閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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世界の命運を握る二つの最終決戦。


その決着が今、つこうしている。


六十三話 決着

少年は、もともと混沌ではない───妖魔だった。

 

知性と人の形を得た少年は妖魔たちから迫害され、その命を狙われ、心身ともに疲れ果てていた。

 

 

しかし、一人の忍が彼の生き方を変えた。笑顔が絶えない少女、少年が知る中で誰よりも人々が笑える世界を望んだ少女に、少年は憧れていた。

 

 

しかしその少女は死んだ。妖魔を狩り尽くす存在である『彼女』から少年の命を守り、その戦いの傷で亡くなってしまった。

 

声を掛ける事すら出来ず、少年は少女を死なせた。彼女を笑顔にさせるという、ちっぽけな願いを叶えられず。

 

 

だから、少年は統括者になった。全ては、今は亡き少女の『願い』を果たす為に。

 

 

 

 

 

 

「……………ふん、慢心していたな。我は」

 

一歩後退ったゼールスがそう吐き捨てる。『雷神』へと覚醒したユウヤ。彼との戦いにゼールスは少しずつだが、確実に押されていた。

 

 

しかし、余裕の表情は消えていなかった。ニヤニヤと笑うその顔には、まだ勝利への渇望が残っていた。

 

「なぁ、人間。お前は全力で挑んできたよな?だったら、我も持てる全てを使ってでもお前に挑まなければ………駄目だよなぁ?」

 

「………どういう、意味だ?」

 

 

何も答えないゼールスだったが、すぐにその意図が分かった。

 

 

変化が、あったのだ。

 

天空に浮遊する未知の物体 『聖杯』。それが動き出していた。先程まで大きく広げていた翼を縮ませ、その身に凄まじい熱量が溢れていく。

 

 

「…………お前、分かってるのか」

 

対立していたユウヤが歯軋りしながら呟いた。彼の言いたい事を理解しているゼールスは尚更と言わんばかりに告げる。誰よりも勝利を確信した様子で。

 

 

「数千万の命と世界の地脈を使ったエネルギーを放出すればこの場所、この街…………それだけでは済まないな。この大地に絶大なダメージを与える。

 

 

さぁ、どうするつもりだ?」

 

──全ては宿願の為に。本末転倒と言われようが、彼は止めることは無いだろう。しかしそれは、たった一人を覗けばだが。

 

 

 

 

 

 

 

つんざくような感覚が、全身に走った。訳が分からないまま、キラは自分の手を見ていた。

 

彼は知っている。その感覚が痛みだということを。しかし、それが今まで自分が味わってきた精神的なものではなく、肉体的な痛みだと気づくのに大きな時間がかかった。

 

 

何故、と思うキラは知らない。今までの戦いで自分が気づかない程に体力と気力を消耗していたことを。そして、何よりもう闇の力が扱えないほど自身が困憊していることも。

 

だが、どうでもいい。何もかも、どうでもいい。

 

 

「…………ふざけろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!」

 

 

ただ一つ、自分に傷を与えた相手を叩きのめす。それがキラの選択だった。

 

 

勢いよく飛びかかるキラだが、紅蓮はそれを迎え撃とうと腕を振るう。その攻撃を避け、キラは両腕を振るった。

 

右、左、右、左、右、左、右左右左右左右左右左右左。凄まじいラッシュを食らわせ、よろめいた紅蓮に馬鹿にするかのように吼えた。

 

 

「どぉしたァ!?この程度かよ!?俺様にふざけたこと言いまくったのに、この程度で終わるのか!?だったら、テメェの仲間もぶちのめしてやるかぁ!!」

 

「────ッ、ウアァ!!」

 

 

紅蓮が動いた。胸倉を掴んだ両手首を掴み返す。そして、精一杯の強さで歯噛みすると彼の顔に向かって頭突きを食らわした。

 

「グ、ごぉ………!?」

 

顔面に直撃し、鼻が砕かれるような音にキラは思わず手を離す。直後、紅蓮は身体を捻り、回し蹴りを食らわせる。

 

 

脇腹に叩き込まれた衝撃に、吐きそうになる。しかし、キラは踏ん張り、立ち止まった。

 

「────ッあ!テ、メェぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェェェ!!」

 

 

絶叫を響かせ、キラは持てる力を振り絞る。そして、本気で紅蓮の顔面をまた殴る。何度も続けた行為に、息切れしながらキラは睨む。

 

 

「………何で、そこまでやりやがるんだ!さっきから、」

 

テメェらには、何も関係ねぇだろ!と続けるキラに紅蓮は瓦礫に手を掛けて、立ち上がる。

 

紅蓮自身も、キラの目的に対する執着はない。自身の命を張る理由もない。あるとすれば一つ、自分が戦うことで守られるものがあるとすれば─────彼は全力で戦う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

疑問があった。

 

何時まで経っても、終わりの一撃は来ない。この街を吹き飛ばし、挙げ句には星にすら重大なダメージを与えかねない威力の光が。

 

一番最初にその事実に驚愕したのは他でもない────────統括者 ゼールスだった。

 

 

「───なっ!何故だ、………何故動かんッ!?」

 

 

慌てながら彼は叫ぶ。だが、聖杯の動きがピタリと停止し、反応すらしない。今この場で最強とされていた存在が、その動きを止めたのだ。

 

 

何故、と頭を回転させ────ハッと思い出した。眼球だけを動かし、あの場所を見る。ポッカリと空いた大穴、聖杯が出現した場所を。

 

 

「………………おのれ」

 

そう吐き捨てるゼールスの顔には、最早余裕など無かった。

 

 

 

 

 

彼の視線の先、巨大な穴の中で起きていた事は簡単だった。

 

穴の奥には沢山の装置が置いてあった。ゼールスが聖杯を動かす為の制御装置など、重要な物が。

 

それらを前に、銀の青年は呆れたようにため息をつく。

 

 

「よく分からない構造だけど、何をどうすれば壊れるのかは理解できる、ね!」

 

腕を振るい、水の飛沫を飛ばす。小粒の水滴は、周囲にある装置に風穴を空けていく。

 

ふーっと深呼吸をした青年 シルバーは作業を続けながら、近くにいる二人の少女に質問した。

 

 

「で、自分に教えてくれたのは助かるけど………君ら誰なの?」

 

彼女たちの動きから忍だと分かる。忍狩りも伊達ではない、そう思うシルバーだったが、彼の様子を気にしないように顔を見合わせた二人は、

 

 

「「通りすがりの忍(だ)です」」

 

「名前だよ、名前言えっつってんだよ。話聞いてくれないなぁ、この()たち」

 

 

こめかみを片手で押さえたシルバーは、更に装置を壊しいった。自分にやれることはこれだけ、後は譲るべきだ。決着をつける役目の人物に。

 

 

 

 

 

 

誰かの意図を瞬時に理解し、彼は走っていく。多くの人に背中を押されるように、ただひたすら。

 

 

自らの望む世界へと変えようとする支配者を演じる少年の所へと。

 

「う、おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 

「───ッ!障壁よ!」

 

 

ゼールスが手を掲げる。直後、七枚の半透明な障壁が展開された。

 

今までの物とは違う。ゼールスが全身全霊の力で作り出した障壁の束。走る脚を止めることなく、ユウヤは自らの拳を叩きつけた。

 

骨が折れるかと思う程の衝撃が身に染みる。しかし、それで止まらない。文字通り、血を吐くような絶叫を響かせ、七枚の障壁を一気に貫通していく。

 

 

無敵の絶対防御は破られた。しかし、七枚の障壁を破壊したユウヤの一撃には最早威力は無い。何故なら、その腕はもう既に使い物にはならないのだから。

 

 

勝った、確定的な事実にゼールスは嗤った。片腕を失った彼はもう片方の腕を使うだろう。

 

 

──その前に、終わらせる。

 

「終わりだなァ!天星ユウヤァァ!!!!」

 

 

勝利宣告と共にゼールスは片腕の爪を伸ばし、容赦なく振るった。体を切り裂き、腹を破り、それで確実に殺す。

 

 

 

 

だが、

 

 

「これで、捉えたぞ………!!」

 

 

馬鹿な、そんな馬鹿な。

勝利を確信したゼールスは目の前の出来事に絶句した。

 

 

防いでいた。障壁を破壊した腕で、殴るために振るわれた腕で、ゼールスの爪を食い込ませながらその攻撃を防いでいた。

 

 

 

 

障壁を使う?無理だ、こんな至近距離では発動しても意味などない。

 

聖杯を使う?忘れてない、何者かに制御装置は破壊された。動かすことなどできない。

 

他の手段を使う?

 

 

 

 

 

そんなもの、今の自分には残ってなどいなかった。

 

 

 

ユウヤが防ぐ腕とは違う、片方の腕を振るう。後方へと払われた腕に莫大なエネルギーが集まっていった。

 

電気、電撃、雷の力。いやそれだけではない、本質的な違うモノ。ゼールスが気圧される程の濃厚なエネルギーの総量。

 

 

 

避けられない、確実にこの一撃は直撃する。

 

 

(何なのだ、コイツは………コイツらは!!ここまで我が追い詰めたというのに、明らかに絶望的な状況だったというのに!!)

 

 

 

腕に蓄積するエネルギーが膨大な量へと倍増していく。たった数秒の事だったが、ユウヤにとってそれは長い時間に感じていた。

 

やることはただ一つ─────ありったけの力を相手にぶちこむのみ。

 

 

 

「ライジング・スターフォール・ユニゾン、ブレイカァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!」

 

 

けたたましい雄叫びを響かせ、全身全霊───それ以上の力を溜め込んだ拳を、ゼールスの胸に叩き込んだ。

 

 

 

 

 

ピシッ、と音が響き、何も聞こえなくなった。

 

 

───負け、る?我が?嫌だ、そんなの、そんなもの認めない。我は、この世界を統括する。終わる、終わる終わる終わる終わる、終わる?そんな事あり得ない、あってはならない。そう、約束した。約束したのだから。思い出せない誰かと、だからこそ────

 

 

『もういいよ』

 

 

ひっ、と喉が詰まった。

貪欲にも諦めようとしなかった支配者はその声に震える。だが、何処から聞こえてくるのか確かめる為に、耳を澄ませていた。

 

 

『………ずっと戦ってくれたんだね。あの時、死んじゃった私の夢を叶える為に』

 

 

───そうだ、我は、その為に生きてきたんだ。君の願いを、争いの無い世界、影でも生きる者たちも自由に、笑って過ごせる世界を作る────その為だけに。

 

それが、それこそが、希望を抱かなかった我の最初で最後の願いだったのだ。

 

 

『でも、もういいよ』

 

 

ゆらりと暗闇の中に人影ができる。前見た時と変わらない容姿をした忍の少女は振り返った。

 

 

今にも泣きそうなくらいに眩しい笑顔。彼が最後まで守ろうとして、出来なかった笑顔を浮かべ、少女は告げた。

 

 

『私はもう、………貴方が普通に生きてくれるだけで、幸せだから────────だから、生きて』

 

 

 

 

 

雷光の奔流をもろに食らったゼールスは勢いに飲まれ吹き飛んだ。流星のように、光り輝く一つの星のように。そして、上空に聖杯にめり込み、その中心部へと激突した。衝撃はまだ消えない。

 

 

 

ようやく停止した時には、聖杯のコアにヒビが入る。そして、ガラスが割れるかのように、音もなく砕け散った。

 

 

 

【■■■■■、■■■■■■■■ッッッッッ!!!!!】

 

 

核を失った聖杯は悲鳴とも絶叫とも取れる音響を放つ。周囲に光を放ちながら、その姿をボロボロと崩していく。小さな粒子となって分解して、ブォッ!!と凄まじい風を起こす。

 

 

 

赤黒く塗り替えられた世界は吹き荒れた風によって元に戻る。

 

 

 

ようやく終わったと、地面に座り込んだユウヤは深く息を吐く。此方に向かってくる少女が彼の様子を見て、目を見開いた。

 

 

「え、………ちょっと!ユウヤくん、大丈夫!?」

 

「…………飛鳥、ハッキリ言う─────駄目だキツイ、マジで腕が痛い、泣きそう」

 

激痛に悶えるユウヤを心配そうに見ていた飛鳥は安堵すると、彼に自分の肩を貸して、一緒に歩いてく。

 

 

雲一つ無い青天の空、暖かな光が二人を照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度も殴り合い、蹴り合いを続けていた紅蓮とキラは互いに息切れをしていた。いつ倒れても可笑しくないというのに、

 

 

「………まだやる気か?正気じゃねぇな、何を望んでやがるテメェは!この救いのない世界で!奇跡なんてものがあるわけないだろ!?絶望と不幸しかないというのに!!」

 

「例えそうだったとしても、希望や奇跡が無かったとしても、俺には仲間がいる。それだけで充分なんだ」

 

 

ボロボロの状態の紅蓮はそうとしか答えない。その様子は自信しか感じられない。

 

 

だからこそ、キラは更に怒りと不快感を募らせた。

 

「仲間……………どいつもこいつも、仲間だ仲間だ好き放題言いやがる。気に入らねぇ、気に入らねぇよテメェ。

 

 

 

 

そーいうの見てると、イライラするからなぁ───こうしてやる!!」

 

 

ぶつぶつと呟くキラの背中からまた鋭利な刃が出てくる。今度は二本だけだが、すぐにその刃が牙を剥いた。紅蓮は構えるが、彼の横を通り過ぎる。

 

 

そう、狙いは紅蓮ではない。その後ろにいた焔と雅緋だったのだ。

 

 

「希望なんてねぇんだよ!そんなもの打ち砕いてやる!目の前で見と─────、け?」

 

哄笑に続いて吐き出された言葉はそこで途切れた。目の前で起きた事を飲み込めてないキラも少しずつ理解していく。

 

 

 

その間に割り込んだ存在、キラの分身体が刃を防いでいた。自らの身を呈して少女たちの前に立っていた、主の命令に背いてでも守るかのように。

 

 

『……守る、彼女たちを、守る。それが───命令』

 

「──────は、ぁ」

 

 

自身の分身にすら否定され────壊れた。彼、キラを支えていた柱が音を立てて崩れると同時に、錯乱したような絶叫をあげた。

 

 

「馬鹿に、するなぁあああああああ!!俺は、俺様は最強、無敵、誰にも負けること無い、絶対的な強者!!その俺様にこんなこと、あっていい訳ねぇんだよォォォォォォォォぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!」

 

「…………キラ」

 

 

喉の奥から轟かせた叫び声と共に、もう一度キラの背中から四本の刃が生えてくる。前とは違うような、巨大かつ鋭利と変わった刃が。

 

本来なら使うことなど出来ない闇の力を自らの精神力で酷使しているのだ。ボロボロな体を動かしながら、死ぬかもしれないというのに。

 

 

「…………まだ、分からないなら、言ってやるさ」

 

 

紅蓮は立ち上がり、キラの元に疾駆した。四つの刃が刈り取ろうと迫ってくるが、全てを避ける。身体を掠ろうが、脚を止めず──────驚愕するキラに向かって叫んだ。

 

 

「現実を見やがれ、お前は俺にそう言ったろ!だからお前も、仲間を、自分の本心を、全部まとめて受け入れやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

瞬間。

渾身の拳は、的確にキラの顔面に突き刺さっていた。グラリと一撃を受けた身体が揺れる。倒れ込む青年を覆ってた闇の鎧は灰のように消失し、その存在を無くした。

 

 

 

相手が動かなくなったのを確認し、紅蓮も足から崩れ落ちる。体力の限界、それが一番の理由だった。指すらも動かせない程の疲労に、紅蓮は困ったように笑う。

 

 

 

 

 

 

 

晴れていく青空を見上げているキラの意識は落ちかけていた。動けない体の中で思考をフル回転させ、ひたすら自答していた。

 

 

「おれ……さま、は…………」

 

 

間違っていない。そう言えるだろうか、彼を見ても。

 

自分とアイツの違い。

それは、単純なものだろう。戦う理由になる誰かがいるか、そうなのかもしれない。

 

いや、そう考えてる時点で、あの男には届かないだろう。

 

 

「………負けた、あぁ負けた。無様なくらいの完敗だぜ───────けど」

 

視界の隅に見える、此方に駆け寄ってくる少女たちの姿を目にしながら、ポツリと本心が漏れた。

 

 

「………………悪くない、気分だなぁ」

 

生まれて始めての敗北を、キラはただ受け入れた。少しずつ抱き始めたその感情と共に。




次回、三章完結。


アンケートは来週の金曜日 9月6日の17時ピッタリに終了させて貰います。皆様、よろしくお願いします。

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