桜木病院の前の広場。そこで飛鳥たちと雪泉たちは、雅緋率いる蛇女学院の選抜メンバーとの戦いをしていた。
そう、していたのだ。
「……………シルバー?」
現れた直後に雅緋たちを戦闘不能にした謎の人物。その人物が周りを支配している中、地面へと座り込んだ雪泉はそう問いかけた。
長い静寂がその場を支配した。
十人の少女たちが息を殺して、その人物の言葉を待つ。そして、漸くその人物は口を開いた。
「残念な話だが、私はシルバーではない」
出てきたのは否定の言葉。謙遜が込められたその言葉には彼女たちを気遣うようなものがあった。
「だが、私はもう一人のシルバーでもある」
矛盾。その感情を抱くような物言いに全員が首を傾ける。いや、その表現には少し語弊があった。目の前の怪しい人物と、そしてもう一人。
ブゥオッッ!! と。
凄まじい勢いで突っ込んできた電気の異能使い、ユウヤの黒鉄の拳がその人物へと振るわれた。
だが、その一撃は当たらない。
青年の後ろに浮遊している複数の武器が、互いを重ねて攻撃を防いだのだ。それどころか攻撃したはずの黒鉄の籠手が音を立てて砕け散り、ユウヤを後ろへと後退させる。
「…………テメェがシルバーだと?」
傷ついた飛鳥と雪泉の前に立ちながら、ユウヤは先程の攻撃の弊害か、出血する腕を押さえながら疑問を漏らす。
「君たちの言うシルバーという人間なら私も同じ存在と言うべきである」
「ハッ!笑わせんなよ。テメェ自身はシルバーの
目の前の青年は答えない。
ユウヤの言葉の真意を傷だらけの飛鳥と雪泉たちは理解できずにいたが、青年は理解できたらしく、ククッと笑った。
「『シルバー』と彼が自身を名付けた理由が分かるかな?」
「……………」
「『シルバー』は英語では『silver』。銀という意味をもつが、それには一つの特徴がある。銀は古来から吸血鬼などが嫌いとするものでもあり、月の魔力を宿すともされている」
「……………」
「『月』には多くの話が関係しているだろう?満月になると狼男に変身するとか……………シルバーや私にも関係しているのである」
「……………」
「シルバーを月の光によって魔力が発生する『満月』であれば、私は月の光が存在せず魔力が失われる『新月』。つまり、とある理由でシルバーから月の魔力が失われ、この私ができたのだ」
「私もシルバーとは違う存在である。名前もないと面倒であるな。そうだな、私の名は………………アビス・ノイモートと名乗るとしようか」
シルバーと瓜二つな青年、アビス・ノイモートは子供のような無邪気な笑みを見せ、自身の杖をかざした。
「────面倒なことになってるな。逃げてて正解、正解」
病院での騒動を山奥から双眼鏡で見やり、やれやれとキラは呟く。彼の近くには雅緋たち、秘立蛇女の選抜メンバーが寝かせられている。
「にしても、もう一人のシルバーか」
キラは彼女たちを救出する際に、盗聴機を隠していた。(まぁ、アビスの攻撃に巻き込まれて壊れたが)その盗聴機から聞き出せた情報にキラは頭を掻く。
そして、その情報をまとめ、アビスなる人物の正体を口にする。
「さしずめ、二重人格ってところか?」
「るぁぁぁぁァァァァァ!!!」
絶境、いや咆哮と呼ぶべきだろう。咆哮をあげたユウヤは地面に拳を叩きつける。グシャッ!と無数の砂と岩石の波を前方に発生させる。
「ふーん、私への目隠しと後ろの少女たちを守るための行為か……………………無駄だと思わないかね?」
砂塵の波を吹き飛ばしたアビスは掲げた杖を下げると剣を地面へと突き刺した。剣の柄の結晶から剣の刀身に何かの力が移動する。
「
影から出現した無数の剣がユウヤを串刺しにせん、と殺到する。無論、彼も簡単に受けるわけがなく、回避するために走り出す。無数の剣も彼を追いかけるように、群れをなして襲い掛かる。
「チッ!鬱陶しいなぁ、オイ!」
どれだけ回避しても、追いかけ続ける剣の群れに痺れを切らしたユウヤは行動に出る。壁を駆けて、群れが繰り出した一撃を跳躍して避ける。逃げ場の無い空中にいる青年に、群れが勝利を確信したように牙を剥いた。
ユウヤの両腕が群れへと向けられる。親指と人差し指を立て、拳銃のジェスターを表す。
バヂィッ!と破裂する音が響くと同時に、彼の両腕に黒い砲身が現れる。銃とは言えない砲身からおびただしい電気が収束させる。
「まだ不完全だが、『
左右の黒い砲口から電気を越えた敵を殲滅するための閃光が放たれる。その一撃を正面から受けた剣の群れは無事な訳がなく、一瞬にて消滅する。
近くにあった病院を半壊させて。
「僕の病院がぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!?」
病院から飛び出していた桜木はその惨状を認識し、頭を抱えて踞る。
すまん、と心で謝ったユウヤは視界にアビスを捉えようとして、
「
フィンッ!
と軽い音が脳裏に響く。何事かと察したユウヤはそれを理解した。胸元にポッカリと空いた小さな穴を。スルリとナニかが抜ける感覚がする直前に激痛が彼の脳裏を焼いた。
「がっ、ぶぉ!? ギ、ぎうァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァァァァァァァァッッッ!!!?」
体が引き裂け、焼かれ、刻まれるような激痛。細胞が体の中で暴れまわってると錯覚できる。
「裁きは人の罪を抉る。神罰の槍はその人間の後悔、贖罪を礎とする。どうやら、君も後悔を持っているようだね?」
「ぐぅ、後悔…………してねぇ、訳、ねぇだろうがぁ…………」
「ふぅん、罪はないにしろ、後悔はあるのか。本質はいいな、だが生かす理由にはならない」
それだけで充分だった。
激痛に顔を歪め、その場に膝をつくユウヤに対し、アビスは剣の持ち方を変える。杖を持つような持ち方から、人を斬るための持ち方へと。
「では、死にたまえ」
そして、無防備な首元へと剣が振るわ──────
「ユウヤくんっ!」
横から見知った少女が飛び出してきた。絶句して目を見張ったユウヤに答えず、その少女は前へと立ちふさがり、その一撃を二本の刀で受け止めた。
「……………飛鳥?」
定まらない瞳孔に収まった明るい笑顔を見せる少女の名前をユウヤは呟く。ボロボロで傷だらけの体でアビスの剣を必死に止めていた。
「助けようとする気かな?ならば同じように神罰の」
「させるかぁっ!」
「させませんっ!」
止めに入った飛鳥に目を向けたアビスは呆れたようにため息を漏らし、不透明なナニかを左手に持ち、突き刺そうとするが、左右から突風を起こしながら剛脚を振るう葛城と鋭い突きを放った長剣を握る斑鳩の二人によって妨害を受ける。
「ッ!旋風の刃盾、真妖の巨刀よ!」
だが、それを許さないと言うばかりにアビスが声をあげる。三本の刃のついた丸い盾と禍禍しい気を纏う巨大な刀が二人の攻撃を受け、隙をつこうとする。
「斑鳩さん!後ろに避けて!」
「っ!」
葛城と斑鳩は二つの武器の猛攻を凌いでみせる。僅かな隙をサポートするように雲雀が攻撃の軌道を読み取り、二人へと伝える。
「天空の光弓!覇獄の魔弓!そこの娘を始末せよ!」
すぐさまアビスは行動に移した。厄介な雲雀へと的を絞り、二対の弓矢を彼女を倒すために構えさせる。
二対の弓矢に複数の弾丸が撃ち込まれ、その目的を妨害する。雲雀を守るように展開された傘、それに仕組まれた銃によって放たれた弾丸は弓矢には効かないが、動きを止めることに成功する。
「…………雲雀には手を出させない」
傘を持って雲雀を守る柳生の言葉に反応したのか、弓矢も怒りに震えるようにギチギチと音を鳴らす。
目の前の様子にアビスは無表情で杖をかざした。そして、多くの声が交じったよう声で詠唱を始める。
「『全能の神よ、この地上を火の海に変える七体の兵を」
詠唱は遮れた。
横から飛来した氷塊が彼の顔に直撃したのだ。ビキビキと首を動かし、アビスは下手人の少女を睨みつける。
「シルバーを、返して貰います!」
周りに氷雪の風を吹き起こし、強い覚悟を雪泉は見せた。扇を払い氷雪を一つの嵐と変え、アビスへと向かわせるが、彼は剣を薙ぎ払い、嵐を四散させる。
「そうか、なら真なる絶望を味わうがいい」
彼の背後に円を描くように浮遊する武器たちが一斉に動き出す。空中にて武器たちは円陣に回転を始める。
ピタリッ!と動きを止めると、複数の武器が魔方陣のように見え始める。光のラインを宿し、周りを照らした。
呼応するように黒い液体が反応する。ズブズブと唸り始め、その形を変えていく。
より恐ろしく、より異質な存在へと。
「出よ、偉大なる深淵の魔神。全てを呑み込む深淵の王として、地上を蹂躙するがいい」
補足すると、アビス・ノイモートの名前の由来は『深淵』の英語と変えたのがAbyss(アビス)、ノイモートはドイツ語の『新月』です。
アビス・ノイモートはシルバーがカオスによる強制的な異能の活性化によりできた第二人格。目的はなく、ただ自分の好きなことを行う。
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シルバー
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