閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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えー、皆様。私が気付いてないのもありましたが、八十五話を二つも投稿してました。申し訳ありませんでした!( ノ;_ _)ノ


八十五話 破壊をもたらす人形たち

「ったく………なんでこんな事に」

 

廊下を進みながら、忌夢は大変そうに呟いた。そもそも、少し前まで彼女が何をしてたのか振り替える必要がある。

 

 

事は単純。雅緋とキラの二人が学園長からの連絡を終えるまで、選抜の皆は自室待機だったのだ。当初は雅緋と二人で行動するのは納得いかないと暴れかけたが、流石に自粛した。

 

 

部屋で待っていると大きな震動と爆音が響き渡り、慌てて外に出た。近くにいた生徒から何が起きたのか、詳しくだが聞けた事が幸いだった。

 

 

────複数の侵入者による襲撃。

 

それを聞いた忌夢は、同じく部屋から飛び出してきた紫たちに、生徒の避難を促すように指示した。

 

この状況で勝手な行動もない。早く動かなければ助けられる命も助けられないから。

 

そう思い、忌夢は逃げ遅れた生徒を探すために歩み出した。

だが、

 

 

「───はいはぁーい、そこの嬢ちゃん!ちょいと待たんかーい!」

 

明るい声が曲がり角の奥から聞こえる。前に踏み込もうとした脚を強引に床に押し付け、何とかスピードを緩める。

 

 

その方向を見ると、一人の男が道の真ん中に立っていた。スタスタと何歩か進み、忌夢との距離を近づけようとする。

 

ジリ……、と後退する忌夢。そんな彼女の顔を見た男はニヤニヤと不気味な笑みを浮かべると、少し距離を置いた。

 

この場の空気の流れそのものを掴んでるような感覚。それをかき消すように、忌夢はその男に怒鳴りつけた。

 

 

「誰だお前は!」

 

「誰?ワイを誰と言うたか!?ハッハッハァー!まさかワイの名を知らんヤツが居るとは驚きやなぁ。

 

 

 

───ハッ!初対面やし当然かーっ!すまんすまん」

 

何だコイツ……、と忌夢は思う。妙に明るすぎるテンション、それに関しては構わないのだが、饒舌さもあるせいか───ウザく感じてしまうのだ。

 

 

具体的には────懐かしい(嫌な)奴の事を思い出してしまうから。

 

 

観察してみれば、その男は現代的なデザインの服装をしていた。彼はガンマンが使ってるようなグローブを嵌めた両腕を広げる。そして寛大と言わんばかりに笑いかけながら、自身の身体を両腕で抱き締める。

 

そんな彼は、自分がどう評価されているのを知ってか知らずか、やけに明るく自己紹介をして見せた。

 

「ワイは凱忝(がいてん)、『混沌派閥』所属のホムンクルスや!よろしゅう頼むでー!」

 

話にならない、忌夢はそう判断する。両手に握り締めた如意棒の掴み方を変え、右から左へと叩きつけるように攻撃する。首元に衝撃を当て、意識を奪う為に。

 

対する凱添も笑顔を消さずに拳を振り上げる。絶対の自信があるのか、それ以上のことをしようとはしない。

 

 

しかし無駄だ、スピードからして自分の攻撃が先に届く。

 

そう思っていたのだが、

 

 

ズド!! と。

 

手袋を纏った拳が、忌夢の頬に直撃していた。先に放った筈の忌夢の攻撃より先に。

 

 

「ば………あ……!?」

 

鈍痛に顔を歪めながら、一、二歩後退ってしまう。攻撃は速かった。相手のスピードからしても先に自分の一撃が当たる筈だった。

なのに、

 

何故か、如意棒より先に拳が飛んできたのだ。理論的に考えても、おかしな点しかない。

 

 

一対一(サシ)なら負けへんのや、ワイはなぁ」

 

ニヤニヤと笑う凱添の声が届く。咄嗟に忌夢は言葉の代わりに鋭い突きを放つ。それを見てから、相手も遅れて攻撃に移るが、速いのは忌夢の方だ。

 

 

しかし、やはり結論は変わらない。

 

何時放ったのか分からない腕が如意棒を避けるように忌夢の腹にめり込んでいた。また攻撃が意味を為さない。

 

 

「クソ………今のは、忍術か!?」

 

「ハッハー!答えを聞くなら自分で当ててみんかい!─────しゃあない答えたるわ!おめでとさん、半分正解半分不正解だぜぃ?」

 

隙だらけの部位をぶち抜こうとするが、それより先に蹴りが肩に叩きつけられる。

 

「ホムンクルスってのはな、忍以上のスペックを求められたもんなのや。その為には普通の忍とは格の違いを見せなきゃならんし」

 

タン、タン、と軽くリズムを取るように跳ねる凱添。

 

 

「『妖忍魔法(マギカ)』、王様はそー言うとったな。何か意図があるのかもしれんけど、どうでもええよな!」

 

「マギ、カ………だって?」

 

「ラテン語で『魔法』って意味らしいけどなぁ…………王サマもおもろいセンスしとると思うんよ。忍術を越えた力を『魔法(マギカ)』なんて呼ぶんやしな!」

 

ピタリと動き止め、彼は笑う。それはそれは、嬉しそうに。

 

「楽しいなぁ、楽しいなぁ…………こんな勝負は本当に楽しいで。ほな付き合ってもらうで!嬢ちゃん!!」

 

 

ダメージを負っている忌夢の前で、無傷の彼は両手を広げる。彼は攻撃する素振りは見えない。まるでどんな事をも受け入れるような寛容さを見せつけるように。

 

 

 

 

 

 

 

オドオドと周りを見渡しながら、紫は廊下を歩いていた。何処から敵が現れるか分からないので、周囲に警戒を向けながら。

 

 

(うぅ………お気に入りのゲームや小説を見たかったんだけどなぁ)

 

そんな呑気な事を考える紫。普通ならこんな事など気にせずに趣味に没頭していたが、キラに『貴様………ニートかよ』とか言われたら精神的に終わる気がする。例え本物の引きこもりだろうと、男子の口からそう言われるとダメージは相当なのだ。

 

 

なので、何とか外に出てこうして動いている。まずは、やるべきことを果たさなければならない。

 

 

「逃げ遅れた人………何処にいるか分からないけど、探さないと………」

 

『忠告。事情も知らずに行動するのは得策とは言えない、大人しくしておく事を推奨する』

 

 

落ち着いたような、無機質な声が掛けられる。声のしたのは前方。暗い廊下に浮かぶ人型の影が、鮮明に見えてくる。

 

ヘルメットのような白のマスクを被った謎の人物。機械的な言葉の使い方をしているが、ズボンにポケットに両手を突っ込んだまま立ち尽くしているその姿は人間味のある仕草だった。

 

その彼の周りには少女たちが倒れていた。僅かな匂いから後輩たちだと分かる。しかし、懸念すべきことがあった。

 

(匂いが分からない………この人、本当に人間?)

 

警戒しないといけないのは、目の前の男。紫は人よりも嗅覚が良く、他人の本質を理解できたりする。

 

だが、男から感じる匂いは無かった。まるで生き物ではないかのような不気味さが醸し出てくる。

 

 

「あ、あの……どちら様ですか?」

 

『回答。翠翔(ミスト)、それが我が個体名』

 

男性と思わしき人物は胸元に右手を添え、軽く頭を下げる。

 

カツン、と。床を歩く革靴が倒れ伏した少女の身体を踏みつけた。ミ、リィ──!と軋む音が少女の胴体から響いてくる。

 

顔を強張らせる紫を知ってか知らずか、白の男はその場に立ち止まった。苦しそうに顔を歪ませる少女の事など、全く気にしてないように。

 

 

『不明。何故貴君は例の傀儡術の効果を受けてないのだ?「修羅」様の《妖忍魔法》はこの学園全てを領域としている筈─────想定。ただの学生ではないということか』

 

「………その人たちは」

 

『提示。投降を案じたが無視し攻撃してきた。故に敵として対処した、それだけのこと』

 

紫に指摘され、ようやく男は少女らに意識を向けた。それまで、彼女たちを石ころのようにしか思っていなかったのだ。

 

しかし、踏みつける脚をどける事はない。それどころか、紫に向かって問いかける。

 

『疑問。何故?貴君には関係ないだろう、私は敵として彼等を撃退し、そして勝った。敗者の行く末を決めるのは勝者のみ、抗争に参加してない者には決議する資格などない』

 

「それは………」

 

『否定、結論。言葉は必要無し、貴君の発言を聞くつもりはない。私の意義に反するのなら────本気と言うものを見せてやろう』

 

そう告げ、翠翔は左手をポケットから出す。ジャララ!という、聞き覚えのある音が聞こえる。

 

 

鋭利な三本の鏃、鉤爪のそれが付いた鋼鉄製の鎖、よく見てみればモーニングスターにも見えた。バックリと、開いたそれは、ガシュン!と放たれ、糸が伸びる。

 

自身の周囲を漂う糸に取り付けられたクロー。それが動きを止め、鉤爪を大きく開く。

 

 

 

『必殺。妖忍魔法───【ガーラドレク】。手始めに臓物を抉って見せようか』

 

風を切る音が空切り、鋭い勢いで突っ込んでいく。狙いは床に倒れ込む学生の一人。無防備となった胸部に食いつこうと三本の牙を剥き出す。

 

 

 

「止めてッ!!」

 

 

直後、紫は叫ぶ。それと同時に翠翔(ミスト)に敵意を向けた。それにより、彼女の力が発動する。

 

 

───禍魂の力。

 

負の感情を暴発させるその力は、濃い闇のような色の球体を作り出して、翠翔に向かって飛ばす。

 

その攻撃に翠翔は瞠目する。慌てた様に振るった鉤爪を引き戻し、球体に再度射出しようとするが─────やはり遅い。

 

 

バガン!! という爆音と同時に翠翔は球体に吹き飛ばされる。そのまま、近くの壁に激突し、瓦礫が足元に転がる。

 

 

 

 

 

だが、そんな彼女の耳、正確には鼓膜はその音を聞き逃さなかった。

 

 

カツン………と。

 

 

『納得。なるほど、これが「禍魂」の力。その身に受けて実感した』

 

絶句した紫は信じられない顔で、崩落した壁に目を向ける。

 

 

半透明にして薄暗い光の壁。粘膜というべきか、何かのラインが浮かび上がり気味悪さすら感じるそれは、翠翔を包み込むように展開されていた。

 

 

『なんと────』

 

本来の口調が崩れている。しかしそれ以上に、彼は一つの感情に苛まれていた。

 

それは、

 

『─────驚嘆!なんと素晴らしい力だ!負のエネルギーを糧にすると聞いてはいたが、敵意だけでこれとは!ならば他の負の感情全てだと、どれほどの威力になるのか!』

 

その喜びは、その歓喜は、何から湧き出るものなのだろうか。少なくとも、そこらの犯罪者のような邪悪さからのではない。

 

 

『決定────少しばかりだが、その力を調べさせてもらおう!!』

 

単純な科学者の探求心と似た感情と共に、翠翔は鉤爪を射出した。

 

 

 

 

 

 

 

「オイ盤銅(ばんどう)!さっきのヤツ外してんなよ!雑魚の一人も仕留められてなかったぞ!!」

 

「そうはぁー言ってもよぉー、コイツらぁーちっこいんだよぉー日向(ひなた)ぁー」

 

学生たちを数分で蹂躙した彼等の会話が、それだった。

 

緑色の髪をした青年 日向が大男の脚を蹴りつけて文句を言う。それに対して、ズタ袋の大男 盤銅はゆったりとした声で日向に反論する。

 

しかし伸びた口調のせいで反論してるように見えない。

 

 

「はぁ……うるさいわ貴方たち。もう少し静かにしてくれる?皆の音色が聞こえないの」

 

先の方にピンク色が帯びている白髪の女性。彼女は両耳に手を添え、不満そうに二人に文句を言う。

 

 

「………にしても全然来ないのね、強そうなのは。周りにいるのは格下ばかり、期待した私が馬鹿だったわ」

 

「そうでもない、みてぇだぞ?」

 

日向がそう告げた直後、何処からか銃声が響いた。

 

 

飛んできたのは、普通とは違う大きさの銃弾。もうそれは砲弾と称した方が良いのではないだろうか、と思うほど。

 

銃弾の軌道から、狙いはただ一人───白髪の女性だけだった。

 

しかしその事実を知ってるであろう日向と盤銅は動こうとしない。それは、その女性も同じだ。

 

自分の危機だと言うのに億劫さを隠そうとせず、距離が三メートルぐらいの距離で、ボソリとある言葉を呟いた。

 

 

「────『銃弾は地に落ちる』」

 

彼女の言葉に連動したように、ガクンと銃弾のスピードが弱まった。空気抵抗によるものというより、女性の言葉の影響を受けたかのように。

 

そして、気付いた時にはスピードを失った銃弾はボールように地面を跳ねる。本来なら有り得ない現象だが、日向たちは見向きもしない。

 

彼等の視線は別の場所に、厳密には銃弾が飛来してきた場所に向けられている。

 

 

 

「総司と芭蕉は他の侵入者を倒しに行ったそうじゃが……わしらは学生たちの救助と、敵を倒せばいいんじゃな?」

 

「はぅぅん~。強そうな敵だったりするんですか?もしそうだったら、いたぶったりしてくれるんですか!?」

 

「………二人とも、警戒してください。敵の前ですよ」

 

視線の先にいたのは、三人の少女。この場にいない仲間を案ずる芦屋とこれからの戦いが楽しみなのか(勿論、別の意味で)両腕で自らの体を抱き締める伊吹。

 

緊張感の無い二人に指摘するのは千歳という少女。煙を出す火縄銃の弾を装填しながら、日向たちを静かに睨み付けている。

 

 

両耳に手を当てていた女性が肩を揺らす。たじろいた訳ではなく、寧ろ平静を保った様子だった。

 

「────他と音が違う。選抜補欠、それが彼女たちの名称みたいね」

 

「ほぉーーー、こいつらがぁーー?」

 

二人の反応に日向も軽く口笛を吹く。先程の攻撃は敵である彼等からも評価できるものだった。

 

最も、それが先程の学生たちを基準とした評価だが。

 

興味ありげに言っていたのに、つまらなさそうに溜め息を吐く女性が日向に目を配る。

 

「日向、貴方に任せるわ………私と盤銅は先に行ってるから。

 

 

 

どうせ貴方だけで充分でしょう?」

 

「………その言葉、馬鹿にしてると取りかねねぇから気を付けとけよ」

 

唸るような低い声を聞いた女性と盤銅は一瞬にして姿を消した。移動系の術を使った、というしかないだろう。

 

 

三対一という状況。どう見ても不利なのは変わらないのに、日向は好戦的な顔つきで歩み寄る。

 

「よぉ、テメェらがここの悪忍か?俺ぁ日向、最先端のホムンクルスd──」

 

「貴方たちの事なんて興味ありません」

 

あ?と怪訝そうな顔をする日向に、彼女は顔色を変えない。反応を無視しながら、「それはそうと」付け足すように告げる。

 

「自分より弱い者たち相手に、随分と調子に乗ったようですけど。

 

 

 

楽しいですか?格下の弱者と遊んでるのは」

 

「………話して分かったわ───ムカつく女だな、テメェ」

 

静かに、蚊のような声で呟く。俯いているので主な感情はよく分からないが、相当気分が悪いのは理解できる。

 

だが、彼そこまで不機嫌になる理由はもう一つあった。

 

 

「あー、殺してぇガチで殺してぇよ。テメェみたいな面見ると、あの野郎を思い出して腸が煮えくり返ってくるぜオイ」

 

歌うように物騒ことを口にする日向。彼からしたらいつも使うからか、気にした素振りもない。

 

 

「つー訳で今からテメェらぶちのめすわ。死ぬかもしれねぇから覚悟しろよぉ」

 

「出来るもなら、やってみればいいでしょう?怖じ気づいてるんですか?」

 

「──殺す」

 

そこでようやく怒りの沸点を越えたのだろう。ブチブチッ! と日向の笑みが引き裂ける。最早友好的とは、そもそも人に向けるような顔とは言えず、殺意と憎悪が渦巻いたおぞましい顔つきになっていく。

 

 

ひぇっ、と怖がる芦屋とあまりの殺意にその身を震わせ興奮する伊吹。そして千歳はそれを前にしても、物怖じしない。

 

その態度が更なる怒りの燃料となり、ついに爆発させる。

 

 

「死ねぇ!ボケどもがぁッ!!」

 

罵声と共に、日向はズボンに手を伸ばし、二本のナイフを宙に飛ばす。一瞬もせずに掴み取ると勢いよく地面を蹴り、千歳に斬りかかる。

 

 

「くっ!」

 

ガキィ! と防御の為に構えた火縄銃に火花が飛び散る。女性であるが同時に忍でもある以上、力で押されることはない。最初の一撃を防がれた事に対して、日向は反応しない。寧ろ、受け止めてくれたのは嬉しい事だった。

 

 

火縄銃を掻い潜り、もう一本のナイフが千歳の首に迫っていた。後ろに跳ぼうと考えたが、すぐさま両足を踏みつけられる。その場に縫い止められ、どうやっても動けない。少しでも力を抜いてしまえば、今防いでいるナイフを胸元へと駆り立てるだろう。

 

 

「──させぬ!」

 

「チッ」

 

仲間の危機を察した芦屋が両手首に鉄輪を回しながら、突っ込んでくる。横目で確認した日向は苛立ちを隠さず、ナイフをそのまま手放す。

 

そして、力を弱められたことでバランスを崩した千歳の右手を手に取り、そのまま芦屋に向かって投げ飛ばした。

 

「んな!?…………っ、無事か千歳?」

 

「………してやられましたね」

 

慌てて武器を仕舞い、千歳を受け止めた芦屋。彼女の心配する言葉に関して返さず、日向の行動に悔しそうに呻く。

 

普通はその会話をしてる時点で日向が攻撃してきそうなのだが、(興奮しきった)伊吹が日向を押さえていた。

 

蹴りを食らっても嬉しそうに震える彼女に、流石の日向も顔をひきつらせている。

 

 

「鬱陶しいな………よし、あれでもやるか」

 

一人でに呟く日向に、少女たちは不思議そうな視線を向ける。

 

一本のナイフをズボンのケースに収納し、もう一本のナイフを掴む。そして、

 

 

「妖忍魔法───【切・チェーンブレイカー】」

 

 

おかしな現象が起きた。

日向が行ったのは、軽く握り直したナイフを縦に一閃した。距離からしても最低でも二メートルは離れている。

 

 

何をしてるのか、そう思いながらも火縄銃の装填をし直す千歳は少し体を震わせた。冷たさを感じさせるもの───悪寒。

 

 

咄嗟に屈んだ千歳の真上、頭部のあった場所を突風が突き抜ける。バゴッ!! と近くの壁を吹き飛ばした戦車による砲撃のそれと同じだった。

 

法則の分からない正体不明の攻撃。そう思われてたが、すぐに理解できた。

 

 

壁に突き刺さっていたのは、巨大な剣。刃渡りの広い、ギロチンの刃のようなもの。

 

だが、同時に有り得ないと思う。日向が行ったのはナイフを振るっただけ。そんな刃を投げ飛ばす動作などしてないのだ。

 

 

「ハハッ!これだよこれェ!この力を使う感覚!サイッコォーの気分だなぁ!!」

 

彼女らの反応が見てて面白いのか、それとも話した通りなのか、日向は歪んだ笑いを届かせる。そして、ナイフを横に振るった。今度は、二回も。

 

 

ギャルン!ギャルン! と。

 

空中で黒い粒が集まり出し、大きな刃が生成される。それも二つ、同時に回転し、弾丸のようなスピードで牙を剥く。

 

 

複雑な軌道で自分たちを狙おうとする刃に対処しようとする芦屋は、気付く。

 

その刃の軌道に、怪我して倒れている学生たちがいることに。

 

慌てた様子で芦屋が回転するギロチンを両手の鉄輪で防ぐ。凄まじい勢いに火花が飛び散り、芦屋も思わず後退る。

 

何とか受け止められ安堵する彼女はもう一つの刃を伊吹と千歳が打ち落とした事を確認する。

 

しかし、重要なのはそこではない。日向が忍とはいえ意識を失っている者を狙ったのだ。何の躊躇もなく。

 

 

「貴様!」

 

「あー?うるせぇな、目的以外どうだっていいんだよ、ど・う・で・も!ていうか自覚しろよ、俺らが一々そんな事を気にすると思ってのか?馬鹿どもがよぉ!!」

 

ケタケタと、適当に命を奪おうとした日向は馬鹿にしたような笑いをぶつける。

 

端から聞いてた千歳は、ミシミシと火縄銃を掴む手に力をいれる。

 

コイツらは本気だ。相手を怒らせる為ではなく、冗談なしにそう言っているのだ。

 

 

楽しそうに狂笑する日向がナイフを震い複数の刃が嵐の如く吹き荒れる。校庭が破壊され、意識のない人間を殺そうと周りを破壊していく。

 

 

 

 

 

 

キラは立ち止まっていた。歩くこともせずに、静かに立ち尽くしていたのだ。

 

(この校舎に逃げ遅れた生徒はいない。いたとしても、戦ってる反応が複数。忌夢たちか、手助けの必要はあるか?)

 

彼の異能、『闇』による干渉。それによって学園で起きている事を大体は把握しているのだ。

 

しかしそれと同時に自然な謎もあった。彼の中で、ささくれみたいなものが引っ掛かっていたのだ。

 

違和感という名の、ささくれが。

 

 

(この感覚────一体何処かで)

 

その心配も杞憂となった。理由は、数秒後に起きた出来事が原因だった。

 

 

 

「────フム、これでいいだろう。邪魔も入らずにするのは大変だった」

 

 

 

「ハッ」

 

誰かの声。それを聞いて、キラは短く笑った。それは相手を馬鹿にした訳でも、楽しそうにしている訳でもない。

 

 

それの正体は自嘲、そして膨れ上がる歪んだ喜びだ。

 

 

 

故に、彼は今顔一杯の笑顔を浮かべていた。しかしそれは他人から見れば、感情表現が壊れたとしか思えない、狂気に満ちた笑み。それを仲間たちが見れば、心配してくれる筈だ。大丈夫かと、聞いてくるだろう。

 

(馬鹿か俺様は、あぁ。馬鹿だよ、何故忘れていた?この感覚を忘れまいと誓っただろうに)

 

しかし、今のキラは正常だ。異常とも言えるまでの状態でありながら。

 

廊下の奥に広がる暗闇に、彼は語りかける。忘れもしない知り合いに向かって。

 

 

 

「随分と演出が凝ってるなぁ───『道元』」

 

ゆらり、と。暗闇の中から人影が姿を現した。

 

色素の薄そうな逆立った金髪。髭も生え、年老いたと思えないような体格。

 

間違いない、この男は『奴』だ。今、自分の目の前にいる。キラの中で闇が増幅する感覚がした。だが、それは無理もないだろう。

 

 

 

 

「久しぶりだね、綺羅。私の可愛い最高傑作(息子)

 

探し求めていた(かたき)、復讐の相手を前にしたのだから。




閃乱カグラで有名な御方? 道元氏がようやく登場しました。

彼が語った通り、キラと道元は親子です。

………まぁ、キラの反応からして良好じゃないのはお分かりだと思いますが………原作の彼をよく知る方々なら理解できるんじゃないですかね?(適当)
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