閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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ユウヤと夕焼って、言い方似てると思ってたけど……、



ユウヤ、夕焼(ゆうやき)…………似てるどころじゃねぇ、一文字あるかないか違いだわ。


六十九話 現れるモノ

「─────姿を隠して隙を伺うか、得策ではある」

 

 

空気を操る『適合者(ユナイト)』、咲人。木々の生い茂る森の中を、純白のスーツという服装で歩いていた。

 

無防備に見えるが、戦い慣れた者は違うと感じるだろう。だらんと下げられた腕のボウガンは何時でも相手を吹き飛ばせるように弦が強く引かれている。

 

 

(あの斬鉄の事だ。無策で私に挑もうとはしまい、私の情報を忍の少女たちに教えているのだろう。その上で協力して倒そうとする、その方が勝率が高い。

 

 

………隙を付くまで待つ気か)

 

 

 

「ならば、素直に誘き寄させて貰おう」

 

 

ガシャッ! と弦がぐるりと回転する。まるで爪のように展開された弦の間にある穴から、空気が爆発的な火力で放たれた。

 

 

しかし放たれたのは空中。何より速度が全くもって遅いため、巨大な空気の塊はシャボン玉のような遅さで宙に舞おうとする。

 

 

「圧縮、圧縮、そして圧縮」

 

 

そもそも、あの咲人が簡単に終わらせようとはしなかった。何度と紡がれる単語に連動するように、震動と強風と起こしながら空気の玉が少しずつ縮んでいく。

 

『圧縮』、咲人がボウガンを介して空気の体積を小さくしていく術。塊を一気に破裂させる『拡散』とは違い、どんなものでも圧縮されていく。

 

 

それならば、何十にも『圧縮』された空気を『拡散』すると、どうなるのだろうか。答えは簡単、空気は凄まじい力で戻ろうとして大規模な破壊を起こすことになる。

 

 

咲人は自分が包んだ『忍結界』全てを消し飛ばす程の火力までにはするつもりはない、精々半径500メートルくらいの規模にしようと考えていた。

 

 

 

 

「───来たか」

 

結果的には、そうはならなかった。咲人が詠唱を止めたその時、暴風が吹き荒れた。体が押されるが、咲人は体制を崩さない。

 

それどころかその現象を前に、酷く冷静な様子で感嘆とした声で呟く。

 

 

「なるほど、天候を操るとは……あの少女の忍法か」

 

 

脳裏に浮かぶのは深里と呼ばれていた少女、葉っぱの扇を持っていたのは覚えている。葉の扇と言えば、天狗。天狗と言えば風を操るが、忍にもなる者がその程度とは思えない。

 

そうやって判断したのだ、相手の力を。

 

 

「だが、忘れたのか?私が何を操っているのかを。忍法 『分裂』」

 

 

何の力か分かれば怖いものはない。最も恐れるべきこと、それは不明なことだ。

 

持論を提示する咲人はボウガンを少しだけ弄る。それだけで膨張した空気の玉は勢いよく暴発する。

 

 

その数秒後、彼の周囲をシャボン玉ほどの大きさの空気弾が宙を漂っていた。『分裂』、文字通りの意味。何回も圧縮されて膨大な空気を複数の弾へと分裂させたのだ。その状態は圧縮された空気と変わらない。

 

 

突風を空気で作った壁で防ぎながら、咲人は考える。彼らの攻撃、別に来るであろう一撃について。

 

 

 

(次に来るとすれば………………後ろ!

 

 

 

 

 

と、見せかけて!)

 

 

咲人は分裂させた空気弾を後方から飛来してきた物を撃ち落とした。ノコギリ刃の刀、回転して飛んできたそれは軌道を反らして、咲人の足元に突き刺さった。

 

 

それまで無感情に動いていた咲人に、始めて少しの余裕ができた。感触からして間違いはない、斬鉄の物だ。彼は一瞬の隙を狙い、咲人の首筋へと刀を投げ飛ばしたのだろう。

 

 

だが、防がれれば意味がない。脅威は消えた、武器を失った斬鉄にもう戦う術はない。

 

 

「本命は上………!気付かれないと思ったのか!」

 

 

上を見上げてみれば、飛び掛かってくる人影が見えた。狐のような九本の尻尾の少女、九魅と呼ばれていた少女だった筈だ。

 

 

「────終わりだ」

 

 

彼女が着地した直後に、手元に残った空気弾十発を飛ばす。残りは彼女が空気弾を防げば、放てばいい。

 

 

勝った、咲人は確信の笑みを浮かべ─────絶句した。

 

 

「な…………」

 

 

九魅という少女が攻撃の手段として取ったのは、今まで見たものとは違かった。武器を持った尻尾によるものではない、そもそも攻撃ではない。彼女は凄まじい速さで咲人の懐へと駆け出したのだ。

 

 

だから、咲人も動きがワンテンポ遅れてしまった。空気弾を飛ばそうとした時には、少女はあるものを手に収めていた。

 

 

斬鉄のノコギリ刀を。

そして有無を言わさない勢いで斬鉄の腕、正確にはボウガンを切り裂き、完全に破壊した。

 

 

バラバラ! と金属部品が地面に落下する。息を呑んだ咲人は地面の上の部品を九魅を蹴り飛ばす。

 

 

 

「どういうことだ………動きが違う。こんな短い時で、斬鉄と同等の動きになるなど……………!」

 

 

「忘れたか、咲人」

 

突然、九魅がそう言った。声は彼女のもの、だが喋り方は違う。それを聞いたと同時に、咲人はようやく気付いた。

 

そして、九魅は嘆息しながら片手で顔に触れる。直後、彼女の体が崩れていく。数秒も経たずに、彼女の姿をした人物が声をあげた。

 

 

 

「里の人間に『変装』し、襲撃のタイミングを狙えと命令を下したのはお前だったろう」

 

 

斬鉄、顔に付けられていたマスクを外した青年は酷く落ち着いた様子で呟いた。やはり女性の真似はもう止めよう、と嘆息する彼に咲人は思考に明け暮れた。

 

 

 

構成員たちのマスク、それには変装機能が備わっていた。侵入して様々な事が出来るようにする、そのような性能が利用された。

 

 

ノコギリ刀を投げられた途端、咲人は油断してしまった。それが九魅という少女に変装した斬鉄に渡すためにもの、そもそも九魅本人が刀を投げたのだが、今の咲人には関係ない。

 

 

全てはボウガンを破壊することにより、咲人自身の強みを消そうとしたのだろう。ならばその目的は成功したものだ。

 

 

「………破壊したから何だ?」

 

 

低い声が、咲人の口から吐かれる。それは粘着質なものだった、それは執念に近いものだった。

 

たかが武器を失っただけで戦いを諦めるほど、咲人には誇りがない訳ではなかったのだ。

 

 

 

「確かにこれでは空気を操ることなど難しい。だからどうした、その程度の障害に!この私が屈すると思うか!!」

 

 

破壊されたボウガンの取り付け具の填められた腕を振り上げる咲人。彼の真上で空気が渦を巻くように集まっていく。

 

 

「分かっていたさ、咲人。お前は『同調者(ユナイト)』の中でも古参、王の理想に賛同する男だ。こんな策だけで負けを認めないだろう」

 

 

 

「だからこそ、止めは彼女に任せた」

 

 

あ? と眉をひそめる。どう意味か問い詰める前に、咲人は察した。

 

 

「…………今回の襲撃で夕焼も傷つけられたし、アタシたちの里で戦いが起こされた」

 

 

そう言ったのは九魅、変装ではない正真正銘本人。咲人は振り返らずにいた。この戦いの決着をつけるのは斬鉄ではない、彼女なのだろう。

 

 

 

「そのツケは!テメェで晴らさせてもらうぜ!!」

 

 

彼女の顔は怒りに染まっていた。大切なものを多く傷つけられた者の気持ち、かつて咲人本人も感じたこてがあるであろう感情。

 

 

あぁ、と咲人は思う。抵抗する気は、最後に周りを破壊してやろうという気は、不自然なくらいに起こらなかった。

 

 

そして九本の尻尾による連撃が、無抵抗な咲人の意識を刈り取った。

 

 

 

 

 

そして、同時刻(・・・)

 

 

「………ふぅ、これで一人は倒したな」

 

 

手首を回してその動きを確認するユウヤ。いつの間にか体が動くようになっていた夕焼は、その事に気付かないくらい呆然としていた。

 

 

先程、目の前で腕を切られた筈のユウヤが五体満足だったのだから。

 

 

「え……………だけど、さっき……………腕を」

 

 

「…………あぁ、そっか。まだ説明してなかったよな」

 

 

やっぱり混乱する夕焼にユウヤが気付いたように反応する。彼は切られた筈の方の腕を動かしながら、真実を告げる。

 

 

「残像だよ、電気を使って見えるようにしたんだ」

 

 

軽く言ってるが、そう簡単なものではない。異能と戦闘経験の豊富なユウヤだからこそ、出来るものだ。

 

 

「夕焼、立てるか?」

 

 

「は、はい……」

 

 

夕焼に手を貸し、立ち上がらせたユウヤは何処か遠くを見つめる。

 

 

「…………結界は、まだ消えてない」

 

 

不安そうに空を見上げるユウヤ。彼の言葉に続いて夕焼も同じように上を見る。普通より変色した光景に困ったように髪を掻き────、

 

 

 

 

 

 

 

「────────逃がさねぇよ」

 

 

怨念の籠りすぎた呪詛が耳に聞こえてしまった。

すぐ前の木の隙間から『何か』が伸びる。それに反応したユウヤは言葉より体の動きを優先した。

 

 

ただ真横にいる夕焼を貫こうとした『何か』を手の甲で殴り飛ばす。それだけの行動だが、『何か』が夕焼に行おうとした攻撃を妨害するのには充分だった。

 

 

そんな『何か』を引き戻し、その人物は森の奥からゆっくりと歩いてきた。

 

「元よりこの里の関係者は計画の証拠隠滅の為に皆殺しにするつもりだったんだ……………誰一人だって逃がす訳ねぇだろうが」

 

 

「ッ!おまえ─────は」

 

 

『それ』には見覚えがあった、間違いはない。先程打ちのめした青年の物だった。だが、目の前に現れた青年は先程とは雰囲気を含め、全く違っていたのだ。

 

その事に言葉を失うユウヤと夕焼に、青年は俯いていた顔をあげた。

 

 

前髪で隠れていた顔の右側は赤黒く変色し、血管のようなラインが走っている。そして右の眼も紅に染まり、別の生き物のようにギョロギョロと蠢いていた。

 

 

両手に握る『それ』を振り上げ、周りの木々を切り裂いていく。『アマルガツ』鞭のようにうねる特殊な性質の剣、それが二本に分裂していた。破壊の惨状を見て青年 デュークは凶悪そうに笑い、ユウヤを睨み付けた。

 

 

「それが善忍なら当然────それを庇うテメェも!何もかも!!一つ残らずぶち殺してやるぁァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ハァ、ハァ」

 

 

「………やった、の?」

 

 

「いや、そうでもなさそうだ」

 

 

合流した深里と九魅は激しく息切れをする。無傷で勝てる相手ではなかった、そう直感する二人は意識のない咲人を見て呟く。だが、瞬時に否定した斬鉄がノコギリ刀を握る。

 

 

「………………私は、負けたか」

 

 

いや、意識は消えてなかった。その現実に直面した咲人はポツリと呟く。受け入れたくないと思えば、否定できただろう。だが、彼はしなかった。

 

それが、『同調者(ユナイト)』としての最大の敬意の表し方だったから。

 

 

「さてと、話してもらおうか咲人。お前らの目的を」

 

 

喉元すれすれに刀の先を向ける。慌てて止めようとする二人を片手で制し、斬鉄は動かない咲人を見下ろす。

 

聞かなければならない。自分でも知らない、『同調者(ユナイト)』にしか知らされてない目的の内容を。

 

 

「この里の人間を皆殺しにする、それが目的では無いだろ?それが目的ならもっと戦力を連れてくる筈だ」

 

 

「フフッ」

 

 

斬鉄の見解に、咲人は小さく笑った。泥に汚れた自分の白スーツを見下ろしながら、呆れたような声音で口にする。

 

 

「……………先に言ったぞ、我ら『適合者(ユナイト)』と君たち忍が戦った、その事実があればいいと」

 

 

何?と怪訝そうな顔の斬鉄を咲人は見ていない。その視線は九魅と深里の間の方、もっと先を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────結界は消えませんな、那智様」

 

 

「はい……そのようですね」

 

 

何時でも避難が出来るように結界の隅にいた里の人々を見ていた厳戒の言葉に那智は賛同する。何時になっても結界に変化はない、少しずつだが不安が増してきた。

 

そわそわと何処か遠くを見ていた牛丸に、那智は声をかけた。

 

 

「牛丸さん、大丈夫ですか?」

 

 

「ユーちゃんたちのことがぁ~、気になってぇ~」

 

 

「夕焼さんたちなら大丈夫、天星さんや斬鉄さんもいますし………無事に戻ってきてくれます」

 

 

憶測的な希望なのだが、那智は信じていた。仲間たちが負ける訳がないと、帰ってくると。

 

そんな中、牛丸がぼんやりとしながら疑問そうに聞いてきた。

 

 

「それよりもぉ~、何か聞こえませんかぁ~?」

 

 

「え?」

 

 

───メギ、メギメギグガギィ!!

 

 

確かに耳を済ませば聞こえてくる、何か強力なものを引きちぎろうとするような音が。場所は────真上。

 

 

 

ハッと即座に気付いた那智と牛丸、厳戒が上を向くと結界に変化が起きていた。何か、大きなものが見えた。爪のようなものでこじ開け、結界内に入り込もうとしていたのだ。

 

 

開ききった隙間の中から、垂れるかのようにそれが落ちてくる。真っ直ぐ、此方の方へと。

 

 

「全員!!避けろォォォ!!」

 

 

我に帰った厳戒の言葉に里の人たちもそれに気付き、慌てた様子でその場から離れる。そして飛来した『それ』が地面に衝突し、風圧を起こした。

 

 

 

衝撃により発生した砂煙が突風に巻かれ、『それ』が姿が見えていく。

 

 

四本の鉤爪のような二対の翼。

 

木のように細い腕と脚。

 

薄暗い青紫という不気味な色の胴体。

 

 

ドグンッ!と鼓動が震動となり、その場の全員が露になったその姿を目にした。

 

 

それは竜、現実には存在しない生き物の一つ。

かつて葛城たちが相対したファフニール、彼が本物の竜だとすれば、目の前の存在は竜と言うには異形過ぎた。

 

 

深紅に光る二つの眼光、鉱物のような結晶が光を灯す。両眼の上、額に位置する場所から割れるようにギョロリと生き物のような眼球が露出する。

 

 

異形の竜は二本脚で立ち上がり、翼を広げる。禍々しく変色していく結界を覆うように。

 

その現象に、那智が思い出しかのように竜を見上げる。そして、その重圧に震えながらも、その正体を看破した。

 

 

「─────まさか、妖魔!!?」

 

 

【「クルルル、キュールルルルッ!!」】

 

 

 

忍と忍の力を持つ『同調者(ユナイト)』、似た性質の者たちの争い、それにより僅かに発生した血の匂いに誘われ────一体の妖魔がこの戦場に降臨した。

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