閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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第二章 のリメイクとなるストーリーです。頑張って投稿していく予定なので、よろしくお願いします。


新2章 正義と悪、破滅の蒼銀
第一話 破滅への蒼銀 ◆


赤。

 

真っ赤な背景が広がる。

 

 

立ち尽くした少年は、血に染まった世界に踏み込んだ。恐れはない、汚れることへの嫌悪もない。ただ、おびただしい赤い池に沈む二人の大人が、心配であったのだ。

 

 

『父さん!母さん!』

 

 

叫び、二人に触れる。赤に染まる手が、更に汚れる。しかし少年は形振り構わず、二人を抱き上げようとする。生温かい血とは裏腹に、二人の身体は異様に冷えきっていた。

 

 

両親に育てられ、多くのことを学んでいた少年はすぐに理解した。自分の両親が、既に死んでいることに。

 

 

 

信じたくないと、必死に少年は泣き叫んだ。何度も謝った、我が儘を言ってごめんなさい、もう二度と自分勝手なことを言わないから、死なないで、と涙と鼻水にまみれながら、嗚咽と共に言い続けた。

 

 

『────君、は』

 

 

震えた声が響く。少年はふと、泣き叫ぶのを止めた。視線の先に、誰かが立っていた。謎の、男だった。その男は信じられない様子で少年と二人を見据え、呆然としている。

 

 

その手に握られているのは、血に濡れた小刀であった。

 

 

 

少年は理解する。

この男が、二人を、最愛の両親の殺した張本人だと。

 

 

『………どうして?』

 

『ッ』

 

『どうして、父さんと母さんを………っ』

 

 

男は答えない。

ただ、力が抜けたのか。小刀が掌から滑り落ちる。カラン、と転がった小刀は少年の足元に転がった。

 

 

そこでようやく、少年の心にとある感情が生まれた。それが形になる瞬間、ドタドタと後ろから足音が響いてくる。

 

 

『学長!───そんな、学長っ!』

 

『貴様、■■!よくも学長を!』

 

『ッ!待つんだ!今は■■君を!』

 

 

入ってきた数人の大人達。少年もよく知る彼等は目の前の状況を理解し、すぐさま行動に移る。悲鳴を上げ、死した二人の元へ駆け寄る者。刀を抜き、身構える者もいれば、慌てて少年の元へと駆け寄る者もいる。

 

 

『────ッ』

 

 

多勢に無勢と判断したのか、男は背を向けて逃げ出そうとする。その姿を見た瞬間、大人達が反応するよりも先に、少年が動いた。

 

 

『うあああああああああっ!!!』

 

 

叫び、起き上がる際に掴んだ小刀で男の元へと走る。男は咄嗟に避けたことで、少年の強襲は失敗に終わる。思わず回避した男は呆気に取られたように硬直していた。まさか少年が襲いかかるとは思わなかったのか、立ち尽くす男の前で、少年は立ち上がる。

 

 

両親の血に塗れ、瞳に憎悪を宿した少年が短刀を握り、怨嗟を吼えた。

 

 

『よくも!よくも、父さんと母さんを!』

 

 

飛びかかろうとした少年を、他の大人達が取り押さえた。必死な形相で、少年を止めようとする彼等は、諭すように言葉を投げ掛けていた。

 

 

しかし少年には聞こえない。少年の耳には入らない。他の大人達の攻撃を受け、その場から逃げ出した男の背中に向けて短刀を投げつける。

 

 

男には届かなかったが、走り去る男は此方に視線を向け続けていた。そんな男に少年は、呪詛を叫び続ける。この思いが現実になるなら、呪い殺せる程の憎しみを込めながら。

 

 

『お前は絶対に許さない!殺してやる!殺してやる!!死ね!死ね!死ね!絶体に、殺してやるぅぅぅぅぅッ!!』

 

 

その日は、彼にとって最悪の誕生日となった。

しかし、同時に。少年が生まれ変わった日でもある。立派な志を持っていた少年は闇の世界へ踏み込む決意をした。

 

 

世界を滅ぼそうとした復讐者、今日がその誕生日。彼の記憶には、鮮やかな赤と子供には相応しくない憎悪の黒だけが残されていた。

 

 

◇◆◇

 

 

巨大な施設に、爆炎が広がる。

とある研究機関の極秘施設であったそこは、今現在襲撃を受けていた。謎の覆面の集団によって。

 

 

「────」

 

 

禍々しく歪んだ仮面を纏う兵士達。彼等は燃え盛る夜空をバックに、容赦なく突き進んでいく。施設を守る警備員達が応戦するが、暗闇から現れた兵士に首を切り裂かれたり、心臓を貫かれたりで、一瞬で仕留められる。

 

 

その兵士達の後方から、一人の青年が歩いてくる。体をロングコートで隠した銀色長髪の青年。突き刺すような冷気が漂うその青年は冷徹を通り過ぎた絶対零度の瞳で周りを見渡す。そんな彼に、一人の兵士が近寄ってくる。

 

 

「───制圧完了。これより、基地に保管されていたデータを回収します」

 

「…………早くしろ。他の忍が対応する可能性もある」

 

 

そう言い、動いた兵士を見据えた青年はふと静かに歩き出した。その施設の内部へと入った青年は奥にある空間。奈落のように広がる大穴と一つだけ設置された橋だけの場所に着いた。

 

 

カン、と青年が橋の前で止まった瞬間、天井の暗闇が落ちてきた。まるで水滴のように垂れたそれは地面に触れた途端に黒い影となり、人の形を作る。

 

 

黒装束の男。話に聞く忍者のような人物が、道を塞ぐように前に立つ。黒装束の男が口を覆う布を静かに下ろし、青年を見据える。

 

 

「───シルバー」

 

「…………この世界は、腐ってる」

 

 

憎悪に満ちた怨嗟の声であった。銀色の髪の合間から見える藍色の瞳も、深い闇のような淀みに染まっている。

 

目の前にいる男にではなく、全てに向けて彼は言葉を投げ掛ける。

 

 

「正義だとか、悪だとか、その物差しで計り切れないほどに、世界は腐り果てている。完全じゃない、中途半端に腐り、歪んでいる。人も、忍も、善忍も、悪忍も………本当に、見るに耐えない」

 

「…………」

 

「だから、この世界は滅びるべきだ。いや、オレ達が壊す。この腐り果てた世界を」

 

 

黒装束の男はそんなシルバーの言葉に、眼を細める。複雑に満ちた視線を差し向け、低い声で問い掛けた。

 

 

「皆がそれを、望んでいると言うのか」

 

「────死人に口無し、奴等が今更何を望む」

 

「少なくとも、お前のやろうとしている事は望んでいない」

 

「オレはその逆だ────望んでいるから、やるんだろう」

 

 

その為にここにいる、と シルバーは嘲笑う。黒装束の男は諦めたように両目を伏せ、懐から小刀を取り出した。

 

 

「そうか、それがお前の意思か────ならば、俺も容赦はせん」

 

「殺せるか?オレを?」

 

 

不敵に笑うシルバー。彼は口元を緩ませると共に、両手を広げる。無防備極まりない姿を披露し、見せつけるように立ち尽くす。

 

そして、思考が遅れた黒装束の男に向けて告げた。

 

 

「なら、オレを殺せ。今ならオレを確実に殺せるぞ」

 

「───ッ!死を受け入れる気か!?」

 

「好きにしろ。オレは今更、生き足掻くつもりはない。生きる理由が無いから、こうしているだけだ」

 

 

ザンッ!! と、黒い影が飛び込む。風のように飛来する黒を見据え、シルバーは微笑みを深めた。目の前に移動してきた黒装束の男は、小刀をシルバーの喉元へと向けていた。いや、向けているだけだ。

 

肌に触れる刃は、震えている。その先まで、刃が進まない。

 

 

見透かすように、憐憫を込めた言葉をシルバーは吐き捨てた。

 

 

 

「─────それがお前の答えだよ、漆黒。お前にオレを殺せない。オレとは違って、そんな覚悟も────アイツ等の思いに応える覚悟すら無いからな」

 

「…………ッ」

 

 

直後、施設の天井が爆破していく。突然のことに意識を向けた漆黒をシルバーは蹴り飛ばし、広場の出入り口の方に移動する。

 

腹を押さえた漆黒は、ナイフを構えて叫ぶ。

 

 

「待て!シルバー!」

 

「準備は整った。後は、残りを仕上げるだけだ。お前はきっと邪魔になるだろう。だから、ここで終わってもらう」

 

 

シルバーが取り出したスイッチを押す。直後、橋が下から爆発を始めた。足元が崩れていき、天井からの崩落により逃げ場を失った漆黒は、シルバーの絶対零度の視線を目にした。

 

 

「殺せるとは思ってない。だが、お前も無傷では済まないだろう」

 

「────ッ」

 

「去らばだ、旧友。お前の正義では、オレを止められなかったな」

 

「─────シルバーァァァァ!!」

 

 

 

ガラガラガラ─────ッ!!

 

 

無数の落石に巻き込まれた漆黒の怒号が、奈落に消えていく。旧友を死に追いやった光景を前に、シルバーは無機質なままであった。

 

出入り口の方の影にいる、複数人に視線を差し向けたシルバーは目を細めて、低い声で告げる。

 

 

「…………一週間後だ。そこで全てを始める。お前達にも働いてもらうぞ」

 

 

影に潜む者達は、静かに応じた。爆炎と破壊に満ちたその場から姿が消えたことで、ようやく静寂が訪れる。

 

 

人知れず、悪意の満ちた計画が始まったのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

半蔵学院の校庭。

最もこの学校の校庭と言えど、一般的なものとは違う。学院でも限られた人間でしか運用できない、特別なエリアの校庭である。

 

限られた人間とは、ある存在────忍の事を意味する。この学院は表向きには有名な学校であり、裏側は忍の育成機関ということになる。

 

 

その校庭で、二人の少年少女が動いていた。ただ運動しているとは違う─────戦っていたのだ、彼等は。

 

 

 

「はぁぁあッ!」

 

「────ふんっ」

 

 

金属音が連鎖する。

二刀を振るう活発的な少女 飛鳥は凄まじい勢いで連撃を繰り返す。彼女の相手をする少年 天星ユウヤは片腕でそれらの斬撃を防ぎ、弾いていく。

 

 

片電気によって発生させた磁場により形成した黒鉄の装甲を片腕に纏ったユウヤが二刀を重ね合わせた重い一撃を防ぎきる。

 

火花が、周りに飛び散る。顔色すら変えず、ユウヤは口を開く。

 

 

「────これで終わりか?」

 

「っ!まだだよっ!」

 

 

戦い方を変え、忍術を使用していく飛鳥。しかしユウヤは容易く、それらの攻撃をいなしていく。地面に潜って奇襲を仕掛ける忍術も飛び退き、あらゆる戦術を徹底的にうちのめしていく。

 

 

どれだけの時間が経ったか。二人が戦いを止めたのは、近くのベンチに置いてあったタイマーが鳴り響いてからだった。

 

 

「………時間だ。もう終わりにするぞ、飛鳥」

 

「う、うん…………もう、ヘトヘトだよ………ユウヤくんは、まだ動けるのに………」

 

「────仕方ないさ、俺の方は避けてるだけだしな」

 

 

何より、レベルが違う。堂々とした宣言したユウヤに、飛鳥は不満に思う様子すらなく、純粋に笑顔で応えた。皮肉のつもりで言ったユウヤも複雑だったのか、苦虫を噛み潰したようにしかめる。

 

 

一時的に訓練をしていた飛鳥とユウヤ。実際には、ユウヤが飛鳥の訓練を手伝っていたのだ。それには、ある理由が在った。

 

 

「やはり使えないか?あの時の変化は」

 

「…………うん。やっぱり、超秘伝忍法書がないとダメだったのかなぁ」

 

 

彼等が言う変化とは、少し前の事件に関係している。半蔵学院にて起きた、蛇女学園との戦い。

 

 

『────雷電の異能使い天星ユウヤ。この紅蓮が、排除する』

 

『俺と同じ、異能使いだと………ッ!?』

 

 

数十年に一度とされている、あらゆる知識とは異なる能力、人呼んで異能。雷の異能を宿すユウヤの前に現れた、炎の異能使い 紅蓮。彼と共に現れた蛇女学園の忍の精鋭 焔紅蓮隊。その戦いは苛烈を極めた果てに────とある陰謀の存在をさらけ出した。

 

 

『オレが造り出した、人造の兵士 ホムンクルス。どの個体も炎の異能に適合しなかった────紅蓮を、オレの優秀な手駒を除いては』

 

『これによりオレは、異能を操るホムンクルスを量産する!無敵の戦士達を従え、オレは「聖杯」を手に入れる!神の力を我が手に、全てを書き換える全能の力を!』

 

『紅蓮は───アイツは、駒ではない!私達の仲間だ!』

 

『俺は────紅蓮。焔紅蓮隊の、焔達の仲間だ!貴方の道具じゃない!』

 

 

蛇女のプロフェッサーであり、人造の兵隊の増産を目論んだ男 カイル。野心と憎悪に支配された男は配下にしていた焔紅蓮隊を切り捨て、彼の望む人形───『紅蓮』を利用しようとした。

 

 

しかし、彼女達との戦いで心を得た紅蓮は、カイルに離反した。主から『役立たず』、『人間モドキ』と吐き捨てられ、死にかけた彼は─────大切な仲間を庇い、瀕死に陥った。

 

 

『笑わせるな────人並みの希望を、願いなど。貴様に許されたものだと思っていたのか。この木偶人形風情が』

 

『何を、怒る。人形が壊れただけだろう。こんなモノ、死体さえあれば補充は幾らでも─────ッ!?』

 

『お前は!生命を、何だと思ってやがるッ!!』

 

『そんなこと────絶対に許さない!』

 

 

仲間の為に生命を投げ棄てた紅蓮の死を嘲笑うカイル。激昂したユウヤはカイルを殴り飛ばし、飛鳥は涙を拭い、目の前の男の狂気を止めようと共に戦った。

 

彼等の強い思いに呼応し、突如飛び出してきた超秘伝忍法書の力が、飛鳥とユウヤを強化した。新たな姿と化した二人は連携し、最後の最後まで抵抗を繰り返したカイルを打ち倒し、彼の狂気に満ちた計画を頓挫させることができた。

 

 

問題は、その時の力。変化した姿は超秘伝忍法書から引き出されたものであった。つまり、彼女の本来の力。使いようによれば、カイルに適応できたあの姿になれるかもしれない。

 

 

だからこそ、飛鳥は自主的にユウヤに特訓を求めた。彼もそれに応じ、何度か彼女の手伝いをしていたのだ。しかし、どれだけ経っても、その姿に近付ける気がしない。

 

 

「────単なる特訓ではない、別のものが必要なのかもな」

 

 

 

直後、近くから複数の轟音が響き渡った。

 

 

 

「な、なにっ!?」

 

「今のは───爆発か!」

 

慌てて周囲を探るユウヤと飛鳥。二人の視線の先で、爆発の煙が燃え上がっていた。続く轟音と悲鳴の声に、二人は互いの顔を見合わせる。

 

 

「誰か暴れてるみたいだな、ここまでの被害を出すとは普通の相手じゃなさそうだ」

 

「っ!早く止めに行かないと!」

 

「─────分かってる、行くぞ」

 

 

爆発のする方へと飛んでいく二人。彼等の居た場所にある小さな水溜まりが、ピチョンと反響する。その瞬間、水溜まりは一瞬にして地面へと吸い込まれるように、消えていった。

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