閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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五十三話 闇の王

各地で『柱』をかけた戦いが起こっている中、規模の小さな戦闘が起こっていた。

 

 

人の形をした妖魔の胸部を刀が指し貫いた。数十年前には日本刀と称されたそれをゆっくりと引き抜く。

 

 

数回目の戦闘を終えた軍服の青年、名前は 大和(やまと)

 

 

元々は名のある忍の一族の人間だったが、忍としての素質の無いことが原因で善忍にも悪忍にすらなれなかった彼は、『七つの凶彗星』の配下となったのだ。

 

 

 

そんな彼は息切れをしながら、周囲を見渡した。仲間を探す為に、他の敵を倒す為に。

 

 

そして、奥の方に厳重な装備をする兵士を見かける。息をつく前にその兵士の元に駆け寄っていった。此方を見て銃を向けようとする兵士に両手を上げながら、叫んだ。

 

 

「俺は大和(やまと)、第5小隊隊長大和(やまと)、味方だ!」

 

 

「第5小隊…………他の隊員はどうした!?」

 

 

「─────ほぼ全滅だ、そちらは何でここに来たんだ?」

 

 

瓦礫の隙間から現れた妖魔に兵士は銃弾を浴びせる。ダダダダダダッ!という連射する音よりも大きな声で兵士は怒鳴った。

 

 

「私たち第12小隊は潰滅寸前、各小隊に援軍を頼みたい、それが伝言だ!」

 

 

「ふざけるな!俺たちの方が押されてる、援軍が欲しいのはこっちも同じなんだ!」

 

 

理不尽な物言いに憤る大和という青年兵士に、そんなの見れば分かる! と兵士も怒鳴り返す。舌打ちを隠そうとしない大和もこれ以上は無駄だと思ったのか、目の前の妖魔に向かって日本刀を降り下ろす。

 

 

急所に当たり絶命した妖魔。悲鳴をあげることなく灰となった怪物を前にして大和は自身の握る日本刀に付いた血を拭った。その時に、ふと後ろを振り返り、言葉を失った。

 

 

 

 

死んでいた。先程まで話していた兵士が死んでいた。獣のような妖魔、人の形をした妖魔、鳥とも蛇とも言えない妖魔、それ以上の数の妖魔たちに無惨に惨殺された兵士は声をあげる暇もなく死んだ。もしかしたら、兵士としての矜持もあったのかもしれない。だが、そんなこと今は関係なかった。

 

 

視界を覆い尽くす程の妖魔たちを前にして力が抜けた。日本刀をゆっくりと腰の鞘の中に戻していく。

 

 

「……………潮時か、クソ。まだ好きな娘とか出来てないんだが」

 

 

悪態をついてワシャワシャと髪をかきむしる大和に妖魔たちが唸り声を漏らす。静寂が僅かに広がる中、いずれ起こる少しの物音が妖魔たちを動かすトリガーとなっていた。

 

 

 

そう理解した青年兵士はせせら笑いながら、問いかけた。

 

 

「だけどな化け物ども、『神風特攻』って知ってるか?」

 

 

スッと腰を深く落とす。自然と右手が鞘に、左手が日本刀の柄に添えられていた。両手に強く力を入れ、いつでも振るえるようにした。

 

 

(最低でも十匹は殺す、それで限界なら爆弾で自爆するまでだ。こいつらを野放しにして、他の人を苦しませる訳にはいかない!)

 

 

決意と共に深く呼吸をした大和は妖魔たちを睨み付ける。自分の命で誰かを助けられるならそれで充分だ、と心で決めつけた大和は鞘から刀を────『ドガァッ!!』

 

 

 

 

「……………………うぇ?」

 

 

轟音に続いて、視界から妖魔の群れが消えた。何処に行ったのか周囲に目を向ける大和だったが、やはり見つからない。

 

 

代わりにすぐ近くにいる四人の少女に目がいった。

 

 

「これでほとんどの妖魔はいなくなったはずだ」

 

 

「……………」コクコク

 

 

「──ふぅん。じゃあ、後はある程度湧いてくる妖魔たちを倒せばいいだけね」

 

 

「あーん❤両備ちゃーん、もっとぉ、両奈ちゃんを踏んでぇ~♪」

 

 

(…………………ハッ!!?え、何?この人たち。凄い個性的すぎて、どうすればいいのか良く分からないッ!?)

 

 

あまりの衝撃に現実逃避しかけていたが、すぐに戻る。そして、どうすればいいか、と激しく混乱していく大和。やがて彼は自分の中で冷静な部分が何かを叫んでることを理解する。

 

 

何度も少女たちと周囲に視線を向けた彼はまさか……と震える体を動かして、問いかけた。

 

 

「………まさか、忍なのか?」

 

 

何を今更、というような目と共に頷く少女たち。その数秒後、大和は膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

遠くで響き渡る戦闘の音を雅緋は耳にした。自分と対峙する青年に悟られないように眼球だけを動かす。

 

 

パキパキと指を鳴らしたキラは興味深そうに首を捻る。そして彼女に向けられていた視線がずれた。

 

雅緋が見ようとしていた所に。

 

 

「何だ?貴様がそこまで気にかけるものがあるのか、あちらには」

 

 

「……………忌夢たちだ」

 

 

気付かれていた事に悔しく思いながらも懸念していた事を口にするが、キラは、そうか とだけ言う。何とも思ってないような態度に脳がかっと熱を帯び始める。

 

 

「皆と話し合ってここに来た。忌夢や紫に両備、両奈もお前を連れ戻したい、そう思ってるから、私たちはここにいるんだ!」

 

 

「へぇ」

 

 

対してキラは顔色を変えない。そもそも雅緋の方に身体を向けずに、静かに息を吐いた。そして金色の髪を弄くりながら告げる。

 

 

「随分と信頼してるものだなぁ、前は手駒としか見てなかった癖に。…………あぁ、情が湧いたってやつか?」

 

 

「ッ!」

 

 

足元の瓦礫を蹴り飛ばし疾走する雅緋。彼女を右眼に捉えたキラは退屈そうに片腕を振るう。

 

 

 

───────ザンッ!!! と闇の刃が地面を割った。否、刃ではない。他者の首を切り落とすかのようなギロチンの正体は、闇に包まれた手だった。

 

 

「ハハッ、どうした?反撃しないなら俺様からやるぞ?」

 

 

そう笑ったキラの片腕────切り刻んでいた腕とは違う、反対の腕を闇が纏い始めた。黒いソレに覆われた腕がボゴボゴと形状を歪ませていく。

 

 

 

直後、キラが振り上げた時には腕は本来の形を成していなかった。戦車の砲身、人の肌とは違う素材で作られた筈なのに、何故かキラの腕と同化していた砲口は雅緋に向けられる。

 

 

 

直後、熱を帯びた光弾が続けて砲口から放たれた。空気を焼くほどの勢いと熱量でそれらは雅緋へと殺到していく。

 

 

 

「悦ばしきInferno!!」

 

 

素早さを利用した剣技により、光弾を打ち落としていく。切り裂かれた光弾は飛沫のように破裂し、周囲の光弾を巻き込んで誘爆していった。

 

 

それでも、全ては防ぎきれない。

 

 

弾幕を潜り抜け、雅緋の足元で光弾が破裂する。足場であった地面が砕け、バランスを崩した雅緋に弾幕の雨が降り注いだ。

 

 

白い煙幕から飛び出した雅緋を瞳に捉えたキラの両腕を靄が包む。腕を覆う闇を払ったキラの腕は元に戻っていた。どんな構造か良くはわからないが、これがキラの力の一つだろう。

 

 

 

「………つまらんな。いやぁ、貴様が弱いと言う訳ではない。むしろ、この俺様と渡り合えるのは素直に褒め称えるべきだ。問題は………そう、『闇』が強すぎる事だ」

 

 

聞く人が聞けば、傲慢と称する言葉に耳を傾けた雅緋は周りを見渡す。周囲の地面や瓦礫の山はキラの攻撃により、原形を留めていなかった。

 

 

雅緋は『鎧』を着てないキラなら勝てるのでは? と思っていたが、それはただの夢見心地のいい話。

 

 

自分が動くか、なにもしないか、それだけの違いであり、実力など何一つ変わらなかったのだ。

 

 

数分前の自分の甘さに歯噛みしながらも、雅緋の唇が小さく動く。

 

 

「『闇』だと?」

 

 

「あぁ、俺様の異能は『闇』の属性を司るものだ。だが、『闇』とは不確定なもの。他の異能はキチンと決められた属性にも関わらず、だ」

 

 

何が要因か分かるか? と口では語らず、その意味を含んだ視線を投げ掛ける。

 

 

雅緋には分からなかったが、その要因は単純かつ恐ろしいものだった。

 

 

この世界で最も多く存在するもの。

 

 

たった一人の青年を最強、無敵へと変えた『闇』、その根源であるもの。

 

 

その名は、

 

 

「─────人々の負の感情」

 

 

一言だけだった。それだけで雅緋は何かを感じていた。だが、キラは両手を広げ、まるで大袈裟な演説をするかのように見せつける。

 

 

「怒り、憎悪、悔恨、嫉妬、それらの悪意こそが、俺様の異能の(みなもと)、俺様を最強に至らしめたのだ。それを聞いた以上、俺様の『闇』がここまで強大な理由、貴様にもよく分かるはずだ」

 

 

人々の悪意に比例して、強さが増していく。

 

 

言葉だけなら、聞いただけなら簡単かつ強力と思えてくる力。裏側を知らない一般人でもその凄さを理解できるかもしれない。

 

 

だが、この世界で生きている雅緋には、それがどれ程の効力を表すのかは考えるまでもなかった。

 

 

 

 

「愉快だな、それを知ってまで俺様に挑もうとするとはな。さっきから貴様を駆り立てるものは何なんだ?」

 

 

「分からないだろうな………………今のお前には」

 

 

一瞬、僅か一瞬だけ惚けた顔を見せたキラはすぐさま鼻で笑う。軽く持ち上げられた両手に黒い(もや)が絡み付く。

 

 

「そうか、では大人しく退場してもらおう」

 

 

靄が晴れて本来の形から変貌した腕が悪意を滲ませながら、雅緋へと向けられた。広げられた掌に莫大なエネルギーが蓄積されていく。

 

 

戦いなど起こらない。数秒もかからずに終わるから。苦痛などもない。放たれる技が即死の一撃だから。

 

 

 

 

 

 

だからこそ、何も変化がないのが最もおかしかった。

 

 

「─────な」

 

 

いや、変化はあった。雅緋は誰があげたかも分からない声を耳にしながら、目の前の現象を見ていた。

 

 

 

 

キラの黒い巨大な腕が、空中で切り裂かれていた。掌で蓄えられていたエネルギーも四散して、周囲へと消えていく。

 

 

直後、そんなキラを爆炎が飲み込んだ。爆炎に遅れて、轟音が鼓膜を叩く。更に爆発の影響で発生した風圧が周囲に吹き荒れた。

 

 

 

凄まじい威力の攻撃に言葉を失う。だが、雅緋はこれだけでキラが倒れるとは思ってなかった。無傷でなかったとしても、すぐに再生すると知っているから。

 

 

 

「──っしゃあ!今のは直撃したぞ!」

 

 

「……いや、当たったか以前の問題だと思うけど………うわぁ、全く効いてなさそう」

 

 

後ろから聞こえたのは男女の話し声。驚いた雅緋が振り替えると、6本の刀を両手に握る少女と何かの生き物をモチーフにしたと思えるフードを被った青年がいた。

 

 

だが、彼女にとっての問題はそこではない。その二人の正体こそが問題だったのだ。

 

 

 

「………なあ、紅蓮。あそこにいるのって蛇女の生徒なんじゃないか?」

 

 

「ん?確かに雰囲気からして似てるけど…………どうする、焔。声かけてみる?」

 

 

焔と紅蓮。

 

 

雅緋たちがいない間の蛇女学園選抜メンバーの二人。そして蛇女最高権力者 カイルを斬ったことにより、蛇女で一時期狙われていた者たち。

 

 

 

そして、雅緋たちも蛇女の誇りを取り戻すために、彼らの命を狙っていた。だが、彼女もここで会えるとは思っていなかった。

 

 

 

「………………」

 

 

その様子を平然として見ていたキラは顔を歪める。笑っていた、押さえきれない歓喜に身を震わせていた。

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