閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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四十六話 輝光・混沌

カイルに殴られ、吹き飛んだ『神の器』は瓦礫の山を吹き飛ばし、カイルへと襲い掛かる。四本の豪腕を全力かつ、がむしゃらに男の命を刈り取らんと振り上げ、地面ごと叩きつけた。

 

 

一瞬で倒した、と勝ち誇った『神の器』は咆哮を轟かせた。今もなお結界内にいる少女たちへと顔を向け、静かな声が耳に届いた。

 

 

 

 

「──これで終わりなら、次はオレの番だ」

 

 

直後、天から無数の光が降り注いだ。周りを巻き込まないように、『神の器』だけを狙った攻撃。一瞬の隙も与えず、少女たちの攻撃に傷を受けなかった外装に損傷が増え始めた。

 

 

【グルォォォォォ、ギシャァァァァァァッッッ!!!】

 

 

背中にあった円陣が高速で回転し、『神の器』の真上へと展開される。巨大に広がった紋様に光の雨は遮られ、防がれた。

 

 

 

 

ッッドッ!!と爆音が戦場に炸裂する。その音の正体は、光の雨を放ち終えて、『神の器』を殴り飛ばした音だった。

 

 

空中で体勢を取り戻した『神の器』の肩にある円盤が回転する。それと同時に無数のミサイルが射出された。

 

 

 

「───輝ク鏡 ストラトス・イレーヴァ」

 

 

それだけ告げたカイルが残像のように消えた。そして、それに連なるように目では捉えられない程の速さで光がミサイルを貫き、爆煙を巻き起こした。

 

 

 

「──光ル剣 アメノ・ハバギリ」

 

 

そう呟いたカイルの右腕、義手が光り輝く。白い光が包むと思えば、そこにあったのは腕から伸びた光の刃だった。

 

 

カイルを消し去ろうと殺到する弾幕、捻り潰そうとする四本の豪腕を掻い潜り、カイルはすぐ目の前に近付く。反応ができない『神の器』、その肩へと光の刃を叩きつけるように斬りつけた。

 

 

 

ガッ、ギィィィィィィィィッッ!!!と光の刃が肩の駆動部に食い込み、火花を散らす。それからの行為を止めるように発せられた悲鳴にカイルは耳を貸さず、空気を斬るように刃を降り下ろした。

 

 

 

 

それだけの行動で、一つの肩に付いていた円盤と二本の腕が『神の器』から離れ、地面へと落下する。切断面から遅れるように赤黒い瘴気が溢れ出す。

 

 

 

【ギィィ、グガ、ガガガガガ───────ッ!!!】

 

 

 

咆哮、絶叫、ではない。それは明らかに声ですら無かった。完全な勝利ができなくなり、自我が崩壊寸前の怪物は、ただひたすら暴れまわるのを選んだ。

 

 

 

 

 

 

「………おい、なんだアイツは」

 

 

凄まじい戦闘の弊害により、壊れそうになる結界を修復しながら、呆然と目の前の状況に声を漏らしていた。

 

 

「確かに、私たちもあの人に倒されましたが」

 

 

「そうじゃない」

 

 

遮った志藤は自分の手を、いや指に嵌められたリングを見詰める。その後すぐさまカイルに目をやり、事実を話した。

 

 

「アイツ…………僕の援護術式の効果を受けていない」

 

 

「それなのに、『神の器』に傷を与えるどころか腕をぶった斬ったぞ……」

 

 

志藤の言いたいことは分かるだろう。志藤の術式を受けた彼女たちは『神の器』にダメージを与えるしか出来ずいたが、突然現れたカイルは『神の器』に対して余裕で戦えていた。

 

 

だが、傷が完治した飛鳥はある疑問があった。たった一つの、些細な疑問が。

 

 

「でも、何で私たちを助けたの?」

 

 

 

 

 

 

 

今の『神の器』には命令などどうでも良かった。巨大な穴に誰一人として通すな、と指示されたていたが、目の前の存在を前にして勝率は0.5%なのだ、負ける未来の方が当然だろう。

 

 

 

【勝算、確保、危険、状況、実行】

 

 

 

もう一度、右側の二本の腕を切断しようとしてくるカイルに突っ込む。驚きながらも光の刃を振りかぶるカイル、そして『神の器』はとある手段を実行に移した。

 

 

わざと自らの腕に光の刃を突き刺させたのだ。光の刃が腕を刺している間、カイルは動けない。勝利を確信して口を開き、エネルギーを収束させる。

 

 

 

 

そして、気付いた。自分の身体の動きが重くなっていることに、装甲が氷に包まれていくことに。

 

 

【────────疑問、不可、何故】

 

 

 

「逆に問おう。何故このオレが光以外の力を使えないと思った?」

 

 

煙が晴れて、その場にいたのは無傷のカイル。だが、彼が纏っていたのは光ではなく、氷だった。

 

 

カイルを中心に全てが凍り始め、白い雪が舞う。そして、カイルの周りに氷の槍が形成される。細く、鋭く、相手を串刺しにすることに特化した槍。

 

 

 

「終わりだ。───『光輝き穿つ氷結槍(フォトン・ゼロ・クレイシス)』」

 

 

無数に空を覆い尽くす氷槍が光の速度で地上に、『神の器』に照射された。凍った身体ではそれらを避けることは出来ず、無惨に串刺しにされた。

 

 

【損傷、…………0%、機能、停止、】

 

 

胴体を貫いた氷の槍を引き抜こうとした『神の器』はそれだけ発すると、光のラインが消える。腕も力なく垂れ下がり、地面に大の字に倒れ込む。

 

 

「……………倒したの?」

 

 

「今のところはな」

 

 

結界の中に入ってきたカイルは静かに肩を竦める。全員が警戒する中、カイルはとある方向に指を()した。

 

 

「外装は剥がした、問題はアレだ」

 

 

彼が()しているアレとは、完全に動かなくなった『神の器』、その胸部だった。装甲が剥がれた場所には心臓とは言いがたい、真っ黒な球体が鼓動を打っていた。

 

 

「アレは濃厚なケイオス・ブラッドで構成されてる。戻れる確信はないが……………止める必要はないようだな」

 

 

それに歩み寄ったのは飛鳥だった。彼女はゆっくりとその球体に恐る恐ると触れた─────直後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───一つの人生が脳裏に流れ込んできた。

 

 

一人の青年の生きた、歩いた道が。

 

 

『……まだ、俺は貴方に』

 

 

『ここでお別れだ。私の可愛い弟子よ』

 

 

大切な人が目の前で笑って消えていった。

 

 

『これが君の夢なのかなぁ?だとしたら滑稽だねぇ!!』

 

 

悪意の塊のような存在にそう罵られても、あがき続けた。

 

 

『……お前には分からないだろうな、他人の気持ちが』

 

 

そして、仲間だった者はそう告げて、自ら自分の前から去っていった。

 

 

 

 

『…………あぁ』

 

 

それらの光景、地獄の前で膝をついた青年は笑った。涙を流しながら、静かに笑っていた。

 

 

ようやく、理解したように彼は自身の結末を宣言した。

 

 

『俺は、幸せになってはいけないんだ』

 

 

例え、どれだけ努力しても足りない。あの地獄を生き延びてしまった以上、運命は自分を許さないだろう。

 

 

だからこそ、傷つくのは自分だけでいい。仲間も守るべき人もいらない。そして、あの『統括者』が自分を利用してる気ならばそれでいい、奴がこの地に『アレ』を降ろそうと、自分が全てを破壊すればいい。

 

 

 

皆が笑って生きれる世界を失わせる訳にはいかない。幸せになっていいのは彼ら、決してこんな力を継承した自分ではないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ここは」

 

 

飛鳥はその光景に息を飲んだ。知っていた、この場所を見たことが、体験したことがあったからだ。

 

 

人為的な大災害に巻き込まれたユウヤの故郷 聖印街。少し歩いた先で、飛鳥はようやく見つけた。

 

 

「ユウヤ………くん」

 

 

 

「…………飛鳥、何しに来た」

 

 

 

闇のように黒い瘴気の奥に座っていたユウヤがいた。混沌の渦巻く空間で彼はそれを拒絶していない、それどころか諦めているように見えた。

 

 

今の彼には届かない、そう知っていた。だが、いやだからこそ、飛鳥は彼の前に手を差し伸べた。

 

 

 

「────戻ろう、皆の所に」




自分から他人を遠ざけるために敵意を向けられるような態度を取り続けた青年。彼は最後まで救いを求めてはいなかった。

だが、少女は違かった。青年を救おうと手を差し伸べる。


───そして、縛り続けた(くびき)が外れる。

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