせる。尋常ではない痛みを受け、初めて苦痛に喘いだのだ。

 

 

そして、杭と思われてたものは漆黒の表面をしていた。これを焔は見たことがある。かつて、この力を使ったものを相手にしたのだ。

 

 

 

「変わり果てた姿だな、紅蓮。かつての俺様に似た立ち位置に、貴様が立ってどうする」

 

 

ストン………と金髪の青年が校舎の屋根に着地する。彼は呆れたような声を漏らし、怪物を見下ろしていた。

 

 

「────常闇、綺羅!?」

「そうだとも、久しいな焔。あの時、『聖杯事変』以来だな」

 

二階から軽々と飛び降りたキラはあっさりとした様子で言葉を返した。二メートルは優に越えるハルバードを肩に担ぎ、焔は咄嗟に構える。

 

かつて『聖杯事変』では敵として戦った。その圧倒的な実力差には、焔も敗北を考慮した程だ。故に警戒を向けるのは当然だが………。

 

 

「今の貴様と戦ってやっても良いが…………敵は俺様では無かろう?」

 

「────グギャァァアッ!!!」

 

目の前で『紅蓮』は此方を睨んでいる。その肉体はビキビキと膨れ上がり、活発的に成長してきた。

 

このままでは『紅蓮』は妖魔へと進化してしまう。そうなってしまえばもう止める術はない。

 

「助けて、くれるのか?」

「勘違いなどするなよ。貴様を助ける理由など、俺様には無い」

 

だが、と付け足す。彼は目の前の『紅蓮』を睨み、低い声で言った。

 

「仲間を守る、そう言ってた俺様の認めた男が、仲間に手を出すのは見るに堪えん。それだけだ」

 

 

キラはジロリと真横の焔に目を向け、

 

「行けるか、貴様」

「当たり前だ、むしろお前こそ足を引っ張るなよ?」

「くだらん、誰に物を言うか」

 

キラはハルバードを、焔は炎月花の刃を、互いの武器を手に取る。強大な怪物の前に二人は退くことはなかった。

 

理由は一つ、簡単なものだった。

 

 

「来い、馬鹿野郎。かつての貴様が抜かしたように叩きのめして、仲間の元に連れ戻してやる」

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