閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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七十六話 《青》

クロウラーにとって、狙撃することは得意なことではないが、難しいことでもない。

 

彼の狙撃スタイルは普通とは違う。理由の一つは、狙撃銃のスコープを使わず自らの両眼に掛けたゴーグルを通して相手を撃ち抜くのだから。

 

理由の一つが『不殺』。相手も簡単に殺せる筈なのに、彼はしない。彼が行うのは無力化のみ。下手な殺傷は彼自身が許さないだろう。

 

そんな彼は、少し厄介な今現在の状況に顔をしかめた。

 

標的の二人が柱に隠れているのだ。まぁ、それが正しいとクロウラーは納得する。

 

「(まぁ柱をぶち抜いても良いッスけど………。その分威力が弱まるから嫌なんスよね。間違って殺しちゃうかもしれないし)」

 

心の中で呟いたように柱に隠れている為、脚を撃とうとして致命傷を与えてしまう可能性がある。

 

相手の身を案じた『不殺』か侵入者を容赦なく排除する『使命』。どちらを取るべきか迷った結果、

 

「(決めた!柱わざと撃って、別の柱へ誘導させよう!その直後に脚を撃ってから蜂の巣にすればいい!)」

 

数秒を犠牲にして、彼は『使命』を選んだ。自身の誓いより、組織に対する恩を選んだのだ。

 

その為、彼は少し反応が遅れる事になる。

 

 

 

彼が柱に銃弾の雨を放つ直前に、二人が柱から飛び出して来たのだから。言葉に詰まり、呆然としていたクロウラーもようやく我に帰り、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ハッ!出てきてどうするつもりッスかね!此方を狙撃も出来ないの───────に?」

 

嬉しそうな声で銃口を向けるクロウラーは、途中で硬直した。

 

 

飛び出してきたのは二人、麗王とシルバーだった。麗王はレーザーブレードを片手に持っているだけ、今のところは危険度はない。むしろ、問題はシルバーの方にあった。

 

シルバーの背中には巨大な鉄の塊が展開されている。左右対称に。その塊の正体を、ゴーグル越しに目にしてしまう。

 

 

六発ものロケット弾が装填された砲筒だった。大きさからして軽く戦車は破壊出来るだろう。

 

あまりの光景にギョッと顔色を変化させるクロウラー。そんな彼を他所に、

 

 

 

合計六発のロケットミサイルが連続で放たれた。

 

 

「──ハァ!?マジッスか!ここ屋内っすよ!?」

 

火を吹く六つの金属の塊に慌てながらもクロウラーは狙撃銃を構える。

 

 

距離は十分だった、此方に届く前に全てのミサイルを撃ち落とす事は五秒も掛からない。彼の懸念はそこではなかった。

 

「(抜かった、どちらかというと煙幕代わりッスか。僕が狙撃銃だから、勝てると思ってるのかもしれない)」

 

「ま、そッスね。勝てないでしょ、こりゃ」

 

相手の考えを読んでしまい、脱力してしまった。ミサイルを破壊した結果、白い煙が辺りに撒き散らされる。それらはクロウラーの視界を完全に塗り潰し、ゴーグルを使い物にならなくした。

 

 

ほぼ諦めていた彼に、声が掛けられた。味方の声ではない、全く知らない他人の声が。

 

「────大人しく、とは言いません」

 

チラリと目だけを動かすと、喉元にレーザーブレードが向けられていた。寸でギリギリのところ、自分が喉を鳴らすだけでも皮膚が切れるかもしれないという距離だ。

 

でも、クロウラーは物怖じはしない。それどころかレーザーブレードの持ち主の、麗王の顔を見て思い至ったと言わんばかりな声を漏らす。

 

「へー、知ってるッスよ。ボスにボコボコにされてた皆さんの救助に来たんスか?止めた方がいいと思いますけど」

 

「……聞くと思いますか?」

 

「そッスよね………本気の忠告だったんだけど(ボソリ)」

 

それだけ言い、二人は武器を動かした。クロウラーは狙撃銃を、麗王はレーザーブレードを。

 

 

しかし、どちらかの武器が決着を決めることはなかった。その理由に、こちらに向かっていたシルバーが気付く。

 

「──麗王下がれ!」

 

彼の言葉と共に、地面が崩れ始める。先程の大規模なミサイルレンジ攻撃の余波が響いたのだろう。麗王は何とか後ろに飛び退き巻き込まれなかったが、クロウラーは崩落にバランスをくずし、

 

「─────ぁ」

 

そのまま地面に空いた穴へと落ちる。悲鳴をあげる暇もなく。慌てて二人が覗き込むと、暗闇で何も見えなかったが、シルバーだけは見えてしまった。

 

黒に微かに写った赤の色が。

 

「……………麗王」

 

「……、分かってます」

 

彼の言葉に麗王は短く頷く。敵だったとしても、せめて無力化すればこんな事にはならなかった、彼女はそう責めているのかもしれない。

 

だが、戦場とは、忍とはこういうものでもある。敵味方関係なく死ぬかもしれないのだ、そう思うしかない。

 

 

(────まぁ、どうせ死んではないだろ。酷くても軽傷だろうし。落下で死ぬんならテロリストやらないしな)

 

そんな感じの中でも、この男は抜け目が無いほどに鋭かった。

 

 

 

 

 

細い長い廊下を渡っていき、その脚を止めたプラチナは同行していた雪泉を見やる。

 

「ここで合ってるな?貴様が仲間とはぐれたのは」

 

「は、はい。確かにここです」

 

そう、今彼らはあの場所に戻ってきていた。雪泉が、ヴォルザードによって結界に引きずり込まれ、仲間たちとはぐれた場所に。

 

しかし、誰もいなかった。仲間の影も形も何一つが、見えなくなっている。

 

「夜桜さん、皆さん。一体何処へ………?」

 

「先へ進んだ。それ以外何があると思う」

 

アッサリと結論を下すプラチナ。彼にとって何故雪泉の仲間が先に進んだのかは読めなくもない。だが、仲間の安否を知らずに進んだのには何かがあるはずだ。

 

 

「俺も貴様も同じく進むべきだ。どのみち、忍務とやらを果たすにはこの先を調べなければならないのだからな」

 

そう言う彼は、やはり心の中で不安を抱いていた。何かがおかしい、と。そして顔を上げ、その思考をフルに加速させる。

 

──透明な水色の床、壁に天井。まるで氷で形成された道が、彼らの前に静かに続いていた。

 

 

 

 

 

 

「──────してやられたな、ヴォルザード」

 

 

施設の中枢、地下深くの巨大なホール。そこで軍服の男 ヴォルザードは平伏していた。相手がいるのは、中枢にそびえ立つ玉座、その上だった。

 

 

「まさか侵入者を一人も討てずに逃がすとは」

 

「………申し訳ありません」

 

「怒ってるんじゃない。寧ろ感謝してる」

 

『禍の王』の構成員が装備するフード付きのローブを乱雑に羽織い、玉座に掛けた金属製の義足が特徴的な黒髪の男。彼は手の中に転がる宝石を静かに見つめ、ただ遊んでいた。

 

 

「お前が狙ってた奴には、俺も用があったからな」

 

突然振動が施設内に響き渡る。定期的な事なのか、彼らは首を動かそうともしなかった。しかし、ヴォルザードは首を動かす。真上にいる彼を見上げて、皮肉と取れる言葉を呟いた。

 

 

「───それは、私情ですか?覇黒(はごく)さま」

 

「そうだ。…………悪いか?」

 

 

いえ、その様な事は。とヴォルザードは彼に敬服を示す。ホールと同じ材質の椅子に腰掛けながら、彼はヴォルザードを呼び掛けた。

 

「例の『兵器』の起動を視野に置け。丁度いい、仲間を救出しに来た奴等で試してやろう」

 

「お言葉ですが、あれは実践運用が出来るか不明です。実験をしていない以上危険だ、と報告を受けていますが」

 

「…………それで、可能か?」

 

「お任せを。十分以内に動かさせます」

 

言葉と共にヴォルザードは特殊な手鏡に触れ、瞬時に姿を消失させる。手鏡ごと消えるとは便利だな、と覇黒は下らない事を考えながらも、静かになったホールでようやく一人だけになる。

 

 

カラフルな見た目の宝石たちをコロコロと転がし、ニヤニヤと笑う。他人から見れば子供みたいだと微笑ましくなるだろう。だが、彼の思考は全く別の物だった。

 

その証拠に、ある人物の名を口にする。

 

 

 

 

「楽しみだな──────“雪泉”」

 

バギィッ!とその手の宝石を全て潰し、玉座の上で覇黒は笑う。この施設の何処かにいる少女の気配を感じていたのだ。

 

自分の領域(テリトリー)に入った、もうすぐここに自分から来る。そう思うだけで高揚感が収まらない。

 

後少しで、“あの男”の希望を踏みにじれる……!遺した遺志をゴミのように。不満があるとすれば、“あの男”の悔しがる姿を見たかった────大切なものを奪われた時の顔を目にしたかった、それだけだ。

 

まぁ、それぐらいは勘弁しよう。“あの男”が嫌がる事が出来るのなら、それで腹の虫は収まると言ったものだ。

 

そのような思いと考えを内側に含みながら、覇黒はピクリと顔をあげる。そして、

 

 

「と、その前に」

 

パチン!と指を鳴らす。直後にホールの一部が物音を立てて大穴を開ける。音もなく起きた現象に男は顔を変えない。

 

寧ろ、座ったままで金属剣の脚で地面を叩き、不協和音を奏でている。その理由は彼の視線の先にあった。

 

「その仲間たちが先に、俺の前に来るとはな」

 

 

開いた穴から少女たち、夜桜たちが出てきた。先に進んでいたつもりだったのだろう。だが、結局はこの男に誘導されていたのだ。

 

「やれやれ、四人か………味気ないな。なぁ、お前ら───」

 

「………何者なんじゃ、お前は」

 

「おい、オイオイ。聞いてたのは俺だぜ?少しは答えろよな。最初の発言に答えてから、自分が質問する………それが礼儀じゃあないのか?」

 

話を遮られたとしても、男は平然としていた。余裕ありありといった態度に夜桜たちは嘗められてる、そう思い少し怒りを見せる。

 

 

だが、彼女たちは気付かない。

 

 

 

夜桜の言葉の直後、彼から僅かであり濃厚な殺気が漏れた事には。

 

しかし、男はそんな様子を見せようとはせずに、頬杖をかく。不満そうに溜め息を吐き捨て、不敵な笑みを浮かべるという矛盾の行為をしながら、彼は自らの名を口にした。

 

「俺は覇黒(はごく)。《青》の『四元属性(エレメント)』、『禍の王』の頂点に立つ四人、その内の一人だ」

 

 

『四元属性』、『禍の王』、頂点。

 

男、覇黒は確かにそう言った。彼女たちはユウヤから聞いていたことを思い出した。

 

───最近忍たちを襲撃する正体不明の謎の組織、忍と異能を重ね合わせた『同調者(ユナイト)』を束ねる者たち、『四元属性(エレメント)』。

 

そして、頂点に立つ、とも口にした。ならば、王者のように君臨しているこの男が、『禍の王』の《王》なのか───!?

 

 

「勘違いするなよ。俺は頂点に立つ者の一人であって、組織を束ねる《王》ではない。《王》は俺たちでは相手にならない程の実力者だからな」

 

が、心を読んだように覇黒は即座に否定する。号外不遜というべきか分からないが、凄まじいオーラは感じられる。

 

それほどの人物を越える───圧倒的な上がいる。その言葉に戦慄していたが「次は俺の番だ」という言葉が彼女たちを我に帰らせる。

 

 

「お前たちは月閃の忍学生だろう?こんな奴等を寄越してくるとは、上層部の老害どもは俺たちをこの程度と見てるらしいな。腹立たしいばかりだ………お前たちも不満には思わないか?」

 

「何が、言いたいんでしょうか?」

 

「仲間になるチャンスをやる。これは俺のポリシーでさ、どんな奴にも俺は一度だけチャンスを与えてやるという流儀だ。『不平等』はこの世で最も唾棄すべきものだしな」

 

 

果たしてそれは、どんな理由があってのものなのか。彼女たちに理解は難しいだろう。だが、それを信条にするくらいに、覇黒という男は何かを抱いているだろう。

 

しかし、すぐさま覇黒の表情が変わる。余裕に満ち溢れた顔から、彼女たちを侮蔑するような顔に。

 

 

「と、言ったが理解できないだろうな。忌々しいあの男、“黒影”、もとい愚かな正義に溺れた愚者を慕う、お前たちには」

 

「愚かな正義、愚者だと?」

 

彼の言葉に叢が声をあげる。般若の面から殺気が膨れ上がる。それだけで敵意を向けることに口笛を吹き、やはり子供だな、と美形の顔を歪めて嗤う。

 

剣の脚を地面に突き立て、玉座から立ち上がる。着ていた赤×黒のローブを脱ぎ捨て、青色のダイバースーツのようなものが外に露になる。

 

「そう、愚かだ。自らの正義に酔いしれ、それらを無闇に振るった最低の偽善者、それが黒影だ!それで罪のない家族を犠牲して、お前たちにも自分の正義を擦り付けたんだから、全く質の悪い男だ」

 

「ッ!貴様!!」

 

彼の言葉に怒りを見せた叢が飛び出す。自らの恩人の悪口を許容できないかったのだろう。包丁を強く握り締め、勢いよく突貫したのだ。

 

 

「異能忍法───」

 

対して覇黒はクイッと指を動かすだけだった。だがしかし、それだけで結晶のホールの部位の一つに変化が起こる。洞窟に滴る水滴のようにドロリと崩れ落ちてきたのだ。

 

まるで液体金属そのもののように蠢いたそれは、

 

「────結晶液状斬剣(クリスタル・ウェルゼルブ)

 

覇黒の前に入り込み、叢の包丁の一撃を防いだ。液体のように揺らめくそれは結晶そのものを斬ったような感触がホールに響き渡る。

 

軽く弾き飛ばされた叢がすぐさま体勢を立て直す。彼女に続くように他の少女たちも身構える。

 

対して覇黒は興味深そうに彼女たちを睥睨する。ストレッチをしながら、気さくに答えた。

 

「やる気か?…………丁度良かった、少し肩慣らしがしたかったからな」

 

 

腰を深く落とし、片方の金属脚を軸として水晶床に円を描く。まるでコンパスのように、という言い方は少し悪いだろう、言いやすくするとスケーターの動きに近かった。

 

 

「……………ん?」

 

しかし、一瞬だけ彼の意識が別のものに向けられた。覇黒は怪訝そうにしながら、ポケットをあさる。その中にいた物、それは───────、

 

 

光沢のある鉄球だった。大きさは掌サイズの物。無機物である筈のそれを、彼は優しく撫で回してた。

 

「あぁ、安心しろ。お前も暴れさせるさ。少し待てよ。

 

 

理解が甘いガキどもに、『禍の王(俺たち)』という絶望を教え込むんだからなぁ」

 

あやすように告げると、その鉄球を玉座の上へと置く。よほどの余裕があるのか、その間も背中をむき出しにしていた。

 

この場を支配する程の実力を持つ男、《青》の覇黒は少女たちを見下ろす。そして歪んだ笑みを浮かべ、彼はこう宣った。

 

「───まぁ、精々抗ってくれ。この俺の復讐の為に、世界終焉のシナリオの為に」

 

 

その直後、蹂躙が始まる。




《青》の覇黒、ボスの一人がようやく出せました。黒影を知ってる人物であり、彼を生理的に嫌ってます。


────ぶっちゃけ関係者ですね、マジの。
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