今回の章は焔紅蓮隊と秘立蛇女子学園編です!
八十三話 暗躍する混沌
とある山奥の中の洞窟。
忍たちからの追跡から逃れている焔紅蓮隊の拠点。そして自分たちの住む場所。
そこで紅蓮は料理を作っていた。この中で最もちゃんと作れるので、料理係りとなっている訳なのだが。
「あら、紅蓮?顔色が悪いわね、寝不足かしら?」
「………いや、最近悪い夢見てて。大丈夫だから、気にしないでいいよ」
紅蓮の顔に心配の声を掛けたのは、拠点で寛いでいる春花。普通ならバイトの時間なのだが、彼女は先日バイトをクビにされている。
他にも休暇で落ち着いてる二人がいる。趣味のネット小説のアイデアの為か寝っ転がってる(ツルペタ)の未来と、紅蓮の膝に頭を委ねている無感情系の日影。
暑苦しい副リーダーの焔とモヤシ愛好家である詠は外に出掛けている。色々とやることがあるらしいのでそんなに気にしないが。
そう考えてる中、他の二人も紅蓮の顔を覗き込んできた。春花の発言に気になったのだろうが、案の定心配してきた。
「紅蓮さん、本当に大丈夫なんか?なんか悩みがあるんなら相談に乗るで」
「見なくても分かるけど、アンタ凄い顔よ。後で薬でも買ってくるから休んでたら?」
「……二人とも、ありがと。勿論大丈夫だよ、起きてたら落ち着いてきたから」
嘘ではないので、二人にも何とか引き下がってもらった。
紅蓮の不調の理由は、最近見る夢が原因だった。
自分と同じ容姿の人物の過去、そして彼が死ぬ光景。全てが脳裏に焼き付いている。説明しろと言われたらハキハキと答えられるほど。
そんな考えも一瞬で吹き飛ぶことになる。何故なら、
「お前らぁーーーーーッ!!!」
焔、このチーム『焔紅蓮隊』の副リーダー。そんな彼女は謎のセンスのシャツを着ており、今現在大声を上げて洞窟内に入ってきたからだ。
さて、問題。こんな洞窟の中で大きな声で叫んだら、中にいる人たちはどうなってるでしょうか?
「うるさッ!?何なのよいきなり!?」
「耳が……!凄い響くッ………!!」
結論的に未来も耳を押さえ、焔を睨み付ける。ガタガタと震える紅蓮は手遅れだったらしく、ガンガン!と鼓膜の奥に響き渡る反響音に顔をしかめていた。
「あら、焔ちゃん。もう帰ってきたの?買い物は終わったの?」
「いや!途中で帰ってきた!お前たちに伝えたいことがあったからな!」
何時にもなくご機嫌そうな焔に紅蓮はおかしいなと思う。彼女、焔は勝負しないと文句を言うくらい不機嫌にはなる。そして、今は普通にないくらい嬉しそうな笑顔だ。
その理由は、彼女の口からアッサリと告げられた。
「実はこの焔紅蓮隊に入りたいって言う奴がいたんだ!」
「ふーん、なるほ……………ん?!」
言ってる途中で内容をよくよく理解して驚愕する。自分たちの名を知ってる、焔がバラしたという可能性は目に見えて少ないだろう。大方、裏社会で生きる者だろう。
……だが、忍たちから追われている抜け忍の集団に入りたがる此方側の人間なんているのだろうか?
「何と言うか抜け忍らしくてな。一人だとやってけないから入れって欲しいって言われたんだ」
「………焔ちゃん、他に何て言われたの?」
「“貴方たちみたいな優秀で格好いい忍の元で行動したいですが、駄目でしょうか?”って。そんな事言われたらさ~、否応なしに入れようと思って~」
「見事に乗せられてるじゃない!?」
そう未来は指摘するが、もう今更なので気にしない紅蓮とそもそもそんなに反応しない日影(感情が無いらしいので)。
そんな日影も疑問に思ったことがあるらしく、焔に聞いたみた。
「それで、焔さん。その入りたいのは何処にいるん?」
「フッフッフッ、既に入口で待ってるさ!」
「………連れてきたのか。抜け忍だよね俺たち、自覚ある?」
………最近たるんでるとか叱咤してた焔だが、修行のしすぎで頭のネジの方がたるんだかな? と紅蓮は辛辣な評価を下す。この男、以外と毒舌になってきてる次第だ。
焔がそう言うと同時に、足音が聞こえてくる。全員が不審そうに入口を見ると、
「────始めまして焔紅蓮隊の皆様」
突如として入口の方に立っていた青年は、丁寧な礼儀作法を紅蓮たちに披露した。まるで一介の執事のように整った態度に言葉遣い、そして容姿。
薄い金髪をポニーテールのように束ね上げ、黒い正装。
背中には錠付き鎖を何重にも固定した大剣が背負われている。武器に鎖を巻くという考えには思うところがあるが、装飾ではない。明らかにそれ以上価値があってのものだと思われる。
しかし、紅蓮たちが感じたのはある種の疑問だった。
初対面である筈の青年から懐かしい感じがするのだ。誰かと似ているという雰囲気をしんみりと感じる。
「私は
実情を知らぬ彼等が気付く事はないだろう。かつてユウヤたちの前に敵として現れた事のある、【禍の王】のメンバーだったという事に。
「ハッキリ言います。私はある組織のメンバーでしたが、訳合って抜け出しました。そこの所を考慮して仲間に入れて貰えませんでしょうか?」
さらっと自白し、ついでに爆弾発言もしてきた。
秘立蛇女子学園。
名高い悪忍養成機関として裏社会では成り立っているここは、女子生徒で構成されている為男は例外が無ければいることはない。
その例外の一人は、今訓練場にいた。その両手に漆黒のハルバードを収め、傀儡を相手にしている。
そして、隙を見せた傀儡にハルバードの刃の部分を振り下ろす。
「─────二十」
真っ二つに斬られた傀儡を前にして、キラはそう吐き捨てる。本来無敵であるキラ自身が手も出さずに訓練用の傀儡など屠れるのだが、今の彼は直接手を下したのだ。
得物である巨大なハルバードを両手で握り、キラは脚力を増強させて疾駆する。そして、刀で斬りかかる傀儡の胸元を槍の部分で貫く。
息をつく間もなく後ろから不意打ちをしようとする傀儡に向かって先程の傀儡ごと突き刺さし、声をあげた。
「『
キュイイイイイイ────ズドォンッ!!
槍の部分が光り輝いた直後、爆発が起こり傀儡二体をまとめて撃破する。
その途端、両手に掴んでいた持ち手が解離する。右手に長い槍、左手に戦斧という戦闘スタイルに移行したと思いきや、
二つの武器で目の前の傀儡を切り裂いていた。縦と横、様々な斬撃の嵐に、傀儡はそのまま倒れ付した。
「二十三、四…………………フゥ」
同化して元に戻ったハルバードを地面に突き刺し、キラは額を拭う。久しぶりに運動をしたな、と感慨深いものを感じる。
闇の異能という無敵の力を誇るキラが特訓をしているのには理由があった。
「………まさか俺様が体を動かす事になるとは。我が異能の弱体化も考えものだぞ」
異能の弱体化。
己の悪意に比例した強さを増した闇は、今では再生能力と武器を生み出す力しか使えなくなっていたのだ。
休憩しようと壁の近くに腰掛ける。三十分くらい休んだら数時間訓練を続けようと思っていると、
「───随分と様になってるのね。本格的に忍にでもなってみたらいいんじゃない?」
首を動かすと、一人の少女がキラを見下ろしていた。まぁ、キラは座ってるので立ってる少女が上なのは当然なのだが(決して身長が低いとは言ってはいけない)。
彼はすぐに少女の名を口に出した。
「お、その声は壁パ──────両備か」
「待て今なんて言おうとした」
殺気すら生温いどす黒い覇気を放つ両備の詰問にキラは物怖じせずに「いーや、何も」とシラを切る。その度胸は素直に称賛に値するものだ。
「そういや、お前の姉どうした?あの変態マゾの駄犬」
「アンタねぇ…………バカ犬の事言ってると本当に「両備ちゃあ~~~~~~ん!!」………来たわ」
フラグのようなテンポの速さ。その原因だとジト目で睨む両備にキラは無言で顔を反らす。予測してないから仕方ないだろうが、と言いたくなる。
大声をあげて此方に来てるのは両備の姉、両奈。選抜メンバーの中で最もキラが苦手と思う人物だった。
「あ、キラくん~♪そのおっきい武器で両奈ちゃんを斬ってみてぇ~♪」
「サマと呼べ、駄犬。俺様をクン付けと呼んでいいと誰が許した。あ゛?」
「きゃう~ん♥️言葉の責めもキモチイイ~!もっと両奈ちゃんを罵って~♪」
「………これが分からん」
普通に文句を言い返したり不快感を露にする筈なのだが、彼女の場合は例外。あらゆる罵倒と暴力は両奈にとっては快楽でしかない。
ペースがおかしくなる、だからこそキラは両奈が苦手だった。最も、性癖などが主の理由なのだが。
「………にしてもアンタ、本当に変わったわね」
「あ?」
感慨深そうな呟きをキラは聞き逃さなかった。口にしていたのは両備。どういう意味かと彼女に聞くことにする。
「おいおい。俺様、そんなに変わったか?」
「前は号外不遜の悪党気取りだったわ、今は大分マシね」
「両備ちゃんほどじゃないけど~、両奈ちゃんもほぼ同じこと思ってたよ?」
「……………そんなにヤバかった?」
仲間からの少し前の自分を評価を聞いて、額を押さえる。だが、客観的に見てみると彼女たちの意見も納得できる。
………めんどくさい黒歴史を作っちまったなぁ、と後悔するがもう遅い。
「そうそう、アンタに用事があったんだわ」
「ん?俺様にまだ何かあんの?」
「学園長と鈴音先生が伝えたいことがあるんだってさ。雅緋も呼んでるらしいから早く行きなさいよ」
え、それ早く言うべきじゃない? という発言を口にする前に飲み込み、言われた通り行くことにした。学園長は常時自分の部屋に入るらしいので、行き方には困らない。
その最中、雲に隠れ暗い空が視界に入る。キラはあからさまに顔をしかめた。こういう感じだと、あまり良くないことが起こる前兆だと本で読んだことがあったのだ。
(俺様を呼ぶことか…………面倒な事が起こりそうだな)
…………少なくともその予想は、間違いなく命中することだろう。
都市内の路地裏。
ごみ溜めのような場所で乱雑な叫びが響いていた。
そこにいたのは、十人にもなる男たち。その内の一人にはゴリラのような巨体をしている。
そして、囲まれるように二人の少女。プルプルと震える少女を後ろに、鋭い目付きで男たちを威嚇する短髪の少女の二人。
その中の一人、いかにも小物そうなスキンヘッドが高い声で吼えた。
「おい嬢ちゃんよぉ!こんな真似して良いと思ってんのか!?」
「何よ!謝るのはアンタたちの方じゃない!」
大人数の男たちに端に追いやれても尚、短髪の少女は強い声で怒鳴り返す。涙目になってる気弱な少女に言われるが、彼女はギロリと男たちを睨んだ視線を離そうとはしなかった。
何故こんな状況になっているのかというと、
「………もういいよ優ちゃん、私が謝るから………このままじゃ優ちゃんも」
「ただぶつかっただけじゃない!大袈裟にしてんのはコイツらでしょ!!」
そう、原因は些細な事だった。
ただ道端でぶつかった程度、しかし男たちは気弱な少女を数で追い詰めていた。優という少女が彼女を庇ってたのも、その現場を見ていて憤りを感じてたからだ。
そして、小悪党たちの怒りが限界に達したのだろう。鬱陶しそうな顔を、明らかな敵意に歪めた。
「このガキがッ!兄貴!あんのふざけたガキどもをやっちゃって────」
「ふぅん、『兄貴』ってのはコレのことかァ?」
第三者の声に男たちは振り返った直後、巨体が飛んできた。『兄貴』と呼ばれた者は、壁に叩きつけれ意識を失っている。無事な人間も、急いで巻き込まれた男らを助け出してた。
自身よりも大きな巨漢を吹き飛ばしたと思われる第三者は少女二人の前に立った。一般なら無視するであろう、もしくは他人事だったりする人の事情に、わざわざ入り込んでいく。
「人様が通ろうとしてんのにデケェ図体で道の邪魔しやがってよォ、ガンつけてきやがったから思わず殴っちまた。やっぱりいけねぇな、短気なのは」
白髪の男、アルトは気さくといった様子で路地の中央に居座っていた。コキコキと首を鳴らし、挑発的な言葉を口にする彼に、少女たちは気付いた。
アルトの立ち位置からして、男たちに邪魔されずにこの場からすぐに逃げられることに。
「───行きな、テメェらに構ってる程俺も暇じゃねぇ」
「え、あ………?何で……」
「いいから早く失せろ、俺の機嫌が変わらない内に」
彼はそこいらの悪党と一緒ではない。言うなれば災害、気ままに暴れ、そしてすぐに消えるようなもの。
誰を殺そうと、誰を助けようと、大した理由ではないのだ。
それを理解してか、活発的な少女が他の少女の手を引っ張って走っていく。
そしてすれ違う間際に、
「───ありがとう」
活発的な少女が残した言葉だった。
さっきまでとは違い弱々しく、だが心から向けた感謝が、そこにはあったのだ。
普段なら耳にも止めないものだが、今回だけはピクリと眉を動かし、少女たちの走り去った方を見詰めた。
しかし、そんな状況を目の前の男らは許すつもりはない。敵意の数々は、自分たちの獲物を逃がしてくれたアルトへの向けられる。
「テメェこの野郎!なぁに勝手に逃がしてくれてんだぁ!?」
「ただで済むと思ってんじゃねぇだろうな!あ゛ぁ!?」
口々から出るのは、威勢のいいだけの脅し文句。
生憎ながら、この場にいるのは一般人ではない。裏社会で生きる者だった。
最悪なのは、彼がその中でも最も深い部分に位置する人物だということ。先日、死にかけてた敵派閥の人間に止めを差してきたばかりなのだ。
しかし、唯一の救いというべきか。今回アルトは気分が少しだけマシだった。
「………フン、『
「なっ、何を言ってやがる!?」
残念な事に、彼等はまだ気付けてない。今の自分達の状況に。腹を空かした怪物の口の中にいる事が分からない草食動物のようなもの。寧ろ、それを理解できないなら不幸を通り越して自らの責任だ。
いや、不幸だとしたら────今この時、恐ろしい末路辿ることを決定付けた運命だろう。
「喜べ、雑魚ども。俺のサンドバッグになって生きてられるなんてレアだぞ?泣き叫んで喜べよォ」
アルトは嗜虐的な笑みを浮かべる。そしてタン!と地面を蹴り────、
「─────いやぁ、人助けをするのは意外と悪くないな。勉強になったもんだァ」
ご機嫌といった声音でアルトは路地裏を闊歩している。
しかし、そこは凄惨といった現場だった。アルトに打ちのめされ、両手両足をグチャグチャにへし折られた男たちが地面に倒れていたのだ。気絶し切れず、苦しそうに呻く者もいたが、アルトが顔を踏みつけ意識を奪う。
「いやー、ホントな。俺ァ短気な性分だが、全員殺さずに生かしたなんて成長したよなァ、誉めて欲しいくらいだぜ」
路地裏で起きてる凄惨な現場に、光に当たる者たちは反応しない。そのような術は施してある、この場に訪れたと同時に。
気付かれずに、誰も知らぬ内に問題は解決していたのだ。
そして、今すべきことと言えば、
「処理はテメェに任せるぜ。やっちまいな、『
ドバッ!! と。
地面から飛び出した何か、魚のような生き物が気絶した男たちの手足に噛みついた。小柄ながらも郡体で行動し、一人に四、五匹といった数で歯を突き立てる。
そして有無を言わず彼等を地面の中に引きずり込もうとする。普通、魚が地面を泳ぐなど有り得ないが、男たちの体も地面の中に沈んでいき、その姿を完全に消した。
一瞬にして消えた者たちの事などアルトは気にしない。どうなったのかは既に知り得てる、それ以上知る必要がないのだ。
『───ありがとう』
その言葉を聞いた途端、何故か胸に痛みが走った。肉体的なものではないと感じる。
だが、苦痛の正体を知ろうとは思わなかった。そんなもの、あったとしても意味はないのだから。
「つー訳でだ、俺らも表だって暴れるとすっかァ」
『
しかし、自分たちは違う。時代遅れの忍などに敗北はしない。
『
「………クソ」
そう舌打ちするユウヤは無機質な廊下をズカズカと歩いていた。明らかに不機嫌といった顔に、オドついた職員たちは目に見えて距離を取る。今のユウヤにはそうしてもらった方がマシなので、寧ろ意向を汲み取ってくれた職員たちには頭を下げて謝りたいくらいだった。
ここは『
そんな平静ではない彼を労る声がある。
「苛立ってるな、少しは落ち着いたらどうだ?」
「…………深呼吸で現状が変わるならすぐにもしてるさ」
前ポケットから顔を出した小人、ゼールスの気遣いにそう返す。平常になりきれないのには、明確な理由がある。
「飛鳥たちの次には、今度は雪泉たちも行方不明。おまけにシルバーの奴もだ」
そう、先日ユウヤが雪泉たちに上層部の忍務を伝えた後。目的であった研究施設が崩壊し、ユウヤたちが調査した時には誰もいなくなっていた。
そして、雪泉たちとシルバーも姿を消した。少し前の、飛鳥たちと同じように。今は捜索されているようだが、どうせ打ち切られるだろうと軽視する。
「にしても、上層部は相変わらず何もしないのか。学生が消えてるのだぞ?ちゃんとした対処はするべきだろう」
「無駄だ、正体も分からない敵組織に実戦慣れしてるとはいえ、学生を簡単にぶつける連中の事だ。役に立つ消耗品程度としか見てねぇよ、精々自分らの保身しか頭にないんだろ」
そして、今回の件で再確認した。『上層部』は忍を駒としか認識してない。
あるいは、組織と繋がっている者らによる工作か。自分たちの計画に障害が無いように、飛鳥たち忍学生を送らせたのか。
(どっちだろうが関係ない………『上層部』は『掃除』が必要みたいだしな)
考えを止め、一室の扉の前に立つ。指紋認証と暗証番号によって厳重に掛けられた電子ロックを解除し、部屋の中に入った。
机の上の資料の山に集中している部屋の主に、ユウヤは気さくに挨拶をする。
「来たぞ、“志藤”」
「あぁ、呼び出して悪いな。ユウヤ」
クルリ、と。椅子に腰掛けてた志藤は振り返ると同時にヒラヒラと手を振った。
志藤、『
何より、凶彗星の中でも頼れる研究者だった。過去に偽物だったとはいえ聖杯の解析をした事が原因で、特殊な異能を宿しているとか。
「…………それで?俺を呼び出したのは理由があんだろ?意味も無いのに収集するとは思えないからな」
「正解、君が知るべき事だからね。この情報はまだ神威たちには通してない」
あ?と訝しみながら、その事実に少しだけ驚く。正規メンバーNo.1であり、この組織の主格である神威にすら未だに通してない情報。
彼女を信頼してない訳ではない、信頼出来ない奴が他にいるからだ。最低でも二人は、予想できる。
(………No.2に、エンデュミレアのクソ野郎か)
想像したくも無い面を思い出してしまい、不機嫌度が増幅するユウヤ。思えば、彼女のせいで飛鳥たちを【聖杯事変】に巻き込んでしまった。
後者に関しては志藤の判断は間違ではないと思う。No.2 時崎零次はユウヤは勿論、古参である志藤すら会ったことがないのだ。
神威が信頼しているとはいえ、話した事がない相手に自分たちの命を預けたくもない。裏切りなどあったとしたら、疑ったとしても無理はないだろう。
「君が前に蛇女子で戦った…………紅蓮?だっけか。現場から採取した彼の血を調べてみたよ」
「…………どうだった?」
「有り得ない構造をしてた。流石に僕もビックリしたよ。本来のDNAを分解して、別のものへと書き換えてたんだから」
何だと……?とユウヤも目を見開く。紅蓮は作られた存在だと、当初カイルは口にしていた。だが、それは無から出来た訳ではない、必ずベースとなるものがあると思ってはいた。
「それと、修復したものと一致するDNAの持ち主を発見した」
スッと束に纏められた資料を投げられる。バシッ!と片手で取り、ページを捲って確認していく。
その中の一つ、付箋が張られた一枚が目に留まる。個人情報が色々とある事に細めた目で目の前の青年を見返すが、黙って見てろよお前 というように顔をしかめながら促す志藤。
写真に写っていたのは、紅蓮に似た人物。少しだけの違いしかなく、一瞬間違えなそうになった。
何とか認識出来たのは、写真の青年の雰囲気だった。紅蓮とは対称的に、不快そうに顔を歪めているその顔つきは明るかった紅蓮のものとは全く重ならない。
視線を横に向けると、赤で誇張された単語があった。単調に二文字。読み仮名があった為、口に出すのには困らなかった。
「………『
「月閃の選抜メンバーの善忍さ、特例で入った実力者だって」
返答を待たずに、志藤は資料の文をスラスラと読んでいく。
「ある忍務でソイツは同行していた熟練の忍と共に戦死してる。確か…………
それ以上、ユウヤは聞いていなかった。聞ける状態では無かった、というのが正しい。
志藤が告げた情報の数々を纏め上げる。足りない部分は自分の知識で補い、謎を解き明かそうと考えてたのだ。
忍を越える身体能力を持つ作られた人間、『ホムンクルス』。
何かの陰謀に動かされてた『ホムンクルス』の生み出した人物、カイル。
紅蓮とそっくりであるが既に故人である『灰瀬』という青年。
そして、死んだ人間と同じ姿をしていた【禍の王】のメンバー、
バサン!と資料を床に落としてしまう。それに反応出来ない、顔を青ざめさせたユウヤは頭痛のように響く鈍痛に、片手で顔を押さえた。
繋がった。無関係と決めつけていた点と点が、真実を露にしていく。
だが、想像を越えるくらいおぞましすぎた。闇に体を浸してきたユウヤですら、唖然としてしまい言葉を発することを忘れていた。
───死んだ人間とそっくりな姿をした存在。
反復する言葉が、嫌な予感をユウヤに与える。しかも本来なら有り得ない可能性も重なり、二つの脅威となって精神を傷つけてくる。
「ま、さか………」
胸ポケットにいるゼールスが沈黙を破る。分かったのだろう、ユウヤの言わんとしていることを。
あまりにも非道なやり方。知る者が知れば、激昂するであろう行為。
最も尊いであろう命というものを軽視し、嘲笑いながら踏みにじるという最低最悪な所業。
彼等の反応に、志藤は深く息を吐く。そして続け様に、最も恐ろしい真実を語った。
「『
……………ふぅ、初期から引っ張ってたホムンクルスの伏線を回収できました。
後、【禍の王】の二つの派閥、『
『
『混沌派閥』→アルト曰く、「聖杯を使って世界を破壊と混沌に変える」こと。
内部分裂で自滅しそうだな、この組織(しないけど)