閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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八十一話 救われぬ者を救う為

………この世界で、どれだけ苦しんでいる人間がいるのだろうか。

 

ヴォルザードはそんな事を考えた事があった。組織の仲間たちに言ってみたら、笑われた覚えがある。大袈裟じゃないか、と。

 

 

大袈裟ではない、自分にとって『禍の王』は救いだったから。きっと今も苦しんでいる人々を救済できる筈だ。

 

 

そう信じているからこそ、ヴォルザードは戦えるのだ。組織の為に、この世界の不条理に虐げられている者たちの為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の間だが、意識が抜けていた。ヴォルザードはその事実を理解するや否や、視界内全てを萎縮させる程鋭い眼光を向けた。

 

 

「───下らない」

 

 

バックリと開いた口から覗くヴォルザードはそう一蹴した。目に見えたパワーアップを前にしても、彼は物怖じすらしない。

 

それ以上の力、世界を滅ぼして理想を体現する力が今の自分にあるのだから。

 

 

「その程度の力で太刀打ちする気ですか?少しパワーアップしたくらいでは、『ダーク・ムーン』の力には勝てませんよ」

 

「どうかな」

 

圧倒的な力を前にしても、シルバーまだ折れない。徐々に鬱陶しいと感じ始めてきた。

 

 

ボロ、と崩れた金属が地面に落下した。高いところから落ちた事もあり、大きな音と風を響かせる。

 

「………………あ?」

 

おかしい、そう思い自身の両手を見る。変化はない、あるのは自分が同調している巨竜の体だった。だんだんとその形を保てなくなっていた、制御が効かなくなったように。

 

 

「何故、何故だ!?体が崩れて、馬鹿な!まだ私は動ける!動けると、いうのに!」

 

巨体と同化していたヴォルザードにも分からない。いや、違う。ヴォルザードの以外の者には理解できていた。

彼が現実を直視できていなかったのだ。

 

 

「限界だ」

 

「なっ、なに、何を」

 

「お前自身は良くても、その体の方が限界なんだろう。大量の【ケイオス・ブラッド】で持たせてたみたいだが、その力を抑えきれてない」

 

ふざけたことを、そう否定しようにも出来ない。

シルバーの言うことは的を射ている。内包されていた筈のエネルギーが圧迫してきているのだ。

 

動こうとするだけで増幅してきた力に、内側から破壊されそうだった。

 

「お前の負けだ、どう見積もって制限時間をもう過ぎてる。これ以上続ければ死ぬぞ」

 

シルバーは掌を向け、静かに言った。

 

彼の言葉通り、巨体は瓦礫や鉄屑へと戻りかけている。最早、ヴォルザードの意思など関係ないと言わんばかりに。

 

 

 

────負け?私の、私たちの?有り得ない、そんな事が……!!

 

必死に否定材料を探す。しかし、彼の言葉は正しかった。故に受け入れそうになる。死んでしまっては意味がない、組織の為に戦えう事が────、

 

 

 

『俺の元に来るか?お前の家族も連れてきても構わないぞ』

 

──あの方はそう言って私を………私たちに救いの手を差し伸べてくれた。

 

追っ手として差し向けられた忍を撃退して逃げ続けるだけの生活。激しく衰弱していたヴォルザードは、その誘いを受け入れた。

 

 

──覚悟していた、この組織で道具のように使われる事を。しかし、弟と妹を養う為ならそれぐらい大したことないと思っていた。

 

 

『お前が新入りの…………ヴォルザードか?俺は覇黒だ、よろしく頼むぞ』

 

けど、『禍の王』の面々は私を見てくれた。道具としてではなく、仲間として。

 

嬉しかった、今までの空虚感が満たされたようだったのだ。

 

『ヴォルザードさん!色々教えて貰ってありがとうございます!これからも頑張るッス!』

 

『………あの、ヴォルザードさん。……こんな私でも戦えるでしょうか?』

 

ここが、『禍の王』が私の居場所だった。怒ったり、泣いたり、笑ったりして───抑えてきた感情を吐露できた。

 

 

───■■さま、覇黒さま、皆。そして、ウェインにベロニカ………私の弟と妹、心から愛する最後の家族。

 

 

待っててほしい、すぐに終わらせる。皆と笑える世界を作ってみせる……………だから、許してほしい。ずっと離れていたお兄ちゃんを。

 

………これが終わったら、一緒にいるから────

 

 

 

 

 

「────私の、私たちの邪魔をするなァァァッッ!!!」

 

 

絶叫と共に、激しい振動が起こる。

崩れかけた瓦礫が集まり、その形を変えていく。竜と思われたそれは、巨大な腕のある異形へと変化していた。

直後、ヴォルザードの肉体である金属の肉体から複数の破片が宙に舞う。

 

その破片は、光を反射する鏡だった。

合計八枚、雄叫びと共に放たれた無数の光が鏡に吸い込まれ、屈折させる。

 

 

「────な」

 

驚愕し声をあげる暇もなかった。

鏡は不思議な力で光を方向ねじ曲げ、光線を周囲に放ってきた。

 

無差別な砲撃となった極光が、麗王に届こうとしていた所でシルバーが前に出た。腕を振るい、空中の水の塊で防御する。

 

 

だが、直後光を消滅させた水が激しい勢いで蒸発した。光線の熱とぶつかったから、こうなったのだろう。が、それを見た後では悠長な事を言えない。

 

 

「水が…………どんだけの火力だよ!」

 

笑えないと言った様子で叫ぶシルバーの背中から展開された兵装アームが砲頭を向ける。

 

ゴバンッ!!!

 

放たれた榴弾は首を失った巨竜、剥き出しとなったヴォルザードへと突っ込んでいく。しかし、巨竜の腕が目の前でそれを払い落とすように薙いで爆発させる。

 

 

「…………反射し続ける事で、粒子エネルギーは強力なものへと変わっていく」

 

そう言うヴォルザードが腕を掲げる。彼の腕から放射された白い光が天井へと伸び、無数の鏡がそれを遮った。

 

八枚の鏡は全方位から光を囲み、八方体と化すその中で音が木霊する。キンキンキン!といった、何度も反響する音。

 

無数の鏡の中で反射しているのだ、水を蒸発させる程の熱量を帯びた光線が。

 

 

「それによる超高火力の砲撃───『粒子反物砲(ミラージュ・ドグマ)』。並みの人間には防ぐことすら出来ない、受ければ死ぬしかないぞ」

 

笑うヴォルザードの顔色が変わり、口から大量の血を吐く。肉体が今にも悲鳴をあげているのだろう、しかしそれを酷使している。

 

自分の死を、計画の為の歯車の一つと捉えているのだ。

 

 

「貴様らに明日はない、我が組織の邪魔になる者は排除する。私の命に換えてでもな!どうする?貴様らに何が出来る!?」

 

「………、そりゃあさぁ」

 

文字通り血を吐く絶叫を響かせるヴォルザードにシルバーは両目を伏せる。

 

 

彼の考えが読めたのだろう、それを知ったシルバーは一瞬だけ、気に入らないという風に顔を歪めた。

 

が、すぐに笑みへと塗り替える。圧倒的な壁を越えようとする挑戦者のような、挑むような色を含んだ笑みを。

 

 

 

「────こうするのさッ!」

 

ガシャガシャガシャ!! と全身を重火器で覆っていく。一つの固定砲台と化し、形容できない程の無数の砲撃とミサイルを巨体へと叩き込んだ。

 

が、巨体はダメージを押さえていた。それらに匹敵する程のワイヤーとケーブルが全てを撃ち落としたのだ。

 

 

「馬鹿が、こんなに弾幕を張って──────何になるッ!!」

 

その内の一本が、隙を狙い固定砲台の中心を穿った。だが手応えはない。血が流れた様子も見えない。

 

 

ハッと顔を上げたヴォルザードの両眼に、人影が映る。銀髪の青年が真上の宙へと跳躍していた。それほどの事をしてのける彼の才能には、大いに感心する。

 

 

(無数の重火器はフェイク、本命は弾幕の間に飛ばした自分自身………………しかし!)

 

「気付いてしまえば意味はない!撃ち落としてくれる!!」

 

空中にいるシルバーを狙い、ワイヤーとケーブルが殺到する。全方向からの迎撃、逃げ場なんてものはなかった。

 

最も、今のシルバーに逃げる気はないのだが。

宙に浮いたまま、彼は両腕を広げる。手を左右に向け、噛み締めるように口にした。

 

 

「シグナムブレード───」

 

両手に水が一気に収束する。空気中全ての水分を取り込み、質量を増していく。

 

それを掴み、手に纏わせて───全方位へと薙ぎ払う。

 

「クロス・エッジ!」

 

薄い青色に輝く刃が、抉り取ろうとしてきたワイヤーを切り裂く。何回か回転し、足場の少ないケーブルの上に着地したシルバーは休むことなく走り出す。

 

 

(馬鹿な………!鉄をも穿つ硬度だぞ!?易々と斬れる訳が────ッ!)

 

歯噛みしながら、ヴォルザードは不敵に笑う。既に光熱は破壊力を高めた、後は当てるだけで良い。しかし外せば装填には時間が掛かる。

 

故に確実に仕留める。まずはその厄介な動きを封じるのだ。

 

 

「ッ!」

 

ハッとした様子で右腕の掌を天に仰ぐ。白い光が腕の所々から伸び、一本の閃光の腕となる。激しい熱を放出する光が、腕となって水の壁を横に払った。

 

 

バジュ! ズパァッ!!

 

水は一気に沸騰し、そして激しい水蒸気となって辺りに吹き荒れる。水の壁を、目眩ましのように使ったのだろう。

 

小賢しいと思いながら、ケーブルを辺りに伸ばす。壁や床など周りの全てを斬りつけ、破壊の痕を増やしていく。

 

それでも反応がない事に苛立ちながらも、ヴォルザードは平静を保とうとする。手足の様に操ったケーブルが水蒸気の煙幕を払っている、いずれはその姿を見せるだろう。

 

 

 

ひゅッ! と軽い音が響く。

 

咄嗟の事に、ヴォルザードは反応出来ずに────飛来した水の刃が首を切った。

 

 

激しい鮮血が傷口から噴き出す。呆然としたヴォルザードが水の刃を掴もうとする中、視界の中にいたシルバーのを捉えた。

 

勝利を確信した顔つきだった。宙に浮いた状態で此方を見ており、すぐさま止めを差して来そうだった。それを見たヴォルザードの顔が歪む。

 

 

しかし、それは目に見えた敗北からのものではない。

 

 

 

 

「────首を切れば、殺せると思ったか?」

 

生々しい音が、ホール内に響いた。

 

空中にいたヴォルザードを、ケーブルが貫いたのだ。一本だけではない、変則的な動きで、何本も彼の胸と腹をぶち抜いていく。

 

ばっくりと千切れそうになった首を軽い手で持ち上げるヴォルザード。その傷口から黒い液体が泥のように溢れる。

 

「生憎ですが、【ケイオス・ブラッド】の力を嘗めて貰っては困りますね。完全に切断されてなければこんな傷、数秒で再生出来ますよ」

 

痣のようになった【ケイオス・ブラッド】が生物ように鼓動する。絶対的な力を支える神の物質の名は伊達ではない。一瞬にして傷が治った首を触りながら、ヴォルザードは串刺しになったシルバーに目を向ける。

 

 

「さぁ、顔をあげてくださいよ。最後に絶望する顔を、この私に目に焼き付かせて─────」

 

「あー、そりゃ無理くさいよなぁ」

 

未だ元気そうな声音に、余裕が消えるヴォルザード。その声が目の前にいる串刺しにした青年からではなく、後ろから声がしたからだった。

 

振り替える間もなく、後方に向かって腕を払う。しかし、後ろにいる人物は軽く避けたらしく虚しく空振るだかだった。

 

銀髪の青年が宙を舞う姿を目にする。重要なのはそこではない、その青年が無傷だということだ。

 

更なる疑問が、ヴォルザードを襲っていた。理解しようとも出来ない程の混乱が、平静を奪っていたのだ。

 

 

「どういう………ことだッ!?先程、全身を貫いたというのに!!」

 

「ハメたんだよ、よーく見てみろよ」

 

指を差してる方向を見て、ヴォルザードは目を見開く。

 

 

未だにケーブルに串刺しにされた青年の姿。だがその姿は靄のように揺らいでいた。そして周りに見えていた水蒸気が視界の隅に映る。

 

不可解な現象に────正解とも言える答えを理解する。

 

 

(………蜃気楼ッ!!)

 

「私が蒸発させた水で自らの蜃気楼を、フェイクを作ったのか──!」

 

「当ーたりっ。それじゃ、とっと終わらせて貰うぞ」

 

 

何を………と言う前に、その巨体が揺れた。胴体の部分を砲撃されたのだ、フェイクとして認識していた砲台に。

 

首の部分にいたヴォルザードも吹き飛ばされそうになるが、肉体は既に固定されてるためその心配はなかった。

 

そして煙の晴れた先をシルバー見据える。一瞬だけ照らされたそれが、勝利を納める為に重要なものだったのだ。

 

 

「やっぱりあったな、弱点が」

 

砲撃により剥がれた装甲の間から、透き通った透明な球体がケーブルに繋がれていた。

 

それは(コア)だ。【ケイオス・ブラッド】によって動かしている『ダーク・ムーン』の力の根元。黒の結晶の生えたそれを完全に破壊すれば、ヴォルザードも勝てなくなる。

 

 

それもあり、ヴォルザードの抵抗は全力によるものだった。

 

 

出し惜しみなどしない、巨腕を、ケーブルやワイヤーの触手を、光線を、問答無用で使用する。

 

そんな地獄を、シルバーは潜り抜ける。光線に髪の数本が焼かれようと、ケーブルが頬や体の至るところを掠ったとしても、彼は止まらない。

 

全ての攻撃を避けきったシルバーは休まない。剥き出しとなったコアを前に、そんな事をしている暇はないのだ。

 

そして右腕の先にある水刃を振るう。有るだけの力を込めて、叩き斬った。

 

 

ガッ─────キィン!!

 

水を纏った刃が、結晶へと変貌している球体を勢いよく叩く。ジジジ……!と水の表面が高速で動き、球体を切り裂こうとしている。

 

まだ切れない、水の刃はこれ以上進まない。そう判断したヴォルザードは再び光線の収束させる。

 

今までとは違う、洒落にならない程の熱量の閃光を。

 

 

「おおおおおおおおおおォォォォォあああああああああああああああああああああああァァァァァ!!!!」

 

 

 

今度こそ、ケーブルとワイヤーで身体を貫いて動きを押さえる。そのまま何十にも屈折させた超高温光線で心臓ごと胸を分断するのだ。

 

 

 

しかし、それよりもシルバーの決断は速かった。

食い込んだ右手の刃に、左手の刃を叩きつけたのだ。グン!と止まっていた刃が更に食い込み、ギギギギと刃をかたどる水分が加速していき、

 

 

「|Ω(オメガ)スラッシュ!!」

 

 

真ん中まで切り進んだ刃はそこで乖離し、四方向へと水の刃を展開した。外からではなく、内側から。脆い部分からの攻撃に、コアは何も反応することなく砕けて、消滅する。

 

 

 

 

 

 

「あ、あ…………あぁ」

 

 

消える、消えてしまう。世界を滅ぼす程の力が、理想を体現する力が。

 

 

巨体が一気に膨れ上がる。もう限界だったのだ、もう『ダーク・ムーン』の力を抑える事が出来ない。

 

ボゴ! バゴメゴボガッ!!

 

金属や鉄で形作られた肉体が凹んだり、脹れたりする。制御が利かなくなったエネルギーが暴走していたのだ。その殻を破り、周囲を飲み込もうとする。

 

 

 

【「─────あ゛あ゛あ゛ァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」】

 

そして、エネルギーの塊となった巨大な光の柱が天空に伸びる。辺り全てを吹き飛ばす程の爆発が、シルバーを吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

ズン…………!! と一際大きな震動が起きる。

 

雪泉とプラチナに迫るのは、結晶を操る男。黒影の孫であり、その祖父の遺したものを奪おうとする者。

 

そんな人物ですら、攻撃の手を止めた。彼にですらその振動は

 

 

その目の前の床から、強大な光の奔流が突き破ってきたのだ。一つだけではない、それに続いて何本もの光が溢れ出してくる。

 

それを目にした覇黒は怪訝そうに顔をしかめるが、すぐさまその顔色を変えた。

 

 

「ヴォルザード……まさか、やられたのか……?!」

 

その声は届くことはない。

ズズズズズ!!! と建物そのものが大きく揺れた。地下で起こっていた事が原因だろうが、そんな事を気にしてる余裕もない。

 

 

「プラチナさん!」

 

「………あぁ、ここはもう崩壊するだろう。早く避難するぞ」

 

二人はそう判断し、この施設からの脱出を行おうとする。しかし雪泉は歩みを止め、後ろの方を見た。

 

 

そこで俯いていた覇黒が顔を上げる。口を引き裂いて笑っていた、自暴自棄などではない。

 

高らかな笑い声を響かせながら、覇黒は目を向ける。鋭い目付きで、雪泉の姿を終始捉えていた。

 

「ハハハハハハハハハ!!そうか、そうか!認めよう!今回は俺の負け、俺たちの敗北だ!」

 

「………」

 

「だがまだ終わってはいない、次で決めるとしよう。お前との決着を!それまで楽しみに待ってるぞ!雪泉ィ!!」

 

それ以上、言葉は紡がれなかった。天井の破片が目の前に落下し、砂煙で視界が見えなくなる。

 

少し目を離した隙に、覇黒は影も形も無くなっていた。どうやって姿を消したのか分からない。だが、そんな事を考える暇もなかった。

 

不審に思ったプラチナに促され、雪泉は出口へと向かった。

 

 

 

 

崩落の影響が、地下にまで響いてきていた。巨大な瓦礫が幾つも落下してきて、轟音と砂塵を散らせる。

 

エネルギーの奔流を受け、全身を叩きつけたシルバーが起き上がる。水を纏った状態は既に解け、元の姿に戻っている。

 

骨が砕けた、呼吸が辛いところを察するにあばら骨もイカれてるだろう。動かない方が楽になれる筈だ。動いても楽になれる、激痛の後に何も感じなくなるが。

 

 

「……後は、自分が出るだけか」

 

見れば、自身以外誰もいなくなっていた。麗王たちも自力で脱出できるとは思えなかったが、この現実がそうだとしか表すことが出来ない。

 

しかし、今の自分には無理だろう。

元より先程の戦いの疲れと傷がある、そんな体で崩れる施設からの脱出は不可能に近い。

 

 

「───関係、あるか」

 

シルバーは血の塊を吐きながら、立ち上がる。動くだけで砕けたあばらに肺が圧迫されて、苦しいというのに。

 

 

「オレが死ぬのは………歳食ってからだ。やりたいこと色々してから、存分に死んでやるよ」

 

壁に寄り添いながら、彼は脱出するために歩き出す。立ち上がることも出来ないなら、例え這ってでも生き残って見せる。

 

まだやる事があるのだ。仲間たちに言ってない事実を告げる、最低でもそれをするまでは死ぬ気はない。だがそう言ったとしても、何も変わらない。このまま崩落に巻き込まれて死ぬという運命も簡単には変えられない。

 

 

 

 

「────そうさ、諦めが無いのはいいことだよ」

 

しかし、ここで運命は彼に味方した。

 

自身の言葉を肯定する声を聞いて、シルバーはハッとする。

聞いた事もない声だった、そもそもこんな声の人物が戦闘の際にいただろうか?

 

 

そう思うシルバーの視界に、一人の女性が映った。

 

艶のある腰より先まで伸びた長い黒髪。首に赤いスカーフを巻いた希に見ない美貌の持ち主である女性。

 

常人ならそれだけしか思えないが、シルバーはある事に気付いた。

 

 

(あれ?あの顔…………誰かに似てる?)

 

彼女の顔立ちに、何か感じるものがあったのだ。記憶の何処かで覚えがある。つい最近、見た気がしたのだが。

 

 

 

しかし、そんな考えを知らないと言った様子で女性は壁に寄り掛かったシルバーを一瞬にして担ぎ上げた。明らかに普通の女性が持つ力ではない、そもそも元忍のシルバーが気付けない時点で異常ことだったのだ。

 

 

「他の娘たちなら安心しなよ、全員助け出したからね。さっき助けた金髪の娘も」

 

「………誰、だ?お前……いや、貴方は……」

 

「今は楽にしときな、舌を噛むよ!」

 

名も分からない女性はシルバーを軽々と担ぎ上げ、軽い様子で跳躍した。凄まじい勢いで瓦礫の雨を回避し、地上へと移動していく。

 

そのまま激痛もあり、シルバーは完全に意識を失った。謎の女性に担がれたまま。

 

 

 

こうして、禍の王の脅威は無力化された。一度ならず、二度までも。




次回、この章の終わりとなります。
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