六十四話 傭兵の依頼
聖杯の眠る廃墟の町、聖封町で統括者 ゼールスが引き起こした『聖杯事変』から、数日が経った頃。
少年少女たちの死闘により、守り抜いた平和はすぐに終わりを迎えることになる。
新たな戦いが、始まるのだ。
「──忍の間で不穏な動きがあるだと?」
半蔵学院、応接室でユウヤはその話を聞いて僅かだが驚いていた。
最近滅多な問題がないと思ってた否やの急報。飛鳥たちすら駆り出される程の異常事態に上層部は切羽詰まっているというのが理解できた。
対して、半蔵は和菓子を頬張りながら話を続けようとする。このジジィ、本気で心配してるのか?とユウヤから怪訝な視線を向けられているのだが、それを気にしようとしない態度だった。
「うむ、善忍だけではない。悪忍、それ以外の者たちにも接触する存在が確認されたんじゃ」
「……で、そいつらについて分かった事は?」
「何も、有力な忍たちが捜索しても尻尾も見せん。見つけられたとしても忍たちを瀕死にまで追い込み、その間の記憶を消されとる」
話を聞くに、想像の範疇を越えている程のものらしい。多くの者たちに接触している連中はその跡を残さずに、好き放題しているとか。
思考に明け暮れるユウヤに、半蔵を思い出したように手を叩く。ニヤニヤと笑みを浮かべながら、ユウヤに目を向けていた。
「ところでお主、最近どうじゃ?特に飛鳥はお主のことばかり話しておるからなぁ。まさかとは思わんが、付き合ったりとかは───」
「無駄話はいい。本題を言え」
ユウヤは仕事とプライベートは切り替える人物だ。故に、傭兵の任務では滅多な事が無ければ私情を挟まない───罪の無い人が犯罪者にされるなどの事がなければ。
つまらんのぉ、と困った顔をする半蔵を一転、真剣な顔つきになる。
「先程の話を儂の旧知、『遠野』の里に伝えに行ってはくれんか?」
「…………それは、あの『遠野』か?」
退役した忍、負傷して戦うこともままならない忍たちが隠れるという外との繋がりが少ない忍の里。
そう、あまり外の情報が届かない故に、この事態に気付くのが遅れるという半蔵の懸念を、大方理解したユウヤは深く息をついた。
「分かった。迅速に済ませてくる」
そう言いきり外へ出ようとするユウヤ。彼にとって特別な依頼、傭兵の誇りとして失敗を避けたい為、早めに向かおうとしているのだろう。
「そうじゃそうじゃ、重要なことを忘れとったわ」
扉を開けようとする手がピタリと止まる。ユウヤは目を細め、壁に背中を掛けて振り返る。
早くしろ、という無言の態度に半蔵は髭を撫でながら資料を机の上に提示する。そして、マーカーで線を引かれた所に自然とユウヤも目がいった。
「十年の前の災害、それで死んだ者の遺体を調べた結果………、
お主の父、
「…………そうか」
静かに、心なしか納得したように呟いたユウヤはそれ以上口にせず部屋から立ち去った。
心配そうにその背中を見る半蔵を置いて。
あれから数時間後の山奥、
「………ったく、相当離れた所にあるみたいだな。『遠野』は」
不満を愚痴に出しながら、ユウヤは携帯端末に撮った地図を覗き込む。『遠野』の里は外界から来れる者はいないとされる場所、半蔵から教えられた地図が無ければ近づくことも出来なかっただろう。
──キィンッ!
聞き覚えのある音が小耳に届く。例えるなら、刀が弾かれる音。ユウヤは顔を上げ、木や草の生い茂る山奥を睨む。
「ったく!手間取らせやがって!」
悪態をついたのは、赤いローブを纏う仮面の男。血がこびりついた巨大なハンマーを肩に掛け、足元にいる人物を蹴り飛ばす。
「くっ…………あ、」
腹に蹴りを入れられたのは、褐色の女性。腰までいきそうな白い長髪も、地面に転がってるせいで泥がついている。抵抗出来ないのは武器である刀が遠くに飛んでいるから、でもあり立ち上がれないほど痛めつけられたからだった。
その様子に気づいたのか、男は脚をピタリと止める。忌々しそうに唾を吐き捨て、後ろにいる者に振り返り様に問いかけた。
「で、どうするよ?この女」
「始末する───それ以外あるまい」
もう一人の仮面の男はあっさりとそう言いきる。冷たいもんだ、と皮肉る相方を無視し、ローブの中からある物を取り出す。
何重に鎖が巻かれた鞘、そこから引き抜かれたギザギザとした刃の刀を。
ノコギリのような断面の刃を女性の首めがけて振り下ろす─────、
「──────よぉ」
──ことはなかった。刀が斬ったのは、空気と地面だけだったから。ハンマーの男が……あ?と唖然とした様子で固まり、ノコギリ刀の男はすぐに気付き周りを見た。
そこには、一人の青年がいた。
「二対一とか、つまらないことするなよ。俺みたいな奴が来るからなぁ?」
ボロボロの女性を抱えながら、青年 ユウヤは二人に目を向ける。冷酷かつ敵意が濃厚な鋭い目を。
女性は抱えられたまま、戸惑うようにユウヤの顔を見て疑問を漏らす。
「あ、あの………貴方は?」
「通りすがりの傭兵」
あっさりと答え、ユウヤはその女性をすぐ近くの木の根元に降ろす。休むように肩に手を置き、二人の相手になるように前に立つ。
それは、褐色の女性を守るような立ち位置だった。言外に示された事実に、男たちは黙っていない。
「テメェ何してやがる!俺たちはその娘に用があんだよ!邪魔すんじゃねぇ、さっさと失せろ!」
「──いや、奴も始末する。我らの姿を目にした以上生かして置くわけにはいかない」
激情する男を落ち着いた様子の男が制した。二人は互いを見合うと、自分の得物を構える。
ユウヤは嘆息する。
動きから見るに、あの二人はエリートの忍よりは格上の実力者だろう。
今いる敵がその二人だけなら負ける気はしない。例え後ろの女性を庇いながら戦ったとしても。
だが、ユウヤの考えは外れた。思いもよらぬ形で。
「待て」
二人の後ろからそう声がかかる。声の主はカツカツと靴を鳴らし、木陰から出てきた。
「情報通りだ。電気の異能使い、『鍵』に違いない。報告のように『神の力』を有するのであれば、今の我らでは実力不足だ」
細目の青年。真っ白なスーツを着た青年。片手の甲に取り付けたボウガンをカチャカチャとさせながら、彼は戦闘員たちの前に立ちそう言った。
ノコギリ刀の男が足音をたてず、スーツの男の横に移動する。不気味なデザインの仮面をユウヤたち向けながら、否定的な声をあげる。
「しかし、
「『鍵』の出現を報告するのが重大だろう。それに、『彼』の事だ─────そこの少女が生きようが死のうが、やることは変わらないだろう」
顔色を変えることなく平坦としながら告げる
へぇ、と呟き、ユウヤは鋭く睨みつける。明らかな警戒の色を浮かべながら問いかけた。
「テメェら、何者だ?」
「名乗るほどの者ではない。そもそも、その必要はないのだから」
謙遜するような態度で、無表情のまま咲人は告げる。まるでそういう風に作られた人形のように。
その男を前に、ユウヤも顔色一つ変えない。しかし、付き合いきれないと言わんばかりの溜め息を吐くと、全身からバチバチと電撃を響かせる。
───スーツの男は、無表情のままで行動を起こす。
「出来ると思うかな?────忍法」
「ッ!」
その言葉を聞いて目を見開くユウヤの前で、ガシャンッ!と右手に填め込まれたボウガンの音を鳴らし、此方に向けてくる。
しかし、ボウガンには矢は装填されていない。それなら武器として使えない筈なのだが、男は続けて口を開く。
「──圧縮空爆弾」
空気が放たれた。
比喩ではない、文字通りボウガンから空気が飛び出したのだ。色の無い半透明な一撃がユウヤの足元の地面に接触し、
爆弾を使用したと疑われる程の威力の爆発が起きた。凄まじい衝撃が烈風を作り出し、辺りの山に吹き荒れる。
「……あの野郎ッ、わざと狙いを外しやがったか」
爆心地にいたユウヤは電気の力で生み出した鋼鉄の鎧で威力を防ぎきっていた。だからこそ、あの敵が狙って行ったことに勘づいたのだ。
前方に目を向けるが、誰もいない。この惨状を作り出した咲人という奴も、そいつに従ってた男二人も、完全にその姿を消していた。
(秘伝忍法────あいつ、忍なのか?いや、動きが違う。じゃあ、一体…………)
深く考え込んでる中、ふとあることに気付いた。
「………ん、あいつはどこだ?」
さっきの女性がいない。
逃げたという訳ではない、そもそもボロボロで、何より逃げられる体力が無かったはず。
────────!
信じがたいが、思い当たるのはただ一つ。
───────ぁ!
顔をひきつらせたユウヤは、ギチギチと首を動かす。向いた先は、すぐ真上。
「きゃああああああああ!!?」
空からさっき女性が落ちてきてた。無論、まっすぐとユウヤの方に。
高さからして、避ける余裕などある訳ない。
「えっ、ちょ!?マジk────」
慌てたユウヤが叫び終える間もなく、落ちてきた女性に激突する。律儀に足止めされた、そう考えるのが妥当なのだと理解しながらも、癪に触る感じだった。
「……すみません………助けていただき……ありがとう、ございます」
「お、おう……気にすんな」
オドオドとした様子で頭を下げてくる褐色の女性に、ユウヤは困ったように頬を掻く。
先程、ユウヤは激突した女性を受け止めたのだが、姿勢が姿勢だった。
ユウヤの顔にその女性の豊満な胸が当たっていたのだ。事故とは言え、きゃーえっちーと言われて血祭りにされてもおかしくない(誰にとは言わない、言いたくない)。
そもそも、ユウヤも健全な青年。女性の体に触れてしまえば、色々と考えてしまうお年頃なのだ。
「俺は、天星ユウヤ。お前は?」
自身の感情を誤魔化すように、ユウヤは自ら名乗る。それを聞いた女性の態度は変わらない。
やはりオドオドとしながら、ゆっくりと口を開いた。
「私は……遠野天狗ノ衆選抜メンバーの筆頭を担う夕焼……と、申します」
今回の話は普通にオリジナルです。いや、そもそも原作通りいったの無かったろとか石投げられそうですが、それでもハッキリと宣言します。
ネタが頭に過るのが悪i (殴)