閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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八十七話 裏切りのヘル

自分は造られた人形(ホムンクルス)だと、覚醒したばかりのヘルはそう言われた。自分たちの支配者であった存在、《混沌の王》に。

 

 

そんな訳ない!と当初のヘルは否定していた。血は赤い、食事をしなければいけない、ちゃんと眠る。これだけ見れば普通の人間だ。しかし、その事実を決定付ける理由もあったのだ。

 

 

 

─────記憶、思い出。それだけは存在しないのだ。必死に思い出そうとしても意味がない───そもそも、ありもしないものだから。

 

その問題を理解したヘルは自我が壊れそうになった。必死に頭を抱えて思い出そうとする。けれど脳裏に浮かび上がることはない。故に自覚した────自分たちは《あの方》の言う通り、使い捨ての人形だと。

 

 

 

それから、ヘルの切り替えは速いものだった。

何てこと無い、感情を消し去るだけのものだ。実行に移してみれば、意外と簡単に出来た。……呆気ないですね、と思う自分もいる。

 

 

 

『私の名前は、ヘル。『禍の王』の構成員であり、『絶対切断の刃(ギロチン・ブレード)』の名を持っている者ですよ』

 

組織の駒として、多くの敵を排除してきた。ヘルと名乗り、殺戮を繰り返す。その度に心が死んでいくのをじっくりと感じる。直に人形でいることに何にも感じなくなっていた────筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あぁァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

絶叫が、誰もいない真夜中の山に響き渡る。その元凶であるヘルは右手で頭を押さえながら、大剣を片手に暴れまわっていた。

 

草木を吹き飛ばし、木々を薙ぎ払い、大地を削り抉っていく。人形であろうとしたのに、激情に飲まれかけていた。

 

 

理由は────ある戦いの後。『鍵』を捕獲せよとの任務を果たそうとしたが失敗し、本部へと帰ろうとしたあの日。

 

 

───覚えの無い記憶が、脳裏に浮かび上がってくる。今まで溜め込んできたガスが、限界と言わんばかりに暴発するように。大量の情報が頭の中を蹂躙していった。

 

 

 

『じゃーん、見てください!今日はモヤシを貰ってきましたわ!』

 

「止めろ!止めろ!わたっ、私は、私はヘル!戦いの為の人形だ!こんなもの知らない!私は知らないんだ!」

 

『───帰りましょう、黄泉。皆待っていますわ』

 

「だから止めろ!見覚えもない記憶を!私のじゃない思い出を!私に見せるなぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 

人である理想を諦め、人形となる現実を選んだヘル。現実を受け入れた結果、理想から逃げてしまったとも言える。これはその罰だと、ヘルは心の奥底で思ってしまう。

 

 

そして浮かび上がる記憶を読み解いて、分かったことがある。記憶の持ち主の正体、言うなれば自分の素体となった者────それは黄泉という少年だった。

 

姉に詠という人物を持ち、同じく貧民街で暮らしていたらしいが、通り魔によって死亡したらしい。

 

 

なら、その記憶を受け継いだ自分に出来ることは何か。記憶を継いだだけの自分に、何が出来るのか。

 

 

『お姉ちゃん』

 

 

─────そんなもの。

 

 

『────生きて』

 

考えるまでもない、既に決まっていた。

理不尽に未来を奪われた黄泉という少年の心残りを守らなければならない。その決意と共に、ヘルは組織から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

忌夢と凱添との戦いは、お世辞にも戦闘と呼べる程では無かった。一方的な打撃、それに見回れた忌夢は為す術もなく地面に転がってる。

 

しかし、隙だらけの彼女に凱添は止めを指そうとはしなかった。

 

 

「んー?外が騒がしいなぁ………何々?善忍らが増援として来てるやと?オイオイなんでや?善忍と悪忍は対立しとるんちゃうんかいな」

 

耳元に手を当てて何事かを話す凱添。おそらく無線通信のようなもので誰かと会話しているのだろう。

 

 

今の忌夢もそれを無視していた。自分が考えるべきことはそれと違うと断じたから。

 

(クソ………何でだ?奴の攻撃の方が速い………ボクの方が最初に放ってるのに─────いや、待て)

 

攻撃したと思ったら先に攻撃を受けている。

 

突破できないと思えていたその行動に何かが引っ掛かった。何度も受けたからこそ、その謎が鮮明なものになる。

 

 

(先に放ったのに…………攻撃されてる?)

 

 

そこで忌夢は試してみた。

 

先程と同じように、如意棒を振るう。それを目視していた凱添は笑みを隠さずに、拳を振るおうとしてくる。それもさっきまでと同じだった。

 

 

「…………やっぱり(・・・・)

 

直後に如意棒の持ち方を変え、横に回す。しかし攻撃は届かない。如意棒の先端は凱添の胸元を空振っただけ。実戦では有り得ない失態だった。敵を前に攻撃をしくじるなど、チャンスを与えたようなもの。

 

 

しかし、凱添の拳も同じように忌夢の顔前を通り過ぎるだけだった。初めて一撃を外したというのに、凱添の顔に笑みが宿る。

 

 

「…………へぇ、気付いたんか?」

 

「攻撃の順序を入れ換える、それがお前の力……だからボクの攻撃が当たらなかったんだ。オマエが速いのも当然だ………ボクが一番最初に攻撃してた『順番』を入れ替えたんだから!」

 

 

「ピンポンピンポーン!当たりや当たりぃーっ!」

 

自らの力の正体を知られたのに、楽しそうに応じる凱添。緊張や焦りも感じられない、寧ろ余裕綽々とした様子だった。

 

 

「けどなぁ、それに気付いた所でどうするん?さっきは上手くやれたみたいけど、今のキミにワイを倒せるほどの体力は残ってるん?」

 

「っ……」

 

「無いやろ?ならここでサンドバッグにされるしかないやんか」

 

否定する事も出来ず、忌夢は膝をつく。あまりにも攻撃を受け過ぎたのだ、体力の消耗が激しい。

 

パシッ! とグローブ越しに拳がぶつかる音が響く。凱添はニヤニヤと笑いを隠さずに、彼女に歩み寄ってくる。

 

彼女の目の前に近付き、仁王立ちとなる凱添。落とされた如意棒を少し離れた場所に蹴り飛ばす。隙を付かれないようにした、これでもう忌夢は攻撃の手段を失ったのだ。

 

 

「グッバイ、お嬢ちゃん!悪いけどここで眠っててくれや!」

 

五本指を握り、強く固めた拳を振り下ろす。狙いは頭、確実に意識を奪う一撃。

 

忌夢には避けられない、避ける程の体力はあってもボコボコにされた体が追い付かないのだ。

 

鉄製品並みの一撃が彼女の頭を叩き潰そうとする。そして─────、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だこの化け物ども──ばッ!?」

 

「妖魔じゃない!?気を付け、ごが!!」

 

 

校舎の裏手、そこに集まっていた忍たちが必死に戦闘をしていた。悪忍と善忍、蛇女の救援に来た彼等が相手していたのは『混沌派閥』の者ではない。

 

 

様々な異形の怪物たちだった。人並みの大きさの蛇、二メートルの大男、二足歩行の蜥蜴、赤い眼光を照らす馬。

 

数えるのも説明するほど億劫、そんな怪物たちが忍たちに牙を剥いていた。何とか体制を整えていた忍たちも次第に、怪物に無惨に殺されていく。

 

 

 

「………皆、頑張ってるかなぁ」

 

そんな戦場に、白いワンピース少女は佇んでいた。目の前で激しい戦闘が行われているというのに砂などの汚れの全く着いてない清潔さが異常さを醸し出す。

 

 

だがそれも当然、少女自身は手を下さない。それらは全て、少女が生み出した(・・・・・)モノなのだから。

 

 

彼女の名前は、(のぞみ)

ある人物───柳生の妹であり事故で生命を奪われた少女。

 

 

だが、今の彼女は同一人物ではない。

その死体を使って作り出された別の存在、それが今の彼女なのだ。

 

 

「私も頑張らなきゃね、頑張らないと『あの人』に会えないから」

 

その時だった。

 

怪物の群れの隙間を縫うように一人の忍が通ってきた。素直に驚嘆する望だったが、そらも時間の問題。

 

 

その忍が手にしていた短刀を手に取る。可憐な少女の喉元を引き裂くように突き立て────

 

 

「────望に手を出すな」

 

 

──られる直前に、短刀は空を切った。そして手首は腕と分離し地面に落ちた。理由は単純、一瞬にして現れた薄い白髪の男性の振るった槍に切り落とされたのだ。

 

 

突然の攻撃に悲鳴をあげようとした忍の頭を矛先が抉り貫く。骨すら意図もしないかのように、普通の動作で。

 

 

一瞬の行動だった。暇も許さない神速の連撃。熟練である筈の忍たちも反応に遅れるほどの。

 

「ありがとう、黒雲さん…………他の方は大丈夫なの?」

 

「……礼など必要ない、あまり前線に出るなよ。私と違い、君の妖忍魔法は戦闘向きとは言えないからな。それと、問題ない。他のメンバーが対処するらしいからな」

 

一般的と変わらない会話をしながら、黒雲は地面に崩れ落ちた忍の胴体に再度槍を突き立てる。

 

直後、形を保っていた死体がドロリと溶け始める。ゼリー状になったと思えば、すぐさま槍に吸い込まれるようにして消滅する。

 

 

あまりにも恐ろしすぎる状況に、青ざめる忍たち。震える声音で人が悲鳴のように叫んだ。

 

「何なんだこいつら………これが人間なのかよ!?」

 

「二つの意味で勘違いしている。一つ、私たちはホムンクルス。造られた頃から忍としての戦闘能力を所有している。お前たちとは段階から────スタートラインそのものが違うのだよ」

 

 

血の付いた槍を横に払い、「そして二つ目」と黒雲は静かに告げる。槍の持ち手を変え、少女の隣に寄り添うように歩み寄った。

 

それに対して望は何らかの力を使っているのか、宙に浮く。ゆっくりとした動作で、黒雲の肩に華奢な手を添える。

 

「運が悪いと言い様しかない。私たちを前にしたのだから」

 

 

怪物を生み出す能力を持つ望と理解できない力と棒切れのような槍を扱う黒雲。

 

その二人を前にした忍たちは原始的な恐怖に襲われる。勝てない、この二人を越えられる気がしない。そんな感情が彼等の心を支配していく。

 

 

「私たちは負けない」

 

「───他の者らとは違う、信頼と絆で結ばれているのだから」

 

互いの弱点をカバーし、互いの利点を高める。二人を表現するのに言葉はいらない。

 

それ以上の、絶対的な繋がりがあるのだから。

 

 

 

 

 

 

千歳たち三人は日向相手に拮抗していた。押している訳でも圧倒されて訳でもない、しかし優勢は千歳たちにあった。

 

 

 

「…………ハッ、やるじゃねぇか」

 

笑みを浮かべながら日向はそう言う。愛用していたナイフは既に遠くに飛ばされてしまった以上、日向にチャンスはない。

 

反撃しようにも、目の前にいる千歳には火縄銃で狙われている為にそれは難しい。ホムンクルスは忍よりも頑丈だが、至近距離からの攻撃を受けるのは流石に不味い。

 

 

「終わりです───」

 

 

引き金に指をかけ、千歳は冷徹に告げる。抵抗をすれば何時でも倒せるように、全ての意識を次の行動に傾ける。無駄だと知ったのか、日向は降参と言うように手を上げて、

 

 

 

 

「───テメェがな」

 

 

 

 

直後、生っぽい音共に千歳の口から血の塊が吹き出した。

 

「は、───?」

 

見開かれた両目が、腹部を見る。その脇腹を鋼色の刃が貫いていた。肉を切り裂くような断面に赤い液体が流れる。

 

更に視線を上に向けると、刃は日向の服からはみ出していた。仕込んでいた、という訳ではない。内側から切り裂かれたように破れる服の隙間から見えるのは───皮膚から伸びる刃。

 

まるで元々体の一部なのかのように、違和感がない。

 

 

 

「───千歳ぇ!!」

 

「ひゃははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」

 

芦屋の怒声と日向の狂った笑いが鼓膜を叩く。そのまま日向は体を振り回し、暴れ回る。刃を引き抜かれ吹き飛ばされた千歳は近くの木に叩きつけられた。

 

 

仲間を傷つけられた事に怒りを見せる芦屋が鉄輪を振り回して迫る。真後ろから伊吹もM字鋏を使い、ハサミのように切ろうとしてくる。

 

 

そんな彼女たちより早く、膨れ上がった肉体から無数の武器が放たれる。ハリネズミのトゲのように全方位へと伸びて、芦屋と伊吹を牽制していく。

 

周りの木々や建物を切り刻んだ凶器はすぐに縮小し、日向の肉体の中に収まった。何事も無かったのように、狂笑しながら彼は告げる。

 

 

「武器精製!これが俺に与えられた力ァ!遠くで作られるだけじゃねぇ、肉体の中で作り出す事も出来んだよバァァァカァァァァァァァッ!!!」

 

無駄な努力をしたな、と嘲っていた日向の視線がある場所を見て、より一層その顔を凶悪に歪める。

 

 

大木に背を叩きつけられた千歳、立ち上がれずに這う彼女はどう見ても簡単に殺せる状態だった。

 

 

そんなチャンスを、日向がむざむざ見逃す訳がなく、

 

 

「まずは一人ィ!テメェをグチャグチャのスクラップと肉の塊に変えて、やるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

ガキ!!バギィッ!! と日向が凄まじい力で口に力入れる。そして、すぐに開かれた口の中から束となった刃物が射出される。

 

先端を鋭く、刀身を細く、急所を正確に迅速に穿つ為に杭となった鉄の奔流が倒れた千歳に狙いを定める。

 

 

 

(これが……終わりですか)

 

間違いなく自分の命を刈り取るであろう死の一撃に、千歳は落ち着いたままだった。手元に落ちてる火縄銃で撃てば、軌道はずらせて即死を免れるかもしれない。

 

 

けれど、

 

(どうせ死ななくても足手まといは確実…………なら、あの一撃を食らって死んだ方が、二人は動きやすくなる)

 

忍は消耗品。

それが彼女の考え方だった。勿論、自分を含んでの話だ。

 

立ち上がることすら簡単にいかない彼女が生き残った所で、芦屋たちの足を引っ張るだけだと。ならば死んだ方が意義がある、彼女らが気にすることもなく侵入者を倒せるのだ。

 

 

だからそれ以上何も考えなくていい。忍は消耗品、今死ぬか後に死ぬかの問題だから。

 

逃げろと叫ぶ声を受けても動かない、千歳は死を覚悟していた。

 

 

 

─────なのに、

 

 

「…………………あ?」

 

 

誰の発した声か、気付かずに口にされたものであるから、当の本人も知らないかもしれない。

僅か数秒の出来事だというのに、それ以上の長さを感じさせられる。

 

 

殺戮の一撃は、千歳を貫くこともなかった。強靭な杭は一瞬にして粉々の鉄片へと変わり果てていたのだ。

 

 

そして、千歳の前に立つ青年が。

薄い金髪の青年は自身の得物として身の丈以上の大剣を、地面に突き立てる。

 

見た目ほどの重さなど感じてない、軽々しく。

 

 

一方、千歳はこの現状に戸惑っていた。

死を覚悟したと思ったら、目の前に現れた青年により助けられた。が、自分が助かったと言う実感が沸いてこない。

 

その時、彼女の体が持ち上げられた。どうやら考えている間だったので移動していたのに気付かなかったらしい。

 

突然の事に驚きながら千歳は青年を見ようとして、自分がどうなっているのかに気付いた。

 

 

───抱かれている。俗に言う、お姫様抱っことかいう形で。

 

 

「……………え?え!?」

 

「あまり喋らない方がいいと思いますよ。あくまでも貴方は怪我をしている身ですから」

 

…………突然そんな事されて驚かない女性はいないと思うのだが、ヘルは静かに指摘する。千歳自身も予想だにしない行動に顔を真っ赤にして、何も言えずにいる。

 

 

「───そこの御二方」

 

と、ヘルは芦屋と伊吹の二人に声を掛ける。彼は抱き抱えた千歳を彼女らの前に下ろし、

 

「腹部に刺し傷、ですが治せるものです。ここから放れて治療を、そうすれば彼女は助かります」

 

「わ、分かった………じゃがお主は?」

 

「私は───」

 

答えながら、ヘルは大剣を真後ろに目掛けて薙ぎ払う。暴風が吹き荒れ、背後から迫ってきていた無数の武器が粉砕される。

 

 

 

「やることがあります。貴方たちを私事には巻き込みたくないですので、どうか急いでください」

 

 

急かすように少女たちをこの場から立ち去らせた。ヘル自身、これから起こるのは平穏なものではないと理解しているから。これ以上、誰かを巻き込むことが許容できなかった。

 

周りから人気が無くなった事を確認し、ヘルはその場に居座る一人と対立する。

 

その彼は、信じられないものを見るような顔をしていた。先程までの狂暴性が鳴りを潜め、震える声を漏らす。

 

 

「ヘ、ヘル……?」

 

「そうだ、私で間違いないさ。日向」

 

何も言わなくなり静かに俯く日向を前にヘルは大剣を握り締める。それを縛る布と錠を壊し、その姿を露にした。

 

 

『魔剣 フルンティング』

 

ヘルの愛用する武器の真名。血を取り込む事で強さを増す古き時代の武器の名を冠する剣。

 

 

手に馴染ませるように軽く振るうヘルはそのまま日向に相対する。日向はヘルを見ようとしてない、ブツブツと何事かを呟いていた。

 

 

そして、感情が爆発したかのように顔を上げる。ビキビキと青筋を立てながら、彼は喉の奥から全力の声で叫ぶ。

 

 

 

「───どの面下げて来やがったァ!!ヘルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!!」

 

 

「決まってる────ケジメを着ける為だ!!!」

 

辺りを振動させる程の咆哮が響くと同時に、ブワッ!! と地面から三つの影が彼の体から沸き立つ。

それも全て武器。しかし、先程までとは違う材質の剣が重なり合い、複数の腕となった。

 

 

 

虫の脚のように細く鋭い剣と血のような赤に染まる魔剣がぶつかり合う。

 

衝撃が周りに吹き荒れ、地面にヒビが入りクレーターが出来る。辺りにある物全てが、彼等を中心とした惨劇に嵐に巻き込まれる。

 

 

ホムンクルス対ホムンクルス。

 

誰かの屍を模して造られた人形たちが互いの目的の為に死闘を繰り広げる。

 

誰も手が出せない、出した所で無駄死にになるしかない。それほどまでに、ホムンクルスとは桁違いの存在だった。

 

 

 

 

 

 

 

激しい戦いが続く蛇女。そこに向かう影が空高くに存在していた。

 

 

黒い四つの羽をした戦闘機、『ストーム』。空中での戦闘をより速く精密に行えるようにした非生物的なフォルムをしているそれには『Grand Chariot《グランシャリオ》』と記されている。

 

 

そして、無機質な戦闘機の中に一人の青年が座っていた。濃い銀色の髪で右側の顔を隠し、黒いコートで全身を覆う青年。

 

 

『目的地まであと三、四分です。まず辺りを戦略爆撃を開始し、多くの敵を出来る限り殲滅します。そして残りの撃ち漏らしの排除を』

 

「…………いや」

 

機械的な通信を青年は短く止める。スッと立ち上がり、飛行中の機内をスタスタと歩いていく。

 

 

「計画の修正を。まずは俺が突入して殲滅する、君たちは俺からの連絡を待ち、『アンタレスシリーズ』よ投入を」

 

『は?ですが決められた事ですので──え?問題ない?わ、分かりました。………許可が下りました、ラストーチカ様』

 

ありがとう、と青年 ラストーチカは告げる。壁に掛けてある二つの剣を背中に固定し、出口となる扉の前に立つ。

 

 

 

誰もが知らぬ所で、もう一つの勢力が動き出していた。

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