───少年が覚醒したのは、ガラスの中だった。
目が開き、周りを見渡す。
…………やはり、同じだった。右にも左にも同じようにガラスの中に入っている人がいた。
ガラスが開き、液体と共に外へと出た。
「───か、は」
外に出ると急に苦しくなり、口を押さえる。過呼吸になりかけながらも、何とかゆっくりと呼吸が出来るようになる。
「───ほう?驚いたな」
目の前に、男が立っていた。男は興味深そうな声をあげ、少年の顔を覗き込むように、しゃがみこむ。
「『
小難しい言葉を呟き、考え込んでいた男はゆっくりと立ち上がり、少年を見下ろす。
「個体名、KF.H-5641………だったか」
「────?」
少年はその奇妙な単語に疑問を抱く。その少年の様子に気付いた男は頭を掻きながら、コートのポケットを弄る。
「貴様の名前だが、オレも少し興味が湧いた─────生きたいか?」
その言葉はどういう意味があったかは分からない。だが、答えは既に決まっていた。
「生、き───た──い」
蚊の鳴くような小さな掠れ声で少年は強く呟いた。聞こえるか分からない声だったが、男は聞こえていたのだろう。満足そうにポケットから『とあるもの』を取り出した。
「…………なら、貴様に与えよう────『炎』を」
男は機械の腕で持っている小さくユラユラと燃える火を、少年の体に押し当てた。火が少年の体を焼くことは無かった。ズブリと少年の体に沈んでいった。
直後、重かった体が軽くなった。ゆっくりと両腕を使い、慎重に起き上がる。まるで、体そのものが変わったような感覚だった。
「フム、適合したか」
落ち着いた言葉の割には、嬉しそうに笑う男は少年に問いかけた。
「さて、貴様のことだが……………いちいち個体名で呼ぶのは面倒だ。だから、名前をつけてやろう」
だが、少年には男の言葉が聞こえていなかった。少年は見とれていたのだ。先程の火に。
男はそれに気付くと、成る程と呟く。そして、少年に声をかけた。
「決めたぞ、貴様…………いや、お前の、新しい名前を」
ハッと少年が振り返った。唖然としている少年に男は告げた。これから少年が死ぬまで名乗り続ける名前を。
「紅蓮、炎を使うことになるお前にはうってつけの名前だろう?」
「はぁ………はぁ………」
今現在、彼は苦しそうに胸元を押さえながら、歩いていた。
彼の異能には欠点が一つあった。
単純なもの────時間制限だ。
彼はユウヤとの戦いで異能を使いすぎたのだ。その代償として彼は頭が砕かれるような激痛に襲われている。
それでもなお、彼が休まないのには理由があった。
「………焔は、皆はどうしたんだ?」
仲間である少女たちの存在があったからだ。
──彼女たちは仲間というものを教えてくれた。
──彼女たちは忘れられない思い出をくれた。
──彼女たちは希望を与えてくれた。
だからこそ、彼女たちのためなら、自分は────
そう考えた途端、目の前に扉があった。その扉を力ずくでこじ開ける。激痛を押さえながら、叫んだ。
「────カイル様!!」
侵入者である少女たちと大切な仲間の目の前にいる、その男の名前を。
「…………紅蓮か、お前の相手はどうした?」
カイルは軽い口調で紅蓮に聞いた。その言葉に飛鳥たちは息を飲んだ。彼の言う相手が、ユウヤだと分かっていたから。紅蓮はチラリと飛鳥たちを見ると、すぐに答えた。
「───始末、しました」
途切れ途切れの言葉に、飛鳥たちは目を見開いた。信じられなかったのだ。自分達より強かったユウヤが倒されたことに。
「よくやったな…………悪いが、少し頼まれてくれるか?」
「何、ですか」
褒め称えるような言葉から一変し、頼み事をし始めたカイルに紅蓮は頭を押さえながらも答えた。
「安心しろ、簡単な頼み事だ」
優しく笑うカイルは機械の腕を上げて、指を指した。
「──────は」
指を指した方を見た紅蓮は、絶句した。まぁ、無理もないだろう。
「そこにいる、役立たずどもを殺せ」
カイルが指を指した方にいたのは他でもない、ボロボロの焔達だったのだから。
「そいつらは侵入者に負けた。負けた者には用などない」
カイルの冷酷な宣告に焔達の顔が強張った。紅蓮は限界だったのか、膝をついた。彼は否定するように呟く。
「でも……………そいつらは、俺の────」
「忘れたのか?」
空気が凍ったような感覚に陥った。カイルには容赦がない。自分の目的を叶える為なら何でもする…………人を殺すのも厭わない。
「貴様を作ったのはオレだ、貴様は人形だ。人形が感情を持つのが許されると思うか?」
ギチリと機械の腕から、音がなる。今のカイルには優しさなど有りはしない。
「命令だ、個体名、KF.H-5641。そいつらを殺せ」
だからこそ、目の前の人形に残酷な命令を下す。周りが静かになる中、膝をついていた紅蓮がピクリと動いた。
「──────い」
首をゴキリと曲げて、カイルは紅蓮を見下ろした。言葉が聞こえずに、あぁ?と眉を歪める。
「───できない。そんなの、できない!」
今もなお続く激痛に頭を抱えながら、紅蓮は立ち上がった。口から血の塊が吐き出される。だが、ゆっくりと、確実に言葉を紡ぐ。
「焔達は、皆は、俺を救ってくれたんだ!」
奥歯を強く噛み、ギシリッと音が響く。口から垂れる血を拭い、紅蓮は決意の籠った瞳を向ける。
そして、目の前の敵に向かって吠えた。
「俺は、仲間を、死なせない。この手で─────守るんだァ!!」
直後、立ち上がった紅蓮の腹部を鋭利な光の槍が貫いた。
彼の選択は、間違っていたとは言えない。
だが、正しいとも言えない。
何故なら、どれを選択しても大切なものを失うのだから。
───そして、彼は絶望の果てに、光を見た。
次回『人の在りかた』
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