閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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暗き月、ダーク・ムーンってあれなんですよね。とある方とのコラボ回で名前だけは出てきたんですよ。


七十八話 暗き月と語られる真実

─────『暗き月(ダーク・ムーン)』が造り出されたのは、遥か四千年前くらいの事だった。

 

 

『聖杯』を恐れその力を統べようとした四千年前に生きていた者たちは『聖杯』を調べようとした。

 

だが、神の遺産と言われる『聖杯』。それを調べようとした多くの者が死ぬか、精神が壊れてしまった。

 

それから少し経ち、『賢者』と謳われる三人が『聖杯』を解析し、その真髄を理解した。そしてその研究が原因で、十二の存在が生み出された。

 

 

名を────【超越者】。世界の理を歪める力を持つ神の如くの存在たち。

 

凄まじい力を持つ彼等は、『賢者』たちを邪魔者と認識し、殺そうとする。だが、『聖杯』の力を使った『賢者』たちはその十二体に打ち勝ち、彼等の力を奪い呪縛となる制約を掛けた。

 

 

ある存在には、人間の敵となる存在を滅ぼすようにと。ある存在には、世界の法則となりバランスを保つようにと。

 

それらの制約を施し、十二体の存在を封印した。いずれは解けるように、この世界を守り続けるようにと。

 

そんな中、『賢者』の一人がこんな事を口にする。

 

 

───『彼等』の力を使わずとも、世界を守れるようにするべきだ、と。

 

『彼等』というのは、封印された十二体だった。確かに、彼等は世界を守る、人を救うという風に変化した。だが、それだけでは不安だったのだ。十二体の一部が暴走するかもしれない。

 

 

だから彼等は考えた、世界を滅ぼせる力の兵器を造り出そうと。そしてその兵器に世界を滅ぼせないように仕組めばいい。その存在を世界に伝えれば、人々は畏れ争いは止めるだろう。世界を滅ぼす力があると知れば、人々は争いをする暇もないだろう。

 

一つの意思と信念により、その兵器は造り出された。【超越者】がいなくても世界から争乱を失くす事が出来る兵器。

 

 

その名も──────、

 

 

 

 

 

「「「………『ダーク・ムーン』?」」」

 

彼、シルバーの言葉を聞いてた銀嶺、朱理、藍夢の三人がその単語を口にした。が、誰も意味が分かる者がいないらしくすぐに疑問を露にしている。

 

「シルバーさま、それは一体……」

 

怪訝そうな声で麗王はシルバーに聞いた。彼女自身よく知らないから分からないのだろう、その兵器が何なのか。それは他の皆も同じだった────一人を除いて。

 

 

「───もしかして、あの『ダーク・ムーン』!?」

 

「あぁ、文献で見た姿と酷似してる。…………こんなに壊れかけてるとは思えなかったけどな」

 

遅れて驚愕の声をあげたのは、常時落ち着いている黒母衣。しかし、今の彼女は冷静とはかけ離れている。シルバーの言葉を聞き、『ダーク・ムーン』を見上げる顔には冷や汗が流れていた。

 

 

「黒母衣も知ってるんですか?あの機械みたいなものことを」

 

「機械………あれはそんな柔な物じゃないわ。断言できる」

 

リーダーである麗王の言葉に応えた黒母衣は挙動不審に見えた。今も尚吊り上げられている兵器が動き出さないか、心配なのだろう。

 

そして、黒母衣はその兵器が何なのかを告げようと────、

 

 

 

「───遥か太古に存在した『賢者』たちが争乱を失くす為に造り出した抑止力」

 

───することはなかった。

突然ホール中に響き渡る声が遮ったのだ。キィン!と鼓膜にくる高い声から、それはスピーカーを使った声だと全員が気付く。

 

そして、そのスピーカーの奥から足音が聞こえる。

 

 

「月の光をエネルギーへと変えて起動する兵器。その存在だけで数千年もの間、人類に畏怖を与え続けてきた」

 

カツン、カツン、と。一定のリズムを保ったまま、ホールの壁沿いの扉から何者かが出てきた。

 

 

軍服の男 ヴォルザード。

しかしその姿は普通とは言えず、血に濡れている。本人は痛がる素振りもしない、つまりはそれは自身の血ではないことを表している。

 

赤に染まった服を気にしないヴォルザードは続けるように言う。壊れかけた『ダーク・ムーン』に肩を竦めながら。

 

「おぞましいと思うよ、これが太古の人間たちにとって『真の聖杯』への副産物に過ぎなかった。彼等が造り出した滅びの文明の一つだったのだから。

 

 

彼等が別次元へと封印したのも頷ける、そう思うでしょう?」

 

フフフ、と笑うヴォルザードの問いに、反応はしても答える者はいない。

 

ただ一人────シルバーだけはヴォルザードを睨みながら、口を開いた。

 

 

「………それで?お前は何者だ?」

 

「ヴォルザード・フォン・ツェッペリン。『同調者』の一人です。質問なら少しだけ受け付けますよ」

 

「それじゃあ聞かせて貰いたいけど…………『ダーク・ムーン』は完全に使えるの?どう見ても普通には見えないわ」

 

「あぁ、その事ですか」

 

なるほど、と付け足すヴォルザードは静かに落ち着いていた。

 

「『ダーク・ムーン』はある組織に勝手に使われてしまい、挙げ句に別次元の人間に干渉した『雷神』たちにより破壊され、今はこの有り様ですね」

 

「(………『雷神』?)だが、今もなお隠してたんだ。何かに使うつもりなのは違いないだろ?」

 

「その通り」

 

あっさりと、そう肯定した。

隠す必要もないのか、それにはシルバーも目に見えて顔をしかめる。

 

 

「ダーク・ムーンは破壊されたが、それは完全ではない。まだ残っている────ダーク・ムーンを最悪足らしめる力が」

 

含んだような言い方に全員が怪訝そうな顔をするが、ヴォルザードはそれ以上は口にしない。

 

全員と言ったが、シルバーだけは違う理由があった。

 

(ヴォルザード、だったか?奴は多分時間稼ぎだろーな。もしくは勝てると思ってるだけか…………仲間がいる可能性も警戒しとくべき)

 

相手の出方を激しく警戒していたのだ。仮にも忍たちを翻弄してきた組織のメンバー、何をしてくるのか分からないと言うのが正直な答えだった。

 

軍帽を指で押し上げたヴォルザードがシルバーを目に捉える。心の中を読んだかと連想させるように微笑み、告げた。

 

「あぁ、安心してくれたまえ。私以外に誰もいないよ、粗方粛清しましたので」

 

「粛清……?」

 

「ここにいた研究員、四十五名程。私たちの命令に従わずに、挙げ句に『ダーク・ムーン』を破壊しようとした馬鹿な奴等。ホントに嘗めた真似してくれましたよ」

 

よくよく考えてみれば、おかしかった。彼の服が血に濡れているが、その量は並大抵の人間のものではない。

 

おぞましいことが、読めてしまった。

 

「まさか………殺した、ですか!?」

 

「えぇ、はい。逆らうなら生かす価値も無いですので。裏切り者は我が王が許しても、私が許さない。死の恐怖で従えてたのに──────役に立たなすぎて困るよ」

 

その調子でヴォルザードは更に語る、自分達に逆らった研究者たちの末路を。

戦おうとする者、許しを乞う者、自分は役に立つと叫ぶ者、それら全てを排除してきた、と。

 

だからこそ、ヴォルザードは血に濡れていたのだ。彼の髪や軍服に染み込んだ赤は、全て利用され裏切りの果てに切り捨てられた者たちの証だった。

 

 

「………よりによって、戦えない人たちを手にかけるとは………!」

 

許せない、そういうように麗王はレーザーブレードを握り締める。優しいのだろう、そう思う。

 

しかし、シルバーはどこまでも冷静だった。麗王の言いたいことは分かる、だがシルバー本人は少し前までは国の犬として汚れ仕事をしてきた───そもそも、忍はそういうものなのだ。

 

一般人だろうと、標的なら排除する───それがこの世界が定めた忍なのだ。そう、シルバーを自論を心の中で呟く。

 

 

「綺麗事を」

 

鼻で笑い、ヴォルザードは冷ややかな声で返す。あまりにも現実離れした夢を語る子供を小馬鹿にするような態度だった。

 

血に濡れたナイフの汚れを落としながら、くだらないと吐き捨てる。

 

「我々は世界中の全てから否定されてきた。全ての復讐の為に生きてきた、それが【禍の王】。たった数十人を殺すことに躊躇するとでも?」

 

世界から捨てられた者たち。

その一人であるヴォルザードの覚悟は生半可なものではない。彼はたった一人であろうと、世界全てを敵に回す勢いなのだ。

 

 

「まぁ、まだ我々の覚悟が分からないのなら仕方ないですね。ここら辺で知らしめる必要がありますか」

 

やれやれと肩を竦めるヴォルザードは懐から何かを取り出した。

 

赤黒い液体、血よりも黒い液体が入っている注射器。その液体は薬品には見えない、むしろ害しかなさそうだった。

 

反応が楽しいのか、含んだように笑うヴォルザードは彼等の様子を見て微笑む。

 

 

「─────こうするのですよ」

 

直後、注射器を自身の首に突き刺す。驚愕するシルバーたちを他所に、ドロドロとした赤黒い液体を身体の中に注入した。

 

その正体は、【ケイオス・ブラッド】。ある男が使用した神の物質。

 

それが入ってきた注射器が地面に転がるが、目を向けようとしない。刺した部位を片手で押さえ、ヴォルザードはシルバーたちを睨み付ける。

 

ドグンッ! と何かが胎動する、彼の身体の奥から何かが沸き上がろうとしていた。それらは一気に膨れ上がり、ヴォルザードの身体に多大な負荷を与える。

 

 

「がッ………ぐ、ば。がァァああああああああアアアアアアアアああああああああああああ!!!」

 

苦しそうに悶え、蹲るヴォルザード。両手の指全てがバキバキと音が鳴り、黒く変色した血管が浮き出る。

 

血を吐くような絶叫がホールに木霊し、沈黙したヴォルザードの体がぐらりと揺れる。そのまま床に倒れそうになる、ところで。

 

 

足元から、大量の赤黒い液体が溢れる。液体だと言うのにそれら自我を持ったようにヴォルザードの体を包み込んでいく。

 

そして、一つの塊から複数のラインが伸びる。まるで手のようにか細いそれは、あるものに目掛けて飛来する。

 

 

狙いは─────『ダーク・ムーン』。

不動の兵器を【ケイオス・ブラッド】が侵食していくのだ。色のあるもの全てをおぞましい血の色へと染め上げ、己の一部へとするために丸呑みにしていく。

 

 

ガギン!ビキバキボキゴキ!!

 

砕け、破壊される金属の音が続いた。巨大な繭のように変化した塊がその姿を歪める。

 

ケーブルや鎖を『ケイオス・ブラッド』が侵食していく。巨大な作りの部屋へと渡り、全てを取り込もうとしていた。

 

だが、それは行われることがなかった。鎖やケーブルが限界を迎えたように千切れ、ガシャン!!と巨大な【ケイオス・ブラッド】の塊が落下する。

 

誰も声を発する事が出来ずにいた、当然だ。現実的には有り得なさすぎる。起こっている事実に頭が追い付いていないのだ。

 

そんな中、ホールの天井にあるスピーカーから声が届く。電話越しのような変な声、しかしそれが誰の声かはすぐに理解できた。

 

【「───『ダーク・ムーン』本来の力より劣るが、それに関しては仕方ない」】

 

機械の塊から飛び出したか細い脚が、地面に突き刺さる。か細い棒が鉄の床を貫く。言葉に出すと異常だが、目にしたものからしたら納得は出来る。

 

武器や色々な物質を統合させた、凶器の一つ、そう見えるそれは─────指にしか過ぎなかったのだ。

 

 

【「動かせなくなるよりは十分、容易い話だ。この力で世界に復讐するのは」】

 

二本の腕が床を引き裂く。爪が食い込んだだけなのだが、それだけでも恐ろしい威力が明らかになる。

 

塊と化していた【ケイオス・ブラッド】が溶け込み、その巨体が明らかになる。

 

巨竜、そうとしか表現出来ない。胴体が様々な兵器と鉄材で作られていく。それは無機物の竜と言うべきなのだが、表面に浮かぶ赤黒いラインが生命があるように思わせてくる。

 

 

【ガガガガ、ガァァァァン!!!】

 

唯一首と確認できる鉄塔のようなそれから、赤黒いラインが巡る。頭部に眼となる光が灯り、強引にその口を開いた。それにより留め具が外れるが、怪物は竜を気にしない。

 

ズシン──ッ!! と激しい振動と共に竜は完成した姿を見せる。しかし、竜には下半身が存在しない。無数のワイヤーとケーブルを壁や天井に伸ばし、そのバランスを保っていたのだ。

 

 

【「今ある力で、この世界に災いと混沌をもたらす。それが私の、この組織に入った意義」】

 

 

麗王たちはヴォルザードに止まるようにと呼び掛けるが、返事はない。今の彼には何も聞こえなかった。『ダーク・ムーン』を纏ったヴォルザードを動かしているのは───世界への憎悪、そして【禍の王】への思いだった。

 

 

【「まずは、この世全ての忍を殲滅する!!それが、妹や弟を救ってくれた【禍の王】への手向け!!

 

 

手始めに、君たちを殲滅して見せようッ!!!」】

 

『ダーク・ムーン』の力と同化した武装兵器の竜、名を《ヴォルザード・マグナス・ドグマ》。

 

もう止められない、滅びへのカウントダウンは刻まれた。

 

 

 

 

雪泉の冷気が飛び散る宝石を凍てつかせ、それらをプラチナが砕いていく。

 

だが、それでは止まらない。覇黒は笑いながら、追加と言わんばかりに宝石を投げていく。飛来したそれらは刹那の光を放ち、強烈な爆風を辺りに撒き散らす。

 

両腕とコートを鋼鉄化させて爆撃を防いだプラチナは彼に指差し、鋭く指摘する。

 

「──『ダーク・ムーン』。あの兵器を使おうとしてるのか。世界でも殲滅する事に、随分と執着しているな」

 

「やれやれ、浅いな。『ダーク・ムーン』の価値は世界を滅ぼせるだけではない。その兵器を使っていたお前なら分かるだろう」

 

何?とプラチナが顔をしかめる。雪泉はどう意味か分からずに戸惑っているが、その様子が楽しいのか覇黒は嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

 

そのまま、彼はさらっと口にした。

 

「“設定した条件を満たしたもの全て排除し、同じように設定した条件を満たすものを優先的に保護する”術式。それが『ダーク・ムーン』が太古の人間たちにも怖れられた機能の一つだ」

 

「なッ!?」

 

雪泉の呼吸が止まりそうになる。

隣で聞いていたプラチナも知らなかったのか、目を見開く。

 

反応を聞いて楽しかったらしく覇黒は高らかな哄笑を響かせる。

 

「何とも素晴らしい力だろうか!指定されたものだけを全て滅ぼす力、俺たちにとって最高と言うべき兵器だ!」

 

「……その為にか。貴様は、いや貴様らの目的は『ダーク・ムーン』の力で全ての人間を皆殺しにするつもりか!!」

 

「言い方に悪意がある。俺たちをただの悪党の集まりと認識しているみたいだな」

 

歯軋りするプラチナに覇黒は指に挟んだ宝石を見せつける。突然取られた攻撃態勢にプラチナは構えるが、覇黒はそのまま話を続けた。

 

「俺たち以外にも、世界に絶望し憎しみを抱く者たちがいる。そいつらを救わずしてどうする?俺のポリシーに反する事だ。その為にも、まずは俺たちを血気盛んに探し回り、挙げ句に潰そうとしている奴等を消す必要があるよなぁ!?」

 

 

探し回り、潰そうとしている。

 

その単語から、雪泉は覇黒の言わんとする事を読んだ。あまりにも恐ろし過ぎる事実を。

 

「──まさか、忍を!?」

 

「正解だ、雪泉!善忍も悪忍も、上層部の連中もな。奴等を抹殺することでようやく俺たちは裏社会を完全に支配し、表の世界に宣戦布告出来るんだよ」

 

心の底からゾッとした。全ての忍を抹殺する、そんな事が出来るとは思えない。だが、覇黒の語る言葉がただの嘘とも違う。

 

 

「そんなことをしても………敵が増えるだけです。争いが消えるどころか、それ以上の敵が!」

 

「そうだろうなぁ!邪魔者は忍だけではない!焔紅蓮隊、七つの凶彗星、他にもいるだろうな。だが、関係ない。その為の『神の遺産』、その為の俺たちだ!多くの犠牲の先に、俺たちは理想を果たせる!」

 

「ッ!貴方は……ッ!!」

 

 

気付けば、また輝いた宝石が宙を舞っていた。激しい複数の爆撃が襲う。今度こそ直撃したプラチナが吹き飛ぶ。

 

雪泉は彼の名を呼ぼうとするが、すぐにそれを止める。スケーターのように滑りながら近付いた覇黒が義足で蹴りのような一撃を浴びせようとしていたのに気付いたのだ。

 

咄嗟に身体を捻り、鋭利な剣先を避ける。直後、冷気を帯びた扇子を振り上げて、覇黒に叩きつけた。

 

彼もすぐさまその勢いを使った脚の剣先で扇子の攻撃を防ぐ。

 

「貴方は何故自分たち以外を否定するんですか!?その先に、何があるっていうですか!!」

 

「理想郷、俺たちが望む完璧な世界。理不尽な悪意や意味の無い不平等が完全に消え去った新たなる新天地。

 

 

 

俺たちだけではない、同じように理不尽に虐げられてきた奴等が笑って生きられるのなら、その他の人間を喜んで滅ぼすさ!一人残らず!」

 

鋭い義足と凍てつく扇子がぶつかり、火花を散らす。冷気と覇気が二人を中心にホール内に吹き荒れる。

 

均衡する剣戟の中、覇黒の灰色に淀んだ眼が雪泉を捉える。思い出した、そう物語る彼の顔が見えた。

 

「お前もそうだったろう、雪泉?」

 

「ッ!」

 

「悪の無い、善だけの世界を作る。そうお前は言ってたそうじゃないか、黒影が望んだ世界を作ると!その為に多くの悪を倒して来たじゃないか、正義の為と言ってな!!」

 

動揺にバランスを乱した雪泉を逃さないと、もう片方の剣脚が切り上げる。胸元を軽く切り裂いた凶刃は、倒れた雪泉に突き立てられる。

 

が、雪泉には抵抗をしない訳がなかった。

 

 

「貴方と、一緒にしないでください!!」

 

ズドドドド!!! と辺りを凍らせていく。本来そこまでの出力は出ないのだが、敬愛する黒影を侮辱されたことの怒りもあり、予想も出来ない程の威力を披露していたのだ。

 

 

「否定しようが、現実は変わらないさ。その目的を俺は笑うつもりはない」

 

しかし、覇黒は氷の津波に平然としていた。行った動作は一つ─────津波に向けた手を横に振るう。

 

 

それだけで、覇黒を包み込もうとした氷波は動きを止める。まるで覇黒が操り停止させたように、ピッタリと。

 

残念と口にした覇黒はブチブチ!と口先を引き裂き、勢いよく腕を横に一閃する。

 

「だから、それを打ち破ることに文句を言うなよ!お前らを下し、絶望の淵に落とすことで!俺は黒影の希望を粉砕出来るんだから、なぁ!!」

 

空間が割れた、そうと取れる現象。

ホール内を飲み込む程の大規模な氷を覇黒は腕を振るっただけで完全に切断したのだ。切り落とされた氷塊がつぶてとなって消失していく。

 

 

「何故……ですか」

 

 

 

「黒影お爺様は、私たちにとって大切な人です。私たちに正義を教えてくれた」

 

 

雪泉は昔、善忍の両親と歳の離れた兄、『雪風』と共に過ごしていた。子供の頃の記憶だが、雪泉はその日々が幸せだったのは覚えている。

 

ある日、両親が死んだと兄から伝えられた。後から聞いた話だと悪忍に殺されたらしい。そうして兄に連れられ両親の葬儀を終え、墓参りに向かう。

 

帰り道の途中で雪泉は、森の奥に何かを感じた。子供特有の好奇心もあり、彼女はひっそりと森へ入っていき───異形と出会った。それが妖魔だということには当時の彼女は知らない。

 

そんな雪泉に容赦なく襲い掛かろうとする妖魔。そもそも子供が妖魔に勝てる訳がないし、雪泉は恐怖で動けなかった。そのまま鋭い爪が振り下ろされる直前、飛び出した兄が雪泉を庇う。

 

兄は大丈夫、と笑いかけ雪泉を抱き上げながら走り出した。後ろから雄叫びが聞こえる。少し経ってから兄は近くの木陰に身を潜めた。

 

───近くにあの妖魔がいる、そう悟った兄は唇を強く噛む。そして、震える雪泉の肩を掴んで言った。

 

『……雪泉、オレがあの怪物を誘き寄せるから。反対の方に逃げるだ』

 

嫌だ、と幼かった雪泉は首を横に振った。怖かったのだ、両親のように兄もまた失うのかと思うと。

 

困ったように笑った雪風は震える手で雪泉の頬を撫でた。優しく温かいと感じた彼女に、兄は優しく告げる。

 

『雪泉、立派な忍になるんだよ。それが父さんと母さん、そしてオレの願いだから』

 

そして怪物を連れて兄が走り去っていってから少しが経ち、反対の方に逃げた。必死に必死に必死に走って────足を止めた。

 

 

 

兄を追っていた筈の妖魔が、そこにいた。

剥き出しの歯には赤い液体が染み付いている、ドロドロとした液体が。

 

そこで雪泉は限界と言わんばかりに地面に座り込んでしまう。想像していたから、囮となった兄がどうなったのか。

 

無防備な雪泉に妖魔は嬉しそうに唸り、飛び掛かる。その鋭い牙と爪が小さい雪泉の体を引きちぎり、喰らうまで後少し、

 

 

直後、妖魔は瞬殺された。横から入ってきた男の手によって。

 

どう反応すれば分からなかった。妖魔を屠り目の前に立っているのは、黒髪の強面の男。彼は雪泉を睥睨し、その顔が驚愕に包まれた。

 

そんな中、雪泉はお礼を言ってない事に気付く。命の恩人だ、そう思い口を開こうとした雪泉を、

 

 

男、黒影は優しく抱き締めた。突然の事に雪泉は疑問に思う、だが黒影の口から静かに震える声が聞こえたのだ。

 

 

『───すまなかった、もう大丈夫だ』

 

これが、雪泉と黒影の出会いだった。

後に雪泉保護され黒影が兄を探しに行ったが、彼の口から兄、雪風の死が告げれた。

 

失意に陥っていた雪泉は後に助けた夜桜、叢、四季、美野里たちと共に黒影に育てられた。

 

だからこそ、黒影は雪泉にとって掛け替えのない大切な人なのだ。

 

 

「…………なるほどな、必然的にお前は救われたんだな黒影に」

 

そう言う覇黒の表情は優れない。何かに絶望したような諦めに似た声音に雪泉は眉を上げる。

 

直後、

 

 

 

「───だが、黒影の正義は悪を殲滅するだけのものだ。それは人を救う正義じゃない。それは呪いだ」

 

凄まじい殺気が覇黒から放たれる。あまりにもどす黒かったオーラに雪泉は後退してしまう。そんな彼女を見つめ、覇黒は憂うように呟く。

 

「病気で苦しんでいた母さんの元に黒影は来なかった。助けてと必死に願った俺の祈りは、届かなかった。

 

 

実の子だと言うのに、悪の殲滅を優先した。最後まで、母さんの元には来なかった」

 

「──────え?」

 

耳を疑った。

切り捨てることが出来ない、それほどまでに雪泉の心に引っ掛かったから。

 

母さん、それだけなら少ししか動かなかっただろう。だが、覇黒は実の子と口にしていた。

 

 

誰の?─────というのは、考える必要はない。

 

 

「改めてだな、真実を教えてやろうか」

 

黒髪をかきあげ、覇黒は嗤う。最初からこうすれば良かったという後悔とこの後の反応が楽しみだという歓喜が目に見えて分かる。

 

そして、その理由が何なのかは─────すぐに分かった。

 

 

 

「俺の母親はお前の母の妹であり、黒影の娘。つまり俺は黒影の孫、お前の従兄弟だ。雪泉」




オリジナル要素が色々とある今回の話でした。


雪泉の兄『雪風(ゆきかぜ)』に、覇黒が黒影の孫であり雪泉の従兄弟とか…………色々ありすぎですねぇ。
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