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黒き雷と白き姫君
人々が寝静まった深夜。
常に照らされた明かりも少なくなっていった街から外れた、とある研究施設。
森に隠されたその建物は、明々と照らされた室内の光を上手く隠しており、一目に付きにくい隠蔽をしていた。
その建物を見下ろす影が一つ。少し離れた山の崖で、一人の青年がそこにいた。
「……………この施設か」
その呟きは、静寂に満ちた夜空に溶け込む。青年は明らかに強い警戒を視線として建物へと向けていた。
「天星さん」
ふと、暗闇から声が響く。
銀色の髪をした青年が影が現れ、黒髪の青年へと深く頭を下げる。
「前線部隊、『
「………分かってる。急かさなくても、すぐにやる」
そう言うと、ユウヤは崖から先に進むように、前へと歩み出した。崖から飛び降り、建物へと落ちていく。
「──────任務、開始」
瞬間、青年を中心に、莫大な電気が迸る。青を通り越え、白が空気を焼き、破裂していく。それは天から降り注ぐ落雷というよりも、無数の雷を帯びた一つの星そのもの。
夜空に浮かぶ大きな光源は、一瞬でその姿を消した。その代わりとして、明らかな変化が生じる。
先程まで、明々とついていた施設の灯りがいつの間にか消え去っていたのだ。その変化に気付いたのか、施設内部では人々の戸惑いとあわてふためく様子が伺える。施設外壁に搭載されていた防犯装置や対人無人機などの兵器も、電気の花火を放ちながら機能を停止させる。
タンッ! とユウヤは地面に降り立つ。その彼の全身を、凄まじい量の電気が覆い、火花を散らしていた。未だ電気を押さえられないのか、彼は目を細める。
天星ユウヤ。
彼に与えられた力、その能力は異能。数百年に一度と言われる程の、元素属性を宿した超常的な能力。彼はその中でもこの世界で唯一無二の強さを誇る力────『電気』、『雷』を操れる。
彼の異能は肉体へと適合しており、その効力は人間の限界を超えるまでの力を発揮できる。心臓は電気を生成し続ける無限機関、神経は電気を通し、筋肉は電気により強化できる。
彼が組織のNo.4に選ばれたのは、それ程までの異能と、それを完全に使いこなせる戦闘センスがあってものであった。
ユウヤは研究施設から奪った電気を自身の周囲に帯びさせながら、開かなくなった自動扉に電気を送り込む。強引に扉を開かせ、彼は暗転した闇の中へと踏み込んでいく。
◇◆◇
『────○○市から数キロ離れた施設を中心に、大規模な時空震動を確認───次元域の負荷、深度の推定から、特異点の存在を把握しました』
突然呼び出された事に不満を覚えながら、自分達の拠点へと着いたユウヤの耳にオペレーターの言葉が入る。単に聞いていただけの話だが、その内容に思わず眉が動く。
『………特異点、だと?』
『まぁね。だが、影響は「聖杯事変」を軽く越えてる。次元域への伝播も、別世界に届いてると見ていい。今回の件でどれだけの被害が出ていることか』
大型のホールで、オペレーター達への指揮を行っていた志藤がそう漏らす。
特異点、それは凄まじい力の塊と言うのが簡単な意味合いだろう。世界や時空そのものを巻き込む程の未知数エネルギーの渦。発生源や原因すら未解明であり、対処法も限られている────謂わば、天災に等しい。
『─────じゃが、今回の原因は分かっておる』
そういう声が、真横から聞こえてくる。同時に、先程までなかった筈の気配が、いつの間にか現れていた。ユウヤはその相手を睨み、
『神威、呼び立てておいて挨拶もなしか』
『フフフ、妾とて忙しい。構って欲しいのであれば、存分に構ってやるぞ?妾も暇だしのぉ』
『さっさと話をしろ、こんな事をしてる暇はないだろ』
まるで高貴な姫を連想させる着物を着込んだ女性 神威を問い詰める。神威は嫌な顔もすることなく、手に持った扇子を開き、語り始める。
『今回の特異点、それは人災と言っても過言ではない。本来であれば保管するはずであった聖杯を使ったのじゃよ、特異点による被害を止める為、独断でな』
『………誰がやった』
『首謀者は天柳寺博士。あの施設の所長を勤めとる男じゃ、こやつはあの施設に部下と共に閉じ籠り、何かをしようと画策しておる』
明らかに警戒を強めるユウヤに、神威は優しい笑みを向ける。その後、ニカッと愉快そうな笑顔を浮かべ、ユウヤに命令を下す。
『妾の愛弟子のラストを向かわせる。ラストには天柳寺博士の保護及び護衛。そしてユウヤ、お主には特異点の沈静化と、その原因となるものの回収を頼みたい』
◇◆◇
施設の内部。
大型装置の備えられた部屋で、特殊部隊と思われる兵士達が何かの作業を行っていた。
「────
部隊の隊長である男が、無線機越しに誰かと連絡を取る。男が連絡を取っている相手が誰か気付いた兵士達は、一言も声を発さずに、作業の手すら止める。
彼等の肌を、冷や汗が伝っていた。
いつの間にか沸き上がるそれは、尋常なものではない。明らかな恐怖に抗えぬまま、必死に怯えを抑え込んでいた。
音を出すことすら、許されないと言うように。
「………はい、分かっております。ここの職員は見つけ次第始末してます。我々の存在を知る者は一人として居ません。………………はっ、ありがたきお言葉です。このまま事を済ませます」
会話の最中も、隊長はまるでサラリーマンのように、必死に相手の言葉に応対していた。そして何かを任されたのか、覚悟を決めたように応じると、無線機の通信を止めた。
そして、深い安堵の息を漏らすと、同じように落ち着いた様子の隊員達に声をかける。
「…………よし、さっさと続けろ。『特異点』に関する物はとにかく全て回収するんだ」
「た、隊長……質問ですが」
作業を続け始めた一同の、一人の隊員が隊長へと呼び掛ける。装備も軽いもので、動きからして恐らく新人だろう。
彼は近くに転がる屍に震える声を押し殺しながら、疑問を漏らす。
「ここにいる人達を殺して………あの人は何を手に入れようとしているんですか?もしかして、世界をどうにか出来るような────」
「新入り、生き残りたいなら詮索するな」
そんな新入りを咎める事なく、隊長はあっさりとそう言う。巨大な装置を弄りながら、隊長は恐ろしさを実感したような声で言う。
「あの方は闇社会を束ねる頭角の一人であり、機嫌次第で俺達を殺すような御方だ。少しでも感に障れば切り刻まれるぞ」
「…………そんな、俺達は一応部下ですよ……?」
「あの方にそんな言い訳は通じねぇさ。どうせ俺らは補給出来る駒だからな。あの方の機嫌を悪くして、処分された奴を何人も見てきた」
マスク越しに顔を青ざめさせる新入りに、隊長はさっさと動けと呆れたように言い放つ。慌てて作業に戻った新入りの背を見据え、隊長は目の前の装置に視線を向ける。
「この装置の中身が、俺達の目当てか」
巨大な大型の装置。何かが入っているのか、大きな棺桶に無数のチューブが繋げられている。目の前のコンソールに視線を向けると、あと少しで解除出来るようになっていた。
実行、そう記されたボタンに指を添える。
「中身が何だろうが関係ない。我々の目的を遂行するまでだ」
「────悪いが、そういう訳にはいかない」
全く聞き覚えのない声が、室内に響き渡る。咄嗟に警戒を行おうとする彼等であったが、更なる異変が眼前で生じる。
バチンッ! とコンソールの端末に火花が炸裂する。瞬間、装置の電源が落ちたように、反応しなくなる。隊長は慌ててコンソールを動かそうとするが、装置から電気が失われていた。
振り返り様に立つ青年の姿を見て、彼等は息を呑み込む。
「天星……ユウヤ……ッ!」
「ふざけやがって!あの『黒雷』が何でここに来やがるんだッ!」
相手が何者かを知り言葉を失う新入り、自分達よりも格上の相手に悪態をつくしかない隊長。他の隊員たちも、同じような反応であった。
ユウヤは彼らの姿を眼にし、怪しむように眼を細める。軍隊のような厳重な装備だが、国の軍人とは思えない。どちらかと言えば、誰かに支える兵士と言うのは間違いないだろう。
「………お前らを見逃してもいい。但し、目的のそれだけは諦めて貰おうか」
「おいおい………天下の傭兵さんが横取りかよ。大人気ねぇじゃねぇか」
「傭兵としてなら、横取りはしないさ。だが、もう一つの役割としては重要な事でな。悪いが、大人しく尻尾巻いて逃げ帰れ」
そう言うユウヤだが、全身から電気を放つのを忘れない。放電が空気を焼き、まるで自我を持つように轟き声を響かせる。
怯えきった新入りが、隊長に声をかける。
「………た、隊長」
「……………仕方ねぇ、退くぞ。何人かボスに殺されるかもしれねぇが、それでも全員はねぇだろ」
隊長の判断に、誰も否定的ではなかった。むしろ賛成というのが意見なのだろう。すぐさま装置から離れ、その場から退く彼等を見送り、ユウヤは装置へと近付く。
しかし、その瞬間。
隊長は異変に気付いた。新入りの近くにいた隊員の一人が、全身を震わせていたのだ。呟くような声は、怒りに染まっていた。
「───ふざけるな」
「?おい、お前。どうし────」
「ふざけるな!余計な真似をしやがって!!」
怒声と共に、隊員は肩に掛けていたアサルトライフルを身構える。安全装置を乱暴に外し、装置の前に立つユウヤへと狙いを定める。
慌てて止めようとする新入りと隊長達だったが、その隊員は「黙れッ!」と叫び彼等に向けて乱射する。悲鳴が響き渡り、自分に近付く者がいない事を確認した隊員はユウヤに向き直る。
そんな隊員を軽蔑するように、ユウヤは険しい視線を向ける。
「仲間を撃つのか……正気か?」
「黙れ!貴様如きが好き勝手ほざくな!第一!コイツらは俺の仲間などではない!誰がこんな、ごみ溜めのクズどもの仲間であるものか!全てはこの為、それを手に入れる為までに我慢していたのだ!悪になるという不愉快な事も受け入れたのもな!!」
ペチャクチャと捲し立てる男に、ユウヤは最早嫌悪感しか向けていない。
「それなのに!ポッと出の貴様風情に邪魔されるだけではなく!目当てのそれを奪われるなどあってはならない!我々の正義においても、絶対に許されない事だ!」
「…………闇社会の末端に入り込んでるクセにプライドがあるのか、安い正義だな」
あっさりとした挑発に、引き金に掛かる力が強まる。マスク越しに男は、視線だけで殺せそうな程の殺気を込めている。睨み返しながら、ドスの効いた鋭い声で怒鳴り散らす。
「金の為なら誰にでも媚を売る───薄汚い賞金稼ぎ風情がッ!!」
「他人の手柄を掠め取ろうとしてたハイエナが、偉そうに言えることかよ」
その返し、男の怒りは頂点に達した。
顔を真っ赤に染めると同時に、アサルトライフルの引き金を引き抜き、ユウヤに弾丸を叩き込んだ。
しかし、それらの弾は青年に当たることはない。彼が周囲に放った電磁波が、防壁のように弾丸を全て弾いていく。空中でほんの一瞬制止した弾丸が、地面へと落ちる前に───ユウヤはそれを蹴り飛ばし、男へと打ち返した。
咄嗟に男は銃を構えて防ごうとするが、まるで砲弾のように返された弾丸によって銃を砕かれ、そのまま遠くへと吹き飛ばされる。
破損したヘルメットを乱雑に投げ捨て、頭部から止めどない血を流した男は血走った眼でユウヤを睨む。正気とは思えないような様子で男は
「この…………ッ、貴様ぁッ!!」
錯乱したように激昂しながら、近くに置かれていたケースに手を伸ばす。鍵を引き剥がし、保管されていたスイッチを取り出した。
それを目にした隊長が、明らかな驚愕を示す。指にスイッチを添える男を目にし、強い声で周囲に向けて怒鳴る。
「───不味い!てめぇら逃げろ!」
何かに気付き逃げ出し始める隊員達すら無視して、男はスイッチを押す。その瞬間、周囲の空間が変容する。世界そのものが、全く別のものへと書き換えられたように。
新たな気配を感じ、ユウヤが上を見上げると─────そこには、異形が存在していた。
紫色の肌をした化け物、それはユウヤの知識が正しければ、妖魔という忍の宿敵である怪物だ。だが、その存在が単なる妖魔ではないというのは見て分かる。
その姿は、女性のような上半身と巨大な口を剥き出しにした多脚の魔獣と呼ぶべきだろう。だが、禍々しさと同様に、その怪物の肉体に、本来ならば存在しないものがある。
魔獣に打ち付けられたような、複数の金属の槍。脚の一部も機械で構成された義手で、上半身の女性の胸の中心には丸いコアらしきものが埋め込まれており、顔には金属的なマスクが取り付けられている。
百足のように壁を伝い走り出した妖魔らしき異形は、男の前へと降り立ち、ユウヤと敵対するように唸り声をあげる。
「…………どうやら、単なるハイエナじゃないみたいだ」
上着を脱ぎ捨て、全身から電気を放つユウヤ。彼はその妖魔を前に、警戒を一段と高め、両腕を広げる。
周囲から黒い砂礫を集め、両腕に纏わせる。青い雷が迸ると共に、黒い鋼鉄の装甲が彼の両腕に展開されていた。
「天星ユウヤ────世界でも数少ない『雷』の異能の適合者」
不気味に笑う男は、ユウヤの力を眼にして、更に笑いを深めた。
「いかに持て囃されてきたお前であろうとも、コイツの相手はお前でも厳しかろう」
「……随分と自信満々だな」
「当然だ。コイツは何人もの忍を殺している改造型の妖魔だ。貴様のように、勝ち誇った忍学生どもをぶち殺して来たのだ!」
まるで新しい玩具を見せびらかす子供のようにはしゃぐ男から意識を反らし、ユウヤはある単語に耳を傾ける。
忍学生を、殺してきた。
ユウヤの認知する話であれば、忍学生は妖魔の存在を知らされない。何故なら未熟な忍では妖魔に勝てないとされているからだ。だからこそ訓練を積み、卒業してから妖魔の存在を教えられ、戦いへと赴く。
しかし、何も知らない彼女達は、この妖魔になぶり殺しにされたのだ。経験も、実力も未熟で、太刀打ちできないにも関わらず。そう思うと、不愉快だという感情が沸き上がってきた。
「仮にも正義を称する奴が、改造された生物兵器とはいえ、妖魔に手を出すとはな。…………堕ちる所まで堕ちてるな、お前の語る正義も」
「何とでも言え。貴様らには理解など出来まい────この世から悪を滅ぼす、真の正義を。
我等が崇拝すべき偉大なる正義の執行者! 今は亡き黒影様の遺志を果たす!!この世に蔓延る悪を浄化することでなぁ!!」
(ッ!?黒影だと?)
男の言葉に、ユウヤは愕然とした。
何故、この男が伝説の忍 半蔵と並ぶであろう古き忍の名を語るのか。自分勝手な正義を名乗るのも、それが理由なのか。
「さぁ!我等の正義を侮辱した傭兵崩れ!正義の裁きを味わうがいいッ!!」
『グルギャァァァァァアアアアアアアアアアッ!!!』
男が、端末を操作すると妖魔が咆哮を轟かせながら、ユウヤへと襲いかかる。近くの壁を吹き飛ばしながら妖魔は、形振り構わず突撃してきていた。
「チッ!」
ユウヤは背を向けると、近くの大型装置に取りつけられた棺桶を持ち上げる。コードやケーブルを無理矢理引きちぎり、担ぎ上げながら外へと飛び出す。
ガラガラガラッ! ドガァァァンッッ!!!
「どうしたぁ!?さっきまで偉そうな口はぁ!逃げてばかりではすぐに追いつくぞぉ!!」
施設を半壊させながら、外へと逃げるユウヤを追いかける妖魔。それを追いかける男は、高揚とし感情を抑え込むこともせず、楽しそうにユウヤを煽る。
棺桶を担いだユウヤは、すぐ近くまで迫ってきた妖魔の突進を、何とか防ぐ。突き立てようと伸ばす鋭利な脚を蹴り、すぐさま距離を取る。
妖魔が全身から無数の触手を生やすと、それらを指し向け、ユウヤを蹂躙しようとする。しかし、彼が放った凄まじい放電に、灰化するまでに消し焦がされる。
先程から何度も棺桶に意識を向けるユウヤに男は、ニヤニヤと嫌らしい笑みを向ける。
「どうやら、しぶとさだけはあるようだ。しかし、貴様の電気もいつまで持つかな?」
「──────フッ」
男の嘲笑に満ちた言葉に、ユウヤは馬鹿を見るような眼で逆に嘲笑う。それを見返した男が顔を真っ赤にして、何が可笑しいと怒鳴る。
「いや、まさかな。この棺を安全なところまで運ぼうとしていたのに、今のだけで俺に勝てると思ってるのかって思ってな」
「な、何!?」
「─────可哀想な妄想をぶち壊すようで残念だが、準備運動は終わりだ」
そう告げ、腰を深く落としたユウヤは全身に膨大な雷を蓄積させる。黒い髪が凄まじい雷電に晒され、白さを少しずつ取り戻していく。
そして、一瞬──────雷が落ちたような轟音と共に、光が世界を塗り替える。
視界を奪われた男は眼を擦りながら、再び視線を向け直す。その瞬間、喉が干上がったかのような感覚を味わった。
彼が見たのは、まるで巨大な隕石が落ちたようなクレーターと、その中で辺り一帯に飛び散った妖魔のものと思われる肉片の数々。
青ざめる男だが、自身の真後ろから響く声に、心臓が止まりかける。
「────『
振り返った先にいたのは、身体を漆黒の金属鎧に包み込んだユウヤであった。その身体は雷そのもののような、莫大な電気を纏っており、その姿は雷神と呼ぶに相応しき姿であった。
ユウヤは片手で掴んでいた妖魔を放り投げる。上半身を無理矢理に引き裂いたような痕と、鋭い爪で掴まれ、無残に変わり果てたマスクが印象的であった。
「…………馬鹿、な……………そ、そんな馬鹿────な゛ッ!?」
「悪いが、寝てろ」
呆然とする男の首に指を突き立て、高圧力の電気を流す。感電したように男は全身を痺れさせながら、その場に倒れ込む。
男を見据え、呆れたように鼻を鳴らしたユウヤは、すぐに連絡を繋ごうとする。
が、その瞬間。
機械的な音を立てて、棺が蓋を開いた。蒸気と思われる煙が周囲へと広がっていく。
「ッ!!」
即座にユウヤは構えを取る。今回の問題、特異点は存在しなかった。ならば、あそこの中身は特異点に関係するものだ。何であろうと危険に間違いはない。
何時でも対処できるように構えながら、ユウヤは踏み込む。そっと中身を覗いたユウヤは──────驚愕を明らかにする。
「……………子供、だと?」
中にいたのは、十歳くらいの全裸の少女だった。
髪は真っ白な長髪で、脚に届くまで長い。顔も幼いながらも綺麗で、こんな状況でなければ見惚れてしまうようであった。
気を落とすユウヤに、不安が生じる。
この少女が何者なのか。何故この棺に、あの装置に閉じ込められていたのか。今回の特異点と、何の関係があるのか。
そんな彼の目の前で、少女はゆっくりと眼を開いた。
「……………?」
息を呑み込むユウヤの前で、少女は起き上がり、周囲を見渡す。あまりにも弱々しく、今にも力尽きそうな雰囲気がある。しかし少女は何かを求めるように、辺りを見渡す。
ふと、少女の視線がユウヤを捉える。
宝玉のように輝く瞳が、次第に綺麗に光り始めた。たどたどしい声で、少女は呟いた。
「…………ぱぱ?」
「────────え?」
傭兵、子持ちになるってよ(満面の笑み)