雷神VS伝説の先輩
「───ようやく、任務が終わったー!」
伝説の残された廃墟 聖印町で『聖杯』を原因として起きた『聖杯事変』から二日が過ぎ、飛鳥たちは忍学生として任務を終えたところだった。
「ったく~、大したことなくて困るなぁ。本当にユウヤが来なくても大丈夫だったな」
葛城の言う通り、飛鳥たちの任務にユウヤは参加しなかった。理由は簡単、これは忍である彼女たちの任務であり、半蔵学院が引き入れた傭兵とはいえ色々やらせる訳にはいかなかったからだ。
ズッ、ドォォォンッ!!!
という爆音と共に、地面に衝撃が走った。地震にも似た震動が起こり飛鳥たちは戸惑うが、すぐにとある事実に気付いた。
「……半蔵学院!あそこで戦ってるの!?」
そう言うと同時に学院の方からドォォン!!とまた響いた。飛鳥たちは急いでそこに向かうことにする。
誰が戦ってるのか、予想がついたから。
半蔵学院に着いた時には、凄まじい惨状だった。激しい戦闘の後だと分かるほどのもの。辺りに舞う砂塵が少しずつ晴れていく。
そして、姿を現したのはユウヤ。かつてゼールスを倒した時の、『雷神』としての力を引き出した姿だった。
全員がその姿に驚く中、飛鳥だけが別の理由で驚いていた。
覚醒している筈のユウヤは荒い息切れをしていた。かつての強敵を圧倒した力を使っている筈のユウヤが、だ。
「ッ!お前ら、下がってろ!」
飛鳥たちに気付き、そう声をあげるユウヤ。
「………」
同じように晴れた砂塵から現れたのは女性だった。サラシを巻いた上に学ランを着込んだ女性。両腕を組みながら威風堂々と言わんばかりのオーラを辺りに放っていた。
「なッ!?あの人は!!」
「大道寺先輩!?」
先輩である二人、斑鳩と葛城が驚愕する。飛鳥たちがどういう意味かと問いかけようとしたら、
「おー、もう帰ってきたか貴様ら。早いな、 もう少しかかると思ってはいたが」
すぐ近くからした声の方を見ると、ベンチに二本足で立っている小人がいた。
統括者 ゼールス。
かつて聖杯を使い、世界を支配しようとした存在。ユウヤに敗北したせいで小さくなったが、飛鳥たちにとって凄まじい強敵だった。
今、ベンチに置いてあるペットボトルに必死に上ろうとしている。その姿には、もう強者としての威厳とか見えない。
「どういうことですか!ゼールスさん!」
「言い訳など見苦しいだけだ、何も言わん。いや、何も出来るわけないだろアレ………」
ハッ、我を圧倒したあの姿に追いつくとか強すぎじゃね?と、口調が壊れかけてる元統括者は遠い目をしていた。だが、あっさりと正気に戻るとすぐさま話をし始める。
「そうだな、あれは今から数十分前の話だった………」
◆◇◆
訓練場のベンチに座っているユウヤは口にした炭酸飲料を横に置く。キャップが閉まっていない、そもそも付いてない状態なのだが、それには理由があった。
「ふーむ、ぴりぴりするな。このコーラとかいう物は」
「まあ………炭酸だしな。別のやつ飲むか?」
「いや、飲める。この味も覚えておきたい」
手の平サイズの大きさへと変わった統括者 ゼールス。彼でも飲めるようにペットボトルのキャップに炭酸飲料が入れられていたのだ。
再び口にしようとペットボトルを手に取ったユウヤは気付いた。目の前に堂々とした様子で立つ人が居ることに。
「うぬが、天星 ユウヤか?」
「…………誰だ、アンタは」
初対面の人物に使う言葉遣いでも声の低さでもないが、ユウヤがそうなるのも当然だった。
目の前の人物は隠していなかった、圧倒的な強者が放つ覇気を。これ程の覇気を向けられ、戦い慣れた人間に警戒するなと言う方が難しい。
胸にサラシを巻き、その上に学ランを着こんだ女性はユウヤの言葉を聞くと、意外にもアッサリと名乗り上げた。
「我が名は大道寺、強者を求め、極上の死の美を探求するものなり!」
そういえば、とユウヤは記憶を辿った。半蔵や霧夜から聞いたことがあった、破格の実力を持ちながら卒業せず、自らの意思で留年している忍学生がいると。
まさか、目の前に現れるとは思いもしなかったが。
「悪くない覇気。聖杯事変を解決しただけはある」
「随分と上からだな。俺なら倒せるとでも思ってんのか?」
バチバチ!とユウヤの周りの空気が唸る。彼がここまで苛立っているのには理由がある。
──大道寺の口調、それを聞いて嘗められていると思ったからだった。
「その面構えも中々のもの、我に挑むに値する。うむが望むのなら我と拳を交えよう」
「──へぇ、言ってくれるな。それならさぁ、
負けた時の言い訳ェ!考えとけよ!!」
売り言葉には買い言葉。挑発を叩きつけ、全身に雷電を帯びるユウヤ。それを目の前に受け、深く息を吸い込み、ズンッ!!と地面を踏み抜く大道寺。
二人が激突したのは、数秒後。それから全身全霊の死闘が幕を開いた。
「……………お代わり出来んのだが」
空になったキャップを両手に持ち、ベンチに置かれたペットボトルを見る。大きさからして届かないことに気付き、ショボーンと落ち込んでいた。
◇◆◇
「───という訳だ」
「「「「「何してんの、あの人たち!!?」」」」」
その事の顛末を聞いた五人はそう叫ぶしかなかった。強者に意欲的な葛城ですら遠慮する程の人物に向けられたものでもあり、その人物に喧嘩を吹っ掛けた傭兵の青年にも向けられていた。
「………へっ、本気でもここまでやるのか。なら、全力じゃないと勝てないよな」
口の端から垂れた血を拭い、ユウヤはニヤリと笑う。
「潰れろ!『
巨人の如く怪力が一本の腕に宿り、容赦なく振るわれる。先程まで余裕さを保っていた大道寺は驚きを露にし、すぐさま対応する。
「むんッ!!」
片足で踏み込み、拳をぶつける。最早形容することも出来ない程の衝撃が発生し、大道寺の足元が目に見えてへこむ。
「なるほど…………今のは痛かった」
(バッ!!?地盤すら響かせる力だぞ!?痛かったで済むかよ普通ッ!!)
地面すら貫く障壁の束を受け止めた一撃を耐えきった目の前の相手の化け物っぷりにユウヤは笑いすら込み上げてきそうになる。まあ、本気で笑うことはないが。
だが、ニヤリと微笑みをつくるユウヤ。その顔は、何と言うか…………まるで切り札を隠すことを諦めたようなものだった。
つまり、失笑。
「喜べよ。全身全霊の全力だ────セーフリミッター、オール解除」
その直後、ユウヤを中心に電力が溜められていき、馬鹿でかいエネルギーへとなっていく。それは、今までの雷とは明らかに威力が違うものだった。
「………アイツ、あそこまで電力を生み出せるのか。あの二人、普通の人間止めてるぞ」
感嘆か呆れか、分からない声を出すゼールスに全員が疑問の視線を向ける。どういう意味かを瞬時に理解したゼールスは補足と言わんばかりに説明する。
「およそ二億キロワット。日本が一時間使う最大電力量を軽く越えてる。これだけでもう発電所とか要らないくらいだと思うぞ?それにしてもあの大道寺とかいうのも凄いな、あれを正面から受けようとしてるぞ」
斑鳩と柳生の顔が真っ青になり絶句していたが、他の三人はよく分からないような顔をしていた。だが、あれ?と思った飛鳥は息を呑む。ある事が脳裏に浮かんだからだった。
「………もし、それをここで放ったら?」
「この辺りが吹っ飛ぶ、それはもう壮大に」
最早声が出ない。平然と言い切ったゼールスに全員は固まったままでいる。
そして、彼女たちの行動は意外と早かった。
「「「「「ストォーップ!!!!」」」」」
止めた。それはもう、全力で止めた。でも一番驚いたのは、彼らがアッサリと引き下がったことだった。
オマケ
数時間後、
「わーっ!落っこちそう!」
「へっ!アタイのコンボから逃れなれないぜ?避けれるもんなら避けてみな!」
「………まとめて来るがいい、我は逃げも隠れもせんぞ」
「おい、誰か大道寺押さえろ!全員まとめて吹っ飛ばされるぞ!?あと葛城テメェさっきから掴むんじゃねぇ離せ!!」
四人がコントローラーを手に持ち、テレビゲームに熱中している。
声の主は上から順に雲雀、葛城、大道寺、ユウヤという風になる。
他の皆も意外と落ち着いている。飛鳥は皆に、柳生は雲雀に向かって応援して、斑鳩は肩にゼールスを乗せながらその状況にため息を漏らしていた。
「おーおー、やってるやってる。ゲームとか言うやつも凄いものだな。我は操作できんが」
「………あの、ユウヤさんと大道寺先輩、先程まで本気でやり合ってましたよね?何故仲良くゲームをしてるんでしょうか?」
「さぁ?そういう質なんじゃないか?……あ、二人ほど場外までいったな」
「「ぬあああああああああああああ!!!」」
「……………………フッ」
操作キャラが退場していく様を見て絶叫するユウヤと葛城。そして二人を負かした張本人、大道寺はそう笑った。
大道寺先輩があまりにも強すぎる件について、
もう覚醒したユウヤとやりあえるとか、あの時のゼールスとかも倒せるかもしれない、ヤバイわ(戦慄)