「なに、何が起こったの!?」
空を凄まじい勢いで飛来する四つの光。それがすぐ真上を通り過ぎた事に飛鳥と雪泉は混乱していた。
「統括者……………我々の同胞を、切り捨てたか」
膝をついたアルトリウスの言葉に雪泉と飛鳥は首を傾げる。
「飛鳥さん、どういうことでしょう?」
「私もよく分かんない………でも、あそこは確か」
その方角に向かっていた人物を思い出した飛鳥は胸騒ぎを感じた。急いで向かおうとした飛鳥を「待ってくれ」とアルトリウスが声を掛けた。
「私も行かせてくれ。奴は私の仲間をあのように扱った。どのような真意があるかを聞く理由がある」
真剣な彼の言葉に飛鳥は頷く。
感謝する、と頭を下げるアルトリウスは剣と盾を仕舞い、飛鳥と雪泉を連れて光の向かった方に走った。
誰も居なくなったその場に、一人の男が音もなく現れた。哀愁の漂う瞳を細くし、飛鳥たちの向かった方に目を向ける。
「………先程まで敵だった者と共に行動するか、流石だね。やはり君はオレを止めた者だよ」
その男、カイルは静かに微笑む。義手で柱の表面を撫で、スッと手を置く。
「だが、やはり詰めが甘いな。柱を破壊せずに、このままにしていくとは」
それと同時に、柱がメキ!とヒビ割れる。彼の手から出現した冷気が柱を凍らせたのだ。
「────、絶体氷結・侵凍崩壊」
静かに呟くと、冷気の鋭さが増す。
そして、数秒もせずに氷に覆われた柱が歪んでいき、粉々に砕け散った。
これで全ての柱は破壊され、供給の絶たれた聖杯は無敵ではなくなった。後は本体に強力な一撃をぶちこめばいい。
だが、そう単純なものではないだろう。
「オレ的には、
「────ここ、は?」
紅蓮はボロボロになった状態で紅蓮は地面に転がっていた。全身を貫く痛みに意識が覚醒していく中、何がどうなったかを思い出そうとしていた。
視界の隅から現れた人影を見なければ。
「ッ!?おい、焔!大丈夫か!?」
「───ぁ、紅蓮か?」
近くの岩影から出てきた焔に紅蓮は近寄る。焦りながら彼女の傷を見るが、酷くないことにホッと安堵していた。
「紅蓮さん、焔さん!大丈夫ですか!」
「雅緋!無事か!?」
聞き覚えのある声のする方を見ると複数の人影が此方に向かってきていた。詠たちと、後の数人は………雅緋さんの味方かな?と心で考え込む。
「えっと、確かウチらがそこの人たちと妖魔を倒してたんやけど」
「そしたら、でっかいビームがこっちの方から来て、妖魔がまとめて消し飛ばされたんだけど」
「私たちも驚いていたら、あの巨人が見えてね。急いでこっちに来たのよ」
「……………キラ、か」
日影、未来、春花の話を聞いた紅蓮は少し前にキラが六つのビームを放った事を思い出す。多分、そのビームが辺りにいた妖魔たちを消し飛ばしたのだろう。
「…………、皆」
紅蓮が焔たちに目配りをする。
その間は無言だった。だが、彼の心意は伝わっていた。
「───待て、いや待ってくれ」
忌夢に肩を貸された雅緋が呼び止めた。
「キラを止めるのか?何故なんだ?理由がないだろう、お前たちに。このまま逃げても何も言われない。それなのに………………」
「理由はないさ」
ハッキリと紅蓮は言い切った。驚く雅緋たちを前にして、紅蓮は口元を緩めながら続けた。
「───理由なんてもがなくても、助けてくれる人はいるだろ?」
雅緋たちは知らないが、一つの話があった。
かつて、蛇女にいた男の道具して扱われていた自分たち。その男の凶行により仲間たちが危なくなり、庇った事で自分も倒れた。
だが、関係ない筈の彼らは自分たちの為に戦ってくれた。それは、紅蓮にとっての一つの行動原理になっていた。
「俺も、助けたい。大した理由がなかったとしても、偽善とか言われても」
「…………ホントに変わったよな、悪くない意味で」
そうかな?と聞き返すと苦笑いをしながら頷く焔たち。やっぱり分からないなぁと紅蓮は考え込んだ。
「よし、皆!行くぞ!」
掛け声を発し、脚を避けると同時に戦闘が始まった。
「………………うざいな、邪魔だ」
自分に攻撃を仕掛けてきた者たちを理解したキラが鬱陶しそうに吐き捨てる。キラが手を払うと巨人の腕から細くなった無数のビームが伸びる。
炎を纏わせた刀を紅蓮は払い、火炎弾を飛ばす。巨人の体に命中した時には小さい爆発を連鎖的に起こしていく。
次の攻撃をしようとした途端、ガクン!と足が何かに引っ張られ、紅蓮はバランスを崩した。
足首をガッシリと掴んでいるアンカー。アンカーのついた鎖の伸びた先にあったのは、片腕を鎖へと変えたニヤリと笑うキラの姿。
腕を動かす動作に連動し、紅蓮の体が宙を舞う。不規則に振り回され、気持ち悪くなる。モーニングスターの鉄球の気持ちがよく分かる。
だが、そんなに明るく受け取れるわけなく、思うように出来ない状況に紅蓮は冷や汗をかいた。
(まずい…………こんな状態で攻撃されたら)
「へーい」
気さくな声が何故か耳に入る。
紅蓮が首を動かした時には目の前が真っ黒になっていた。
巨人の腕。六本の内、一本が紅蓮に叩きつけられる。紅蓮の何倍もの大きさと重量の腕、そんなもの無防備な状態で受ければ、どうなるのか。
「がっ、ばあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
聞いたことのないくらい鈍い音が、脳内に炸裂する。空中で振り下ろされた巨腕に対応できず、そのまま地面へと叩きつけられた紅蓮は大量の血を吐く。
骨が何本も砕けたかもしれないが、元々忍並みには頑丈に造られているので動けない訳ではない。激痛が全身に響き渡る中、紅蓮は立ち上がった。
「くっ……焔、皆!大火力をぶちこむ!下がってくれ!!」
「あ、あぁ!」
「猛火を味わえ!零式・流星の紅火焔!!!」
凄まじい熱を帯びた刀から、宇宙から落ちてきた隕石のような炎の塊を投げ飛ばす。破壊力は例えと同様。
離脱した焔たちの前を通り過ぎ、炎の塊は巨人の体へと激突した。爆炎が辺りに飛び散り、周囲を煙で覆う。
「最強の異能を誇る俺様に勇敢にも挑もうとするか、その覚悟は称賛に値する」
馬鹿な、と思った。
巨人はその攻撃をもろに受けた。直撃だった、防御もせずに攻撃できた筈なのに、だ。
平然と立ち尽くしていた巨人の頭部でキラは高笑いをしながら、六つの剛腕を持ち上げた。
「悲しいけどぉ、効かないんだよなぁ!!」
鉤爪が大きく開き、砲口に光が圧縮されていく。先程、この周りを大きく吹き飛ばしたレーザー攻撃。
こんな至近距離で放たれれば避けられる筈がない。逃げるにも間に合わない。止めるしかない、そう思っていたが、その時は来なかった。
「待ってくれ、キラ!」
紅蓮たちの前に来た雅緋がそう叫んだ。
後ろを見ると近くから忌夢たちが走ってくるのが見える。
動きを止めた巨人、それを操るキラが心底嫌だいうような舌打ちをする。苛立ちを隠しきれていない、腹立ったものを。
「………………雅緋か、待った所でどうなる?貴様に何か出来るというのか?憎悪と敵意に身を委ねた貴様に」
んん?と付け足したキラは嘲笑するように、雅緋を見下ろす。わざと煽っているのだろう、と紅蓮は思った。
確証はない、それなのにそう信じていたのだ。
自分に構うのを、諦めさせようとしているのかも知れない。
「───という魂胆か?」
「残念だったな、その手には乗らない。私は、私たちは決めたからな」
「────ッ」
雅緋の答えを聞いたキラが顔を歪ませる。驚きと悲しみ、その中に本の少しだけ嬉しさがあったのかもしれない。
焦って目を反らそうとしたキラは不意に他の四人、忌夢、紫、両備、両奈の顔を見てしまった。
心から心配するような優しい顔、自分に向けられたそれを理解して、理解してしまった。
「─────そうか」
スッとキラの手がゆっくりと下ろされた。
巨人の動きも停止する、キラの力が少しずつ鎮静していく。
「───俺様は」
戻っていいのか? と聞こうとして、耳元でナニかが囁いた。
──受け入れるのか?光を、優しい光を。
自分が、この世界でどのように生きてきたのか。
──おいおい、忘れたのか?お前はどれだけ裏切れてきたのか。
自分がこの世界でどのような事を味わったのか。
───そうだろ、分かるだろ?なら、やることは一つ。
そう、だから。
「俺様は───────孤独でいい」
顔を覆った十本の指を食い込ませ、キラは強い拒絶を示した。垂れ下がった金髪との隙間から向けられた目に宿った拒絶が徐々に強い敵意に変わる。
ゾワッ!と彼の敵意に比例するように、闇が膨れ上がった。
上半身スーツのキラの身体を闇が覆っていく。闇が晴れた時に現れたのは、漆黒の鎧。
『
ゴキリ、と首が鳴る。身体を反らしていたキラが首を動かし、上から大地を見下ろした。
「さぁ、造られた人形、そして忍たち」
此方を向いたキラの顔は見えない、それは当然だった。顔にはいつの間にか、漆黒のバイザーがあった。
真っ黒な、全ての光を塗り潰すような絶対の暗黒の色をしたバイザーが。
「融合の、今こそ交わる時だ。表と裏、光と影」
両手を広げたキラの背中から六本の虫の足ような刃が発現する。巨人の脚が音もなく消え去り、残された身体が宙を舞う。
「二つの
そして、巨大な闇が降臨した。
ぶっちゃけ、あと何話かでこの章は終わります!それだけじゃなくて色々続きますが、それでもいいという方はこれからもよろしくお願いします!
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