「………え?」
逃げろ、そう言ったユウヤを飛鳥は呆然と見つめていた。見つめられているユウヤは目の前で残りの忍の腕を貪り食っていた。
「分かってる筈だ、あの化け物には生半可な攻撃は通用しねぇ」
「それなら、天星くんもっ!」
「…………ハッキリと分かりやすく言ってやる」
止めようする飛鳥の手を払いのけ、冷たい目で睨み付けた。そして、冷酷な言葉を突きつける。
「邪魔なんだよ」
「!?」
「テメェらはあの化け物相手じゃ力不足、足手まといだ。俺も足手まといを守って戦うのは御免だ」
足手まとい、その言葉に飛鳥は反論をしようとするが、出来なかった。現に自分はあの怪物に恐怖していた。勝てないとまで思ったのだ、足手まといと呼ばれても無理もない。
「だから、さっさと逃げろ」
──何故だ?
ユウヤは疑問だった。
──何故なんだ?
ユウヤは理解できなかった。
──何故、逃げろと言ったんだ?
先程、自分が煙幕を出すから逃げろとそう言ったのを覚えている。
まるで、自分が囮になると言っているみたいだった。
それが、有り得なかった。
今の自分は無情として生きようとした。
表の世界で家族を失い、師匠と共に裏の世界を生きた。
その師匠も裏の世界で死に絶えた。
そして、裏の世界と表の世界で生きて、彼は理解した。
────誰かの為に、この力を使うべきではない。
嗚呼、そういうことだ。
彼女達に逃げろと言ったのは依頼の為だろう。彼女達が死ねば、自分の依頼は失敗するのだから。
そうだ、きっとそうなのだ、そうに違いない。
「………ないよ」
「あぁ?」
俯いていた飛鳥がふと呟いた。上手く聞き取れていなかったユウヤは
「置いて逃げるなんて、できないよ」
飛鳥は真剣な目でユウヤを見つめながら答えた。ユウヤは馬鹿馬鹿しいと思い、飛鳥を睨み付け─────
『一人では寂しいだろ?』
脳裏に───あの人が浮かんだ。ユウヤは理解できずにいたが、彼女の目を見て、理解ができた。
───同じだ、あの人の目と。
自分がかつて憧れた存在と飛鳥が同じように見えてしまった。
「お前は、お前達は逃げる気はないのか?」
ユウヤは飛鳥だけではなく、今まで黙っていた四人に聞いた。彼女達も、もしかすると怖いのではないか、そう思いながら。
「えぇ、確かに私は恐怖してしまいました。ですが、ここで退くわけにはいきません」
「アタイも逃げないぜ、そもそもまだ負けてないからな」
「あの化け物は強いだが、雲雀を怖がらせた。だから俺が倒す……!」
「柳生ちゃん………えっと、雲雀も頑張るよ!」
当然のこと、四人の覚悟は決まっていた。諦める気は無さそうだ。
「話は、終わったかなァ?」
振り返ると、グラは腕を組んで立ちながら、こちらを見ていた。腹が減ったと言うでもなく、不満そうではなく、ただ静かな態度で待っていた。
「悪かったな、こっちも話がついてな」
「アァ、何でだろうなァ。自然と待ってたからなァ、腹減ってんのになァ?けどよォ、どーでもいいぜェ」
グラは胴体にある口を開き、舌を垂らしながら、笑った。
「サァ、俺の腹を、気持ちを、満タシテクレヨォ!!」
グラがそう叫ぶと同時に、変化が起こった。グラの体が一回りでかくなり、クルッとしてい丸い目もつり上がり、完全な化け物へと化した。そして、その巨大な図体からは予測できない速さの突進を繰り出した。
「くらいなさいっ!」
「隙ありだ!」
突進を避けた斑鳩はグラの右腕を切り刻み、葛城は左腕に渾身の蹴りを撃ち込み、吹き飛ばした。
「ナメルナァッ!『
両腕を失ったグラの戦意は変わらず、紫色のオーラが溢れだしていた。そして、溢れだしたオーラが実体化し、三体の蛇のようなモノに変わった。その蛇たちは、口を開き、斑鳩と葛城に襲い掛かった。
バンッ、バンッ、バンッ!
その直後、柳生は持っていた番傘の仕込み銃を使い、三体の蛇を撃ち抜いた。全弾全て直撃し、体を抉るが、すぐさま再生する。そして、標的を柳生へと変えた。
「柳生ちゃん!右から来るよっ!」
「あぁっ!」
全方向から迫り来る蛇を撃ち続ける柳生を雲雀がサポートを行う。どんな方向からも攻めにかかるが、攻撃を与えることすら出来なかった。そして、今、グラの意識が集中していた。
「今だよ、行こうよ。天星くん!」
「…………合わせてやる、着いてこい!」
飛鳥は懐から武器である脇差を構え、ユウヤは自身の腕を黒い鉄の装甲を纏い、グラに向かっていった。
「グゥッ、フザケルナァ!『
二人が迫ってくることに気付いたグラの尻尾が鋭く変化し、破壊力のある槍へと変貌した。その尻尾を勢いよく振りかざし、飛鳥へと叩きつけた。
「くぅっ!」
「オレガァ………マケルノハ!ア、アリエナイィィィ!!」
飛鳥は自身の持つ脇差で何十回も防いでみせた。ギリギリの体力で何十回も防いだのは流石だろう。だが、隙をついたグラが尻尾を打ち上げ、飛鳥の持つ脇差の長い方が弾き飛ばされた。
「あっ!」
「死ネェェェェェ!!」
グラは口を三日月のように裂け、尻尾の鋭い先を向け、突きを放った。空間を切り裂き、どんなモノをも破壊する一撃、間違いなく致命傷は免れられないだろう。
「フンッ!」
その一撃は飛鳥には直撃しなかった。ユウヤによる鋼鉄の如くの腕をクロスにさせたことにより、破壊の一撃は防がれていた。ユウヤは弾くと飛ばされた脇差を手に取り、走り出した。
「飛鳥!任せろ!」
「うん、お願い!」
ユウヤは飛鳥にそう声をかけると、飛鳥は自身の持っていた短い脇差をユウヤに投げ飛ばした。ユウヤはそれを受け取ると、二本を重ね、電気を帯びさせた。そして、走り出した飛鳥の手に渡した。
「はぁぁぁっ!」
「うぉぉぉっ!」
飛鳥は長い脇差を使い、ユウヤは短い脇差を使い、グラを中心に回り始めた。そして、何回も斬りつけた。電気を纏う連撃はグラの肉体に多くの傷をつけた。
「グッ、ガキャァァァァ!!」
鼓膜を引き裂くような絶叫にも飛鳥とユウヤは止まらず、ユウヤは飛鳥に脇差を渡し、自身に電気を纏わせた。飛鳥は脇差を受け取り、構えをとった。
直後、二人はグラに向かい走り出した。今さらだが、二人は互いの持つ技を掛け合わせて、グラに攻撃を与えた。それは合体技とも言えるモノである。
「「異能・秘伝忍法『
二人の一撃が同時に、グラの肉体を斬り、破壊した。グラの肉体は崩壊し、上半身だけが残った。
「───アぁ、負けたノカ…………悪くナイナ」
人ではない生物だからか、グラは僅かに生きていた。もう、長くはないだろうが。
「少し聞かせろ、お前がケイオスなら………本当なのか?あの伝承は……」
「あァ、実在しているゾ。神の奇跡、『聖杯』ハ」
『聖杯』。その言葉にユウヤは目を見開き、飛鳥達は首を傾ける。グラは雲が移動し、晴れた空を見て嬉しそうに呟いた。
「ようやくダ、俺は満たされタ。あの世で、待つゼェ─────エレン、ツァーリ」
体が一気に崩れ、灰のようにサラサラと散っていった。そして、残ったのはボロボロな六人と崩れ果てた旧校舎だった。
「さて、皆さん。霧夜先生に詳しく説明をしなければ、行けません。戻りますよ」
斑鳩の言葉に頷き、ほぼ全員が歩いていった。その場に残っていたユウヤはグラのいた場所を見詰めていた。
「……どうしたの、天星くん?」
訂正しよう、残っていたのはユウヤだけではなく、飛鳥もだった。飛鳥は心配そうにユウヤに声をかけるが、ユウヤは静かに歩き始めた。
「…………少し考えてた」
「まって!」
声をあげてユウヤの動きを止めた飛鳥だったが、振り向いたユウヤになんだ、という視線を向けられ、戸惑ってしまったが、決意して言うことにした。
「これから…………下の名前で呼んで言いかな?」
恥ずかしそうに言う飛鳥に、ユウヤは呆然とするが、苦笑いをしながら、頭を掻いた。そして、両手をポケットに入れて体ごと飛鳥の方に向き直った。
「まぁ、仲間だからな。別にいいぜ」
傭兵として生きてきた昔の自分なら絶対に言わないような言葉を言ったことに内心で驚いていたが、それでも良かった。
悪くない気分だったのだから。
飛鳥はユウヤの答えを聞くと嬉しそうな笑顔でユウヤの横を歩きだした。
「それじゃあ、明日一緒にじっちゃんの太巻きを食べようよ!」
「………えぇ、俺肉が好きなんだが………」
「アハハ、あと少しだぁ、楽しみだねぇ」
次、日常編とか書こうかな…………。
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