「それでは皆さん…………乾杯ぃぃぃ!!」
「かんぱぁーーーいっ!!」
今現在の遠野の里では盛大な宴が行われていた。ドンチャン騒ぎが響き渡る中、
「なぁユウヤ、確かアンタ傭兵なんだろ?今までどういう風なことしてきたか教えてくれねーか?」
「ちょっと馬鹿九魅!迷惑じゃない!………えっと、できればだけど、聞かせてくれる?」
「牛丸のミルク、どうぞぉ~」
「あらあら皆さん」
「……………どうしてこうなった!?」
少女たちに囲まれ、戸惑うユウヤはそう漏らす。さて、この現状を皆様に教える必要があるだろう。
襲撃者たちは、咲人とデュークの二人を倒した事で撤退した。里の人々はその二人を倒したユウヤと斬鉄を自分たちを救ってくれた救世主として、宴を始めたのだ。
最初はユウヤを侵入者と疑っていた厳戒もその事実を受け入れた後、ユウヤに謝罪をしてきてくれたのだ。たまりにも深すぎる土下座に引きながらも謝っていたらしい。
ついでだが、本来テロリストの一人だったからと言って自首しようとした斬鉄も、現領主の那智から赦しを受け、無罪放免となった。本人は渋々といった感じだったが。
今現在その斬鉄はと言うと、
「………む、いや。私はあまり酒を飲まない」
「いやぁ、そう言うなよ旦那!アンタはこの里の救世主さまの一人だ!こんくらい飲んだって許されるだろうよ!」
「………………むぅん」
明るく振る舞ってくれる男性たちに酒を進められていた。変な声を出しているが、追い詰められている証拠なのだろう。
「………………………そうだな、何を話そうか」
◇◆◇
少し前、デュークを倒した直後の話だった。夕焼の刀の破片を広い上げてたところ、声がかけられたのだ。
「ヘッ……………近くで見ると、やっぱり凄えな」
顔を殴り飛ばされた筈のデュークは近くの木に背中を預けていた。咄嗟にユウヤは拳を握るが、彼にもう戦う気がないことに気付き、腕を下ろす。
そこでデュークは、おかしな事を口走った。
「こりゃ似てるとかで済まされる話じゃねぇ………ドッペルゲンガーってヤツか?それみたいなモンだぜ」
「………お前、一体誰の話をしてる?」
「そりゃあ─────」
ニヤニヤと笑うデュークの口から出る言葉をユウヤは待つ。しかし答えが出ることはなかった。
何故なら、
突然ここに飛来してきた何かが、すぐ真横に突っ込んできたから。
「!!?」
瞬時に顔を庇ったユウヤは後ろに下がってしまう。そして灰塵の中から物凄い勢いの風が放たれる。思わずガードしようとしとユウヤはすぐに気付く。
「───バガッ!?」
迫った風圧はユウヤではなく、デュークを狙っていた。放たれた一撃は彼を木に叩きつけると体に巻き付いて、砂煙の中に引きずり込んだ。
『少し、失礼する』
『デュークはまだ組織に必要なのでな。君たちに明け渡す訳にはいかないのだよ』
鳥が、そこにいた。ただし、普通の鳥ではなく、機械的な装甲の巨大な怪鳥だったのだ。足のような三本の爪に捕まったデュークが身動きもせずにぶら下がっている。
その怪鳥から響いてきた声に、ユウヤは覚えがあった。
「お前…………咲人、だったか?」
『覚えてくれてましたか。流石ですね』
先程と同じように聞こえた声は普通に感心していた。ガシャ!と怪鳥の顔が二つの盤面に解離し、中から人影が姿を現した。見知った顔は、丁寧な様子で口を開く。
「ですが、改めて名乗らせて貰おうとしましょうか────私は《緑》の
細目の男、咲人。
前は白一色のスーツを着ていた筈だが、今は全く違う服装だった。
全身赤黒い色で塗りあげられた戦闘服。そして不気味さを隠さない骨のような白さを持つ装甲。まさに、『禍の王』の司令官を納得させる姿だった。
「此度はおめでとう。貴方の努力のお陰で、デュークによる遠野の殺戮は未然に防がれた訳だ。その報酬代わりに、興味深いことを伝えておこう」
心の籠ってるかよく分からない称賛にユウヤは素直に喜ばなかった。どこをどう考えれば誉めてるように思うのだろうか、そう思う彼に咲人は奇妙なことを口走った。
「彼の王は貴方たちを選んだ────新世界への生贄に」
「新世界………生贄だと?」
「賢明な貴方なら分かるだろう。そして、いずれ全てを理解する」
気になるところだけをはぐらかす咲人。その男は盤面の中に乗り込み、ユウヤを見て怪しく笑う。
それは、後に悲しむ人間の様を楽しむような醜悪なものだった。
「我らの悲願が叶う、その時までに死なないで貰おう?……………最も、絶望するのは勝手だが。
それでは、御機嫌よう」
気安くそう言った咲人。ブアッ!と翼を広げた怪鳥は凄まじいスピードで彼を連れて、この場から立ち去った。風圧に体を押され、もう一度空を見たユウヤは完全にあの鳥を見失っていた。
「…………クソ」
思い通りに利用されてる、そう実感したユウヤは悔しそうに呻く。しかし、彼の顔には諦めという感情はありはしない。
これ以上奴等の好きにさせる訳にはいかない、決断したユウヤは少し離れた場所に夕焼の元に向かったのだ。
◇◆◇
そして過去に浸ってた意識は現実に戻った。理由は、近くから聞こえた叫び声だ。
「あ゛~ッ!私だってぇ、好きでテロリストに入った訳じゃないんですよォっ!!冤罪掛けられて善忍からも悪忍からも追われて、ようやく!安住の地を得られたと思ったら!コレだよ!!ふざけんなって話だよ!!」
コップを机に叩きつけながら、顔を赤くした斬鉄が大声で文句を垂れる。どうやら酒をがぶ飲みしたらしく、酷く酔っ払って、他の人に絡んでいた。
「…………斬鉄って、苦労してたんだな」
その後は、酔っ払った斬鉄が大暴れしたり、ユウヤが自分の体験した出来事を話した結果少女たちに「ないわ」と言われたりと────まぁ、色々あったのだ。
◇◆◇
「本当に悪いな、出迎えてもらって」
「………い、いえ、そんな」
皆が眠りこけている時間帯、朝早くから里を出ようとするユウヤに夕焼が挨拶に行っていたのだ。
ついでだが、斬鉄は里に残るらしい。里の皆に受け入れられた事から、厳戒と共に侵入してくる者たちを追い払っていく用心棒代わりになると。
「………あの、ユウヤさん。少しいいですか?」
「ん、どうした」
「今回の襲撃でも………私はよく戦えませんでした。遠野天狗ノ忍衆のリーダーなのに……」
それは、デュークとの戦いを言うのだろう。何度も彼に圧倒され、ユウヤが手助けをしなければ助からなかったかもしれない。
過ぎた事とはいえ、彼女からしたら良い事だとは言えない筈だ。取り仕切っていくべき自分が足を引っ張っている、そう思ってしまったから。
「……こういう時にちゃんとした事が言えないが」
頭を掻きながら呟くユウヤ。彼は困ったような顔をしながら告げた。
「戦うことだけがリーダーじゃないだろ?お前がリーダーになれたのだって、仲間たちが認めてたからだろうし………何よりお前が里を守ろうとしてた強い覚悟が、俺にも分かったからな」
「そう………ですか?」
「そうだろうな、少なくとも俺の知ってる奴も似たようなもんだから」
思い浮かべるのは、飛鳥たちの姿。どんな困難を乗り越えてきたリーダーである彼女たちは、誰よりも強い意志を持っていたからこそ、仲間たちに選ばれたのだろうというのが、ユウヤの持論だった。
昔の自分なら有り得ないだろうと思い、自分を迎えてくれる少女に振り替える。そして優しく手を振る。
「また来るよ、夕焼。その時は俺もあの刀の礼はするから、那智さんや皆によろしく言っといてくれ」
「……………はい!」
「それじゃ、またな」
去っていくユウヤの背中を見届けた彼女は振り返り、里に、仲間たちのところに戻ろうとする。そんな彼女に気弱さは見えない、前と変わって本物のリーダーのようにも見えた。
◇◆◇
「………ん、着信か?戦ってる間にきて…………うぉ!?何だこの量!」
里から少し離れて、携帯電話を手にしてその事実に驚愕するユウヤ。沢山の電話通知に困ったように髪を掻き、その連絡先にかけてみることにした。
プルプルプルという通信音の後に、ガチャッと聞こえる。相手の声が出てくる前にユウヤは先に口を開いた。
「もしもし」
『────繋がったっす!ユウヤさんの電話に繋がったっすよ!』
「………悪い、誰だ?」
『あっ、すみません!あたし、風魔って言います!半蔵学院一年生で飛鳥先輩たちのこ…………え?あ、はい!分かったっす』
興奮したような勢いだった風魔という(声からして)少女は最後ら辺に誰かと話していた。そのあと、すぐに電話から話し声が変わったと思うと、ガコン!と音ともに別の声が聞こえてきた。
『もしもし、ユウヤ。我だ、何度も連絡したぞ』
「お前…………ゼールスか!?」
声の正体にユウヤは驚く。
元統括者、ゼールス。かつてのユウヤたちの敵、聖杯を使い世界を支配しようとした存在。倒した彼は半蔵学院で保護していた訳なのだが、
「意外だな。お前が電話に出るとか、大きさからして大変だったんじゃないか?」
『全くそうなんですよ~。固定電話に必死に登ろうとしてる所は凄かった──』
『タンスに小指を打ち付けて死ね』
『ぐあぁ!?目に、目にチョークの粉がぁぁぁぁ!!?』
その戦いの影響か、ゼールスは小さくなっていた。掌サイズという某艦隊兼少女ゲームの妖精のような大きさに。
本人もそれを気にしてるらしく、それをネタにされると普通にマジギレする。現に、電話の奥の風魔という少女も、彼の逆鱗に触れて酷い目(自業自得)に合っているようだった。
そこであることに気付いた。
「そういえば、飛鳥たちはどうした?声すら聞こえないが……」
自分の仲間たちの声が全く聞こえなかった。忍務中ならいないのも無理もないが、彼女たちがしていた忍務はそんなに時間がかからないだろう、そう思って聞いたのだ。
だからこそ、返事が無かったことに不安を感じるのは無理もない。声が詰まったというような空気に、ユウヤは問い詰めようとするが、それより前にゼールスが答えた。
ユウヤの問いの答え、あまりにも残酷すぎる答えを。
『飛鳥たちが行方不明になった。忍務中突然姿を消して、足取りが掴めていない』
◇◆◇
「………なぁ、咲人。教えてくれねぇか」
遠野から離れた山の頂。そこで休んでいたデュークは咲人を問い詰めていた。強引なものではない、ただ聞きたかったからなのだ。
「何を?」
「全てだ、この組織『禍の王』は、『あの人』は一体何を企んでやがる」
今回の戦いを経て、デュークは『あの人』に違和感を抱いていた。自分達の目的は忍と戦うこと、しかしそれで妖魔が現れるのは、デュークも知り得なかった事実だ。
まるで妖魔をおびき寄せることが本来の目的と言わんばかりのもの。
「忍と近い『
「…………お前もこの組織の構成員だ。知る理由はあるだろうな」
そう呟いた咲人は忍転身を解除する。泥の付いた白スーツに戻り、彼は不快そうに顔を曇らせる。
「デューク。さっきのお前の意見、正解は逆だよ」
「逆……だと?」
「妖魔を兵器に使う?馬鹿を言わないでくれ、あいつらは餌であり、取引の為のものだ。我々の計画の要に、重要なのだよ」
組織の中枢にいる咲人は、新入りに事実を指摘していく。それは普通の人間も、忍ですら知り得ない情報、少しずつデュークから疑惑は消え、絶句というものしか残っていなかった。
「嘘だろ…………妖魔は忍どもの宿敵だぜ。そんな奴等が餌や取引のものとか、一体何を探してやがンだこの組織は」
「知りたいか?これ以上知ってしまえば、お前はもう二度と光にも影にも戻れないぞ」
抜かせ、とデューク吐き捨てる。
元より大切なものを失った男、『あの人』に救われるまで生き甲斐など無かった男だ、今更戻れなくなることに何を感じるか。
彼の答えに、咲人は変わらず無表情だった。ポケットから取り出したボウガンの部品を弄り、彼は空を見上げる。
「我々の狙いは──────
────妖魔を滅するもの、
暗雲が晴れた太陽の光が周りに落ちる。遠野の里を照らす光は、咲人たちに向けられることはなかった。
◇◆◇
漆黒の鱗を纏う竜が大空を駆け抜ける。鳥たちを凪ぎ払い、雲を吹き飛ばす、他のものへの配慮なんてない自分本意の妖魔は下界を見下ろしていた。
血の匂いに誘われ降りてみれば、忍と似たナニかたちの争い。本来なら容赦なく殺すつもりだったが、今現在にとってはどうでも良かった。
自分たちを《古の妖魔 シン》と共に封印した忍 カグラ、そしてその名を継ぐ存在。二つの匂いが、竜の行動を激しく駆り立てている。
今こそ天敵を葬り去る。それだけの為に竜はこの世界で猛威を振るうことにした。
竜の名は、『サマエル』。原罪の蛇の名を冠する妖魔は《古の妖魔 シン》の復活を果たす為に、一つの存在を探し続ける。
補足
『サマエル』
《古の妖魔 シン》より生まれた原初の妖魔の一柱。竜のような姿をして知性を持つ。報復とシンの復活のために妖魔を滅ぼすモノ 神楽を探し続けている。
おまけ
閃乱カグラ 東京妖魔篇 視聴前のユウヤの反応
ユウヤ「主役が二人…………飛鳥たちの活躍が楽しみだな。取り敢えず早く見ようか!」
1話視聴後
ユウヤ「……………………………………え?」(;゚Д゚)
6話視聴後
ユウヤ「……………………」机に突っ伏してる
こんな感じになるでしょうね。この後、立ち直るのに何時間かは掛かったとか何とか。