閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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七十四話 ゾディアック星導会

シルバー、彼は元々悪忍だった。

この事実は旧知であるだろう、なら彼が何処に所属していたか、どれだけ有名な忍だったか、それを知る者はいない筈だ。

 

 

彼の、忍として名は『銀河』。

基立聖十字学院の生徒であり、ゾディアック星導会の創設者兼初代リーダー、『水瓶座』を冠する者。基立聖十字学院の生徒であれば知らぬ者はいない、憧れの存在だった。

 

 

だが、彼はある日を境に理由もなく姿を消した。基立聖十字学院なら、ゾディアック星導会から、彼を慕っていた少女────麗王たちの元から。

 

 

彼の同級生は、その日も普通だった、何も異常はなかったと答えていた。だから、その日に彼が撤退してきたある忍務が原因だとも言っていたのだ。

 

 

結局のところ。理由は彼、シルバーにしか分からない。

 

 

◇◆◇

 

 

「────なるほどねぇ」

 

そんなシルバーは今現在、近くの喫茶店で紅茶を飲みながら話をしていた。

 

 

「で、まとめてみるよ?麗王、君らは忍務である研究所の調査を行っていた。その時現れた奴にほぼ全滅させられて………何とか撤退してきたって訳か?」

 

「はい、それで間違いありません…………それはそうと、ここの紅茶もおいしいですね。チェックしておきましょう」

 

気品のある姿を見ていたシルバーはというと、

 

──会ってないのって何時からだったけか?その間に凛々しくなったよな。と全く話に関係ない事に、酷く感心しながら、頭の中の情報を整理していたのだ。

 

 

「で、自分に協力して欲しいと?ゾディアックの、悪忍の使命から逃げ出した自分を?」

 

「はい、貴方様なら出来ると信じています。私だけでなく、他の皆さんも」

 

「……………それほど出来た人間じゃないんだけどなぁ」

 

卑屈、と言えばいいのだろうか。麗王の言葉に、シルバーは困った顔をしているが、それは自嘲ともとれた。

 

真摯と言うべきか、信じきった両眼で見詰められ、罪悪感を抱いていたのかシルバーはそれから逃げるように携帯を開いた。

 

ピタリ、と。その動きが停止する。しかし、彼の眼だけは静かに携帯の画面を左右に行き来していた。

 

携帯を折り畳み、困ったように嘆息する。

 

 

「運が良いね麗王」

 

「…………え?」

 

「自分も少ーしその研究所とやらに用事がある。これで着いていく理由が出来た訳だ、自分も君も」

 

先程前と同じように自己満足しているシルバーに未だに状況が理解できなかった麗王。彼がそう言い出したのは、雪泉たちから送られてきた忍務が理由なのだが、彼は言わなかった。

 

 

 

────麗王に手を貸す理由が出来たとは、一言も。

 

 

 

 

 

 

「……………ぅ」

 

薄暗い部屋の中で、銀嶺は目を覚ました。硬い床の感触を体に味わいながら、ゆっくりと身体を起こす。

 

 

「あっ!銀ちゃん起きたよ!」

 

「よ、良かった~。全然起きないから心配しちゃった!」

 

すぐさま反応した二人、朱里(しゅり)藍夢(あいむ)は銀嶺の無事に目に見えて安堵していた。

 

何がどうなっているのか分からなかった銀嶺。彼女は説明を求めるように声をかけた。

 

「………こ、ここは?」

 

「説明は省くわ、見て分かると思うから」

 

落ち着いた様子の女性 黒母衣(くろほろ)に言われ、改めて周りを見渡してみる。

 

鉄格子が見える為、牢屋だというのは分かるが、どういう材質で出来ているのかは分からない。

 

壁、床、天井、それら全てが同じような物質で形作られている。

 

触ってみるが、氷独特のひんやりとした冷たさはない。結晶などの鉱物で出来てるとしたら、疑問しかない。これ程の鉱物で牢獄を造るのなら、鋼鉄にした方が早くて、損失も少ないのでは?

 

そこでようやく、彼女たちがくつろいでいることに気付いた銀嶺は疑問を口にした。

 

「脱出は、壊すことは出来ないんですか?いや、壊せなくてもヒビくらいは……」

 

「それはボクらも試したよ!………けど」

 

「力が出ないのよ。『これ』の仕業だと思うけどね」

 

言葉と共に黒母衣は自分の手首を見せる。そこには、知らない腕輪が取り付けられていた。黒いフォルムに、赤い宝石が埋め込まれている、デザイン。

 

お世辞でも良いものとは言えないが、これが原因と捉えるには充分すぎた。何故なら、この場の全員の腕に取り付けられていたから。

 

しかし、この状況で彼女が考えているのは、やはり別の事だった。

 

(麗王さま…………お無事でしょうか)

 

少し前、必死の力で逃がした麗王の身を案じる銀嶺。しかし、今の彼女には麗王の無事を把握することすら不可能だった。そんな中、

 

 

 

ギィ、と軋む音が牢獄に響く。

 

 

「───あ、あれは人の手には余るものです」

 

そう言う声と共に、この部屋に誰かが入ってきた。声は男性のもの、しかし弱々しく恐怖に震えたようなものだった。

 

そうしてると、檻の前へと人影が出てきた。一人は眼鏡を掛けた白衣の男性。もう一人は、白衣の男性よりは若く見える軍服の男。軍隊仕込みに見える歩き方をする男に、研究者の男性は更に捲し立てる。

 

「戦争に使える兵器とか、そんな素敵な物ではない!悪いことは言いません、あれは封印するべきです!あれを使うなど、到底認められる話では───!」

 

Das war es auch.(それも僥倖)、だが」

 

カツン、と研究者の胸元にあるものを押し当てる。黒一色に染まった拳銃。引き金に指が掛かったそれに短い悲鳴をあげる研究者を見据え、軍服の男は静かな低音で語りかける。

 

 

「私たちが言ってる言葉はそんなに難しいものか?私たちの命令はそんなに受け入れられないか?それは、《王》の怒りを買うと知ってか?ん?」

 

「い、いや………そんな訳では……」

 

「だったら早急やりたまえ。あの方曰く、《王》は短気らしい。気長に待たせていては、《王》の怒りを受けることになるぞ」

 

 

それ以上、研究者は反論しようとはせず青ざめた顔で下がっていった。よろよろとおぼつかない歩き方に、軍服の男も興味が失せたように無視する。

 

その話が終わると同時に、牢屋の前に人影が出てくる。

 

 

「───Mädchen(少女たち)、御機嫌よう。気分はいかがかな?」

 

「あー、皆さん起きてるッスか?」

 

現れたのは、二人の男だった。軍帽に軍服を着込んだ男。時々する軍隊仕込みの挙動から、本物の軍人と勘違いしてしまいそうになる。

 

対してもう一人は、ゴーグルが特徴的な好青年。ゴーグルとは言っても、水泳などに使うものではなく、頭に被るバンダナ代わりのようなものだったのだ。

 

鉄格子から覗いた青年は心配そうに声をかける。

 

「手荒な真似はしませんし、何かあるなら言って欲しいッス」

 

「だったらこの腕輪外してよ!動きづらいよ!」

 

「それが出来たら苦労しないッスけどねぇ………いや、少しはいいかな?いいかも」

 

ブーブーと文句を言う藍夢に困ったような顔をするゴーグルの青年。命令で出来ないのかもしれないが、真剣に外そうか悩んでいる辺り、甘いのか優しいのだろう。

 

その本人はというと、軍服の男に羽交い締めにされ止められていたのだが。

 

 

「ハァ、ハァ……………残念だが、外すことは出来ない。何故なら君たち、忍専用の拘束具だからね」

 

自慢気に語る軍服の男は、聞かれてもいないのに捲し立てる勢いで続けた。先程まで押さえられてた青年が、あっ、しまった。と諦めたように呟く程に。

 

「忍の力を完全に鎮静化させ、忍法すら使えなくする万能品!我らの組織で始めて運用したが、これはいい!この成果を、『あの方』を通じて《王》に報告せねばならないッ!!」

 

周りの様子など見えていない、いや見るつもりも無いのだろう。そこまで自分の世界に浸っていた彼に、この場の全員が呆れていた、のだが。

 

 

 

「…………ロウ、ヴォルさん」

 

鉄製の扉がゆっくりと開けられる。少しだけの隙間から、すり抜けるように少女が入ってきた。長い黒髪に大きなリボンが特徴的な、大人しめの少女。

 

 

「レディ(せい)。人前に出るのは好まない君が、何か用かな?」

 

こくこく、と首を振る少女 (せい)の眼が鉄格子越しの銀嶺たちを捉える。ビクッ!と肩を震わせた聖は飛び付くような勢いでゴーグルの青年の背中に隠れた。

 

「反応が……あります。施設中枢エレベーターへの、中央廊下に向かう反応が五つ…………」

 

ボソボソとか細い声が聞き取れたのか、二人は互いに見合う。そして、数秒もかからずに結論は軍服の男が出した。

 

 

「増援か、構わない。中央廊下ならばやりようはある」

 

「………地下階段へ降りようとしてる反応が二つ、此方に向かってくると………思います」 

 

 

「そういえば、あの方から連絡であったな。一人逃がした、と。だが、もう一人は知らないな。助っ人か何かか?」

 

「どうするッスか?例の『副産物』でも使った方が───」

 

「いや、その必要はない。今のところは」

 

ジャキッ! と拳銃からマガジンが抜かれる。近くの机の引き出しに丁寧に仕舞い、代わりとなるマガジンを嵌め込む。

 

たった数秒でその動作を終了させた彼は二人を見る。そして、拳銃を軍服の中に隠しながら告げた。

 

 

「クロウラー、聖と共に彼女たちを助けに来る者を倒せ。私は別の侵入者を相手する」

 

 

そう言った軍服の男は机に置いてある無線機を片手に持ち、部屋から出ていく。少しだけ響いた足音も、彼の気配ごと一瞬で消えた。

 

 

「………………さぁて、」

 

額に掛けたゴーグルを被るクロウラー。彼は壁に立て掛けてある二メートル以上の武器を手に取る。

 

タンクのような物を取り付けた、狙撃銃。重たいそれを腰の留め具に付け、固定する。廊下に続く道に向きながら、クロウラーは後ろの少女に声をかけた。

 

 

「僕らもやるべきだよね、聖」

 

それは、自分自身に言い聞かせているようにも感じられた。

 

 

◇◆◇

 

 

 

雪泉たちは施設の中に潜入していた。別れるのではなく、一緒に一本道の廊下を歩いているが、未だに敵には遭遇しない。

 

まぁそのせいで、より一層不気味さが増すのだが。

 

「少し、不気味な所だよね………」

 

「な、なに~?美野里、もしかしてビビっちゃってるの~?」

 

「べ、別に怖がってないもん!平気だもん!」

 

ホントかな~?と言い、頬を膨らませ反論する美野里を四季はからかっていた。忍務中というのもあるのか、ふざけた様子の四季に夜桜は叱ろうと何歩か歩み寄る。

 

「コラ四季!あまり美野里を怖がらせるじゃ『ズザッ!!』ひゃぁ!!?」

 

しかし、突然の大きな音に夜桜も短い悲鳴をあげてしまった。あまりの大きさに廊下の奥に反響するが、皆は責めることはしない。

 

それよりも、先程の音が何なのかを調べていたのだ。全員が背中を預け、周りを警戒する。

 

だが、すぐに正体が判明した。

 

『────ツーーー、ザザッ!────ツーー』

 

 

雑音の正体は、無線機だった。丁度ら壁に立て掛けられた鏡の反対に設置してある簡素な机。そこに乱雑と言った風に置かれていた無線機。

 

想像した事とは違い、安心する雪泉たち。しかし、誰よりも疑問に思っていたのは、雪泉だった。

 

────何でこんな所に無線機が。と、そう思った矢先、

 

 

 

 

『ツーーー───始めましてだな、侵入者たちよ』

 

意外と近くから、声がした。

咄嗟に身構えた雪泉たちだったが、その声が無線から響いてきてるのにすぐに気付いた。

 

廊下に響き渡る声は、更に続けた。

 

『私はヴォルザード・フォン・ツェッペリン。この研究施設に入ってくる不届き者を捕まえる為に配備された「同調者(ユナイト)」だ』

 

無線の奥の声はそう名乗った。『同調者(ユナイト)』、雪泉たちはその存在についてユウヤから少しは聞いていた。

 

 

忍と異能を組み合わせた戦闘員、それが『同調者(ユナイト)』らしい。忍のように忍転身するものもいれば、忍結界と似たものを張る者もいると。

 

しかし、ヴォルザードと名乗る者がこの場に現れる様子はない。少しでも警戒を緩めない雪泉は仲間たちに警告する。

 

 

「身を潜めていますね。隙を狙っているのでしょうが、そうはいきません」

 

lächerlich(笑止)。我らのテリトリーにノコノコと入ってきた君たちに言われるとは。それに、私は既に君たちの近くにまでいるのだが』

 

バッ! と雪泉たちは周りを見る。だが、ここは一本道の廊下だ。隠れる場所などある訳がない。あるのは無線機に、叢の後ろの壁に立て掛けてある、額縁に入ってきた鏡。それらだけだったが、雪泉はあることに気付いた。

 

普通なら背を向けた叢の姿が映る筈だが、それは全く見えない。それどころか、もう一つの変化があった。

 

 

波紋のような波が鏡に静かに浸透する。水が落ちた池のように。些細な出来事に雪泉以外の仲間たちは気付いていない。勿論、鏡の前に立っていた叢ですら。

 

そして、ズブズブと鏡から指が、手が伸びた。薄気味悪い白色という無機質な手は、獲物を仕留めようとする肉食動物のようにゆっくりと近付く。

狙いは、叢の首筋。

 

「ッ!叢さ────」

 

後ろでの危険を叫ぼうとした途端、ズバッ! と手が伸びた。最早バレることなど気にしない、一人でも殺してやるという確固たる意思と敵意に、全員が反応するが───遅かった。

 

 

───ギリギリ、雪泉が叢を突き飛ばしていなければ。

 

ドサッ!と尻餅をつく叢。突然の暴挙に、目を疑った夜桜たちも鏡から伸びた腕の存在に気付く。

 

 

良かった。率直に、雪泉はそう思っていた。後少し、気付くのが遅ければ、動くのが遅ければ、叢は命を奪われていたかもしれない。そう思い、雪泉は安堵する。

 

 

 

 

『………近くにいた者からと考えていたのだが』

 

しかし、すぐにその考え方を改める。その手はすぐに標的を変えたのだ、叢を突き飛ばしたばかりの雪泉へと。無機質な腕が色白い手首をガシリと掴む。そして、彼女は目にした。

 

 

『良いだろう。まずは貴様からだ』

 

伸びる無機質な腕の先、そこには白黒の軍服を着込んだ男がいた。深く被った軍帽を片手の人指し指で押し上げ、細められた眼で雪泉を睨む。

 

 

そして、雪泉の視界が別のものへと一瞬に転回した。

 

 

 

 

 

気付いた時、雪泉は全く別の場所にいた。簡素な造りの廊下ではなく、紫色一色の背景という世界。空中に浮かぶ沢山の鏡たち。

 

異常すぎる状況の正体を、彼女はすぐに看破する。

 

(なるほど…………結界術ですか。してやられましたね)

 

無数に配置された鏡が彼女の姿を映していく。その様子に不気味感じながら、彼女はそれに気付いた。

 

すぐ真上。

横に伸びる鏡の断面の上に立つ人物。無線か電話を使っているのか、何か声を出している。

 

「───む?もう一人侵入者が出ただと?部下たちを送らせればいいだろう。私は片方を始末するから、邪魔をしないでくれ………」

 

 

無線機を懐へと仕舞う軍服の男、ヴォルザードだったと名乗っていた声の主だった。

 

僅かな沈黙、二人はその後にすぐ反応を見せた。

 

彼は軍服のすぐ腰の部分に手を伸ばし、三本のナイフを引き抜く。対して雪泉もヴォルザードを見上げ、両手の扇子を構えた。

 

 

「まだ分からない事がありますが………詳しい事は貴方から話を聞かせて貰います!」

 

「早いな。戦いもせずに勝った後の算段か?嘗められたものだ!」

 

 

 

◇◆◇

 

 

同時刻、いや数分後のことだった。

 

 

「──────ここか」

 

雪泉たちと、シルバーと麗王が突入していた研究施設。その中に、一人の男が入ろうとしていた。

 

 

足首に届くまでの灰色のロングコート、顔全てを覆う程の光沢を帯びたフォルムのフルフェイスマスク、それらの二つを装着した人物。

 

服越しの体型から男と確認は出来るが、それ以外は不明。そしてもう一つ、彼が男と分かる低い声で、男は呟く。

 

「────俺たちを利用した報い。果たして貰うぞ、『禍の王』」

 

右手を強く握り締め、彼は施設の中に入る。激しくなるであろう争いは、更に混沌へと渦巻いていく。

 

もう誰にも、止めることはできない。




シルバーが基立聖十字学院の生徒であった頃、悪忍『銀河』の少し説明。


『銀河』
ゾディアック星導会の初期メンバーにて創設者。レーザーブレードの二刀流を扱っていた凄腕の忍。ある忍務で仲間たちが全滅し、自分だけ生き残るが、姿を眩まして基立聖十字学院からいなくなった。


この後、シルバーは初期のように対忍殲滅部隊『深海の魔神(ディープ・バロール)』を率いることになります。



ちなみに『銀河』は麗王の先輩であり、彼女の憧れの人でありました。


そんな『彼』がいなくなったのにも、やっぱり理由があるんですよねぇ(意味深)
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