『禍の王』による襲撃、それはこの里の人間たちを滅ぼすものだった。二人の指揮官たちが率いる構成員たちを倒せなければ、大量の人々が死ぬことになる。
『この襲撃の被害を拡大させない為にすることは単純、役割分担だ。二人ずつが二組、三人が一組でだ』
静かに告げられた斬鉄の提案を否定する者はいない。それどころかその案には全員(厳戒を除く)が賛同した。
そうして組分けが決まった。里の人たちの避難を牛丸と那智の組、ついでの厳戒。襲撃をする『禍の王』の指揮官二人を倒すのが、ユウヤと夕焼の組、そして九魅と深里に斬鉄の組に。
「………………チッ、しつこいな」
沢山集まってくる構成員たちを見て、ユウヤは溜め息を吐く。これだけ数が多くても撃退できなくもないが、近くには知り合いの少女がいる。
隣にいる夕焼に囁くように聞く。どうにか時間を稼げないかと。
「………夕焼、お前少しでもアイツらを押さえられるか?秒の時間を稼げれば俺が何とか─────え?」
何が起こったか、説明するべきだろう。ユウヤが横にいる夕焼にそう言おうとした途端、夕焼は突風と共に突っ込んでいったのだ。
それどころか、四人の赤ローブたちを有無を言わさず切り伏せた。それに掛かった時間は、僅か十秒程。
そして、彼女はこう述べた。
「───ハッ!何だぁ、どいつもこいつも大した事ねぇなぁ?もっと強い奴はいねぇのかぁ!?」
「は?………………………は、あぁぁぁぁぁぁッ!!?」
驚愕一色の絶叫が響き渡る。今、彼の目の前にいるのは夕焼で間違いない────しかし、信じたくない。
穏やかな少女は鳴りを潜め、今いるのは凶暴性を剥き出しにした少女。果たして同一人物と言われて納得できるだろうか?ユウヤからしたら、否としか言えない。
「それにしても、コイツら一体どうなってやがる?普通の忍なら殺れると思うが、こんなんで襲撃とか出来んのかよ?」
倒れている構成員たちを目にしていき、ユウヤは深く思考していく。謎が深まるほど、更なる疑問へとのめり込む。
そうやってる内に、ようやく気付いた。
「……………って夕焼?あっ!アイツいない!?何処行った!?」
夕焼は基本的に穏やかな性格である。しかしそれはある事がトリガーとなり、常時とは反対の凶暴性を剥き出しになる。
それは、武器を手に取ること。ただそれだけの動作で彼女は変化するのだ。
しかし、荒くなった彼女の考えることは変わらない。里でこれ以上戦いが起こることを防ぐ、その為に指揮官を倒す。
「──にしても、野郎は何処だ?」
偶々出会った構成員たちを薙ぎ倒していった夕焼はようやくその事実に気付いた。倒していった構成員たちは決して少なくはない、それなのに指揮官らしき影も見えはしない。
「クク、こんにちは。クククク」
不意打ちのような声に夕焼は反応出来なかった。いや、文字通り彼女の真横から迫った斬撃は不意打ちとしか言えないだろう。
夕焼は走る脚を止め、首を軽く捻る。僅かに頬を掠り、少しの血が宙を舞うが、そんなことを気にする余裕はない。
「クククククク、まさか人形たちをあっさりと倒すなんてねぇ……意外と言えば意外ですよ、まったく」
ユラリと木陰から何者かが出てきた。見たところ、体は細く長身で両腕は力なくぶら下がっている、やる気が見えない。
肩を揺らし、引きつるように笑う男の右手には何かが収まっていた。
剣。
西洋の物と思える装飾が施されている、その刀身には黒いラインが横に通っている。
しかしよく見てみるとその刀身には赤い液体が付着している。それが自分の血だとすぐに夕焼は勘づいた。
「……つまり、お前が親玉か。そこいらの奴等は肩慣らしにもならなかったが、お前は違うだよなぁ?」
「………………あぁ、なるほど、ここの善忍だったか」
雰囲気が一瞬にして変わる。おちゃらけたような態度は鳴りを潜め、細められた眼にナニかが宿る。そして、剣の表面を指先で撫でながら、彼は嗤う。
「───善忍は、一人残らず殺さなきゃ、なぁ?」
カランッ!と夕焼の手から刀が落ちる。
は?と夕焼は声を出す間もなく、地面に膝をついていた。そしてそのまま倒れ込む、まだ動けた筈なのに、体がピタリとも反応しなかった。
「そして死ねよ。
凶悪の一言しかない。それほどの笑みを浮かべ、青年は剣を振り下ろす。身動きをとれない夕焼を確実に殺すための一撃。
数秒後の未来が脳裏に映り、夕焼は恐怖に両目を瞑った。
「─────少し前も、こうなってたよな」
聞いた事のある声が、聞こえた。
瞑っていた目をゆっくりと開いた夕焼は、確かに目にした。目の前にいる、黒髪の少年の姿を。
「ご、ぶぉ───ッ!?」
死刑宣告を下した剣の青年が呻く。乱入者の脚蹴りが頬に食い込んでいたのだ。ビキビキッ!と骨が割れるような音が響くが、関係ないと言わんばかりに青年は強く力を入れる。
爆音、そして人影が吹き飛んで行った。
「ったく、立てるか?夕焼」
そう言って黒髪の少年、ユウヤは地面に倒れていた夕焼に優しく手を差し伸べる。戸惑う夕焼も顔を俯かせながら、彼の手を借りて立ち上がった。
少し顔が赤い気がしたが大丈夫だろうか、とユウヤが思考していた途端、
「──クカッ、クカカカカカカカカカカカカッ!!」
完全にぶっ壊れた笑いが、木々の奥から戻ってきた青年のパックリと開いた口から漏れ出る。不気味さしかないその姿にユウヤは全身に力を入れる、何時でも動けるように。
にんまりとした表情を顔に張り付けながら、彼は首をゴキリと鳴らす。舌を見せつけながら、またゴキリと。
「勇敢だね、尊敬するね、憧れるね────なら今日がテメェらの命日だァ、鮮血散らして死ねよッ!」
友人に話しかけるような声が一転して粗暴な声音になる。それと同時に彼の表情が残虐な笑みへと切り替わった。半眼の両目がカッと見開かれ、垂れ下がった右腕を剣ごと振るう。
「ッ!伏せろォ!!」
危険を察し叫んだユウヤはすぐに地面に殴りつける。ゴッ!!という音と共に地盤が崩れ、穴の中に夕焼が落ちた。
すぐさま鋼鉄化した腕で顔を守った直後、衝撃と共に吹き飛ばされる。しかしダメージは防げたのか、ユウヤは空中で体を捻り地面に着地する。
「ユウヤさん!」
「俺の事はいい、お前は周りを警戒しろ!急所をやられるぞ!」
穴から顔を出そうとする夕焼を片手で止める。戸惑う彼女に、ユウヤは無言で前方を指差した。
ギチ、ギリリリリリリリリッ!と駆動音を鳴らしながら剣が生きた蛇のようにうねっていた。本来なら有り得ない現象、彼の青年の仕業としか思えないが、彼は全く手を出してるようには見えない。
それどころか、攻撃を防ぎきったユウヤに口笛を吹き、称賛する。
「はぁーー、『アマルガツ』を見切るとかスゲーじゃんか。アレだアレ、強者の勘ってヤツ?」
『アマルガツ』。
気さくに声を掛けてきた青年はそう言った。二人はそれが、あの動く剣の名称だとすぐに気付いた。青年はその様子にさぞ満足そうな顔で、また長剣、『アマルガツ』を軽々しく振るう。
どういう風に動いてるのか、分からなかった。
瞬時にユウヤは真っ直ぐに刀身を伸ばしてきた剣先を鋼鉄の手甲で叩き落とす。ガキンッ!という金属音と共に、それはL字に曲がる。そのまま地面に向かっていった。
だが、剣は地面に刺さることなくギリギリで曲がり、ユウヤの後ろへと回り込む。がら空きになった首元を刃が抉ろうとするが、振り返り様に放たれた電撃がさっきと同じように弾く。
何度も急所を狙った剣が捻れながら、青年の元へと戻っていく。攻撃の手を一体止めた青年は僅かに舌打ちをすると、
邪悪さ剥き出しの笑みを作り、残忍そうに告げていく。
「自己紹介、一応しとこーか。
俺は『禍の王』 所属『
そして、捻れ暴れる旋刃が迫り来る。刀身の部分が血を求める獣のように怪しく光り、二人に襲い掛かる。
集落の人々を守る為、『禍の王』の構成員たちと戦う那智たち。
途中で那智と牛丸と別れた九魅と深里、そして斬鉄は構成員たちとの戦闘をしていた。
しかし、それはすぐに終わりを迎えた。
「…………この、裏切り者が………」
ノコギリ刀を押し付けられた首から血が出ない。首元に接しているのは、ジグザグの刃ではなく峰の方だった。
呻きながら倒れた赤ローブを見下ろす斬鉄は、本人でも驚くような低い声で吐き捨てる。
「大義もなく、保身の為に殺戮を行おうとする者からそんな言葉が出るとは、意外だ」
だが、仮にも苦楽を共にした仲間だ。殺人を行うとしてるとは言え、無闇に殺すことなど出来る訳がない。そうやって、斬鉄は彼等を無力化していっていたのだ。
「……………此方は片付けた、君たちはどうだ?」
「あぁ。何とか終わったぜ」
答えた九魅に対し、そうかと短く呟き斬鉄は周りを見回した。確かに赤ローブはほぼ壊滅している、殺してはいない。忍とはここまで強いものか、と彼は素直に思う。
「…………ところで、他の二人はどうした?」
「牛丸ちゃんと那智は厳戒さんと一緒に、住人たちを麓に避難させるって言ったわ。もうすぐ里から出るとは思うけど」
「悪いが、それは無理な話だ」
言い終える事無く、斬鉄は刀を振るっていた。そこには何もない、空振るだけだと二人は思っていたが、
ギュオォォォォォーーーン!
ノコギリ刀が空中で停止する。しかし、そこは重要ではなかった。ノコギリ刀が止まったすぐ近くで空間が反響する水の様に揺らいでいたのだ。
見たこともない現象に呆然とする九魅と深里に、「これ、知ってるか?」と聞いてきた斬鉄が答える間もなく続ける。
「『
試してみるか?と問う声に二人は何も言えなかった。一つの山里ほどの大きさで他人を閉じ込める忍結界、そんなもの彼女たちは全く知らなかったのだから、無理もないだろう。
「その必要は無い────お出ましだ」
「────無闇に人を、殺す理由はない」
グニャリ、目の前の空間が歪んでいく。最初は虫一匹が入るくらいの大きさだったが、それは人間一人分のものへと変わる。
そして、ベリベリと剥がれていく空間の中から、それが姿を現した。
「我々が君らと戦う、それでいい。それだけで我らの目的は果たされる」
真っ白なスーツを纏う男、何の武器を持たないその人物はその場に立っていた。見えてるのか分からない伏せられた両目に何か凄まじい覇気が感じさせられる。
ノコギリ刀を両手で握る斬鉄は諦めたように笑う。冷や汗を頬に伝わせながら、彼はその名を呟いた。
「
その声が聞こえたであろう二人は斬鉄に見る。説明しろ、と言わんばかりの視線に斬鉄はあっさりと口を開いた。
「忍と異能、その二つを融合させた数少ない特殊戦闘員、『
「だったら、簡単じゃないの?話し合うとか…………」
「そんなに優しく見えるか?何とか済ませられると思うか?」
パンパンパンと乾いた音がする。咲人が両手を叩き、拍手をしていたのだ。しかし、斬鉄はそれに反応を示さず、ノコギリ刀により深く力を入れる。
「斬鉄、覚悟の方は称賛しよう。だが、やはり感心はしないな。今回は『王』の命令で動いていたのだ、それに逆らった──────どういう意味か、分かるだろ?」
ギロッと効果音が付きそうな威圧感と共に両目が細く彼等を睨んでいた。
「『王』は裏切り者を許さないだろう。これより真っ当な人生を送れると思わないべきだ」
「理解している、だからこそ裏切った」
そうか、と興味の無さそうな声量であっさりとする咲人。彼には構えというものがない、片手をポケットに突っ込んだまま此方を見てるだけ。
それなのに、いやだからこそ、斬鉄が二人に警告をした。
「気を付けろよ───デュークが『
「それって……」
「戦い慣れてるのさ、ここを襲撃してるヤツらの中で一番。あの傭兵と同じように」
危険性ならデュークの方が上だったが、生憎彼は最近戦いを経験したばかりなのだ、策を労すれば勝てるだろう。
しかし、咲人は違う。経験という物を多く学んでいる熟練者の彼には、策を労しても勝てるかは分からない。
その点で言えば、まだデュークの方がマシだとそれが斬鉄の考えだった。
「光でも影でも生きられない我々、その居場所は
ガシャッ、ガシャガシャッ!と咲人のスーツの袖から複数の鋼鉄の棒が伸びる。複雑な絡み合いにより、一つのボウガンが形作られていく。
上空へと上げられた腕にあるのは、彼が持つ唯一の武器。そのボウガンの使い方には経験というものが感じられた。
「────この世界に、禍いを」
自分たちの組織 『禍の王』の謳い文句を口にした咲人は腕を振り下ろす。手の甲に取り付けられたボウガンの弦は既に引かれていた。
《おまけ》
シルバー「さぁ、始まってしまいました今回のケイオスブラッド、略してケイブラ。『作者の暇潰し』ーー」
キラ「………なぁ、シルバー。ケイブラって、ケイオスブラッドの略?意外と言いやすいじゃんか(そうか?)
さてと、そんなどうでもいい事は放っておいて……今回はゲストが来てまーす!」
シルバー「二回目でゲストが来るか………(呆れ)」
雪泉「こんにちは皆さん。死塾月閃女学館の忍学生の雪泉です」
シルバー「………………………………え、」
キラ「おー、こんにちは雪泉さん。俺様はキラですよろし────ぐふっ!?」
シルバー「おいキラぁ!どういうことだ!何故雪泉がここにいる!?」ボソボソ
キラ「知らねぇよ!俺様に聞くな作者に聞け!アイツなら原因分かるだろうし、ていうか四苦八苦アイツが原因だろ!!」ボソボソ
雪泉「…………あの、今回やることがあるのでは無いのですか?」
二人「………………………」
シルバー「そうだよな、アイツをしばくのは後からにするか」
キラ「ほんじゃ!準備整ったところで前回話した続きを解説するか!」
キラ「前回は確かデュークに咲人と、構成員たちの違いを話したんだよなぁ」
シルバー「あぁ、しかし今回ので明らかになったな。奴らの特徴が」
雪泉「?……何がどういう風にですか?」
シルバー「もしかして、雪泉……知らないのか?ならここで解説しとこうか」
キラ「あのー、俺様の扱いと違わない?」
シルバー「女性と野郎は違うだろ…………って話がまた反れた!さっさと戻すぞ!」
キラ「お、おう……それよりあの二人の特徴だったな」
シルバー「忍と異能のハイブリッド………『
雪泉「忍結界や忍法まで使えるなんて……ですけど、本物の忍の方が良いのでは?」
キラ「そこなんだよなぁ、アイツらはなんで『
シルバー「─────いや、そんなまさか」
雪泉・キラ「?」
シルバー「いや、何でもない。それより、今回はここまでにしよう」
雪泉「そうですね。………え?一斉に挨拶をする?はい、分かりました」
三人「(せーの、)ご愛読ありがとうございました!!」
作者の書き置き:おまけの解説回に出てくるキャラは本編とは全く関係ない(意味、解説回の話は聞いてない)のでそこのところはよろしくお願いします。後あの三人からしばかれそうなので逃げさせてもらいま────(なんて書いてあるのか読めない)