閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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百十話 何者か

「─────えぇ!?ばっちゃんも来てるの!?」

「ふむ、勿論。君の祖母、小百合様もオレに力を貸してくれている」

 

驚愕して大声を出す飛鳥にカイルは冷静に答える。行方を眩ましていた祖母がここにいると知ったのだから無理もない。

 

「そもそも、戦闘なんかして良いのか?追手にでもバレたりしたら………」

「心配無用だ。この施設一帯を大規模な結界で隠蔽している。小百合様からのお墨付きだ、例え極上忍であろうと破れはしないと約束しよう」

 

 

両手の義手をコートのポケットへ突っ込み、彼は隔壁を見る。四つの紋様が明々と照らされ、現状を物語っていた。目を細め、カイルは呟く。

 

 

「さて小百合様はともかく、あの娘達にとって満足できるかな?……………知るまでもないと思うが」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

拮抗はすぐに崩れた。ジャスミン、過去のカグラである彼女の強さは、ユウヤにはどうすることも出来なかった。

 

 

 

「────ォォォッ!!?」

 

吹き飛ばされたユウヤは何とか綺麗に着地する。そして地面に向けた掌を、引っ張るようにして持ち上げた。それだけで手の中にあった電撃が膨れ上がり、

 

 

 

屋内での落雷を発生させる。しかも普通のものとは違い、数秒に何回も飛来する雷の雨。対してジャスミンは─────気にする様子もなく疾駆する。

 

 

 

「撹乱にしては上々だが────甘いよっ!」

「ッ!」

 

隙を縫うようにして雷撃の雨を潜り抜けたジャスミンは至近距離のユウヤに目掛けて足を持ち上げる。

 

 

足蹴り、狙いは脇腹。

ユウヤは咄嗟に片腕で脇腹へと迫る脚をうちあげようとする。

 

 

 

「────へぇ、良い動きだよ」

 

一連の動きを見たジャスミンは、冗談抜きで彼を称賛する。しかし自らの行動を変えようとせず、そのまま脚を振るった。

 

 

 

 

そこでようやく、ユウヤは判断の失敗を直感する。防ごうとするのは正しい、相手の動きを縫い止めて反撃の隙を突くなどの行動を起こせるから。ならば、何が失敗したのか。

 

 

 

 

威力。純粋な力技。ジャスミンの、元カグラの足蹴を防ぐという考え方が間違っていたのだ。全盛期の姿となっている彼女、その力が普通の忍などとは比べ物にはならない。

 

 

ゴッ!! と。

打ち上げようとしていたユウヤの腕に、ジャスミンの脚が直撃した。そして、ユウヤの腕が後方へと吹き飛ばされる。物理法則に従った動き、力によるもので。

 

 

 

 

 

骨が、ずれた。

手首の動きを整える部位が、明らかなブレを感じる。いや、完全にイカれていた。神経が引きちぎられたかのように、彼の手はぶらん と力なく垂れ下がっていた。

 

 

「ギッ、ィィっ!?」

 

喉の奥から響きそうになる絶叫を、歯を噛み締める事で堪える。同時に地面を踏みつけ、蒼い雷撃を周囲へと飛ばす。

 

しかしジャスミンは軽々と回避し、距離を置いた。皮膚へと渡る前に、射程外である安全圏へ避難した彼女はキセルを担ぎ直す。

 

戦闘を早く終わらせる────青年を倒そうと、次の行動へ移る。その時だった。

 

 

 

 

バヂッ!バヂヂヂヂヂヂヂッ!!

 

空に向けられた右拳に雷電が蓄えられていく。それだけではなく、表面には浮遊していた金属片が融合し更に大きくなる。

 

 

(……………火力によるごり押しかい。少々期待はずれだね)

 

冷静に考えながら、ジャスミンは彼を評価する。感情の振れ幅が無いように見える彼女の目には、確かに失望の色があった。

 

 

 

 

 

「──────ふ」

 

しかしユウヤは精一杯笑った。彼の顔を見たジャスミンが疑問を浮かべる中、彼は圧倒的に力を解放する。しかしそれはジャスミンに向けてではなく─────

 

 

 

 

「──────ブチ割れ!!『雷神武装・巨王力帯(メギンギョルズ)』ッ!!!」

 

自らの足元へと、振り下ろす。それだけ大地が、地面に食い込んだ巨腕に蓄えていた雷のエネルギーが、暴発する。

 

 

ドッッッッッ!!!!!と。

 

今度こそ、部屋の全てが砕かれた。衝撃を殺す為の隔壁も、床も全てが莫大なエネルギーによって解離する。しかしジャスミンは、ジャスミンだけはその場から動くことはなかった。

 

 

と言うのに、彼女は目の前に飛び出してきた巨大なブロックにキセルを叩きつける。動作など無い、直球な一撃はブロックを一瞬でチリへと変えた。

 

 

その時に、ジャスミンは目の前の光景を目にした。

 

 

「っ!?何処に────!」

 

巨大なクレーターはそのままある。しかしそれを引き起こした張本人は近くにはいない。移動したと判断したジャスミンは周囲の気配を探し─────すぐに見つけた。

 

 

 

 

天井に届くかギリギリの上空。空中にいたユウヤはグルグルと回転し、地上のジャスミンを睨み付ける。

 

 

そこでようやく、ジャスミンはあの時の攻撃の意図を察した。あれほどの力で起こした破壊、目眩ましと思っていた行動の真意を。

 

 

 

(あれほどの力を活かしての跳躍!!ああ訂正するよ!存外に頭の回る子だ!!まさかその為だけに大技を放つなんてねぇ!!)

 

ユウヤはそのまま弾丸のようなスピードで突っ込み、巨腕を持ち上げた。もう一度、地盤を崩壊させる一撃を放つ用意が整う。

 

 

勿論、簡単に攻撃を受けてやるジャスミンではない。彼女も勢いよくキセルを振り回し、ユウヤへと叩きつけようとした。

 

 

 

その時、彼は叫ぶ。

 

 

「─────解除!」

 

力が消えた、唯一元カグラに追い縋れる程の力が失われる。しかも意図的に、自分から手放した。ジャスミンは目を見開くが、既に遅い。

 

大振りのキセルをギリギリ回避し、彼は腕を振るった。捻られた身体に隠れた腕にあるものが、光によって輝いた。

 

 

 

漆黒のフォルムをした刃。雷で磁力を操り、周囲の金属を纏わせた黒鉄の鋭く尖った槍のような武装。切れ味抜群のブレードのある方の腕を確認して、ジャスミンは笑みを溢した。

 

 

 

「………流石に驚いたねぇ、そこまでやるかい……!」

「─────嘗めるな、この程度………!あの時の苦痛と怒りに比べれば、浅すぎるんだよッ!!」

 

ジャスミンが言うのは、彼が刃の攻撃を実行したことではない。その刃があるのは、左腕。それが何を意味するかだ。

 

 

 

そう、さっきジャスミンが骨をずらした方の腕。治すのには普通の人間の力では難しい。痛みなどを入れても十秒は必要だ。

 

 

──────『雷神武装・巨王力帯(メギンギョルズ)』による地盤破壊の直後。ジャスミンの視界が隠れた間に、ずらされた手首の骨を強制的に戻したのだ。それも、数秒しかない時間の中で。正確にやった訳ではなく、戦えるなら十分と言った荒業で。

 

 

今でも無理矢理直した代償が、激痛となって彼の脳髄に響き渡っているだろう。だが動きを止めようとせず、更に突き進む。

 

 

 

両腕を重ね、切り替える。刃としての装甲は融合すると長い砲身を作り上げた。レールガン、電撃を扱い弾丸を放つ彼の技の一つを。

 

 

 

「吹き飛べッ!!『雷撃装填・超電磁砲(レールガン・バーストカノン)』!!!」

 

 

爆音と共に。

元カグラと傭兵の戦いは終わった。同時に、他の三人の戦いも終了する。幕引きは、アッサリとしていた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「ねぇばっちゃん、どうして家を出ていったの?心配んだったんだよ?」

「ふぇっふぇっふぇ。それについては時が来たら話すよ、時が来たらね………」

(腕の骨、ずらされたの力ずくで直しちまったな。大丈夫か?後で悪化するとかないよな?)

 

冗談ではなく心配した声音の飛鳥。しかし小百合ははぐらかすようにして誤魔化す。その二人の横でユウヤは片腕をジッと観察しながら、そんな風に考え込んでいた。

 

 

 

 

「シルバー………その人は?」

「えへー、いやシルバーさんとこの娘、華風流ちゃんと仲良くなってねー。意気投合って感じですぜ、そうだろ?」

「………まぁそういう訳ね!意外と気が合うのよ!意外とね!!」

 

肩まで組みそうなくらいの距離を保つ二人に、雪泉の顔がますます曇っていった。真剣に考え込む彼女を他所に、

 

 

(…………本当に誤魔化せてるの?チョロすぎると思うけど)

(そう思うのは分かる。けど不安を見せるなよ、それで気付かれる事はよくあるからな)

 

華風流は不安そうに聞くが、シルバーは適当に付け足す。慣れたような態度に彼女は気にはなっていたが、すぐに諦めたように友好的な話を続ける。

 

 

 

 

 

「華毘、本当だったんだね。花火みたいに爆発するの」

「うぅ………紅蓮さんは大丈夫っすか?モロに当たっちゃったっすけど」

「うん、無事だよ。というか元気が有り余ってるから」

 

何処が!? と皆が叫ぶ。よく見ると紅蓮は所々が焦げており、プスプスと煙が立っている。何故それで笑ってられるのか、もしかして相当頑丈なのか。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

一方で。

 

 

キラは敗北した。彼は砕けたハルバードを地面に突き立て起き上がろうとするが、力なく倒れかける。

 

そんな彼を下した蓮華は満足した様子ではなかった。それどころか、キラを睨みつける。

 

 

 

「お前、ふざけなんよ。手加減してやがったのか?」

「……………」

 

怒りを抑えながら、蓮華はキラに詰問する。しかし、彼は膝をつき、顔を上げようとしなかった。怪訝そうに声をかけようとすると、

 

 

 

 

「────ごぼっ、おぇえッ!!」

 

ビシャビシャ!! と大量の血を口から吐いた。口を手で押さえていたが、指の間から溢れた大量の血液が地面に大きな水溜まりを作る。

 

 

言葉を失い、絶句する蓮華の前でキラは自虐するように笑う。血はまだ口から吐かれ、止まらなかった。

 

 

「………チッ、もう身体を同化させる事も無理か。衰えたな、俺様も」

「お前、まさか────」

「二度の敗北、もしくは俺様から悪意が抜けている証拠か。本末転倒だな、あいつらを守る為に弱体化するとは」

 

キラの闇は悪意、負の感情により力を発揮する。彼の生い立ち、父親への憎悪が形を為してしまった結果。負の感情無しで『闇』の完全支配は不可能へと化した。

 

 

その弊害は無理矢理『闇』を扱う事で起こる。自らの体内を破壊し回るという汚点、それが今もキラを蝕む。

 

 

「大丈夫か………?私が何かしちまったのか?」

「お前のせいではない。俺様の無力が原因だ」

 

口元の血を拭い塊を吐き捨て、心配そうな顔をする蓮華に言いきる。喧嘩をしようと言ってた割には、優し所もあるなと再評価をする。

 

 

 

「貴様───いや、蓮華。個人的に頼みがある」

 

 

その上でキラは頼んだ。座り込み、いや正座の形を作り彼女に頭を下げた。

 

 

「俺様の修行に手を貸して欲しい。俺様もこの力に頼りきりな訳にはいかん。故に鍛えたい…………頼む」

 

プライドも誇りも必要はなかった。誰かを守りたいという考えには。

 

 

「私の修行は厳しかったりするけど、どうする?それでもやるか?」

「─────頼む」

「………バッキャロー!そんな風に頭を下げられると断るにも断れねぇなっ!やってやろうじゃねぇか!」

 

それに対して、蓮華はしょうがないと頭をかきながら応じる。彼女の人の良さにキラは感謝し、更に頭を深く下げた。

 

 

 

「おい蓮華、さっさと肩を貸せ。俺様は怪我人なんだぞ」

「分かったよ、すぐにやるから……………ていうか、なんだ。お前って偉そうだよな」

「この喋り方以外馴れてない。これで通しはするが気にするな」

 

杖を持ち上げ、ゆっくりと歩くキラ。彼の肩を少し支えながらも蓮華は呆れたような笑った。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

それから少し後。皆との話を終え、休憩時間の最中。カイルは資料室の中である書類を束ねていた。複雑な内容の紙を確認していると、ピタリと動きを止めた。

 

 

誰かが 、部屋の中に入ってきた。

 

 

「失礼、少しいいか」

「…………シルバー、君か」

 

後ろから声を掛けてきたシルバーにカイルは短く反応した。ガチャ、とシルバーは扉を閉めると同時に鍵を掛けた。扉に背中を預けながら、彼は気軽に声をかける。

 

 

「カイル、お前はオレ()が異能を使えた事に反応しなかったな。異能を扱えてるユウヤやキラでも反応したってのに」

「…………前から知っていたよ、君の事についてね」

「そう、それだよ。前から知ってた、聞こえは良いが…………オレを知る前からだろ?」

 

 

シルバーはカイルに冷たい目を向けながら、笑みを隠そうとはしなかった。その上で、全く笑ってない声で話す。

 

 

「不思議だよな、忍でも異能が使えるって。あんな詳しく話せるほど分かってるじゃないか、()()()()()()()()()()()()()()()さぁ?」

「何が言いたい?」

 

カイルの詰問が、部屋に響いた。ようやく表情を押し殺したシルバーはカイルに向けて資料を見せる。

 

 

死んだ忍について書かれた所、付箋が貼られた一枚の書類にカイルの目が向けられた。

 

 

「雪泉の兄である忍。そいつの行方を知りたい、お前なら分かるだろ」

「………ふむ、オレも忍界隈には精通してるが行方不明の忍についてはお門違いだ。そもそも、善忍は既に志望宣告をして…………」

「お前に言ってるんだよ、『烈光』のカイル。そいつの行方をお前は知ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故ならお前こそがその張本人だしな、『雪風(ゆきかぜ)』さんよ」

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