閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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百四話 終わり───

『紅蓮』…………灰瀬の確保失敗、『惨禍の剣(カラミティソード)』の二人が死亡。複数のホムンクルスも同様に死傷している。

 

 

凄惨な結果となったアルトたちは、【混沌派閥】はすぐにも撤退をした。蜘蛛の子を散らすように姿を消し、鈴音と大道寺たちが追跡を行う。

 

 

そして、戦いを終えた彼等はというと───

 

 

 

 

「─────って訳で、これからは俺の事を灰瀬って呼んで」

 

「「「「「「どういうこと?」」」」」」

 

唐突の紅蓮────いや、灰瀬の発言に疑問を浮かべるしかなかった。まぁ突然そんな事を言い出したら混乱するのは当然だろう。けれど灰瀬はそんな事気にしてすらない。

 

 

「ぐれ………灰瀬!あんな風に暴れなんてな、お前ももう少し強くなるべきじゃないのか?」

 

「焔、ありがとうな。そんなに心配してくれて嬉しいよ」

 

「~~~ッ!ち、違う!そんな訳で言ったんじゃ───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ふん」

 

端から微笑ましい光景を見ていたキラは静かに鼻を鳴らす。不愉快という様子ではなく、むしろ穏やかそうな表情だった。

 

 

彼はその景色に入ろうとするつもりはない。闇に浸る自らには似合わないとでも言いたいのであろう、そんなキラの隣に穏和な青年が寄り掛かる。

 

「自分は幸せになるつもりはない、そう言うおつもりですか?」

「…………、」

 

ヘルという、新しい焔紅蓮隊のメンバーを無言で見据える。キラは彼の事をよく知らない所か初対面だ。何を言ってると不審者を見るような目ではなく、何が言いたいという疑心に満ちた感情。

 

 

 

「貴方にどんな過去があるかは知りませんが………誰かに与えられたもの、満足に生きなければ意味がありませんよ」

「…………お互い様だな。貴様も人の事が言えるタチか?」

「失礼、言葉が過ぎましたね」

 

それだけ言うとヘルはスタスタと皆の元に向かう。その歩みに迷いはない、堂々とした立ち姿で少女たちの場所にいる。

 

 

 

その在り方が羨ましい、率直にそう思った。

最強と呼ばれていたキラ、仲間を手にしたと言っても彼はまだこの場から進めずにいる。

 

 

かつて、自分を助けて死んだ母親。この闇の中にいると母親に包まれていると思わされた。踏み込もうとしたが、その時直感として身体に吹き荒れる。

 

 

 

 

────ここから進めば、お前は一生後悔すると。

 

忠告と言うよりは不鮮明すぎる。今までの経験で培われた感覚による予言なのだろうか?

 

何が起こるか分からない、故に彼は進むことが出来ない。単に彼は怯えているのだ。何かを失う程度は恐れはしない、それが仲間たちだというのを。

 

 

 

キラは奥歯を強く噛み、ギチリと鳴らす。フッと力を抜き、彼は諦めたように笑った。

 

 

 

「馬鹿みたいだな」

 

そう言ったキラは、壁に背を預ける。決して、皆の元に近づこうとはしなかった。彼は一人で空を見上げていた。何故なのかは、本人にも分からないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの戦い、『紅蓮』との戦いは五分を過ぎていた。それなのに凶彗星の衛星兵器 『飛翔する星帯(グラン・メサイア)』による超火力砲撃が行われる様子がない。

 

候補生メンバーであるラストーチカは生徒たちの安否を気にしない。彼は世界を救うためなら何人の犠牲も許容する。それが何よりの信条、故に躊躇いなく撃つことだろう。

 

 

 

 

『────貴方の説得で無ければまとめて消し飛ばしてましたが、何故止めたのです?』

 

「現に終わっただろ、あいつらだって強いんだ。俺たちの力は必要ない」

 

離れた街中でユウヤは電話の相手 ラストーチカにそう告げていた。しかし大勢を優先する少年が簡単に引き下がる事は有り得ないだろう。

 

 

正規メンバーの言葉はそれほどの権限があり、候補生のリーダーであろうと簡単に押し返せるものではない。だからこそ、諦めたラストーチカは衛星の発射を送らせた。その間に、激しい抗争は終わりを迎えていた。

 

『後処理はどうします?我々がするのですか?』

 

「いや、俺たちはバックアップだ。頭の固い議員たちはそれぐらいしか受けないだろ。まぁ善忍の上層部よりかはマシだがな」

 

『………前々から思ってたんですが、何故彼等は利益ばかりを優先するんでしょう?平和の為ならともかく、人々よりも大切なものはあります?』

 

「そんな奴等なんだよ、ドイツもコイツも他人を利用して腹を膨らませる事しか脳の無い連中。例外はいたとしても、他がそんなんだから────他から見ても悪い印象しかないって訳だ」

 

 

話はそれで終わり、ユウヤは通話を切った。携帯電話をポケットに仕舞うと、ひょっこりと小人が姿を現した。

 

 

ポケットと言っても携帯の入れたズボンではなく、ジャケットの胸元にある方のだ。そこに潜んでいたと言うか休んでいた小人─────ゼールスは不思議と言わんばかり様子で、

 

 

「なんだなんだ、蛇女子での騒動はもう終わったのか?あまりにも呆気なかったな」

「そうは言えない、なんせ他とは違う妖魔が覚醒しかけたそうだ。まぁ、確かに問題なく沈静化したけどな」

 

ユウヤがこの街にいる理由、蛇女子での騒動のバックアップの為だ。もしラストーチカたちによる掃討が失敗した場合の保険、その為に付近に配置されていたに過ぎない。

 

まぁ自身の意思で来たのだから、組織の考えは絡んではない。無益な殺戮は、彼が最も望まないから。

 

 

 

「…………」

 

ポケットの中でゼールスは顔をしかめていた。嫌なものを見たというよりも、思考に明け暮れているのに近い。何か悩んでるのかと思ったユウヤは直接聞いてみた。

 

 

「どうした?何か不満でもあるのか?」

 

「おかしいと思わないか」

 

統括者は即答する。

キッパリと言い切ったゼールスにユウヤは顔色を変え、真剣に耳を傾けた。端的で冷徹な声音で彼は続ける。自らの知識を用いた、彼ならではの持論を。

 

 

「あんなに大きく暴れ回ってた癖に簡単に逃げ出すと思うか?何ならその妖魔の器を奪い返せば良いだろう、それをしなかったのは何故だ?

 

 

 

 

論点をずらそう。奴等の目的は本当に妖魔の覚醒か?こんなにも雑で、あっさりとしたものがか?」

 

ヒュウ、と空気が掠れる音。

それが自分の喉から出たものだとユウヤは感じ取りながらも、ゼールスの言葉を脳にまとめ上げる。

 

少し間を空け、続けた。

 

「わざわざこんなに大きな戦いをしたという事に意味がある。隠密に器を手に入れ、隠れて覚醒させれば良いものを、奴等はそれをしなかった。まるで騒動を大きく見せたい…………そう思っての事ではあるまいか?」

 

 

勿体振らず彼は淡々と結論を告げる。遠くの戦場で、ようやく終わった戦い、その理由を。

 

 

 

「成功しようが失敗しようが関係ない。今までのは序盤、始まりに過ぎない。奴等は『目的』を既に達成してる、だからこその撤退なのだ」

 

 

ビキッ! とユウヤは頭に響く鈍痛に顔を歪める。何故だか分からないが、その痛みを簡単に受け入れていた。

 

 

懐かしい感覚、あの日───あの地獄の時を思い出す。家族も故郷も平和も、何もかもを奪われたあの日。突然それが脳裏に浮かんだ事を不思議に思いながらも、ユウヤは空を見上げて、

 

 

 

 

 

「………?」

 

更に顔をしかめた。あるのは真っ暗な夜空だが、何かおかしい。普通なら気づけないような変化に今日は気づくことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【警告】これより先は何が起こるか分かりません

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【警告】これより先───オこるか、分かりません

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【警ェこク】こ、オ/リ───ん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【降臨】─────虚無(ゼロ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、世界がブレた。

そもそも理解できるか分からないが、確かに歪んだのだ。起こったのは時空そのものを揺るがしかねない現象。並行世界との時間は数秒程度だが、明らかにズレていた。

 

 

 

巨大な余波がユウヤとゼールスの体を冷気のようにつんざいてくる。ズン!! という圧迫感が彼等の心臓にのし掛かった。

 

 

街中の人々は気づいてはな────いや、数人程倒れている。周りが慌てふためき、救急車を呼ぼうと必死になっている様子が見えた。

 

 

一般人でも感じられる気配。これは普通ではない、蛇女子の付近から感じられるオーラが、こんなに離れている街にまで被害を被っている。

 

 

 

「ッ!ゼールス!!」

「…………なるほど、全ては前座。一時的に世界を分離し、強度を上昇させたか。まさかあの戦いが舞台装置を作り上げていたとはなぁ」

 

何を、とユウヤは聞くつもりはない。ゼールスの知識は叡知とも言える情報、真実かを疑うつもりは更々なないのだ。

 

 

そして同じように、理解してる。自分達よりも格上、次元の違う存在。それが何をもたらすか、自分が何をするべきかを。

 

 

「ユウヤ、早くあの学園に向かうぞ。いや、簡単に入れるとは思わんが、出来るだけ努力しろ。

 

 

 

 

 

 

 

さもなくば、あの場にいる者たちは死ぬぞ!!」

 

かつて、聖杯を用いて全てを支配しようとした、統括者。弱体化しても尚、彼は超常の力を理解している。

 

 

 

だからこそ、なのだろう。

超常に近づいた存在が出す本気の忠告は普通の危険では表せない。それはどうしようもない、天災の証明であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………これは」

 

空を見上げていたキラはすぐに違和感に気づいた。辺りの色が黒に染まった。何の光も見えない、互いの姿は分かるというのに。

 

 

次第に皆がそれを理解していく。不安そうな反応を取る者も少なくない。それどころか、大抵の者が困惑していた。

 

 

やっと終わったと思いきや、突然の事。

これに何も感じるなというの方がおかしい。キラはため息を吐きながら周りを見渡すが、やはり自分達以外何も見えない。

 

 

 

「皆、無事か?何が起こって─────」

 

 

 

 

カツン、カツン、と響き渡る。

暗闇の中から誰かが歩いてきていた。咄嗟に全員が身構える。

 

それでも、姿は見えない。音だけが暗闇に反響して聞こえてくる。タチの悪い嫌がらせかという感情は、すぐに消失した。

 

 

 

 

 

「─────《緑》の咲人、《青》の覇黒。計画が挫折するのは構わないが、我が同胞二人が退いた。その事実に驚いた、故に興味が沸いた」

 

 

声は空間に響き渡る。それほど大きくも高くもない、呟きのような声。しかしそれを聞いた少女たちは、平静ではいられなかった。仕方ないだろう、

 

 

 

彼女たちは自然と感じていた、その声から発せられる………並々ならぬ重圧。何十倍の引力に押し潰されそうな錯覚なのだから。

 

 

 

「な、何これ………?」

「ひっ、ひっ!?」

 

ライフルを構えていた両備は自らの身体の震えを知る。近くにいた未来はガタガタと身震いする。何故彼女たちが先なのか、足音がした方に僅かに近かったからだ。

 

 

人として、生物としての恐怖。

 

 

 

「やはり人間だからと下すには少し情報不足だ。この世界は、俺が知る理とは外れているのだからな」

 

 

「………これは、不味いわね」

「う、うーん。両奈ちゃんも駄目かも………」

「……………無理、です。こんなの、相手にする、なんて」

「どうすれば───どうすれば!?」

 

蛇に睨まれた蛙、この言葉は御存じだろう。強い存在に恐怖し立ち尽くすという意味。

 

 

この現状を評するには、言葉足らずだ。今見られてるのは蛇ではなく、竜と変えた方が相応しい。

 

 

 

「─────くだらない、くだらない、くだらない。やはり、進化はあるべきではない。やはり、世界は肝心なところを間違えている。

 

 

 

 

 

 

 

まぁだからこそ愉快、ある程度の期待は出来るのがな」

 

「そ、そんな────!?」

 

「─────この声………まさかッ!」

 

忌夢は怯えたように後退り、灰瀬は呻きながら頭を抱える。

脳髄を引き裂くような痛みが彼を襲う。その理由は少しだけは分かる。

 

 

 

 

この声は知っている、この恐怖は覚えている。忘れはしない、忘れられる訳がない。何故なら、この身に味わったものだから─────一度、死ぬことで。

 

 

 

 

 

「落ち着くんだ二人とも!何がどうした?何を言ってるんだ!?」

 

 

戸惑いながらも、忌夢と灰瀬の心配をする雅緋。彼女の顔からも冷や汗が止まらなかったが、仲間たちの様子が平常に保ったのだろう。

 

 

そして焔とキラの二人は全員の前に歩み出る。守るように自分の武器を構えるが、

 

 

 

「なんだ、この力は─────あの時の聖杯とは比べ物にならんぞ、コイツは」

 

ボソリと呟くキラが一歩退いた。本人もそれを自覚し、強く歯噛みしている。

 

最強と自他共に称されていた彼が恐怖した。それ事態が異常、目の前で起こっている事が尋常ではない事を証明している。

 

 

 

 

 

 

「───────ほう、何だ」

 

ギン!! と重圧が増した。さっきまでの呟きとは違い、明確に他者へと向けられた言葉。

 

正しくは、雅緋に忌夢、そして灰瀬の三人のみだが。例え視界に入ってなくても畏縮して当然だ。

 

 

 

「懐かしい声がしたと思ったら……………貴様たち、確か……………雅緋に忌夢、だったか?まさか生きていたとは、非常に感心するぞ。そして灰瀬、貴様はあの時死んでいたが、甦ったのか?」

 

 

「なッ…………にィ!?」

 

どんどんと痛みが増す頭を押さえ込み、灰瀬は疑問を抱いた。あの時、確かにそう言った。聞き間違いではない、確実に。

 

だとすると、今この場にいる『それ』は────

 

 

 

 

 

 

「お前は────誰だ!?何者なんだ!!」

 

ようやく、焔は叫び声をあげることが出来た。それに応えるように暗闇が一気に消失する。薄暗い空間、テニスコートを優に越える大きさだが、こんな場所を彼等は知らない。

 

 

 

 

一方で。

その場所の中で祭壇とも言える高台の上に、『それ』は立っていた。反応するのも億劫という様子で、『それ』は彼等に眼を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───む?俺を知らないのか?咲人たちから話は聞いてるとは思っていたが……………まぁ生真面目なアイツのことだ。俺の事を口にせずにいるとは思っていたが」

 

 

そこにいたのは、黒髪の青年。かつて出会った傭兵の青年、天星 ユウヤとそっくりと言えるくらいに似通った顔に声。双子とは称せるが、同じようなモノとは思えない。

 

恐怖があるか否か、絶望があるか否か。それだけの差だった。他に言うと所々に黒いアザというか影が浮かび、数百年前の欧米の王族が纏うような高貴な服の隙間から禍々しい腕が剥き出しになっている。

 

 

光と闇、聖と邪、相反する矛盾。かつてあの街で降臨した聖なる杯、それと瓜二つに思わせてくる。

 

無理もない、目の前の『それ』は大いに関係してる存在。むしろ元凶などと言ってもおかしくないのだから。

 

 

 

「まぁ、仕方もあるまい。知らぬ者がいるなら知らしめるのが道理。耐え難い恐怖と我が真名を、身体の髄にまで刻む事が出来る名誉────光栄に思え」

 

 

自分への恐怖が当たり前のように、人が神に平伏するしかないように、『それ』は両手を広げる。引き締まりながらも柔な肌色の神手、この世の災厄の塊とも言えるほど禍々しく揺らめく魔手。

 

 

相反する二つの力を内包する『それ』は一歩だけ進む。それだけで世界にヒビが入り、ビルのガラス全てが粉砕するような轟音が炸裂した。しかしもう一歩踏み込む時には元の光景に切り替わっている。

 

 

 

「我は『禍の王』を束ねる者、『四元属性』の長、あらゆる理を廃する者」

 

 

名乗りだった。

自らの正体を明かす言葉、しかしあまりにも重くあまりにもおぞましい。

 

生身の人間なら恐怖故に自ら命を絶ちかねない。忍や異能使いである彼等は耐えきれるが、目の前にいるのはそういう次元の存在なのだ。

 

そして、『それ』は告げる。ぬるま湯の平和に浸っていた世界に証明するように。

 

 

 

 

本来なら彼等が知り得る筈がなかった─────『聖杯』に、この世界の創造に起因するモノ。

 

 

 

 

「我が属性、我が名は『虚なる無 (ゼロ)』。世界のはぐれ者たちを集め、この世界を無に還す王────真なる『超越者』である」

 

 

絶望が、降り立つ。

どうしようもなく圧倒的な存在。かつて封印された十二体の超次元生命体、その一柱が。




ゼロ(なんか戦ってるな…………楽しそうだし、行ってみるか)

みたいな感覚で来たラスボス。
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