『神の器』との戦いが終わり、元の状態に戻ったユウヤはとある行動を取っていた。そう、社会人がしたりする一つの行為を。
「────────すいませんでしたッ!!!」
見る人が見れば綺麗、上手だと褒め称えたくなる程の土下座を飛鳥たちにしていた。
まぁ、彼からしたら色々と迷惑をかけたのでそうするのも理解は出来なくはない。
「ちょっと!落ち着いてよ………」
「彼女の言う通りだ、今はそうしているべきじゃない」
「いやそういう訳には………………………………ん?」
自分の行為を咎めた声にユウヤはキョトンとする。その声が聞いたことがあるだけではなく、声の主の姿を見たことがあったのだから。
「────ッ、カイル!!」
すぐさまユウヤは構える。目の前の男がかつて死闘を繰り広げた相手なのだから、当然な行動だろう。
「まって!違うよ、ユウヤくん!」
「…………なに?」
飛鳥からの説明を受けてユウヤはカイルを睨む。カイル本人も肩をすくめている。ユウヤ自身、自分と飛鳥たちを助けたことに感謝はしていたが、明らかに警戒をしていた。
だが、そんな中カイルは首を動かす。周りを見渡し、静かに目を細めていた。
「…………………………どうやら黒幕のご登場らしい」
突如、地面が激しく揺れた。大地震と捉えてもおかしくない位の振動が響き、そして収まった。突然の出来事に混乱していたが、すぐに驚くべきことが起こる。
「まさか、ここまでやるとは思わなかった」
心からの驚愕の声が聞こえる。巨大な穴を漂う神秘的な祭壇、その中央の玉座から。
「器を奪われるとは、どうやら我も慢心していたようだ。反省せねばな」
「ゼールス!!」
かつて自分たちと戦った存在は玉座に居座り、静かに笑い声を響かせる。よく見ると喪失していた筈の左腕が醜い肉塊のようなものになっていた。
ニヤニヤと含んだ笑いをしていた統括者の視線が止まる。ユウヤたちの隣にいるカイルを指差し、左腕を擦りながら告げた。
「…………そこの光使い。あの時といい、我の邪魔しかしないな、貴様は」
「彼らを死なせるわけにはいかなかったからな、オレの間違いに巻き込んでしまった彼らを」
自分から話しかけた割には興味を失った風に見下ろす。それにすら飽きたのか、統括者は玉座に掛けたあった棒を取り出す。
「さて、役者が集まってきたところで………そろそろ最期の仕上げだ」
いや、棒ではない。深紅の石を嵌め、細く延びたそれは杖でもあり、剣でもあると言えるだろう。統括者はその棒の真ん中を掴み、空へと掲げた。
────巨大な穴からゆっくりとそれは姿を見せた。
人工物とは言い難い、神秘さを持った五本の柱。中心には、翡翠の結晶が取り付けられてあり、漂うように浮遊していた。
そして、その柱に囲まれているもの。統括者の言葉通りなら、それが聖杯であるのは確かだった。
それが杯とはお世辞でも言えないだろう。そもそも、そんな形ではないのだから。
多くの物質で固めたようなそれは脈動する。生まれる寸前の卵のように。ビシ、ビシビシビシィ!と音を響かせ割れ始める。
宙に浮遊し始める祭壇の玉座に脚を掛け、興奮しきったように統括者は杖から手を離す。両腕を広げ、望んでいたものを前にしたような歓喜の色を浮かべる。
そして、高らかと叫んだ。
「目覚めるがいい、我らが偽りの神『聖杯』よ!!貴方が望んだ、多くのエネルギーを糧として!!!」
直後、それが音を響かせて、殻を砕かせた。
ーーーー矛盾が起こっていた。
光と闇。
神と悪魔。
秩序と混沌
破壊と再生。
絶望と希望。
混沌渦巻く球はそれらの多くの矛盾が存在を
真っ黒に変えられた空は無色の布のような翼が蠢くと同時に、鮮血の如くの赤へと塗り替えられる。
球体の形を作る混沌を中心に、文字と紋様の浮かんだ白が回転する。複数に、何重に上書きされたものが展開される。
「あれが………………聖杯」
話に聞いていたそれを目の当たりにしたユウヤ。彼だけではない、少女たちは自分の身体の芯が震えるのを感じていた。
それに戦慄していたユウヤは微かな音を耳にした。周囲を見渡し…………理解した。
【ギィィ、ギィィィ】
「──妖魔!?」
聖杯が出てきた穴から這いずるように湧き出てくる妖魔の群れ。様々な姿をする異形たちは奇声をあげて、彼らに牙を剥いた。
直後、その妖魔たちは光輝く白によって薙ぎ払われた。何が起こったかも分からずに、妖魔たちは浄化されていく。
「……なるほど、未完成の聖杯から作り出されたのか」
純白の光を帯びた義手の腕を無造作に振るい、瞬時に妖魔を殲滅したカイルが冷静に周囲を観察する。もう一つの義手で街中に上がる光の柱を指し示し、説明をする。
「五本の柱があっただろう。それが聖杯を起動させているエネルギー源だ」
聖杯が出現してから、その中にある膨大なエネルギーが増え続けている。そして、そのエネルギーが送られているのが街の至るところに散らばった五本の柱だとカイルは推測する。
近くの妖魔に電撃を放つユウヤはその考えに気付き肯定する。同じように戦う飛鳥たちに声をかける。
「………聞いたな、飛鳥たちは柱の破壊を頼む。そうすれば、聖杯も動かなって妖魔たちも」
「ユウヤくんは?」
両腕に黒鉄の手甲を纏い、ユウヤは腕を動かす。掌に拳を叩きつけ、聞いてきた飛鳥に答える。
「少し借りを返さなきゃなんねぇ奴が居るんでな」
その言葉は天空の聖杯に付き従うように浮遊する神代の祭壇へと向けられていた。正確には、その祭壇の主たる怪物に。
皆が動こうとする途中、飛鳥がユウヤに振り返った。心から心配していた飛鳥は彼女たちの意見を代表するように口を開く。
「……無茶しないでね」
「────お互い様だろ」
ふっと笑い、空を覆い尽くそうとする聖杯を睨む。自分はこんな所で倒れるつもりも、死ぬつもりもない。迷惑をかけた分、彼女たちに精一杯謝り倒すつもりなのだから。そして、許されるのなら──────、
それ以上の考えを止め、ユウヤは駆け出した。天上の祭壇に君臨する存在の野望を止めるために。
◇◆◇
最も聖杯に近い場所、祭壇に居座る統括者は杖の形をした剣を空気を切り裂くように振るう。天上に君臨する、求めていた筈のそれを忌々しそうに睨みながら。
「…………これだけの生命エネルギーでも完全に至らんのか」
まぁいい、と素っ気ない態度をとる。そして、ゼールスの瞳が地上を映す。良いことを思いついた子供のような無邪気な笑みを浮かべ、残酷な言葉を紡いだ。
「足りないエネルギーは補給するとしよう、人間というエネルギーでな」
カツン、カツンとリズムよく床を叩く。杖の先に埋め込まれた深紅の石が怪しく光る────地上の妖魔たちに連動するように。
「───妖魔ども、人間どもを駆逐しその血を流せ。もしくは聖杯を守護しろ。これは統括者の命令である」
それだけを言うと深紅の石は元の色に戻り、静まり返る。玉座に我が物顔で腰を掛けるゼールスは上空の聖杯を見上げる。
統括者の目の先で、聖杯に五つの光が浮かび上がる。
一つずつがそれぞれ違う、別々のマークを示した光は聖杯から離れると、五本の柱のある方にへと飛んでいった。
ゼールスは気にした様子ではなく────いや少しばかり嬉しそうに笑う。右手で杖を弄りながら、待っていたように呟いた。
「来たか、我が同胞たち…………聖杯の守護者、
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