ファフニールと闘っていたのは、葛城と夜桜。
人並みに大きい手甲と具足、二つの武器を扱う二人はそのコンビでファフニールへと挑みかかっていた。
「おおァ!どォした、この程度かァ!?響いてこねェぞォォォォォォォォォ!!!」
無防備な胴体に連擊を浴びせられようが、顔を殴られようが、ファフニールは平然として立ち上がる。その体には、傷は一つもなかった。
「俺を倒せねぇなら、柱は壊せねぇ。それは確実なことだ、決定的な事実なんだよォ!!
だからァ、死ぬ気でこいやァァァァァァ!!!」
怒号を放ったファフニールが両腕で地面を砕く。それだけの動作のはずなのに、岩や瓦礫が二人へと牙を剥いた。
そして、それらを回避した夜桜に近づいた葛城はファフニールに聞こえないように耳打ちをする。
「…………なぁ、やっぱり効いてないよな」
「そうですね、あんなに硬いのは私も初めてです。何か突破口はないでしょうか?」
「…………実を言うと、もしかしたらいけるかもしれないぜ?」
少しの間の話し合いが終わり、二人の少女がこちらに向くのをファフニールは確認した。そして次の動きを決定する。
彼女たちの一撃を食らおう、そして自身の強さを見せつけて本気を出させて見せる。大したことがなければ、それでいい。その時は殺すのみだ。
そして、葛城と夜桜が二人同時に放った攻撃。空気を押し出した圧が拳と足に纏われ、ファフニールに向かっていく。
しかし、
「あァン?」
そんな攻撃は外れる。ファフニールの後ろへと吹き飛んでいった。軌道が明らかに外れてるのを理解し、呆気に取られたファフニールは少しずつだが、苛立ちを覚えた。
「アァ?どういうことだ、オイ。テメェら、数打ちゃ当たるとでも思ってンのかァ!!?」
怒りに任せて周りを吹き飛ばすが、それでも現状は変わらない。二人は攻撃を続けるが、それら全てはファフニールの横へと反れていく。
言葉では表せない、形容不能なほどの怒りがファフニールの脳を沸騰させていた。ふざけるな、本気で闘え。嘗めた真似をするな。
ふと、自身のいる場所が真っ暗になった。正確には、周囲が大きな影で覆われたのだ。
「───どんな硬い物も通用しないって言ったよな」
あァ?と怪訝そうに真上を見たファフニールの顔が一瞬で変わった。慌てて走るが、もう遅い。
目の前に跳んできた葛城はニッコリと笑う。その目にあった強い遺志をファフニールは見た。
「だったら、これを受けても平気だろ?」
胴体に蹴りが打ち込まれ、ファフニールは後ろに下がった。そんな彼は上を見上げて影の正体を理解した。
支えを失い倒れてきた柱。後ろに下がってしまったファフニールは避けることも出来ず、そのまま地面に叩きつけられた。
二人の作戦はこういうものだった。
ファフニールは、『柱は俺を倒さないと破壊できない硬さになってる』と言った。それはファフニールの硬さと柱の硬さは同じかそれ以下という意味になる。
逆を取れば、柱を使えば、ファフニールにダメージを与えることができる。
そして、葛城と夜桜は互いに交代して柱の付け根である固定具を攻撃し、ファフニールを柱の前に誘い込み、一気に固定具を破壊する。
その作戦は成功していた。だが、
「やってぇ、くれるじゃねぇか」
全身血濡れのファフニールが立っていた。両腕はダランと垂れ下がり、思い通りに動かせないように見える。
実を言うと、ファフニールは柱に叩きつけられた直後に柱に一撃を入れて破壊したことにより、ダメージを軽減させていたのだ。まあ、それでも軽傷とまでしか抑えられなかったのだが。
その状態で、ニヤニヤと笑うファフニールは身構える葛城と夜桜に向かって何とか健在な尻尾をヒラヒラと動かしてみせた。
「あー、いや。敗けだ敗け。今回の戦いは胸にきたぜ。それに、もうやり合う気力も体力もねーよ」
「本当…………なんですか?」
疑うような視線の夜桜にヘラヘラしたようにするこの男。戦う以外はどうでもいいので、そんなに気にしてない。
「まあ、んな細かいことは気にすんな。この俺が敗けを認めるなんてレアだぜ?誇っていいくらいだぜ」
多くの敵を玉砕してきたファフニールが二人の少女を、ライバルと認めたのだ。知らないと思うが、二人はこの後もこの男に執拗に(闘うために)狙われるだろう。
各地で激しい闘いが起こっている中、まともに闘ってすらいない人もいる。
「はい、これで美野里と雲雀ちゃんの勝ち!お姉さんの負けだよ~!」
「やったね、美野里ちゃん!」
「ハァ……………ゼェ………………ハァ、…………ゼェ、何……………………です、って……………?」ガーン
「…………………マジかよ、この人。僕よりも先にバテてるとか、どんだけ運動してないんだよ」
雲雀と美野里、ついでの強制参加の志藤(女の子に力で負ける貧弱)とパンドラ(露出のヤバイ運動音痴)だったが、結果は雲雀たちの圧倒的すぎる勝利。
※ここに戦績について表記させてもらう。(試合回数/勝利/敗北)
雲雀、20/8/12
美野里、20/9/11
志藤、20/3/17
パンドラ、20/0/20
こんな散々な戦績を残して、完全にバテきってるパンドラを見て、志藤は割とドン引きしている。
そして、見事大敗北をしてしまったパンドラは泣く泣く柱を破壊しましたとさ、めでたしめでたし(呆れ)。
「なるほど、なるほど、君たちのいる時代ってそんなに便利ものがあるのか。凄いものだな、人々の築く文明とは」
「でしょ、でしょ!?」
魔女のような姿をした少女が最新のスマホを細目の厳格な男性(しかし正体はノイズの塊)のアポカリプスが見せているこの光景、割と凄いものである。
そんな状況に心底困った様子の柳生は意を決して疑問をぶつけることにした。
「…………………いいのか?こんなことして。お前の仲間もこの事を知ったら」
「…………ぶっちゃけると、私は他の五君帝のやることなんてどうだっていい。スロウは剣士としての誇り、ファフニールは強者と闘いたい、パンドラは退屈な生活から脱したい。私は特にやりたいことなどない、興味があることしかやる気が起きないのでな」
やる気が起きないから闘うの止める。この男、いやこのケイオスは飽きっぽいのだろう(自由奔放とも言えるが)。
「あと、アルトリウスは真面目だからな。私たちの行動は咎めはするが、気にはしないだろう。
一番の問題は統括者だ」
統括者、かつて自分たちの敵となった怪物の名前に二人は真剣になった。
その様子を確認したアポカリプス。だからこそ、ハッキリと告げた。その怪物の本質の一つを。
「奴は我々を仲間とも見てない。奴にとっては自分以外の存在はゴミや道具だからな」
アルトリウスの本気。
どんな攻撃をも捌くことのできる盾を捨て、剣を持つことで二刀流になる。
その状態のアルトリウスの戦闘の仕方は極めて単純。
相手を押しきる。それだけがアルトリウスの最も気に入るやり方だった。
「………………………馬鹿な」
激しい闘いの中でそんな声を漏らしたのはアルトリウス当人だった。今、自分は連続で斬りつけている。
しかし、彼の相手である飛鳥は押されてはいない。むしろアルトリウスへと攻撃を防ぎ、その隙を見て反撃に転じていた。
「────ッ!盾を捨て攻撃に集中したのに、なんで押しきれない!?」
激しい息切れを起こしながら、アルトリウスは飛鳥を睨む。おかしい、そんな訳がない。鋭い剣先を向けて、更に続けた。
「相手は人間だ。我らが本気を出せば簡単に殺せるような人間だぞ。それに防御を捨て、攻撃に特化させた!それなのに、何故勝てないのだ!!」
「盾を捨てたからだよ」
「…………………………は?」
ポカン、とした顔をアルトリウスは浮かべた。何を言ってるのか分からない、そんな様子だった。
「闘う力だけじゃない……………守る力も立派な強さなんだ!貴方はそれを捨てた。そんな貴方に私は負けない、負けるわけがない!」
「……………………………………れ」
「でも、貴方だって分かってると思う。大勢の人を救うって言ってたけど、違うでしょ?本当は、全ての人を救いたいって」
「黙れ!黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ、黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェ!!!」
プツンとナニかがキレると同時に、アルトリウスは半狂乱になりながら両手の剣を振り回した。その剣筋に先程までの精密な動きは存在せず、がむしゃらにただ目の前の現実を否定するかのように暴れまわっていたのだ。
「私は、世界を救う!永劫の救済を果たしてみせる!そう誓ったんだ!その為に、私は人を捨てた!人を殺してきたんだ!!
だから、邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァッッッ!!!」
アルトリウスが吼えた直後、二本の剣が周囲の黒い靄を吸い、巨大化する。長剣はより歪により猟奇的に、大剣は倍以上、天空に伸びる程の大きさへと変化していく。
「ダウンフォール・アヴァロォォォォォォォォンッッッッ!!!!」
又の名を、不浄なる楽園の失墜。
人々の希望などを嘲笑うような絶望が一条の柱となり振り下ろされた。大地、海、空、世界、全てを一刀両断するような勢いで地上へと迫る。
これを防がなければいけない。飛鳥はそう理解する。
そして、振り下ろされた絶望の一撃を、二本の脇差を交差させて、受け止めた。
「う、あああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そんな一撃、それほどの一撃を飛鳥が押しきれるはずがなかった。腕からミシミシと骨が軋む音が鳴る。
終わりなのかもしれない。ふと、飛鳥は思ってしまった。
そして、彼女は──────
「…………………………………?」
そこでようやく、アルトリウスは気づいた。大剣は既に振り下ろされた。脆い奇跡を砕く絶望の剣により崩壊した地盤はこの地域を崩落させるだろう。
それなのに、何故いつになってもその現象が起きない?
「……………まさか、そんな」
大地を、大空をも切り裂く一撃だ。人間一人が防げるわけが────
「貴様、いやお前………」
緑の闘気が、強靭な風が周囲に巻き起こる。髪をまとめてた紐が解け、髪を下ろす。
その姿を見た黒騎士は焦りと恐怖を抱き、大剣を振るっているのもお構いなしに叫んだ。
「何なんだ、その力はァァァァァァ!!?」
真影の飛鳥――
疾風を身に纏い、二本の刀で巨大な剣を押し返していく。どちらが圧倒的かは明らかなはずなのに、それが全て無意味だった。
「飛鳥。真影の如く、正義の為に舞い忍びます――!!」
「ッ!!?──────お、のれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェ!!!」
絶望の一撃が粉々に砕け散る。目を見開き硬直したアルトリウスは次の行動を取った。歪な長剣を振るい、飛鳥に斬りかかっていた。
しかし、覚醒した飛鳥と正気を失ったアルトリウス。どちらが勝つかは明確だった。
───彼は、王として聖剣と民に選ばれた。そして民の為に努力した。
その結果、多くの部下から見限られ、裏切りにより彼の王は地に堕ちた。
だから、
そして執念により、聖杯を守護し続けてきた。全ては、世界の為に。もう間違えない。間違えるはずがない。
必ず世界を救ってみせる。
「そう思ったのに……………私はまた間違えた」
手から離れた長剣が地面に落ち、アルトリウスはその場に膝をついた。それを目にした飛鳥も動きを止め、刀を下ろす。
「聖杯を使うことが、最善だと思ってた。何が駄目だった?一体何が」
『─────アルトリウス』
聞いたことのある声が頭の中に、脳に響いた。
その声の主を知っていたアルトリウスは心の中で止まない警報に心を委ねていた。
────統括者、今更何を言うつもりだ?
『貴様以外の五君帝は柱を破壊された。やはり、あいつらも人間に負ける雑魚か』
自分以外の五君帝が負けた。
告げられた事実にアルトリウスは静かに納得していた。
そうか、皆が負けたのか。
ならば、仕方ない。自分たちはその敗北を────
『決まりだ、雑魚には他の方法で役立ってもらうとしよう』
あぁ、そうだった。
奴はそういう存在だった。
「────クッ!?この、力は…………!?」
短く呻いたスロウが地面に崩れ落ちる。自身に影響を与えた力を見て、驚いたように遠くを見やる。
「グ、ゴォォォォォォォッ!!…………そう、か。統括者、あのクソヤロウがァァァァァァ────!!」
ファフニールは全身に走る激痛に呻く。そして、自分たちにこのような真似をした統括者に怒りを見せた。
「……………むぅ、やはりか。統括者め、自暴自棄に成り果てたか。そうだろうと思っていたが」
酷く冷静に状況を把握したアポカリプスがそう漏らす。自らに起こる変化を理解してなお、彼は達観しているようだった。
「………………………………ふぅん、これで終わりなの。少し楽しかったのだけど」
自身の体に起こる変化を理解しながらも彼女は平然としている。いや、その表現は違った。悲しそうに呟いたのだ。
その四人の体からそれぞれの色を輝かせる宝玉が出現する。宝玉は空中を少しの間漂うと、凄まじい速さで飛んでいった。
四色の宝玉が向かう先、そこにあるのはただ一つ。
聖杯、空中に浮かびながらこの世界を塗り替えようとする混沌の神。
「ッ!周りから、反応が消えた!?」
五つの反応の内四つが消失したことにユウヤは驚愕する。攻撃の手を止めたのは強力だったその反応は飛鳥たちが原因ではないのだから。
なら、誰が原因かは簡単だ。
「準備は、整った」
「………………」
統括者ゼールスが聖杯を見上げたまま、呟いた。
「聖杯、我らが神も動き出す。こうなったら、我も真の姿で動くしかあるまい」
ただの青年の姿が、何故か鳴り響く心臓の音に続くように、変異していく。
紫と赤黒い色を練り混ぜたような混沌がゼールスの身体を包み隠さず覆っていく。
胸元がボゴボゴと膨れ上がり、露出した真っ赤な目。ギョロリと蛇に睨まれるかのようなおぞましさを感じさせる。
背中から深紅のナニかが浮き上がる。魔方陣、見たものは総称するそれは何重にも重なり、大きさを変えた。
「──────さぁーて、と」
これが統括者ゼールスの、
「愚かな人間ども、殺し合うことしか知らぬ妖魔、自らの使命も果たせないケイオスよ、改めて名乗ろう。
我はゼールス、混沌を統べる者。そして、いずれは─────この世界全てを統べる存在だ」
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