取り合えず。
ゼールスに言われるがまま、ユウヤ達は京都の宿屋へと移動した。その間は襲撃されるなどめぼしい出来事は無かったが、
「………なぁ、かぐらだったか?何で俺にくっついてるんだ?」
「えぇっと………お兄ちゃんから不思議な感じがするの。一緒にいると落ち着いてくるような感じが」
「?」
かぐらという少女はユウヤに引っ付いていた。警戒してるようには見えず、言葉通り安心したように寄り添っている。
何を言っているのか分からず、ユウヤは怪訝そうに思う。しかし彼も気遣いは出来る人間、幼い少女を心配させる事もなく普通の表情を整えていた。
ずっと離れて見ていた少女達から、一言。
「……………女タラシ」
「おい、何言ってる。止めろ止めろ、そんな眼で見てくるな。俺は特に悪いことしてないだろ」
反論しても少女達の冷たい、何故か地味に優しさのある視線が消えることなく、ユウヤはもうどうにでもなれと折れた。当然、奈楽からの殺意に満ちた視線は完全に無視する。
エントランスでの手続きも終え、彼等はホテルの大きな一室に入った。ベットも複数ある大勢の客の為の部屋、お金が沢山かかる筈であったが、ユウヤはさっさと支払っておいた。仮にも組織の中央の一人なのだ。
そうして、最初に飛鳥が口を開く。自分達の素性を話すのが先と判断したのだろう。
「ええっと、まず私達は────」
「必要ない、お前達の名前などいらん。さっさと本題だけを話しておけばいい」
「…………お前、助けってもらってその言い草はなんだ」
まるで何とも思っていないと取れる扱いに柳生が低い声で問う。静かだが、確かに怒っているのは分かる。他の面々は怒ってはいないが、少しばかり不穏な空気なのは間違いではない。
ふむ、とゼールスは頷く。ジロリと視線をかぐらへと向け、
「従者の言葉がこれか、貴様も難儀するなぁ小娘よ。礼儀がなってないのではないか?」
その言い分に戸惑うかぐらに、奈楽は激しい敵意を放った。小人サイズのゼールスの発言を聞き逃せなかったのだろう。
「おい、貴様。かぐら様に無礼な口を────」
「ふむ、我は貴様に用は無いぞ?一々話に割り込むな、相手に礼儀を唱えるならまずは自らの礼儀を正せ。常識の一環だぞ?」
「……………っ」
怒りを押さえながら威圧を放つ女性。しかしゼールスは物ともせず、逆にそれ以上の重圧を向ける。元とはいえ統括者の名も伊達ではないのだろう。
「─────奈楽だ」
「わたしはかぐら!みんなよろしくね!」
不満そうな奈楽にかぐらは明るく名乗る。対称的な二人に苦笑いを浮かべながらも、ユウヤ達も自己紹介をしていく。
途中、興味ないと立ち上がろうとした奈楽にゼールスは『おや、礼儀がなっとらんな?やはり礼節の無い癖に偉そうにするだけはある。我慢すら出来んか』と煽られて、一層不愉快になりながらも座った時は本気で焦った。
そして、ようやく大事な話に入った。ゼールスが語ろうとしてすぐに止めた事実。
「さて、本題に入ろうか。
簡潔に言おう。そこの小娘、かぐらは超越者だ。最も、今は成長過程のようだが」
「…………………………は?」
全員の視線がかぐらに向く。
当の本人は不思議そうに首を傾げていたが、それでもユウヤ達の疑問は変わらない。
彼女が、こんなに無害そうな子が…………あのゼロと同等の存在?
「………超越者?この子が?」
「超越者、四柱『神楽』。輪廻転生を繰り返し宿命を果たす存在、それが彼女だ。まさかこうも早く対面できるとは思わんかったぞ」
ゼールスの言葉曰く、超越者は聖杯から産み出された超異次元的な存在。それが十二体も存在しているとか、恐ろしい話を聞いてるうちに何も言えなくなっていた。
「奴等、いや『超越者』ゼロの狙いは彼女だ………なるほどな、前々からヒントはあった。形無き概念体にしてはよくやるじゃないか」
説明は途中から独り言になっていたが、彼は忌々しそうに舌打ちを漏らす。この場にはいない怪物とも言える存在に対する苛立ちと感心を抱きながら、ゼールスは話を戻す。
「前に話しただろうが補足しておこう。超越者ゼロは実体無き概念、法則のような存在だ。我やユウヤに飛鳥が対面したのは『聖杯の欠片』により仮初の肉体を作り出した状態。言うなれば奴は未完成のアバターに収まっているに過ぎん。まずはその不足する部位を補う必要がある」
饒舌に語るゼールスの言葉は難しいものだった。説明というよりは専門用語が多いが、彼なりに分かりやすくまとめている。
「えー…………じゃあ、そのゼロって奴は結局何をしたいんだ?かぐらって子と何か関係しているのかよ」
いいや、と葛城の疑問に否定を示すゼールス。彼は真剣な顔で語ろうとして、すぐに口ごもった。言いにくい、言うべきか迷っているのが正しい。
しかしそれもすぐ。時間が惜しいと判断したのだろう、彼は言葉を紡いだ。
「ゼロは神楽を機能として取り込むつもりだ。そうすることで自らの器を超越者として完成させようとしている─────もう少し分かりやすく言えば『捕食』。彼女を喰らうことで自らの欠陥部位を補う、ある種の生物ようなやり方だな」
は?
「何、それ?」
言われたことの意味が理解できなかった。ある意味では最悪ともいえる答えは、そう簡単に受け入れられる訳ではないのだ。
残酷な世界というものを知っていた少女達は、改めて知った。自分達のいる世界が、平穏とはかけ離れた闇という世界だということを。
「………そういうことかよ」
流石のユウヤも屈託したように笑う、笑うしかない。怒るとか、そういう感情が沸き上がってはいたが、やはり信じられなかったのだ。
彼等の言う世界を作り替える方法というのが、たった一人を犠牲にする事だというのが。
「かぐらを、喰わせる事で世界を作り替える超越者として完成─────それが、あいつらの目的。そんな、そんな事の為に…………」
「────なんだそれは!!?」
叫び、
怒鳴る。
声の主は奈楽。どうしようもない激情に駆られる女性はそれでも感情を制御できない。そんな事、やろうとしても無理だった。
「かぐらさまを喰わせるだと!?そんな、そんなふざけたこと認められるか!!かぐらさまを、自分が絶対にさせない!!」
口ではそう言うが、彼女も理解している。相手が自分を追い込んだセントラル達だけではないということを。きっと彼以上の強さを誇る者がかぐらを狙いに来るということを。
「奈楽ちゃん、かぐらちゃん…………」
「───なぁ、皆。迷惑を掛ける事を言っていいか?」
ポツリとユウヤは呟いた。心配そうに見てくる飛鳥達に、彼は続ける。
「俺はあの子達を護りたい。見捨てるなんて絶対に出来ない。けど、これは奴等───『四元属性』と徹底抗戦をすることになる」
掌を見下ろすユウヤはその手を強く握る。自分の無力さを噛み締めるように。
たった一人では、何も出来なかった。あの時、ゼロに追い込まれた少女達を助けることも出来ず、後悔と自責に狂いそうになったが、そんな彼は思い出していた。
一人で戦おうとしていた彼を引き留め、共に戦ってくれた少女達の言葉。それがあったからこそ、彼はその迷いを、軛を打ち破ることが出来た。
─────今回だけは、我が儘を通したい。俺がやりたい事を、果たしたい!
「力を貸してくれ。俺一人じゃ無理だ、皆じゃないと決して助けられない。だから…………頼む」
「────
言うまでもないだろう、という様子で全員が即答した。彼女達からしても当然の事なのだろう。それを受けたユウヤは安心する。
───飛鳥達が仲間で嬉しく思う、と。
「良いな、実に良い。この我を倒しただけはある。そう言って貰わないと面白くはない。たった一人を救うと、そう言い切るのは心地よいな」
面白おかしいと言うようにゼールスはただほくそ笑む。
「奈楽ちゃん、どうするの?」
「…………奴等に着いていきましょう。かぐらさまを護る事が出来る以上、悪い判断では無い筈です」
信頼してるとは言い難い言葉、利用しようという考えが見えてくる。聞いていたゼールスは呆れるが、別に構わんかと切り捨てる。
そうして、一人の少女を護る為に彼等は決意を抱く。これからの過酷な戦いを、厳しい現実を乗り越えようと。
◇◆◇
京都の地。
森林生い茂る山奥に古びた遺跡が隠れていた。滅多な事がない限り、人が入ろうとすることは無いような不気味な遺跡。
昔の人が生み出したとは思えない不思議な建築物の名は無い。今になっても発見されない未知の領域であるそこは、ある者達の拠点と化していた。
「────それで、セントラル。お前が失敗したってのか?何百体で狙ってたんだろ?」
「あぁ、弁明のしようがない。『雷神』が相手なのは無理があった」
ユウヤ達に遭遇した異能使い セントラルは親しげな青年に懇切丁寧に説明をしていた。基本的には電気が存在しない暗闇だが、距離が近ければ話は出来るらしい。
その話を聞いていた青年はへぇ、と興味深そうに聞き返す。
「へぇ?その雷神ってのはそこまでヤバイ相手なのか?」
「当然だァ」
答えたのは、セントラルではない。楽しげにしていた青年は振り返り第三者を確認する。
ツギハギが目立った猫背の青年。腰に二本の西洋剣を帯刀する彼の名前はデューク、『血』を操る異能使い。
かつて遠野の里でユウヤとの戦闘で苦戦の後に敗北していた。関係しているのかは分からないが、デュークは前よりも比較的に大人しかった。
「あいつは………あの傭兵は誰かを護ってる時が強い。この俺をぶっ倒すくらいにはなァ」
「ハッ、意外と説得力のある言葉じゃねぇか!昔のテメェに相応しくねぇ。負け犬にピッタリな言葉だぜデューク!!」
そう言うのは一人の女性。しかしその姿は露出が多く、一目を気にするなら着るべきではないと思う。彼女はそんな事を気に止める様子なく、大声でデュークを嘲笑する。
明らかな挑発にデュークは目を細める。しかし怒りを剥き出しにせず、小さく笑みを見せた。彼は受け流すように挑発を返した。
「口が回るなァクソ女。負け犬って言葉ァテメェにそっくりそのまま返してやる。蛇女の忍に泣かされたテメェにも、相応しいんじゃねェの?」
「──────!」
瞬間。
複数の爆音が響く。
剣戟らしき火花が散り、暗闇を照らす。そこでは女戦士が腕の装備から出したエッジで斬りかかり、デュークはそれを二本の長剣で防いでいた。
見なくても分かる。先に手を出したのは女戦士。直球な怒りに駆られた彼女は仲間を切り伏せようとしたのだ。
仲間が争ってる現状に反応は様々であった。ある者は突然の女戦士の暴挙に憤激を示し、ある者はツギハギの青年に声援を飛ばし、ある者は興味ないと無視を決め込む。様子を見るに、誰も邪魔をするつもりは無いのだろう。
対してデュークは笑みを消さない。
「言っとくが、テメェの『それ』は俺の『鮮血』と相性が悪いのを忘れたか?どんな相手だろうと無敵の力は俺には通じねェんだよ」
「───ッ!!何処まで人の神経を逆撫でしやがるんだこのクズがッ!!」
パァン!!!! と。
二人の間で何かが炸裂した。突然の出来事に距離を取った彼等は同じ場所に視線を向ける。
そこには女がいた。両目に眼帯をした濃い色の茶髪を伸ばす男装の麗人。美しいと感じると同時に凛々しさ、堂々した覇者としての風格も感じさせる。彼女は壁に背中を預け自分に集中する視線に、
「控えろ」
ただそれだけ、淡々と言い切る。女性特有の高さがありながらも鋭い威嚇の籠った低さの言葉は、空気を重くさせた。
向き合っていた粗暴な女戦士よりも先にデュークは背を向けて離れていた少女達の元へと歩いていく。彼女もデュークを睨みながらも舌打ちをして引き下がる。
それを確認した麗人はゆっくりと歩き出す。数歩進んだ所で彼女は暗闇に向けて声を発する。
「…………いかがいたしまょうか、咲人様」
「何も。今の所は」
『
彼はこの場にずっといた訳ではない。突然この場へと現れたのだ、彼等特有の力────異能を使用して。
「飛天とウェインとベロニカは?」
「善忍達を相手にしているそうです。飛天は何時も通りの
咲人が周囲を見渡すと複数の人間の姿がそこにあった。デュークやセントラル、女戦士や麗人含めた九人。
「この場にいない三人を含めば十二人────これ以上、待つ必要は無い。そろそろ『宣誓』を開始しても構わないか」
咲人の語る通り、今この地に訪れている『四元属性』の異能使い達は十二人。組織にいる異能使いはそれ以上の数がいる。にも関わらず、彼等はとある理由で選び出された。
戦闘特化。
比喩抜きで軍隊、もしくは熟練の忍達と相手できるような実力派タイプ。
それも一人残らず、ユウヤを苦戦したデュークと同等かそれより少し下、上の者達。選ばれた理由はそれだけではないが、少なくとも全員で動けば目的を果たす事は可能だろう。
「『
だが、勘違いしてはいけない。
『神楽』の確保はあくまで手段の一つ。組織の全力を尽くす事は無いにしても、何もしないというのは有り得ない。
幹部であり、この面々のリーダーである咲人は告げる。長い間、ただ耐えてきた彼等が待ち遠しかったこの日を。
今の世界を滅ぼし、新たな世界を作り出す。その為の、本格的な第一歩となる今日を。
「出来るだけ時間を稼ぎ、『神楽』を目覚めさせよ。我等が王を覚醒させ、『
誰も知らぬ話、忍達もユウヤ達も知らない事実だが、彼等には呼称があった。超越者 ゼロから与えられた十二人のメンバー達の特別な呼び名が。
《エーステリア》
それらは使者。皮肉な事に今の世界が生み出したこの世界の破壊者。復讐を動力源に動く彼等の進撃が、ついに始まる。
◇◆◇
静かに。
静寂しかない墓地の中で、男性が立ち尽くしていた。何も語らず、黙々と。
その男性の第一印象は、真っ白。染めたものというより、色素が抜けきった白髪に、足まである同色のロングコート。両手に機械じみたグローブに収まっているのは、何本もの花束。
他のと変わって少し大きい墓石。その前に十数本の花を添え、ゆっくりと墓石にある文字を見通していく。
彼は横に置かれていた小さな墓を見る。そこには難しい漢字の羅列があった─────人の名前だった。
男は、その名前を知らない。誰なのか分からない、男性か女性かすら分からないのだ。しかし、心当たりがあるかと言われればある。確かに、この名前を、■■を知っている自分がいるのだ。
知っているのに知らない誰か。きっと自分はその誰かを覚えていないのだろう。なのに、そう決めつけた自らの胸がズキズキと痛む。
過ち────いや、家族を護る為に全てを敵に回した旧友。自分達に迷惑を掛けないように組織から立ち去った創始者の一人であり、自分が心を許した相棒。
『後7年………いや4年………早ければ、オレは道を間違えなかったかなぁ…………』
旧友は、姿を消した。忍達からは大罪人として永遠に追われ続ける日しかない。もう二度と会えない、会えたとしても彼が味方であるかは不明だ。
「────■■、■■■■■」
彼は呟く。旧友の名を、もう一つの墓に記された、自分にとって大切だった誰かの名前を。
そうした事で満足したのか、彼は墓から立ち去る。途中、音を発した機械端末を覗き込むと、情報が浮かび上がってきていた。
『標的個体とNo.3が遭遇、共同行動を確認。テロリストも付近で活動している模様』
その端末と、彼の白いコートには七つの黒い星が刻まれていた。その中の一つ、二番目の星は白に染まっている。複雑な紋様には、とある組織特有のものであり、人物を表す名刺でもあった。
『
組織内のメンバーの多くがその姿や情報を有していないという、
「さぁ、行こうか」
─────世界を、護るべき人々を救いに
『かぐら』を護ろうとするユウヤ、飛鳥達。自分達の王である超越者の為に『神楽』を奪おうとする『
京都を戦場とした大きな戦いが────始まる。
解説
自分の小説では『かぐら』こと『神楽』は超越者という設定になっております。原作と違うところはあまりありません(少しというかちょっとあります)
《エーステリア》
咲人が主導する超越者ゼロより選抜された十二人の『
本編で語った通り、全員が全員、戦争に特化したタイプで本格的な戦闘型。
名前の由来は第五元素『エーテル』と『エース』から。何とかチーム名にならないかと考えた結果こうなりました。
そして麻婆豆腐メンタル様のキャラにつきましてですが、名前は出ておらず台詞だけになっております。今後は出番もあるのでご安心ください。
出来れば感想と評価、よろしくお願いします!