シャツとか汗でズブ濡れになってんですよ、大丈夫かよ今年の夏。
「ったく、想像以上のエネルギーだな。俺様でも勝てるかも分からん」
街の至るところに飛んでいった光を見たキラは率直な感想を呟く。今の彼には闇の鎧は存在していない武器も所有していない、素手ということだ。
【ギィ、ギャァァァァァッ!!───────】
キラの足元で瀕死の状態の妖魔が吼える。四肢をグチャグチャにされ、全身がボロボロなのに未だに敵意を放つその姿には恐ろしいと感じてしまうものがあった。
だが、キラは顔色を変えずに瀕死の妖魔の頭を踏み潰す。それだけの行為で騒いでいた妖魔の動きは停止し、その代わりに地面を更に大量の血で汚す。
ズズズと踏み抜いたキラの足から闇が溢れ出す。地面に散らばった惨状を闇は津波のように飲み込んでいく。少しの間蠢き、周りを綺麗にして主たるキラへと戻っていった。
「………闇は全てを喰らい、力として取り込む。その代償があるがな」
ビキビキと血管が張り始める。複数の赤と黒の血が混じり合う。互いに違う素質を持つ二つの血液は極度の暴走を引き起こしていた。
──コップに入った液体に別の液体を入れるとどうなるか。分かるだろう。
濁り、別の液体となる。そのように人間の身体に妖魔の力を取り込もうとすれば、肉体がそれに耐えられなくなる。そもそも、そのような芸当をして、まだ人の形を保っていられるのはキラだけである。
全身を耐え難い激痛が襲っている筈だが、そんなもの・・・・・キラにはどうでも良かった。
力が流れ込んでくる。暴走が肉体をグシャグシャにするが、永久に再生する闇の身体がある以上、何も問題はない。
───精神的な苦痛も、気に留める必要はない。
沢山の妖魔を取り込み、同じように五体の怪物を取り込み、あの聖杯を手に入れる。
それこそが、キラの野望…………それを叶える過程だ。
ザッ、と地面を踏み締める音にキラは振り向かない。後ろにいる人物を見て、ただ何も感じさせない程冷たい声を出していた。
「雅緋か」
「………………キラ」
キラの後方に立ち尽くしていた雅緋は何も言えずにいた。臆していた………そうも言えるかもしれない。キラが放つ威圧に押されていたのだから。
「何をしに来たんだ、雅緋」
唐突にキラが切り出してきた。何も話さずにいるのは面倒と言いたげな顔を向けて、心底鬱陶しそうな態度をしながら。
「…………皆で、お前を探しに来たんだ」
「そうか」
納得したように頷く。瞬時に答えた割には興味なさげな態度に雅緋は悲しそうにキラを見詰めた。
「──ところで雅緋」
「…………何だ?」
不安定になっている瓦礫の山に手が添えられる。今にも崩れ落ちそうに揺れるが、直後に掌から伸びた闇が包み込んで消し去った。
漆黒から剥き出しになった肌を撫でながら、キラは薄く笑う。まるで、自嘲するかのように。
「聖杯、どんな願いをも叶える神々の遺物。それにはもう一つの呼び方がある……………知ってるか?」
首を傾げる雅緋。聖杯についてはある程度は知ってるが、何故急にそんな事を言うのだろうと思っていた。
「『造られた神』、そうあれは一種の神だ!俺様が手にするには相応しいと思わないか。最強の異能を持つ、この俺様が!」
意味が分からない、雅緋はそう思うしかなかった。そもそもの話、雅緋も含む裏社会の者たちも『聖杯』はおとぎ話という認識しかなかったからこそ。嬉々とした様子のキラの目的がまったく掴めなかった。
そんな中、キラがピクリと動きを止める。まるで何か大切なものを聞いた時と似ている仕草をしたキラは裾を捲り、手首に付いたチョーカーを覗く。
そして、小さく口が動いた。
────やれやれ、まだ半分以上か。思ったより時間がかかるようだ。
聞こえないような微かな呟きを雅緋は耳にする。それ以上は聞き取れなかったが、確実に耳に入った言葉に引っ掛かっていた。
(半分以上?一体何を……………)
「そう言えば、貴様にも見せてなかったな」
「………………何がだ?」
「俺様自身の戦いを」
ズズズズズズズズズッと爪先から闇が這い上がってきた。両腕の指先、首元までを覆った闇はざわめくように胎動を見せる。霧とも言えるくらいに薄いはずなのだが、質量を持った物体のように音が軋む。
蠢いていた闇が霧散し、変化したキラの姿が露になった。
漆黒の戦闘スーツ。黒以外の色があまり存在しない、より動きやすくするために、装飾を無くした身体に整うサイズのスーツ。薄暗い金色に輝くマントを翻したキラは腕をそのまま振るった。
異様に軽々しく、異様にゆっくりと。
ズザンッッッ!!!!と雅緋のすぐ近くが弾け飛んだ。両腕を十字にクロスさせ、衝撃を和らげた彼女は自分のいた足場のすぐ真横がごっそりと削り取られているのを確認する。
(この火力が…………キラの力‼)
「加減はしない、貴様は俺様の認めた者だから」
光の失った真っ黒な闇をその身に纏わせたキラ。膨大な執念と虚無が渦巻くそれは怪物の顎のように裂けていき、がむしゃらに暴れながら鋭い牙を剥く。
「──────クッ!」
自らの力である黒炎を掌に作り出した雅緋は悔しそうに顔を歪める。倒さなければ止められない、と覚悟は決めていたつもりだった。だが、どれだけ心の中で決意しても躊躇いだけが消えなかった。
◇◆◇
───報告、報告。Dark Matter,『ネオ・プロジェクト』までのエネルギーが64%まで溜まりました。これより効率を整えるために、余分な行動を排除します。
───マスターキラに報告、『Dark Matter メインシステム』に僅かなエラーが発生しました。至急、削除の許可を求めます。
繰り返します、『Dark Matter メインシステム』にエラーが発生しました。至急、削除の許可を─────、
◇◆◇
様々な方向から凄まじい轟音が響く。飛鳥たち五人が柱を破壊しようとしてるのだろうと理解する。そうだというのに────、
「───俺は、何をしてるんだ」
そう呟いたユウヤは憤っていた。荒々しく怒り狂うのではなく、静かに燃えている怒り。それを抑えるために自分の近くの柱に拳を叩きつけて粉砕する。グローブを付けたとはいえ、素手で行った一撃にじんっと響く。
赤く腫れる手を擦り、ユウヤは真上を静かに睨む。今もなお、空を染め上げている『聖杯』、そのすぐ近くを漂っている祭壇がその瞳に入った。
「………どうやってあの祭壇に行けばいいんだ」
ふとユウヤは呟いていた。そうするしかなかったのだ。足場も数少ない天空祭壇、一体どうすればそこに届くのか。
届かないのでは?という弱気な考えを打ち消す。そんな事を思う暇があるのなら、打開策を捻り出せ! と頭を回転させる。
考えながらも歩み始めたユウヤはすぐさま動きを止めた。思考に明け暮れていた彼は重要な事に気を配れていなかった。
────人の呼吸、二つ。すぐ近くにいる!
「誰だっ!隠れていないで出てこい!!」
久しぶりに腕に黒鉄のガントレッドを纏い、声を張り上げた。隠れているのは分かっている、だがむやみに攻撃は出来ない。攻撃した隙を狙われる可能性を考慮しての行動だった。
変化がない。しんとした空気にユウヤは徐々に落ち着いていた。胸に手を当てて、深い呼吸を吐くと、静かに口を開く。
「…………大人しく出てこないのなら、辺り一体を吹き飛ばす」
バヂィッ、バヂバヂバヂィッ!と破裂音と共に前髪から火花が散る。全身を覆い被せるように電気が空気を焼き焦がしながら、周囲に蓄電されていく。
高火力かつ広範囲の攻撃を放つために感覚を研ぎ澄ませる。そうしていたら、声がした。
「─────やはり、話に聞く程の強さだな」
声のする場所に瞬時に体を向ける。相手が誰であろうとも遅れを取るわけにはいかなかった。そのユウヤの視線の先から人影が現れた。
建物の影からひょっこりと出てきたのは二人の少女。金色と黒色の服を来た銀髪の少女たちにユウヤは驚いたように面食らっていた。
だが、警戒を怠ることはない。彼女たちのような存在をユウヤはよく知っている、裏社会で生きる者なら間違いなく認知している存在。
「………………忍か」
「あぁ、それだけで見抜くとはな。伊達に名高い傭兵になっただけはある」
何だコイツ………。寝不足なのか目元に隈がクッキリとした黒色の服の少女の言葉にユウヤはそんな感想を抱く。
「安心してください、ユウヤさん。私たちに敵対するつもりは無いですよ。ただ貴方の助力をする為に来たですから」
両手を挙げて降参の意思を見せた金色の服を着た少女が穏やかに説明をする。その説明に僅かばかり、納得したが、違和感があった。
(…………何だ?この感覚は、)
ツンと針で刺すような小さな痛みを感じる。その痛みが何なのかも分からずに、ユウヤは二人の少女の顔を見た。
二人は互いの顔を見やり、ユウヤへと自己紹介をした。片方が穏やかな笑みを浮かべながら、片方は顔色を変えずに。
「私が月光でこの子が閃光です。先程説明した通り、貴方のサポートをさせてもらいます」
「………閃光だ。出来る限りはする、よろしく頼むぞ」
何を考えているのか分からない。それがユウヤの今の心情、だが手助けをしてくれるのなら頼むしかない。そう考えながら、目の前の少女たちに応じた。
「……………ところでさぁ、あの上の祭壇に行きたいんだけど行き方知らないか?」
「「え?」」
「……………え?」
月閃姉妹、初登場しました。前から出すって宣言してましたが、ようやく出すことができました!
割とこの章で重要なキャラの一人である、キラ。
あの人、本編でもカイルさん以上に真実に近づいてますからね。実質この章のボスの一人ですし、おすし。
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