閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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今回は、少し長いかもしれない。


十八話 ケイオス・ブラッド

カイルの発言にユウヤたちは耳を疑う。

 

 

「だって、そうだろ?」

 

 

興味深そうにカイルは顎を撫でた。そして、目を細めながら、状況を確認する。

 

 

「5対1、その内一人は異能を使う………圧倒的に不利じゃないか」

 

 

機械の腕をゆっくりと下ろし、事実を静かに認めた。その場に立っている姿からは、何も感じられない。

 

 

「なら、大人しく降参するか?」

 

 

「───おいおい、何を言っている?」

 

 

不満そうな葛城の言葉にカイルは眉を潜めた。右手を懐に入れて何かを漁り始めた。

 

 

「俺がいつ─────負けを認めた?」

 

 

そう、カイルの無理だなという発言は、戦いに勝てないと言う意味ではなかったのだ。

 

 

懐から取り出した右手には小さな瓶が握られていた。親指ほどの小さな瓶が。その瓶の中には赤黒い液体のようなモノが入っていた。

 

 

 

「ククク、特別だ。貴様らに見せてやろう」

 

 

カイルはその瓶を強く握り──────

 

 

 

 

 

 

 

「俺の研究の、成果を!」

 

 

───そのまま潰した。

 

瓶は音を上げて、周りにガラス片を散らした。瓶を握り潰した右手からは、鮮血のように赤黒い液体がドロリと垂れて、地面に付着した。

 

 

 

突如、変化が起きた。

 

地面に落ちた筈の液体が、時間が戻るかのように右手の中に収まったのだ。

 

 

「───ギ、ギギギ、ギりギギりギ」

 

 

対照的に、カイルの口から機械の壊れたような音が漏れた。体の至るところから、ゴギリ、バギリとずれるような音が鳴る。

 

 

 

「ギギギギィ──■■■■■■■!」

 

 

音が止んだ直後、カイルは体を反り、形容し難い絶叫を上げた。途端に、赤黒い液体がカイルを包み込んだ。

 

 

 

「ッ!!お前ら、避けろォ!!」

 

 

呆然と立ち尽くしていた飛鳥達にユウヤは声を張り上げた。反応に遅れた飛鳥達は後ろへと飛び退いた。

 

 

 

 

 

ドーム状になっていたソレが破裂したのだ。

 

破裂により衝撃波が発生する。衝撃波は全体に起こり、壁を吹き飛ばした。

 

 

 

「クッ、大丈夫か!?お前ら!!」

 

 

ユウヤの声に衝撃波を耐えきった飛鳥達は頷いて肯定した。先程の衝撃波により、周りには煙が充満していた。

 

 

 

「アぁ─────成功だ」

 

 

ハッキリと聞こえた。

 

煙が晴れ、その人影が確認できた。

 

 

 

ゆっくりと一歩ずつ歩み始める。

だが、その足元からは黒いオーラが滲み出ている。

 

 

更に、両腕に取り付けられている機械の腕。隙間からは赤黒いソレが溢れそうになっていた。

 

 

そして、首元と頬には赤黒い紋様が刻み込まれていた。刻み込まれている筈の紋様はドクンッと鼓動を打つ。

 

 

紋様に侵食されたのか左目が赤黒く変色している。

 

 

「………切り札の一つとしていたが、その必要もなさそうだな」

 

 

 

ソレを自身に宿した男、カイルは落ち着いた声の割には、歓喜を隠しきれない顔をしていた。

 

 

「…………何だ、その力は」

 

 

冷や汗を流しながら、ユウヤはそう呟く。明らかに雰囲気が変わったこともあるが、彼の中で

 

 

 

「そうだな、無知な貴様らに教えてやろうか」

 

 

カイルはユウヤたちに対して余裕そうな態度を取りながら、語り始めた。

 

 

 

「オレは人形(ホムンクルス)どもを作り出す以外にも、聖杯を見つけようと躍起になっていた」

 

 

「そしたら、オレの協力者が妙なモノを渡してきた」

 

 

 

当時、カイルは協力者と呼ばれる人物からとあるモノを渡された。赤黒い液体の入った瓶を。

 

 

『これはさー、凄いんだよ?普通の人間が使えば、化け物になるけど、忍や異能使いが使うとメチャクチャ強化されるんだよ?』

 

 

その時のカイルは胡散臭いとしか思っていなかった。どうでもいいと協力者を突っぱねようとすると、その協力者は妙なことを口にした。

 

 

 

『これはー【ケイオス・ブラッド】って僕は呼んでるけど、これが何なのか詳しく知りたい?知りたい?』

 

 

その言葉に興味を抱く。ニタニタと笑う協力者に早く言えと睨み付ける。

 

 

『へへーん。実はね、これは────』

 

 

 

「────聖杯が生み出した、神へと近づける物質だ」

 

 

 

そして、協力者の言った同じ言葉を口にする。

 

 

「神に近づく…………物質?」

 

 

飛鳥はカイルの語った言葉に驚きを隠せなかった。神と呼ばれる存在を信じているかと言われれば、飛鳥はいるかもしれないと言うだろう。だが、実際にいると言われても現実味が無いものだ。

 

 

 

 

 

「………だが、残念ながらまだ足りないようだ」

 

前から聞こえていた筈の声が後ろから聞こえた。その瞬間、ゾクリと全神経が震える。無意識に飛鳥は前へと避難しようとする。

 

 

 

───が、あと少し遅かった。

 

 

なんの躊躇も無く、カイルの足が飛鳥の脇腹に食い込んだ。メリメリと音が鳴り、吹き飛ばされる。

 

 

「───がはッ!」

 

 

壁に激突し、大きなクレーターを作り、飛鳥は地面に倒れこむ。

 

 

「「「「「飛鳥(さん)(ちゃん)!?」」」」」

 

 

 

五人は吹き飛ばされた飛鳥を見て、声をあげる。

 

 

「急所を外したか…………まぁ、一人ダウンだな」

 

 

まぁ、いいかとどうでも良さげに呟いた。そして、首だけを残ったユウヤたちに向ける。

 

 

 

「他の奴らは────面倒だ。まとめて片付けるか」

 

 

 

体を捻り向き直り、ゆっくりと両腕を広げた。すると、よく見えないが、少しずつ光が小さな球体となり、増え始める。

 

 

「全員、避け───」

 

 

 

「消えろ───『ヴァルティング・レイ』!」

 

 

光球が破裂し、無数のビームとなり、雨のように一気に放たれる。

 

 

 

 

周りの崩壊時によって生まれた粉塵が周囲に広まる。鬱陶しく思ったカイルは腕を振り払い、粉塵を消し飛ばす。

 

 

 

 

周りを見渡すと四人の少女たちが地面に倒れていた。何とか防御したようだが、もう戦えないだろう。

 

 

他にも射程外にいるボロボロになって集まっている焔達。同じように近いとも言えない距離で気絶している紅蓮。

 

 

 

 

 

「ぐ───ガァ!」

 

 

「ユウヤくん!?」

 

 

そして、咄嗟に動けなかった飛鳥とそれを庇うように前に立っていたユウヤがいた。何とか耐えきったが、相当のダメージを負い、膝をつくユウヤに飛鳥は駆け寄った。

 

 

カイルは何かを思い出したかのような顔を浮かべる。

 

 

 

「そうだ、いいものをくれてやろう」

 

 

懐から何かを取り出したカイルは飛鳥に向かって投げつける。それを手に取ると飛鳥は目を見開いた。

 

 

 

「超秘伝忍法書!?」

 

 

そう、カイルが放り投げたのは、半蔵学園から奪われた超秘伝忍法書だった。

 

 

「それからは、エネルギーを戴いた。もう何も残っていない」

 

 

欠片もな、と嘲るように笑う。笑い終えたと思ったら、また笑う。

 

 

 

「さて、貴様らに面白いことをしてやろうか」

 

 

ゲームをしようと言うときの明るい声にユウヤと飛鳥は顔をしかめる。クハハと笑いながら、右腕を振り上げて両手を開く。

 

 

直後、掌に光の球体が出現する。それは徐々に大きくなり、ついには人間一人分の大きさになる。そして、カイルはニヤリと笑う。

 

 

 

「さぁ、楽しませろよ!『ゼノ・ライトニング』」

 

 

 

そして、光球が勢いよく投げ飛ばされた。その方向を見て飛鳥は叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「焔ちゃん!!」

 

───気付いただろうか。光球は焔達に向けて放たれていたのだ。

 

 

 

「クソッ!?」

 

 

「焔ちゃん!逃げて!!」

 

 

ユウヤは悪態をつき、飛鳥は焔に向かって叫ぶ。焔は他の四人に声をかけ、回避を試みるが、他の四人も焔も回避する体力が無くなっていた。飛鳥とユウヤは何とか助けようとするが、間に合わない。

 

 

「───さぁ、絶望しろ」

 

 

 

「やめろォォォォォ!!!」

 

 

 

もう─────、間に合わない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

筈だった。

 

 

視界の隅から凄まじい速さで何者かが走っていた。何者かは一瞬で突っ込む光球を通り過ぎると、焔達の前に立つ。

 

 

 

 

 

 

「お、うぉァァァァァ!!」

 

 

血を吹き出しながら、青年 紅蓮は絶叫する。彼の体から炎が発火する。そして、周りを炎が包み込んだ。

 

 

そして、紅蓮と光球がぶつかり合う。紅蓮は炎を両手に纏い、光球を抑え込む。

 

 

「が…………ぐ、ギガァァァァァあああああ!!」

 

 

紅蓮が大量の鮮血を吐血する。異能の限界までの行使に肉体が悲鳴をあげているのだ。膝をつき、押し込もうとする。

 

 

 

「「「「「紅蓮!!」」」」」

 

 

焔が、詠が、日影が、未来が、春花が青年の名前を叫ぶ。紅蓮が声に反応し、体がピクリと動く。

 

 

 

 

「ああああァァァァァァァァ!!!」

 

 

何の執念か分からない。悲鳴をあげる体を動かし、ただ吼える。

 

 

 

 

───試験管から生まれた命、それが自分だった。

 

 

『紅蓮!私と勝負しろ!今度こそは勝ってやる!』

 

 

───何かの目的の為に作られた存在。そう思って生きてきた。

 

 

『もやしは食べると栄養にいいんですよ?紅蓮さんもどうです?』

 

 

───けど、彼女たち(みんな)と出会ってから変わってきた。

 

 

『わしは感情が無いんやで…………ここに来た時の紅蓮と同じらしいけど』

 

 

───人形のように振る舞っていた自分の中で、感情というものが芽生えていき、それを理解し始めた。

 

 

『私だって立派なレディ、そうで…………って、あんた!何よその目、そらに何処見てんの!ため息つくな!』

 

 

───色々なことがあった。だからこそ、楽しかった。嬉しかった。

 

 

『あらあら、どうしたの?そんなに震えて…………そうだ、私と楽しい事でもしない?』

 

 

 

 

 

 

───確かに、俺は人形なのかもしれない。でも、関係ない。

 

 

 

そう言ってくれる、大切な仲間たちがいるのだから。

 

 

 

 

 

結果、紅蓮の炎に押し潰され、光球が消失する。

 

 

紅蓮の体は、最早見るに絶えないほど、悲惨だった。体の至るところからは血が溢れ、目もどこを見ているか定かではなかった。

 

 

「─────ぁ」

 

 

大量の血反吐が口から溢れ、足元がぐらいつた紅蓮はそのまま地面に倒れ込んだ。

 

 

 

 

「ッ!紅蓮!!」

 

 

声をあげ、焔達が駆け寄る。ビチャッ!とおびただしい量の血の池に倒れ込んだ紅蓮は彼女達の姿を見て、ホッと安堵する。

 

 

「………ぁ、よ………った、ぁ」

 

 

「……何でだ!何で………」

 

 

掠れた声で嬉しそうにニコリと笑う紅蓮だったが、痛々しい以外の何もない。焔が声を張り上げ、紅蓮の出血を止めようとする。

 

 

 

「────俺は、何も──なかった」

 

 

ふと、静かな声でそう呟く。焔達は動きを止め、紅蓮の言葉に聞き入る。

 

 

「自分が………作られた命だと………知ってたから………ずっと、考えてたんだ…………俺は、何なんだって」

 

 

ユウヤと飛鳥も静かに聞いていた。

 

 

「怖かった………自分が………何も感じることが………できずに……死ぬことが………だから、願ったんだ………『生きたい』って」

 

 

カイルは感情の無い顔で、無言を貫き通す。

 

 

 

「それから………俺は………死にたくない……一心で…………あの人に………従った………人形の、ような…………生き方を………し続けた」

 

 

ふと、上を見上げる。

 

 

「でも、皆に会えたんだ」

 

 

焔………始めて会ったときは、突っかかってきて、少し面倒だった。

 

詠………お嬢様みたいな姿だけど、もやしが好きらしく何時間も、もやしへの愛を話していた。

 

日影………感情が無いらしいが、何とか笑顔を見たいと思い、笑わせるのに努力した。

 

未来………皆の中で一番年下かと思った────どこを見て判断したかとか、そんなの知らない。

 

春花………最初は何度もイタズラ(意味深)をしてきて、正直苦手だった。

 

一人、一人が個性的で何よりも、優しかった。

 

 

 

「それから……皆との、生活は………とても………楽しくて………嬉しかった」

 

 

紅蓮の目元から涙が溢れる。そして、傷だらけの腕をゆっくりと上げ、空へと伸ばす。

 

 

 

「いつしか、俺は…………皆と生きたいと………そう、思ってたんだ」

 

 

 

──だから、守ると誓ったんだ。誰が相手だろうと。

 

 

 

 

今までの思い出が脳裏を過る。ふと、自分の近くにいる少女たちに向けて、精一杯の笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

「…………ありが、とう………みん───ぁ───」

 

 

 

 

ガクリッと紅蓮の力が抜けた。腕もだらしなく垂れ下がり、瞳は既に閉じられている。

 

 

 

 

そして─────彼の中で火が静かに消えた。




次回『Miracle Star』

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