閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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まさか、一日に2話投稿できるとは思ってなかった………


十六話 人形の意思

───少年が覚醒したのは、ガラスの中だった。

 

 

目が開き、周りを見渡す。

 

…………やはり、同じだった。右にも左にも同じようにガラスの中に入っている人がいた。

 

 

 

 

 

ガラスが開き、液体と共に外へと出た。

 

 

「───か、は」

 

 

外に出ると急に苦しくなり、口を押さえる。過呼吸になりかけながらも、何とかゆっくりと呼吸が出来るようになる。

 

 

「───ほう?驚いたな」

 

 

目の前に、男が立っていた。男は興味深そうな声をあげ、少年の顔を覗き込むように、しゃがみこむ。

 

 

 

「『人造人間(ホムンクルス)』が自我を得た?…………成る程な」

 

 

小難しい言葉を呟き、考え込んでいた男はゆっくりと立ち上がり、少年を見下ろす。

 

 

 

「個体名、KF.H-5641………だったか」

 

 

「────?」

 

 

少年はその奇妙な単語に疑問を抱く。その少年の様子に気付いた男は頭を掻きながら、コートのポケットを弄る。

 

 

 

「貴様の名前だが、オレも少し興味が湧いた─────生きたいか?」

 

 

その言葉はどういう意味があったかは分からない。だが、答えは既に決まっていた。

 

 

 

「生、き───た──い」

 

 

蚊の鳴くような小さな掠れ声で少年は強く呟いた。聞こえるか分からない声だったが、男は聞こえていたのだろう。満足そうにポケットから『とあるもの』を取り出した。

 

 

 

「…………なら、貴様に与えよう────『炎』を」

 

 

男は機械の腕で持っている小さくユラユラと燃える火を、少年の体に押し当てた。火が少年の体を焼くことは無かった。ズブリと少年の体に沈んでいった。

 

 

 

直後、重かった体が軽くなった。ゆっくりと両腕を使い、慎重に起き上がる。まるで、体そのものが変わったような感覚だった。

 

 

「フム、適合したか」

 

 

落ち着いた言葉の割には、嬉しそうに笑う男は少年に問いかけた。

 

 

「さて、貴様のことだが……………いちいち個体名で呼ぶのは面倒だ。だから、名前をつけてやろう」

 

 

だが、少年には男の言葉が聞こえていなかった。少年は見とれていたのだ。先程の火に。

 

 

男はそれに気付くと、成る程と呟く。そして、少年に声をかけた。

 

 

「決めたぞ、貴様…………いや、お前の、新しい名前を」

 

 

ハッと少年が振り返った。唖然としている少年に男は告げた。これから少年が死ぬまで名乗り続ける名前を。

 

 

 

 

 

「紅蓮、炎を使うことになるお前にはうってつけの名前だろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ………はぁ………」

 

 

今現在、彼は苦しそうに胸元を押さえながら、歩いていた。

 

 

彼の異能には欠点が一つあった。

 

 

 

単純なもの────時間制限だ。

彼はユウヤとの戦いで異能を使いすぎたのだ。その代償として彼は頭が砕かれるような激痛に襲われている。

 

 

 

それでもなお、彼が休まないのには理由があった。

 

 

 

「………焔は、皆はどうしたんだ?」

 

 

仲間である少女たちの存在があったからだ。

 

 

 

 

──彼女たちは仲間というものを教えてくれた。

 

 

──彼女たちは忘れられない思い出をくれた。

 

 

──彼女たちは希望を与えてくれた。

 

 

だからこそ、彼女たちのためなら、自分は────

 

 

そう考えた途端、目の前に扉があった。その扉を力ずくでこじ開ける。激痛を押さえながら、叫んだ。

 

 

 

「────カイル様!!」

 

 

侵入者である少女たちと大切な仲間の目の前にいる、その男の名前を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………紅蓮か、お前の相手はどうした?」

 

 

カイルは軽い口調で紅蓮に聞いた。その言葉に飛鳥たちは息を飲んだ。彼の言う相手が、ユウヤだと分かっていたから。紅蓮はチラリと飛鳥たちを見ると、すぐに答えた。

 

 

 

「───始末、しました」

 

 

途切れ途切れの言葉に、飛鳥たちは目を見開いた。信じられなかったのだ。自分達より強かったユウヤが倒されたことに。

 

 

「よくやったな…………悪いが、少し頼まれてくれるか?」

 

 

「何、ですか」

 

 

褒め称えるような言葉から一変し、頼み事をし始めたカイルに紅蓮は頭を押さえながらも答えた。

 

 

「安心しろ、簡単な頼み事だ」

 

 

優しく笑うカイルは機械の腕を上げて、指を指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────は」

 

 

指を指した方を見た紅蓮は、絶句した。まぁ、無理もないだろう。

 

 

 

 

「そこにいる、役立たずどもを殺せ」

 

 

カイルが指を指した方にいたのは他でもない、ボロボロの焔達だったのだから。

 

 

 

「そいつらは侵入者に負けた。負けた者には用などない」

 

 

カイルの冷酷な宣告に焔達の顔が強張った。紅蓮は限界だったのか、膝をついた。彼は否定するように呟く。

 

 

「でも……………そいつらは、俺の────」

 

 

 

 

 

 

「忘れたのか?」

 

 

空気が凍ったような感覚に陥った。カイルには容赦がない。自分の目的を叶える為なら何でもする…………人を殺すのも厭わない。

 

 

 

 

「貴様を作ったのはオレだ、貴様は人形だ。人形が感情を持つのが許されると思うか?」

 

 

ギチリと機械の腕から、音がなる。今のカイルには優しさなど有りはしない。

 

 

 

「命令だ、個体名、KF.H-5641。そいつらを殺せ」

 

 

だからこそ、目の前の人形に残酷な命令を下す。周りが静かになる中、膝をついていた紅蓮がピクリと動いた。

 

 

 

 

「──────い」

 

 

首をゴキリと曲げて、カイルは紅蓮を見下ろした。言葉が聞こえずに、あぁ?と眉を歪める。

 

 

「───できない。そんなの、できない!」

 

 

今もなお続く激痛に頭を抱えながら、紅蓮は立ち上がった。口から血の塊が吐き出される。だが、ゆっくりと、確実に言葉を紡ぐ。

 

 

 

「焔達は、皆は、俺を救ってくれたんだ!」

 

 

奥歯を強く噛み、ギシリッと音が響く。口から垂れる血を拭い、紅蓮は決意の籠った瞳を向ける。

 

 

そして、目の前の敵に向かって吠えた。

 

 

 

 

「俺は、仲間を、死なせない。この手で─────守るんだァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、立ち上がった紅蓮の腹部を鋭利な光の槍が貫いた。




彼の選択は、間違っていたとは言えない。

だが、正しいとも言えない。


何故なら、どれを選択しても大切なものを失うのだから。


───そして、彼は絶望の果てに、光を見た。


次回『人の在りかた』


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