あと台風強すぎ………東北の方は水止まったし………
人里より少し離れた森の中、破壊と殺気が降り注ぐ。ユウヤは、デュークと名乗った青年と対峙していた。
「──!くそがッ!」
考える暇も与えられない。何とか身体を後ろへ引き、鼻先を通り過ぎる鉄製の刃を回避する。しかし、斬撃は雨のように襲い掛かってきた。
「ぎゃはっ!ははははははははははっ!避けろ避けろぉ!さもねぇと腕の一本は落としちまうぜ!?」
何メートルにもなる長剣を鞭のようにしならせ、デュークは適当かつ乱雑に振るう。
それだけで剣 『アマルガツ』はのたうち回り、周囲の物を無差別に切り刻んでいく。暴れまわる刃を防ぎきるのが難しいと判断したユウヤは、後ろにいる夕焼に向かって声をあげた。
「……夕焼、立てるか!?お前だけでも退避しろ!」
「ユウヤ、さん………無理、なんです………」
そこで、ようやく疑問に思う。彼女の様子がさっきからおかしかった。地面に倒れ伏したままだった、武器である刀を取ろうとも起き上がろうともしなかったのだ。
「体が、いうことを………きかないんです……力が、抜けて……」
「……………何だって?」
不意に動きを止めたユウヤはすぐにハッとなる。考えるのなら何時でも出来る。だが油断や隙だけは見せてはいけない、今自分がしているのは戦いなのだから。
「へッ!逃がすかよぉ、簡単に!せっかく捕まえた善忍だ、グチャグチャにシェイクして血袋に変えてやるから────楽しみにしとけェ!!」
グォォン!と風を切る音に並ぶようにうねる刃がユウヤの腕を斬りつける。腕に鋼鉄を纏っていた為、血が出ることは無かったが、それも時間の問題だろう。
(クッ………考えろ!奴の能力とそれを突破する方法を!出来なきゃ俺も夕焼もやられる!)
必死に体と脳を動かしながら、突破口を思考する。そうやって今ある謎を解き明かそうとして────ある事に気付いた。
夕焼の頬には傷があった。掠り傷程度のものだが、何か引っ掛かる。身に付いた勘が、これだ!と警鐘を鳴らす。
まさか…………、と奥歯を噛み締めながら、ユウヤは口にした。
「……………傷、なのか?さっき斬られたのが、動けない原因?」
「良い線はいってる、だが違うんだよなぁ!?」
長剣を戻そうと引っ張ったデュークが、体を捻る。伸びる剣はその動きにつられて奇怪な動きでもう一度ユウヤへと牙を剥いた。
しかし、やることは変わらない。手甲で弾き飛ばして攻撃を防ぐ。
地面に突き刺さった剣をへし折ろうと拳を振り上げるが、すんでの所でのたうち回ってそれを妨害する。
ジャジャジャン! と刀身がくっつき、一本の剣へと戻った。剣を肩に乗せながら、デュークは自慢するように指を差してきた。
「禁術『血塊侵食』、俺が触れた血液を自由自在に操ったり出来る最ッ高の代物さぁ!羨ましぃだろー!?」
禁術『血塊侵食』。
自身の能力らしき名前を、デュークはさらっと告げた。元々負けることがないと思うほどプライドが高いのか、単に馬鹿なのか、それら以外のものかと思うユウヤだったが、すぐに思考を切った。
能力が分かれば、それでいい。対策のしようはあるから。
そんなユウヤの目の前で溜め息を吐くデューク。やる気というものが全く感じられないが、別のものなら感じられた。
「ボスは実戦に役立てろとか言ってたし……。使い方も分からなくて困ってたが……………やっぱ、テメェらで試すのが一番だよなぁ?」
コイツは不味い、夕焼に対する尋常じゃない敵意と殺意から分かる。コイツは、弄ぶように人を殺すだろう。そんなの、殺人に躊躇しない奴よりもタチが悪い。
「────笑わせんな」
放っておけば、奴は『血塊侵食』とやらを使いあの里を蹂躙するだろう。それだけはさせる訳にはいかない。
「そんな事させる訳ねぇだろ。ここでお前を倒す、そしてくだらない襲撃なんざ終わらせてやる」
「クヒ」
鋭いユウヤの宣告に対してもデュークは余裕を崩さない。その様子にユウヤは疑心を抱き、その事に気付いた。
剣が、さっきから剣の動きが無かったのだ。
「『鍵』にはあまり手を出すなって言われたけどよぉ……邪魔なら殺してもいいよなぁ?殺してもいいって言ったし………………よし決めた」
ズザシュッ!!
生々しい肉の音が木霊する。その正体は地面の中から突き出された『アマルガツ』がユウヤの片腕に迫り、分断した音だった。
「まずテメェから殺すわー。その方がそこの女の精神にダメージが入るみてぇだしなぁッ!!」
ニンマリと笑うデュークは更にその口を横に裂く。この後の事を思い、楽しみなのだろう。そうして狂気の哄笑と共に長剣をくねらせて、片腕を失ったユウヤを切り裂こうとした。
だが、おかしい事が、起きた。
一瞬にてデュークの懐に移動したユウヤ。目の前の出来事に驚いていたデュークは視界の端っこにとある物を確認した。
それは、有り得ない物だった。
「俺や、里の人を殺すだって?」
「……………は?おい、いや待てよ」
「───やってみろよ」
「さっき、
バギィッ!!とデュークの顔面に拳が突き刺さった。少しばかり力を入れた一撃は彼を吹き飛ばし、木々を薙ぎ倒していった。
「────圧縮、放出」
弦を引かれたボウガンから放たれたのは透明な塊だった。決して速くない、遅くもないスピードで迫り来る塊に、斬鉄の顔色が変わる。
「不味いッ!何かに隠れろ!」
斬鉄の本気の警告に二人は咄嗟に木の後ろへと避ける。斬鉄も視界の隅で確認し、転がるように物陰へと隠れる。
「そして、拡散」
ボソリと呟かれたと同時に透明な塊がパァンッ!と弾けとんだ。まるで手榴弾の爆発のように、目に見えない衝撃波が破片のように辺りを削り取る。
「今度は此方からやらせてもらうぜ!」
「酸素─────圧縮、消失」
木々から移動してきた九魅が尻尾に巻き付けた様々な武器で攻撃しようとする。しかし咲人が何かを呟いた途端、変化が起きた。
「がッ…………は!?」
九魅が苦しそうに呻く。地面に蹲り喉を押さえるその姿は、呼吸が出来ないように見える。
その様子を見た咲人は、無表情のままボウガンを向ける。ガシャンッ!と弦が引かれ、再度装填された。
「圧縮、圧縮─────そして」
「─────はぁっ!」
言い終わる前に、木陰から斬鉄が駆け出してくる。咲人の目が向くのを気にせず、勢いよく蹴り飛ばす。
ただし、狙いは咲人ではない。その蹴りは呼吸が出来ない九魅を飛ばし、彼の射程から力ずくで逃がした。
そして、目の前で標的に逃げられた咲人の行動も早い。
「変更─────放出、同時に固定」
ズヒュン! とボウガンの銃口から棒が飛び出す。実際には空気により形成された剣なのだが、そんな事は今関係ない。目の前で転がっている斬鉄目掛けて無造作な動きで腕ごと振り下ろす。
しかし、金属音が鳴り響き、それは防がれた。振り返った斬鉄が振るったノコギリ刃の刀、咲人の空気の剣を押さえていた。
そして唯一露になった隙を見逃さないと言わんばかりに九魅と深里が後ろから飛び掛かる。
本来ならナイス!と言うべき状況だが、斬鉄は目を見開くと捲し立てるように怒鳴った。
「馬鹿野郎!早く下がれ!まとめてかかると───」
「防壁、展開」
音が、消えた。九魅と深里の攻撃は空中で止まっていた。いや、違う。透明な塊が咲人の周りに覆われていたのだ。
勢いよく空気の剣で斬鉄が吹き飛ばされる。秒もかかる事なく、咲人はボウガンに手を置く。
「拡散」
先程の爆発とは比にならない衝撃が咲人を中心に起こる。何故爆発源の中心に被害が無いのか、それは分からない。
しかしそれどころではない。真の破壊が波となって二人を消し飛ばそうと、
「ッ!『
直後、斬鉄は行動を起こす。勢いと共に跳躍し、有り得ない速度で移動していく。そして衝撃波が来る前に二人を担ぎ上げると、凄まじいスピードで森の奥へと消えた。
「───体内時間を強制的に進ませる事により、加速したかのように動く能力。『
無表情の割には感心した声で咲人は彼らの消えた方角を見つめていた。だが、と付け足した途端咲人はボウガンに触れた。
「副産物は所詮副産物だ。思い通りに使えるなら、君も『
咲人の言葉だけが森の中に浸透する。返事のないことに彼はあまり反応を示さない。別にそれ事態には興味はない、そもそも何も感じることなどない。
ボウガンの駆動音が再び響く。獲物を少しずつ追い詰める肉食動物のように、咲人は奥へと歩み始めた。
「ごぼっ!?げばっ!!」
「ちょっ、大丈夫なの!?」
少し離れた大木の裏で、斬鉄は大量の血を吐く。決して少ない量ではなく、ピチャリと池を作る程の出血だった。しかし外傷はない、傷があるのは内側だ。
『
中々に使いやすい能力と思うが、重大な欠点がある。体内時間を強制的に進ませる事により、耐えきれずに身体の内部が破裂することが多い。
どうする?と九魅は無言で問いかけた。それを聞いて思考に明け暮れる深里は、対処法を考えていた。
そんな中だった、
「…………咲人は、空気を操る『
ごぼり、と血の塊を吹き出した斬鉄の口からそんな言葉が零れた。ぎょっとした顔の二人を見て苦笑いを浮かべる彼は、失った血の量など気にせず、そのまま告げる。
「操れる空気の条件は無いと言ってもいい………酸素や二酸化炭素などの気体すらも思いのままだ」
「………何だよソレ、そんなの無敵じゃねぇか!!」
「あぁ………だが、俺にも欠点があるように、奴にも欠点がある。空気を操れるが、それは正確じゃあない。細かく操る為の……装置がいる」
「装置…………それって……!」
「そうだ、あのボウガンはいわば銃の安全装置。あれを破壊してしまえば咲人は上手く戦うことが出来ない……もしその力を簡単に振るえば───」
──咲人の周りの空気が乱れていき、そのまま自滅する。
ダンッ……!と立ち上がる斬鉄。口から溢れていた血を拭い、咲人は木に寄り掛かりながら二人を見る。呆然とする少女たちを見据え、斬鉄は強く言い切った。
「──────俺だけでは出来ない、協力者が欲しい。咲人を上回る知恵を持つ者と奴の動きについてこれる強者。君ら二人に、頼めるか?」