閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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皆さん、メリークリスマス!


クリスマスなので、投稿しました!内容は全然和やかじゃないですけど。


七十九話 星の息吹

「お祖父様の、孫?」

 

「知らないだろう、あの男は言ってないだろうからな」

 

黒影の孫、それは自分だけだと思っていた雪泉。だが、可能性を思えばある話だった。黒影の娘、自分の母親に姉かもしくは妹がいたとすれば、同じようにその子供がいたと。

 

しかし、現実を前にして、そう簡単に納得できる訳ではなかった。親を失い何かを憎んでいる──かつての自分と全く同じ境遇の者。違うとすれば、黒影に育てられたか否か。

 

少しだけの差で、死闘を繰り広げる敵となる…………こんな運命があっていいのか?

 

いいや、と雪泉は思う。例え悪だとしても更正の機会はある。彼も同じだ、一時期の転落で悪に堕ちてしまったのだ。やり直すチャンスはある───そう思い、説得しようとする。

 

「………それなら、教えてください。貴方は何故こんな事をしているのですか。誰の為にもならない事は、貴方も分かっている筈です」

 

「……黒影の孫、その重要性を理解していないようだな。いや重要性ではない、危険性か」

 

彼女の問いに、覇黒は両目を伏せ深い息を吐く。

 

 

「さて、雪泉。お前にも分かるように質問してやる」

 

「……?何を」

 

「黒影の子供、もしくは孫がいると知ったら、忍たちどうする?ニコニコと笑い武器を捨てて見逃すと思うか?」

 

そこでようやく気付いた。雪泉たちは黒影に拾われ、山奥で育てられてきた。何故山奥で、と当時は疑問に思うときはあったが、最近分かったのだ。

 

黒影は抜け忍だったということ、つまりその命を狙われてきた。なら、雪泉と同じ黒影の血を継いでいた覇黒がどうなったかは、聞くまでもない。

 

「そう、危険と思うよな?排除しようとするよなぁ!?今まで多くの悪を葬り去り、同じ善忍からも追放された男!その血を継ぐ人間だからな!恐ろしいと思わない訳がない!

 

お前は黒影に拾われ、隠れて生きてきたからいい。だが、俺はどうだったと思う?どうやって生きてきたと思うよ!?」

 

慟哭、それは覇黒にとって憎悪全てを宿したものだろう。何故自分が、そう思い続けて生きてきた───だから絶望した。

 

「母さんも親父も死んだ!仲間たち全員がだ!それを殺し、俺を傷つけた忍どもは声を揃えてこう言った!『黒影の血を継ぐ者、お前は危険だ。ここで死ね』となぁ!」

 

「捕まった際、脚を切り落として逃げ出した!そうして俺は組織にいる!分かるか!?大切な居場所を、必要としてくれた人たちを、奪われたんだ!!『黒影の孫』なんて不名誉な肩書きのせいで!!」

 

────誰が悪い、何が悪い、そう悩んだ結果なのだろう。自分以外を憎む事で、全てを恨むことで、彼はここまで生きてきたのだろう。

 

「それがどれだけの苦痛か、お前に分かるか!?最も信頼している者に敵視を向けられた気持ちが、お前なんかに理解できるかッ!?」

 

「………」

 

「出来る訳がないよなぁ!?自分の気持ちが分かるのは自分だけだ!他人には分からない、だからこそ争い、奪い合うんだよ!人間はぁ!!」

 

それだけ言って、言葉の雨は止まる。覇黒が口を閉じたから。理由はある。

 

静かに沈黙していた雪泉が何かを言おうとしているのに気付いたのだ。噛み締めるように、彼女は言う。

 

「……饒舌、ですね」

 

「あ?」

 

「自分の過去を語るのがそんなに嬉しいのですか?同情でもして欲しいと?」

 

雪泉にしては、辛辣な口調だった。

覇黒はこの世界の理不尽に害された被害者だ、しかしそれとこれは違う。被害者だから、苦しめられてきたからといって、悪事を為していい理由にはならない。

 

だから、目の前で自らの悲劇を語る男を悪と判断する。感傷に浸るのは駄目だ、止めたければ覚悟を決めなければならない。

 

「…………あぁ、そうか。まだ折れないか」

 

チッ、と吐き捨てるような舌打ちをする。鬱陶しさすら感じる表情だったが、含んだ笑いへと変わる。

 

相手の嫌がる事を思い付いた、子供のような無邪気かつ悪そうな顔だった。

 

「なら、これもお前には響かないだろうな」

 

「?………何を」

 

「シルバー、お前たちと一緒にいた奴だ。知ってるだろ、銀色髪(ぎんいろがみ)の。

 

 

アイツ、元々悪忍だったらしいぞ?」

 

 

 

 

 

………………え? と。

 

長い沈黙の果てに雪泉は何も言えなかった。そもそも、何を言われたのか、理解が追い付かなかった。

 

「ハッ!ようやく揺らいだな!やはり信頼しているからか、より反応がいいなぁ!」

 

嬉しそうな覇黒の言葉に、ようやく理解が出来る。抗おうとしていた気が弱まり、消えかけていく。

 

しかし、覇黒はそれを良しとしない。まだだと言わんばかりに続けた。

 

「そもそも、シルバーが悪忍になったのは理由がある。親を殺されたらしい、まだ幼い……三、四歳だった頃にな!」

 

「………もし、その話が事実だとして、今それを言う理由があるのですか」

 

「まだ分からないか?シルバーの、悪忍だった親は殺した男、その正体を」

 

言われても、本当に分からなかった。

そう思うが、雪泉自身理解できてる筈だった。理解したくなかっただけ。その先を、事実を認めたくなかったから、頭に浮かんでこなかった───浮かばないようにしていたのだ。

 

 

覇黒は言った、『男』と。そしてシルバーの両親は悪忍だった、という。

 

点と点が繋がった。最悪な方に、想像もしたくなかった方面に。

 

 

「──まさか、お祖父様?」

 

「正・解・だこの間抜けェ!気付くのが遅ェが許してやるさ。

 

 

さて、お前も言ったよな、悪は消えるべきと。じゃあ殺せるよなぁ?シルバーも悪なんだから」

 

ニヤニヤと笑う覇黒の顔が歪んで見えた。

 

 

嘘、嘘だ。

必死に否定する理由を探す、だが冷静な部分が単純明快な答えを提示していく。

 

『くだらない正義』、『偽りの善』

 

あの時、敵として出会った時シルバーはそう言っていた。当時は単純に、正義を理解出来ないだけだと思っていた。

 

でも、考えてみれば分かる事だった。

大切な理由が無ければ、あそこまで毛嫌いしていなかった筈。彼が正義を嫌っていたのは、自分から大切な場所を奪ったからだろう。

 

 

でも、彼は笑っていた。楽しそうに過ごしていた。だから彼が復讐に駆られては─────、

 

 

「本当に?復讐心がないと?そんな訳がない!お前たちもそうだったろうが!悪を嫌い、憎んだ!それはシルバーも同じの筈だろうが!」

 

馬鹿にするような大声が雪泉を嘲笑する。彼女の心の隙間に割り込み、壊そうとしていく。

 

 

 

笑いながら覇黒は指を鳴らす。そんな彼の腕を半透明の結晶が、肌を覆うように包み込む。

 

───心に傷を与えた、なら次は肉体だ。更なる絶望、苦痛と死を与えよう。

 

 

「だからさ、雪泉─────お前は死ぬべきなんだよ、分かるよな?」

 

片腕が振るわれ、巨大な結晶が収束し──巨大な手が作り上げられる。彼の姿からして似合わないくらいの大きさ、夜桜の手甲と同じだった。

 

少しの間とはいえ、他者の戦闘スタイルを我流へと変えて戦闘に使う。簡単ではない、熟練の忍ですら難しい。

 

それを成し遂げた覇黒は───それらすら越える力を持っているのだろう。

 

「黒影の夢を継いだお前は、今や黒影の最後の希望だ。アイツの遺したものは全て壊してやる。

 

 

俺たちだけが苦しんだのに、アイツだけが幸せに終わるなんて許さない」

 

抵抗しようにも出来ない、そもそもそんな気力すらなかった。

 

悪を失くすべき、だがシルバーは悪として生きてきた。正義を果たすべきだ、しかし正義は人を苦しめた。

 

 

何が正しいのか、何が間違いなのか、自己矛盾が雪泉を襲う。激しい葛藤に、正しい答えを出せない。

 

「あの世で爺さんに会わせてやるさ………楽しみに待っとけよ、大切な仲間も後で送ってやるからなぁ!!」

 

 

ズガァ!!と半透明な巨槌が迫る。雪泉の顔を捉え、確実に潰そうと放たれた一撃は─────回避不能だった。

 

 

◇◆◇

 

 

 

巨竜、《ヴォルザード・マグナス・ドグマ》が動き出す。肉体を構成する【ケイオス・ブラッド】にワイヤーや鎖など使い、巨腕を古代神殿の柱の如く振り下ろす。

 

 

「──させません!」

 

しかし、誰よりも早く動いた銀麗がドリルを構えた。回転するドリルに巨大な機械の手がぶつかり、甲高い不協和音を響かせる。

 

その隙に、他の少女たちが動いた。

 

「いけぇ!!」

 

【「───がッ!?」】

 

朱璃が両手の指に填めた紐に繋がっている二つのヨーヨーを操る。防ぐこともないとヴォルザードは判断していたが、それらが首元に当たった途端、痛みと共に切り傷が出来た。

 

反撃として片腕を動かす。そのまま跳躍していた朱璃を吹き飛ばそうと横に振るおうとする。

 

 

が、直後に巨竜の眼が砕かれる。衝撃に全身が揺れ、振るわれた腕が狙っていた少女の真上を通り過ぎて、壁を破壊した。

 

何事かと思った巨竜は自身の眼を砕いたもの、そしてそれを放った者を見やる。

 

右腕に装着した大型ボウガンを向ける、藍夢がそこにいた。すぐに気付いたヴォルザードは舌打ちを隠さない。

 

【「遠距離か………!小賢しい真似をしてくれるな、ただでさえ見にくいのに!」】

 

「小さくとか言わないでよね!藍夢はそんなに小さくないんだから!」

 

【「悪いね、あまりにも小さ過ぎて攻撃が見えなかったんだ………よ!!」】

 

ケーブルと鎖が触手のように唸る。近くの残骸や鉄片を先の方で掴み、鉄槌のように振り下ろした。

 

丁寧さはない。乱雑で当てるつもりがあるのかと悩む程だった。しかし、それでいい。一人一人真剣に当てようとするよりも、当たることを願いながら暴れまわる方が効率がいいのだ。

 

 

カン!と切りつけられた部位の近くから金属音が響く。

 

【「!!」】

 

咄嗟の反射神経で背中の鎖やケーブルを動かす。首元に振るうが、ダメージはない。避けられたかと思い、周りを見ていると、

 

 

「やっぱり毒は効かないのね……弱点が出てくるまで待つべきかしら」

 

裾から覗く暗器をちらつかせながら、黒母衣はため息をついていた。暗器についた紫色の液体と先程の言葉から、彼女が何をしようとしたのかは予測できる。

 

怒りのままに破壊を行おうと、武装の矛先を向ける。まとめて吹き飛ばそうと画作するヴォルザードの視界に、

 

 

「────」

 

柱が見えた。

それは、天高く据える極光。淡い光ながらも、どんな強固なものも切り裂くレーザーの刃。

 

その剣を天へと掲げた麗王は、己の秘伝忍法を唱えた。

 

 

「秘伝忍法────ライトニングブレード」

 

一条の光の柱が迫り来る。咄嗟に頭部の前に腕を持ち上げて防ごうとしたが、指と手の甲が真っ二つに切断される。

 

血の代わりに溢れ出す赤黒い液体。肉体にリンクしているヴォルザードにも、その痛みが発生していた。

 

 

(コ、ィツらァ!連携が上手い、私が押されている!)

 

ここで改めて実感する。敵というものを嘗めていた。少しだけとはいえ神の兵器の力を手に出来た事に慢心していたのだろう。

 

己の甘さに反省しながら、攻略点を考察する。ヨーヨーによる中距離に大型ボウガンの遠距離、毒などの隠し刃、そして近接のドリルとレーザーブレード。

 

隙を見せればやられる。この姿だからこそ、小回りが利かないからこそ、面倒なのだ。

 

(───関係ない!一人ずつ潰す、連携の基点を崩してやる!!)

 

「全員下がれ!」

 

声と共に、巨竜の頭部が吹き飛ばされる。

 

壁を滑るように移動してきたシルバーが攻撃したのだ。背中に展開した戦車の砲身のような筒で。

 

彼の言葉通りに全員が後退する。射程圏内から外れたのを確認するとシルバーは壁を蹴り、宙に飛来する。

 

巨竜の上空に着いたと同時に、背中から出来る限りの武装が広がる。シルバーの最も扱う事の多い──重火器たちによる攻撃が────始まる。

 

 

全武装展開(オールレンジ)一斉迎撃(フルバレット)!!」

 

重火器から無数の弾幕が放たれた。ミサイルだけではない、徹甲弾、貫通弾、砲弾、榴弾、破壊力に長けた兵装。全てが容赦なく、巨竜へと打ち込まれる。

 

 

ボガガガガガン!!! と無数の弾幕を受けた巨竜が悲鳴をあげ、勢いよく倒れる。

 

「このままなら行きます。あれを倒せるかもしれません!」

 

「………そういうことは言わない方が良いんだけどなぁ」

 

希望を見い出した麗王の言葉に、シルバーは頭に手をやりながらそう言う。全員が怪訝そうにシルバーを見るが、彼は沈黙する巨竜を見ていた。

 

彼の言葉の通り、言うべきではなかったのかもしれない。しかし、最早手遅れだ。

 

 

【「やるな……流石は忍、そして異能使い。真価は覚醒せずともここまでいくとは」】

 

ズシン………!と巨竜が首だけを持ち上げる。様々な攻撃を受け、体がボロボロと崩れていく。しかし、表面に流れた液体がすぐに修復する。

 

 

【「しかし────神の物質を取り込んだ私がこの程度で倒せると?」】

 

油断をしていた、甘く見ていた。

 

やはりこれは汚点だな、とヴォルザードは悔いるように呟く。

 

だが、それもこれまで。これからは本気を出す、と言わんばかりのオーラと殺気を放つ。

 

【「そもそも、嘗めすぎだな。まだ私は『ダーク・ムーン』の真髄を見せていない。それなのに勝ち誇られるのは、全く心外だ」】

 

「………不味いわ」

 

それを聞いていた黒母衣が呟く。シルバーと同じように『ダーク・ムーン』の存在を知っていた彼女だから、気付けたのだろう。

 

神の遺産『暗き月(ダーク・ムーン)』の真髄、それが何を示すのか。

 

 

「『ダーク・ムーン』は月の光を取り込みエネルギーに変えて動く。………月の光を変換させたエネルギーがまだ残ってるのなら、『ダーク・ムーン』の世界を滅ぼしうる力を使えるわ!!」

 

【「その通り、今からその力を見せてやろう」】

 

その言葉と同時に、竜は大口を開く。そして中から人影が見えた。

 

ヴォルザード、ニヤリと笑う彼の姿は明らかに変化していた。身体の半分が【ケイオス・ブラッド】に侵食され、赤黒いものへと変わり果てていた。

 

ゆっくりとした動作で両手が天へと向けられる。おぞましい色へと変貌していく両腕に、ヴォルザードは笑みを浮かべたまま。

 

そして、だんだんゆっくりと視界が暗くなっていく。夜中ように、新月の時のように。

 

 

天体接続(コードアニマ)星帯同調(チェインアニムス)法則歪曲(ベクトルノーマル)──強制発動」

 

スーッと滑るように動く指に連動し、暗闇の中に光が灯ていく。真っ暗なカーテンが虹色に彩られ、星空のように見えた。

 

正確に星に見えるのは、全て光だ。己が認めたもの以外を蹂躙する破壊の光。それらが輝き、星のように見えたのだ。

 

───不味い、まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!!!

 

悪寒が全身を震わせる。危険だ、防ぎきれない。今まで信頼を置いてきた勘が、そう決定する。

 

 

もう免れられない。全ての星が閃き、激しく輝く。

 

星空を描いたヴォルザードは狂喜に顔を引き裂き、暗闇をかきむしるように両腕を振り下ろす。

 

 

「────輝け星の息吹(ルミナスメテオ)穢れた天地を浄化せよ(エヴァンズスティグマ)

 

 

ズッッッッドッッッッ!!!!!!

 

何が起こったのか、分からない。理解できたとすれば、無数の星が落ちてきた────それだけだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

現在、地上では地震が起きていた。そんなに大きくはない、だが周囲の人々が戸惑うくらいの規模でもある。

 

激しい戦闘が行われている研究施設、そこから離れた山奥で、戦闘の様子を映像越しに見ている者たちがいた。

 

 

「───やっぱり苦戦してるみたいっすね」

 

「当たり前でしょ、アレは『聖杯』と並ぶくらいの存在の力を使ってるのよ。本来の力ではなくても、多くの人を殺せるわ。数人集まった程度で勝てる訳ないじゃない、はい論破」

 

三人の少女の内、二人がそれぞれ感想を口にする。相手がどれほどの強さか理解してるからこその発言。

 

その中の一人、ずっと黙っていた少女が顔を上げる。彼女たちよりも年上の男。彼を見ながら、単純な質問をした。

 

「先生、私らが突入しても文句は無いだろ?」

 

「───駄目だ」

 

男はそう断言した。

ホログラムのような映像を見据え、腕を組んでいる。

 

「………アンタだって分かってる筈だぜ。このままじゃあいつらは死ぬ。それでヤツは地上へと出て、破壊の限りを尽くしちまう!」

 

「フッ」

 

強く言う少女に、男は冷静そのものだ。先が見えてるみたいだった。

 

「安心しろ、お前たちが懸念するほどの事にはならないさ」

 

教え子を諭す教師のように男は言う。しかし顔を動かすことがない。その目はずっと映像に向けられていた。

 

「彼らを信じてみたまえ───面白いものが見れるぞ」

 

ホログラムに映る光景、全てを覆う煙の中で人影が揺らいだ。その影は────銀色の髪をしていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

【「───少し解放しただけで、こんなものか」】

 

巨竜の中に戻ったヴォルザードは、全てを見下ろしていた。圧倒的な破壊が生み出した惨状───地に伏せる少女たちの姿。

 

それらを見下ろすヴォルザードはやはり無感情だった。何も感じない、ただ使命を果たす以外には。

 

 

【「覇黒さまより命を与えられているのだ。『ダーク・ムーン』の運用を有意義に出来るようにしろとな。立ち上がれ、抗うがいい………………『暗き月』は人類の終焉を告げるぞ」】

 

「………そうか」

 

一人だけ、立ち上がっていた。銀髪の青年、シルバーは服に付いた汚れを両手で払う。ヴォルザードの物言いを聞いた直後、呆れたように笑いながらしゃがみこむ。

 

ん?とその事に首を傾げるヴォルザード。だが、シルバーは笑みを消さない。床に手を伸ばしながら、彼は言った。

 

「なら、存分に抗わせてもらおーか」

 

 

 

 

ガクッ!!!! と。

 

直後に、ヴォルザードの体が揺れる。力と肉体を制御するエネルギーが削り取られたのだ。

 

あまりの荒業に狼狽するヴォルザード。自分の回りにいる者たちを睨み付け、絶叫のような咆哮を轟かせた。

 

【「馬鹿な……力が、消える………何を、何をしたッ!?」】

 

「自分はシルバー。水の異能使い、ユウヤのように大規模な攻撃は出来ないが───触れた液体を操る事など容易い」

 

見てみれば、シルバーは床に手をつけていた。正確には、床に落ちた赤黒い液体───【ケイオス・ブラッド】だが。

 

それを吸収するシルバーの元に溢れた【ケイオス・ブラッド】が集まっていく。彼の力に引かれ、取り込まれようとする。

 

「そして、お前から【ケイオス・ブラッド】を吸い上げる!お前はその姿を形成しきれず、弱体化するだろーな!」

 

【「………なるほど、恐れ入った」】

 

素直に感嘆とした声でヴォルザードは称賛する。今もなお、ヴォルザードの力が減少していく。ここまでやるとは驚いた、彼は言いたいのだろう。

 

 

 

 

【「だがまぁ───現実に悲しいな」】

 

ボバン!!

 

弾け飛ぶ音が響き渡る。赤黒い液体を吸い上げていたシルバーの腕から血が噴き出したのだ。

 

それだけでは済まない、彼の体に目に見えた変化が起きる。肌に浮かんだ血管が赤黒く変色し、至るところから出血していく。

 

今にも崩れ落ちそうなシルバーを見下ろし、竜は呆れた声を響かせる。

 

【「私が『ケイオス・ブラッド』を取り込めるのか、それに気付けないのか?我々『同調者(ユナイト)』はそのように体を調整しているのだ。分かるか?一時期少量の『ケイオス・ブラッド』を肉体に入れたところで、拮抗できるとでも…………ッ!!?」】

 

 

巨大な竜、その口の中から出てきていたヴォルザードの息が詰まる。変化があった。竜の体が崩れ始めていたのだ。何とか再生してはいるが、崩壊の方が少しだけ早い。

 

何故……と声に出す前に気付いた。出血をしている銀髪の青年が、まだ倒れていないことに。まだ【ケイオス・ブラッド】を吸収していることに。

 

「…………ぐっ、」

 

全身を貫く程の激痛なのに、シルバーは吸収を止めなかった。止められる訳がなかったのだ。

 

肉体が限界なら精神で、体が無理なら意思の力で耐えて見せる。

 

 

(──あぁ、何をやってるんだ?自分は)

 

そこでようやく、自分のやってることに疑問を抱く。やるべきかという問題ではない、そもそも何故自分がこうしているのか、それだけが重要だった。

 

 

(こんな事をするのはおかしい、無謀すぎる。麗王たちとともに戦う、もしくは最も負傷してる人物にこの事態を他の者たちに伝えさせるのが、一番正しいのに)

 

かつてのシルバーならそう断じただろう。大いなる目的、世界の平和の為。元より《死の美》の定めから逃げた愚か者、命など惜しくはない。

 

囮になるなら自分もなる。それ以外の人間も同じように切り捨てる。その覚悟があった───筈なのに。

 

 

(そうか、嫌なのか。麗王たちが傷付くのが)

 

昔の自分なら、何と言うだろう。甘さだ、と切り捨てることだ。だが、結局それを止めることはない。

 

 

「温く、なったなぁ…………自分(オレ)も」

 

 

 

 

───パァァンッ!!!

 

風船が弾け飛ぶような音だった。軽い音なのに、ホール全体に響き渡ると同時に、世界が真っ赤に染まる。

 

血管や内臓、肉体に行き渡っていた全ての血が激しく爆散したのだ。それらは彼の身体を傷つけた、回復不能な状態に。

 

グラリと、血塗れのシルバーの体が揺らぐ。力尽きたように、そのまま地面に倒れ込みそうになる。

 

必死に叫ぶ少女の姿が視界の隅に見えた。それでも答える事が出来ない、その気力もない。

 

 

何故、雪のような少女の姿が脳裏に浮かんだ。もう、何も考えられない。薄れた意識が消えかけ──────

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