「────ガフッ」
腹を光に貫かれ、紅蓮は口から血を吹き出し、倒れこんだ。焔達が驚愕して紅蓮の元に向かおうとする。
「………ったく、何の冗談だ?」
無理だった。目の前の男 カイルの威圧感が彼女達の体を押さえていたのだ。カイルはそんな事お構い無しに、紅蓮に近寄ると────
─────腹を、蹴り抜いた。
「────ガハァッ!」
勢いのある蹴りが腹に直撃し、紅蓮は苦しそうに悶えた。
「…………この世界に隠された神々の奇跡、聖杯。それを手にいれるには俺の力では足りん」
────蹴りつける。
「聖杯の守護者である『奴』がいる以上、俺以外に強い人間を集めねばならない」
────蹴りあげる。
「だが、俺は成功させた。人為的に異能使いを作り出せる実験を!」
────蹴り飛ばす。
「あと一ヶ月をすれば、人工的な異能使いを十人作り出せる。オレは、2年と言う月日を経て!聖杯を手にできるのだ!」
人を作り出すという狂気の実験はそれが理由だった。何百人もの
「そのための────」
自身に酔いしれるような演説をピタリと止め、足下に倒れこむ紅蓮を見下ろす────直後、
「そのための、
激情が溢れたかのように、怒り狂いながら、何度も紅蓮を蹴りつけた。
「俺が作った命を、何故オレのために使おうとしない!?貴様は、俺が作った、人形だろうがァ!!」
「ふざけやがって!このゴミクズが、舐めやがって、さっさと死ねよ、オイ!?」
彼の怒りを、紅蓮は静かに受けていた。だが、紅蓮の瞳には揺るがない決意が宿っていた。
──それに、カイルは気付いたのだろう。
「ふん、あくまで人であるつもりか」
不快そうに顔を歪ませると、周りを見渡した。そして、笑みを浮かべた─────凶悪な笑みを。
「────あぁ、そうか………なら」
紅蓮から足を退け、別の方に視線を向けた。
視線の先には─────
焔達がいた。
「………………あ?」
呆然とする紅蓮を他所にカイルは歩みを始めた。ニヤニヤと笑みを浮かべながら。
「───待て、待てよ」
彼は気付いた。いや、気付いてしまった。カイルが何をやろうとしているのかを。
「待てよ、おい!俺が、俺が悪いんだろ!?」
口から血を吹き、必死に動かない体に鞭を打ち、強引に動かす。
「いやー、無理だ」
血の滲むようなカイルの懇願をカイルは払いのける。
「これが貴様の選択だ」
「──────ぁ」
「止めることも出来ずに、仲間が殺されていく様をしかと目に焼きつけるがいい!」
高笑いをしながら、カイルは両腕を焔達に向ける。自身の光で殺すために。
「───や、め──ろぉ!」
「光素、収束」
紅蓮の言葉に耳を貸す様子がなく、機械の腕に光が集まり始めた。少しずつ光が集まるのを、全員が理解する。
そして、無慈悲にも────
「やめてくれぇぇぇぇぇぇ!!!」
紅蓮の絶叫を踏みにじるかのように、完全に光が集まった。そして、カイルは笑いながら、突き出した腕を振るう。────詠唱を、始める。
「フォーティカル・ライト────」
詠唱が途中で終わる。静まり返る空気に何事かと全員がカイルに視線を向ける。
原因は、すぐに分かった。
「─────がァ!?」
カイルの顔面に青年の拳が打ち込まれたことを。打ち込まれた拳の力が強かったのか、もしくはカイルが油断していたからだろうか、カイルはそのまま吹き飛ばされ、壁に衝突し、崩壊させた。
カイルを吹き飛ばした下手人は、座り込む飛鳥たちに声をかける。
「悪いなァ、遅くなったぜ!」
「……………ユウヤくん?」
彼女たちは聞いていた話を思い出す。始末されたと言われたときは頭が真っ白になり、何も考えられなかった。
「──生憎だが、まだ喜ぶ場合じゃねぇぜ?」
瓦礫が吹き飛び、音を立てて周りに落ちる。
「おいおい、ふっざけんなよ。おかしいだろォ」
殴られたことも忘れ、フラフラと体を揺らしながら、立ち上がる。
「何故、貴様が生きてる!?」
その様子には、もはや余裕など有りはしない。困惑しながら、ユウヤに指を指して、声を張り上げる。
「そうだ、確かに始末したと─────────あ?」
ここで、ようやく気付いた。自分はユウヤの生死を確認していないことに────そして、それを伝えたのは誰だろうか。
ギギギと首がブリキ人形のように、動く。そしてカイルは自身にユウヤを始末したと報告した人物に声をかける。
「…………どういうことだ?紅蓮」
紅蓮は答えない。倒れ込んだ状態のまま、動かずにいた。
「まぁ、テメェに分かりやすく教えてやる。
こいつは、仲間を守るために戦ってたって訳だ」
ユウヤは語る。自身が落ちた穴の先はこの研究室の真上だったと、本来ならすぐに降りようとしたが、カイルが油断している隙をつこうと隠れていたという事実を。
「………紅蓮」
焔が倒れ込んでいる紅蓮に声をかける。紅蓮はピクリと体を動かすが、何も話さない。
「そう……………か」
何も感じさせないように、下を俯いていたカイルは静かに答える。不気味さを感じる様子だった雰囲気は、一瞬で払拭された。
にこやかな笑顔を浮かべ、明るい声でハッキリと話した。
「────では、貴様から散れ」
有り得ない現象が起こる。
|数百メートル離れていた筈のカイルが、一秒もせずにユウヤの前に立っていたのだ。
気付くことが出来なかった者たちの前で、カイルは機械の義手を降り下ろ────
「よぉ、釣れないことをするなよ?」
───されなかった。
カイルの機械の腕をガチリと掴み、ユウヤは不安そうに抗議をする。
「あぁ?」
呆けた声を出すカイルに、ユウヤはなんのためらいもなく、回し蹴りを打ち込んだ。
カイルは吹き飛ぶが、空中で体を捻り、体勢を立て直す。
操り人形のように、カクカクと顔を上げると、静かに言った。
「あー、なんだ。───ムカついた。もうただじゃ済まさない。絶望させてから、再起不能にしてやる」
「ハッ、他の奴らに命令させて、偉そうにふんぞり返ってるテメェが?こりゃ何で再起不能にするんだ、オセロとか何かか?」
「殺す」
ユウヤの挑発に完全にキレた。
一言で終わらせると、またあの現象が起きる。
一瞬でユウヤの後ろに移動し、光の弾丸を撃ち込む。
「はぁっ!」
だが、また失敗する。
ユウヤの近くを走って来た飛鳥に光の弾丸は打ち落とされた。
「私たちも、戦うよ!」
「ッ、お前ら!」
自分の元に駆け寄ってきた飛鳥たちにユウヤは目を見開き、驚愕していた。
彼女たちはボロボロだった、先程の戦いもあり、疲れているはず。だが、彼女たちの瞳には強い意志があった。
敵であった彼らを助けようと、あのカイルを倒そうと。
「どいつも、こいつも、このオレの邪魔をしやがってぇ……………!」
怒りを通り越した憎悪に染まるような視線をカイルは向ける。そして、ふとゆっくりと深呼吸を行い、落ち着き始める。
「で、まだ戦うか?」
六対一、明らかにカイルが不利な状況。警戒を緩めない飛鳥たちの代わりにユウヤが問いかける。
カイルはやれやれと首を振ると、
「──────無理だな」
あっさりとそう宣言した。
────二つの絶望が彼らに襲いかかる。
次回『ケイオス・ブラッド』
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