閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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えー、今回の小説は文章が前よりは少ないです。諸事情です、諸事情ですので許してください(土下座)


八十四話 『混沌派閥』

紅蓮を筆頭に、尋問という名の質問攻めが始まった。尋問の原因である黄泉(ヘル)はキチンとした正座で次の言葉を待っている。

 

 

──礼儀正しく、実力も中々ある人格者。

断る理由すら見つからないくらいの長所を持つ人物、むしろ全員が賛成だった。ごく一部の点を除けば。

 

 

彼が少し前まで所属して、今追われている組織が【禍の王】という事に。

 

裏側の界隈で最も名の知られている無法者の集団、それがかつてまでの紅蓮や焔たちの考え。

 

正しくはある、だがそれはすぐに改められる事になる。

 

 

───三日前に起きたという、かつて自分たちがユウヤたちと共に倒した神造兵器『ダーク・ムーン』を使った事件。

 

それを解決したという月閃の忍と異能使いは行方を眩ましている。善忍も上層部も焦り始めたのか、全力の捜索を始めたが…………目ぼしい結果は無かったのが現実だ。

 

 

黄泉(ヘル)という青年を信用することは難しい。しかしそれは、彼が真実を語ってくれるかが問題だ。

 

 

「で、聞かせてもらうが………お前の組織【禍の王】は何故飛鳥たちを「そうじゃないです」……何?」

 

否定から入った発言に焔が眉をひそめるが、青年は物怖じしない。それどころか、更に言葉を続ける。

 

「だから、【禍の王】は全体の組織の呼称です。最近行動してきてるのが『四元属性(エレメント)』私が抜け出したのは『混沌派閥』というもので、組織内勢力の一つなんですよ」

 

「あんまり分からんわ………会社の中にある部署みたいなもんなんか?」

 

「少し惜しいですが、違います。利害の一致で協力はしてますが、後に互いを潰すことを決めてる敵同士ですので」

 

同じ組織なのに世知辛いなぁ、と紅蓮は思っているが口には出さない。あまり余計な事を言っては話が進まないのは承知の上だから。

 

 

「焔さん、貴方がさっき話した通りです。半蔵学院の忍学生………飛鳥さんたち、でしたか?彼女たちを襲撃したのも『混沌派閥』最強の存在、アルトというホムンクルスです」

 

その情報に、全員が反応する。それには無関心であった紅蓮も含まれていた。

 

 

ホムンクルス、それを聞いて脳裏に浮かぶのはある人物。

 

蛇女の最高権力者でもあった男、カイル。紅蓮というホムンクルスを造り出し、焔紅蓮隊をスポンサーとして活動していた経歴がある。

 

 

何より、自分たちを道具として使い、使えないと言って処分しようとしたのだ。忘れられる訳がない。

 

もしやカイルと繋がりがあるかもしれない………そう思ってはいたが。

 

「私たちの王───『混沌の王(カオス)』様がホムンクルスを製造し、手駒として動かしてます。

 

 

 

貴方たちを動かしていた“カイル”も、『王』に操られ切り捨てる為の人材の一人でした」

 

ガタ! と焔が驚愕を隠しきれずにいた。無理もない、繋がりがあるかも、どころではないのだから。

 

 

「カイル様が………操られた、か」

 

紅蓮はそう口にしながら、右手を強く握り締める。確かに、紅蓮は大切な仲間である焔たちを傷つけたカイルを許せないだろう。

 

だからといって、自身の思いすら踏みにじられてもいいのか。そう思う紅蓮の心が熱く燃え始めた。

 

倒すべき理由が出来た、そう思考しているとチリチリと前髪が熱を帯びる。他の皆も同じ感覚なのかもしれない。

 

しかしそれ以上、彼を問い詰める事はなかった。カン……!と地面の石ころを蹴ったような音がする。

 

 

 

 

「はぁ………はぁ………」

 

入口からゆっくりと歩いてきたのは、息切れをした詠だった。本来、忍である彼女が走っただけで疲れるとは思えない。

 

本気で急いだ結果なのか、と推測する紅蓮は疑問に思ったことがあった。

 

「あれ?詠、今日バイトあったんじゃ……」

 

「バイトは急いで切り上げてきましたわ!重要なことがありましたので………あら?そちらの方は?」

 

「へ、黄泉(ヘル)です。入隊希望の者で……」

 

詠に対して戸惑ったような黄泉。先程とは違う態度に紅蓮たちは疑問を感じるが、それよりも気になることがある。

 

「詠、何かあったの?妙に慌ててたけど」

 

「ハッ、そうでした!皆さん大変です!」

 

慌てた言葉に、嫌な予感が胸を過る。緊張と焦燥が入り雑じり、一体どう思っていたのかすらも分からなくなった。

 

今までの経験と勘というものが、それ以降の言葉に警報を鳴らしている。

 

 

「蛇女子が──────!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詠が紅蓮たちの所へ着いてから一時間前。

 

 

「──集まってくれたようだな、雅緋。そして常闇 綺羅殿」

 

蛇女子学園、学園長室。言い方で分かるだろうが、俗に言う校長室のようなものである。この部屋にいるのは、部屋の主である学園長、呼び出されたキラと雅緋、そして教師である鈴音の四人だけだった。

 

「はい、父上………いえ、学園長」

 

「……フルネームは止めて欲しいな。どうせ名字は『(こちら)側』では必要ないし」

 

自身の発言に注意し訂正する雅緋に、キラは何時ものような高慢な態度は少しばかり鳴りを潜めている。

 

自分が彼よりも上の立場、悪忍を動かす議会に所属する人間なのだ。

 

異色とも言われ、他の議員たちからは悪態を付かれるがその場合は力で黙らせている。……少し前も蛇女子に面倒な真似をした老害を事故死に見せ掛けて“消した”こともあった。

 

昔の自分なら偉そうなのは変わらなかったが、生憎学園長は歳上なので、素直に従っている。元とはいえ最強も成長はするのだ。

 

そんな事もあり、話し合いはあっさりと始まった。しかし緊張と重苦しい空気は消えることはなく、充満している。

 

 

「今回、君たちに集まってもらったのは話があるからだ……………蛇女子に、全ての悪忍に関わる重要な事だ」

 

「それは………どういう事ですか?」

 

雅緋の詰問に学園長は難しい顔をする。伝えるべきか迷っているのかもしれない。だが、すぐに意を決したように二人の目を見詰める。

 

そして、その重苦しい口を開く。その内容は────、

 

 

 

 

「善忍と悪忍が、一定期間協定を組む事になった」

 

あまりにも、衝撃的な情報にしては簡潔すぎるものだった。

 

 

「…………は?」

 

「………」

 

二人は、長い沈黙と共に反応を見せた。

雅緋は呆然とした様子で、ようやく理解できた内容に、疑問しか感じられない。対して、キラは眉をひそめ、顔をしかめる。どういう意味か分かっているが、何故そうなったのかは分からないといった風に。

 

だが予想出来るものならある。たった一つだけだが。

 

 

「【禍の王】、例のテロリストが原因か」

 

キラの呟きに学園長は無言で頷いた。その組織の話は最近よく耳にしている。

 

先日もここに訪れたユウヤから、彼等の所業を伝えられた。流石の忍たちも感化できないらしく、ようやく本腰に乗り出したのだろう。

 

(───しかし遅すぎねぇか?行方不明になってる奴が戦ってたのに、この体たらく………どうやらアイツの考えは的を射てるようだな)

 

──忍学生を駒として扱っている。

最初そう聞いた時は鼻で笑い切り捨てそうだったが、納得いく伏もあった。

 

普通とは違う強さでありながら、別に無くなっても構わない消耗品。それが忍の上層部の考え方だろう。

 

「ですが、何故それを悪忍は認めたのですか?今まで善忍とは敵同士だったのに、簡単に協力できるとは……」

 

「………押し切られた、というのが事実だ。議員たちもそれに賛成だったからな」

 

「あの老害どもが………ッ!余計な真似すんなっつったのに、まだ分かってねぇのか!」

 

苛立たしく声を荒げるキラも雅緋に嗜まれ、気を落ち着かせる。それもその筈、居もしない人間を責め立ててる暇はない。他にやるべき事がまだあるのだ。

 

「───そうだったな。今後重要なのは老害どもじゃねぇ。時間の無駄は省きべき、そうだろ?」

 

「あぁ………実力のある忍を収集しろとの伝令も出た。内容は、『【禍の王】討伐及び特別捜索』とのことらしい」

 

「捜索?…………もしや飛鳥たちの事か?」

 

「んな訳ねぇだろ。捜索だってもうしてないんだぜ?それなのに今更って、どうせ嘘だろ。何か隠してるんじゃねぇのか上の無能どもは」

 

どうせ言ってもいいだろという風に悪口の嵐。彼がどれだけ『議会』とやらを嫌っているのかが理解できる。

 

そして更に話が続こうとする中、

 

 

 

 

「失礼します!」

 

バン!! と叩きつけるように扉が開けられる。慌てた様子で入ってきた男は、鈴音と同じ教師だった。しかし、彼は非番で何もすることがなかった筈なのだが………。

 

その理由は告げられないまま、教師の口から次の言葉が紡がれた。

 

「───校舎内で生徒たちによる暴動発生!それと同時に侵入者が現れました!」

 

 

「なんだと!?」

 

声をあげて驚いたのはキラたちの話を静かに聞いていた鈴音の方だった。無理もない、生徒たちが暴動する訳がないと知っているのだから。

 

しかし、現実は現実。違うと否定しようが変わらない、何より優先すべきものもある。

 

顔を強張らせる雅緋と学園長を他所に、キラも思考に明け暮れる。

 

──今時の襲撃、半蔵と月閃に接触したと思われる【禍の王(テロリストども)】の仕業か、と。

 

 

「暴動をしている生徒は同じ生徒たちを攻撃しながら暴れてます!侵入者の方は選抜補欠の総司が食い止めてますが───」

 

男性が言葉を捲し立てる途中で、巨大な轟音が響いた。大量の火薬を使ったと思われる爆発音と何かを吹き飛ばしたような轟音の二つが、ピタリといったタイミングで発生したのだ。

 

 

「───雅緋!」

 

片手にハルバードを顕現させ、雅緋に呼び掛ける。彼女も振り返った時には刀を手にしている。

 

何をやるべきか分かっているだろうが、敢えてキラは叫んだ。

 

「お前は東校舎の生徒たちの避難を!俺様は西校舎に行く!忌夢たちに会ったらこの事を伝えろ!侵入者を潰すのは非戦闘員を脱出させてからだ!」

 

「あぁ、分かった!………キラ!」

 

学園長室から出た直後、雅緋の声に顔を向ける。此方に顔を向けずに背を向けていた。

 

そのまま、彼女は後ろにいるキラに告げた。

 

「気を付けろよ」

 

「………互いに、だろ?」

 

軽い言葉の応酬と共に、二人は反対の方へと走っていく。この学校と生徒たちを守る、その為の戦いに彼等は赴くことになる。

 

 

 

 

 

 

破壊するような轟音の正体は、校門が破壊されたからだ。何メートルも先に散らばった瓦礫──校門の残骸を前に、様子を見に来た忍学生たちが咄嗟に武器を構える。

 

 

校門のあった場所に漂う砂煙にユラリと人影が浮かび上がったのだ。

 

「よぉーし、ぶっ壊したぁーーぞぉー」

 

その内の一人は───ズタ袋を顔に被った大男。手首に嵌められた腕輪には巨大な鉄球付きの鎖がジャラリと取り付けられている。

 

 

他の二人も大男の後ろから姿を見せる。

 

一人は、両端の伸びきったピンク色を帯びた白い髪を指で弄くり、両耳に金のリングを取り付けた。落ち着いた雰囲気の女性。

 

一人は、緑色をした短髪の青年。見た目から、歳は高校生くらい。羽毛製のダウンジャケットを羽織り、近くの瓦礫を足蹴りにしている。

 

「対象を確認───危険度中、相手にしては不足しかないわ。けど、群られると厄介よ。どうする?」

 

両目に手を添え、遠くを見るような仕草で学生たちを睥睨した女性が他の二人に声をかける。「そうだなぁ」とボヤッとした様子で緑髪の青年が脚を上げ、

 

 

「─────潰すしかねぇだろ」

 

グシャ! と踏み抜くような音と共に学生たちが飛び掛かる。数は彼等の倍以上、しかも忍でもあるのだ。

 

圧倒的な差。

だが、勘違いしてはならない。

 

敗者となるのが忍学生たち、勝者の方が謎の襲撃者たちだということに。

 

 

 

 

 

「────随分と派手に暴れてるようだね、別にいいけど」

 

 

戦場と化した蛇女を穏和な表情で青年は見下ろしていた。しかしその顔には黒に近い藍色の刺青(いれずみ)が刻まれており、穏和さを一気にかき消している。

 

そんな青年の視線の先では、一部の忍学生たちが他の忍学生たちに襲いかかっていた。必死に止める声にも反応せずに、無言で武器を振るっている。

 

 

「目的を果たせるなら、何でもして良いらしいからね。こんな機会には感謝しないといけない、そして有効活用するべきだ」

 

悲惨とも、地獄とも言える惨状に青年は独り言を語り続ける。何も映さない、深淵のように深い闇の眼が捉えたとしても、関心すら向かない。

 

 

そもそも、彼にとっては別の事にしか興味がない。こんな作戦よりも、優先すべき事象が。

 

「さて、君たちは僕の期待通りに動けるかな?」

 

ピキピキ、と指を鳴らしながら彼は笑う。果たして何に関してなのかは分からない、それを知るのは本人のみ。

 

最も、それがロクでもない事なのは誰でも読めることだろう。

 

 

 

 

 

 

光の当たらぬ空間────この世界の深淵とも言える場所がそこにはあった。

 

 

その空間の大半を支配するのは残骸の山、いやそう見えるが全く違う。コンピューターなどの無数の電子機械類。生命的な胎動を繰り返し行う、眼球の付いた赤黒い触手がズルズルと機器を取り込んでいく。

 

 

背中や足元からそれらを生やしたと思われる人物は──かつては全身に鎧とも言える重装スーツを着ていたが、今は顔の部分だけ解除していた。

 

 

『混沌の王』、それが男の正体だった。

しかし、この場は真っ暗な空間であるために影に顔は隠されている。

 

 

低いテノールボイスで『王』は何事かを呟く。それと同時にコンピューターの一部を触手が掴みあげ、ゾゾゾゾと細部に至るまで支配圏を伸ばす。そして君の悪い不協和音が鳴り終えた途端、消されていた電源を強制的に起動させる。

 

 

 

「ホムンクルスによる構成員された遊撃隊、『惨禍の剣(カラミティ・ソード)』───アルト含む上位者ら」

 

彼の言葉はこの場に向けられたものではない。こことは違う場所で、破壊と混沌のままに暴れまわっている“手駒”たちに伝える行為だ。

 

 

 

「『彼』を連れてこい、それさえあれば他は必要ない。殺すなり自由に使うなり、好きにすればいい」

 

それだけ連絡して、通信を終わらせる。

ブチッ! とコンピューターへの干渉を止め、すぐに光を消失させる機器が残骸の中に埋もれていく。

 

 

 

「─────面倒だ」

 

それだけ呟き、顔を装甲で覆う『混沌の王』。接続された触手を操り、何かの作業へと没頭し始める。

 

後ろで、ガラ………と小さな瓦礫が崩れた。ゆっくりと四足歩行の妖魔が、『王』の隙を狙っていたのだ。

 

 

物音を立てずに、静かに息を殺している。しかし『王』は反応しない。獲物に飛び掛かろうとする肉食動物のように真剣に────走り出した。

 

 

───『アレ』には勝てない、なら逃げるしかない。

 

そう畏怖し、『混沌の王』のいる残骸の山とは、反対の方へと。忍たちの仇敵たる妖魔は生物としての本能に従った。

 

けれど、『王』は反応しない。

 

 

 

 

だが、その妖魔が逃げる事も不可能な事だった。

 

残骸の隙間から何かが飛び出す。逃走中の妖魔はそれに気付けず、四肢と胴体を貫かれる。

 

 

「ギ、ガァッ!?」

 

血と共に呻きながら妖魔は転げ落ちた。それだけで触手たちは手を緩めない。動けなくなった妖魔に追撃と言わんばかりに、雨の如くに降り注ぐ槍が妖魔の肉体を抉っていく。

 

 

「面倒だ」

 

大した事も無いように、『混沌の王』は顔色も変えずに。顔はマスクで覆われてるので見えないのだが、億劫そうに吐かれた溜め息でそれが確認できた。

 

直後に、様々な部位を持った触手たちが妖魔へと殺到する。

 

 

全身を引き裂かれ、激痛に苦しむ妖魔の絶叫が闇の空間に木霊する。しかし数秒後、肉を潰すような生々しい音を皮切りに声は途切れる。

 

やはり『王』は反応しない。首を向けて確認することすらしなかった。

 

 

無数の残骸が蓄積した世界で、『混沌の王』は作業に没頭する。不気味な静寂と鼻を押さえたくなる血の匂いを残して。

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