閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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九十話 神喰らいの牙

「行くぞ修羅!紅蓮の炎で貴様を討つ!」

 

「来なよ焔、僕と君の仲だ」

 

修羅は笑いながら、両腕を手繰る。指先から伸びた半透明な糸を引っ張ることで、他の糸も同調したように動く。

 

糸の操作、単純明快なその能力は極められていた。だからこそ、修羅は『混沌の王』に認められ、その直属部隊に組み込まれたのだ。

 

全ての糸が捻れ回り、焔を包み切断しようとする。だがそれを簡単に受ける彼女でもなく、横に一閃し切り払う。

 

宙に舞う糸の切れ端が静かに落ちる。咄嗟に無数の糸を動かすが、焔は炎月花を振るいながら迫る。半透明だろうが攻撃が来ると分かれば対処は容易い。

 

そして修羅へと近づいていき、数メートルの所で走り出した。そして、紅いオーラの帯びた刀をそのまま振り下ろす。切りつけた直後、大きな音が響いた。

 

 

 

─────ガキィン! と。

 

 

「何度も斬れると────思わないでくれよ」

 

両手の指からあやとりのように糸が絡められている。焔の刃は接触面から火花を散らし、それ以上進まない。鉄格子のような糸の羅列は光に照らされている。

 

修羅はニヤニヤとした笑みを消さずに、焔に蹴りを入れる。壁に叩きつけられるように吹き飛んだ焔は、見事に着地する。自分の攻撃を利用して退避されたというのに、修羅は怒りを見せるどころか楽しそうにだった。

 

「コレは『閃糸刃(せんしじん)』、他者を操る柔らかい糸とは違うよ!どんな隙間も通る細さと鋼鉄すら切り裂く強靭さを兼ねる代物だからね!」

 

「………なるほどな!」

 

逆に焔も笑みを浮かべ、床を適当に削り勢い良く蹴飛ばした。修羅も『閃糸刃(せんしじん)』を使い、ブロック状の瓦礫を粉々に分解する。

 

 

 

「しかし見えるなら前よりもやりやすい!私を侮るなよ!」

 

人の体など軽く切り裂く糸の結界を切り抜けた焔の拳が修羅の顔にめり込む。より力を込め、更に叩きつけるように振り抜いた。

 

「ばごっ、げぇッ!?」

 

勢いよく壁に叩きつけられた修羅が血を吐く。当たり所が悪かったのか、建物が大きく震動する。修羅の放った鋼鉄を越える糸に切り裂かれた天井の一部が崩れかけていた。

 

瓦礫の雨を気にせず、焔は前へと進む。修羅に更なる追撃を与えようと。

 

 

「妖忍魔法───」

 

しかし、それよりも早く。ドロッとした液体を含んだ唇から紡がれる言葉。それに従うように、だらんとした手が持ち上げられる。

 

「───【サカテ・セル】」

 

鋼を切り裂く糸の操作を止め、五本指の先端を突きつける。圧縮された白い糸が、弾丸のように射出される。偏差的な軌道で、天井から飛来する瓦礫を潜り抜けて。

 

焔もそれらの攻撃に疾駆する。回転しながら、全方位に波状の剣戟を放ち、白の弾丸全てを弾き飛ばした。

 

その感触に腕を痛めながら、焔は漂う白塵に話しかける。

 

「糸を指で操るだけ………に見えるが、それはフェイクだな?」

 

問いに答えず、起き上がる修羅。全身のずれた骨を強引に戻す。総司にやったように、筋肉に絡めた糸を使って。

 

「自由自在の糸を無尽蔵に生み出し、それを手足のように操る。指で操っているのは、遠距離型と油断させるため」

「そう!それで接近してきたバカを無慈悲に狩るのが僕のスタイル!

 

 

総司とかいうヤツもそこに気付いたけど意味が無かった!何せ直後に体内に糸を送り込んだんだからね!」

 

修羅は両手で伸ばされた糸を握り締める。今度は近くの瓦礫を掴み取り、暴れるように振り回す。直撃すれば無事では済まない連撃に焔は距離を置く。

 

その隙を無駄にしないように、修羅は冷静に考察する。この戦況でどう勝利するかを。

 

(とは言っても…………焔は厄介だ。彼女たち忍ってのはタマに足掻くらしいからね───まぁ火事場の馬鹿力ってヤツ?)

 

興味のある話で言えば、『混沌の王』が語っていたものがある。《聖杯事変》で偽物の聖杯が生み出した五体の異形、その一体を協力があったとはいえ忍の少女が倒したとか。

 

こういうのは甘く見てはいけない、舐めてかかれば敗者になるのは此方だ。

 

(本気を出さないと勝ち目が薄いね、かと言って傀儡術を止めることは出来ない。コッチは『彼』が標的なんだ、失敗すれば……………)

 

─────そうだ。

 

(まだいるじゃないか、操らなくても強いホムンクルスたちが。ソイツらを動かせばいい、それなら僕はこの制限を解除できる!今の僕を縛る、リミッターを!!)

 

ならばやることは決まっている。この学園を襲撃しているホムンクルスたちに命令を送るのみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────どうやら他の方は手間取ってるようだ」

 

相手をしていた忍学生たちを全滅させた二人。その一人の黒雲は槍を片手に静かに呟いた。端から聞いていた望もその理由は分かっている。

 

命令が送られてきたのだ、この学園襲撃の為に一部の生徒たちを操っている『惨禍の剣(カラミティ・ソード)』の修羅から。

 

 

「私が……………いや、止めておくべきか。主力である私がここから動けば」

「………黒雲さん」

 

この場で敵を排除しろ、その命令がある以上一人でもここに置いていかなければならない。それを許容することは出来なかった。

 

彼女を一人にすれば危険だ、黒雲は直感的に感じていた。戦場とは何が起こるか分からない、目を離した隙に殺されているなんてことも有り得るのだ。

 

 

「行ってきても良いよ、私は大丈夫だから」

「───いや、ならん。私はこの場からは離れない」

 

重苦しい顔つきの黒雲はそう言い切る。

 

ホムンクルスになってから望は、黒雲には世話になってきたのだ。あまり協力的ではないホムンクルスたちの中でも、いつも共闘する望と黒雲は異端として扱われる事も少なくなかった。

 

きっと黒雲は心から心配してくれているのだろう。望自身、黒雲からは優しくされてきた。だが、

 

「私だって、黒雲さん程じゃなくても………一人でも戦えるんだよ」

「ッ」

 

黒雲の顔が、悲痛なものに歪む。守るべき少女からそう言われてしまった以上、彼に止めることは難しい。

 

守られてばかりでは駄目なのだ、このままじゃ『あの人』に会うことが出来ない。会ったとしても、どうすればいいか分からないのだ。

 

それに対する返答は言葉ではなく、行動で示される。黒雲は無言で槍を掴み、背を向けたのだ。その意味を、静かに理解する。

 

 

「ありがとう、そしてごめんなさい」

「────勘違い、するな」

 

感謝からの謝罪を受けても、何時ものような険しい声が彼女を指摘してくる。

 

「望、お前の【召喚(セット)】は完全な戦闘向きではない。危険と判断すれば、すぐに撤退しろ。良いな?」

 

頷く間もなく、黒雲は何処へと跳んでいった。この学園内で命令通りに動いているのだろう。心配する事はない、彼が負ける筈がない────精鋭部隊『惨禍の剣』その一人になれる程の人物だから。

 

数秒が過ぎた途端、望は緩やかな声音で口にした。

 

 

「……………来てたね、分かってたよ」

 

その戦場に、領域に誰かが入り込む。この場を死守しろとの命令を受けている彼女は、その者たちを排除しなくてはならない。

 

そこにいるのは二人、キラと離れた両備と両奈だった。この襲撃を受け、暴走する生徒たちを倒しながらここに来たのだろうか。

 

望はワンピースのポケットの中から取り出した、小さな端末を掌で弄る。ポチポチと、複雑化されたボタンを指で押していき、端末の先を近くの地面に向ける。

 

「始めに言うけど、ごめんなさい。でも私は負けられないの…………『王様』に記憶を戻して貰えないから」

 

足元から這い出るように、数匹の生物が生み出される。熱帯林に住み着くような巨大な蛇、四本の羽根を広げる普通のサイズよりも大きな蝶。

 

自分に隷属する生物の召喚。使い方によれば、多くの者に狙われるであろう能力を有する少女はその力を使い続ける。

 

全ては──────不明瞭な記憶の中にいる『誰か』に会う為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はははは、ははははハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

凶笑を響かせる日向の体が宙に浮く。背中から伸びた八本の『武器』が脚のように動いていたのだ。その内の三本が狙いを定め─────立ち尽くすヘルへと放たれる。

 

上空から突き立ててくる赤槍の狙いは正確ではない。乱雑と言うべきな攻撃の仕方で、土や障害物を吹き飛ばしていく。

 

「ッ!」

 

一瞬にして真横を通り抜けた脚目掛けて、フルンティングで薙ぎ払う。一本どころではなく三本全て、それどころか近くの校舎にすら斬撃の余波を届かせていく。

 

斬られた脚から大量の赤い液体が噴出する。足元の地面に大量の池が出来るほどの量が。

 

脚を切り裂かれた日向は苦痛に顔を歪める。切断された三本の脚が切り離され、真下に落とした。使い物にならなくなった物を破棄した、日向はそんな風に笑いながら、笑みを深めていく。

 

 

「沸き立て、血肉!【血呪具(けつじゅぐ)】!」

 

ガ、ガガガガガガガ!!

無数の武器が血潮のような波から沸き上がった。全てが日向の武器、殺戮に特化した凶器。

 

日向の能力、『武器生成』は肉体から武器を作り出すことに特化した力。本来なら、別の場所から生成は不可能だ。しかし例外もある。

 

 

───例えるなら、辺りに飛び散らした武器の破片や血を『身体の一部』と仮定するなど。そうすれば、より遠くへの攻撃を可能とするのだ。しかし、普通ならそれ自体不可能なのだ。何千もの武器を生み出す程の血を流せば、誰であろうと死ぬ。

 

だが、彼等『ホムンクルス』は普通ではない。戦闘の為に造られた以上、人間の知る普通では彼等を完全には語れない。

 

「──はぁッ!!」

 

魔剣 フルンティングを振り上げ、ヘルは赤い波を吹き飛ばす。砲撃のような衝撃に武器の波は分解され、粉々に砕かれる。

 

そのまま動きに合わせるようにヘルは、日向へと近づく。そのまま切り伏せるように魔剣を体へと叩きつけた。

 

しかし、全ての武器を打ち砕いてきた魔剣は、日向が組んだ腕が変じた────赤黒い剣に防がれる。後少し、数センチで届く距離、そこまでいかない。

 

ただの武器じゃない、ヘルは本能的に察した。それに答えるように、日向も叫ぶ。

 

「俺の生成する【血呪具】の硬度はどの武器よりも硬い!もっと血の濃い俺の肉体はお前の魔剣じゃ破壊することは無理だァ!!」

 

ヘルを弾き飛ばした日向は更に追撃を行う。二本の脚の先端が棘の付いた槍と化し、ヘルを貫こうと追い詰める。激しい攻防に何とか回避し続けるヘルだが、槍の一本が肩を掠った。

 

後方へと飛び退くヘルに、日向は両腕の剣を向ける。辺り一帯の地面を濡らす血の池が沸き立つ。

 

それと同時にヘルの肩を掠り傷が疼く。内側から、ナニかが食い破ろうとするかのように。

 

 

妖忍魔法──【絶殺(キル)・デストロイヤー】

 

直後、ヘルの体が爆裂した。体内から突き立てられた巨大な槍が傷口の肩を抉り、腹や背中を細いナイフや刃を切り裂く。

 

脚の槍に掠った時点で傷口に入り込んだ血が、ヘルの血に入り雑じった。そしてそれらは武器となり、内側からヘルを攻撃したのだ。

 

 

「くっ!あ゛あ゛あ゛ああァァァァァァ───!?」

 

膝をつけば、血と共と小さな武器が溢れ出てくる。どうやら喉からも生み出されたのか、口からの吐血にも凶器が混じっていた。

 

言葉で説明するのも難しい痛みに泣きそうになりながらも、肩に食い込む刺々しい槍を力ずくで引き抜く。鋭利な部分に肉片が刺さり引きちぎられる。何とか抜けたことに、安堵する余裕もない。

 

魔剣を手に取って、立ち上がろうとするがそれも難しい。ダメージが大きすぎる、負担が激しい。

 

 

「テメェの【能力演算(コード・ステータス)】じゃ俺を倒せねぇ。そもそも、今のテメェじゃ時間の問題だろぉ?」

「そう、ですね………。心底不満ですが、打力に欠けるのは同意します」

 

今も肩を貫く激痛に、ヘルは呻きながら肯定する。

 

能力演算(コード・ステータス)】、ヘルのホムンクルスとしての能力。

ヘル本人の身体能力や武器の性能を上昇・低下させる事が出来る、応用性のある力なのだ。

 

しかし、それでは足りない。

 

 

「───悪いな、俺も少し暴れ足りねぇが………命令が来たんだよ。そういう訳で、さっさと終わらせてやらぁ」

「私もそれには────賛成だ」

 

あっさりとした態度に日向が疑問に思った。その時だった。ヘルは魔剣を地面に突き刺して、立ち尽くす。

 

 

「【能力演算(コード・ステータス)】───全能力上昇!形状変化、双剣!!」

 

胸元から全身へと、力が流れ込んでくる。それと同時にヘルは魔剣を掴んだ両手を左右に払う。

 

両手に魔剣は握られていた。左右対称である漆黒の長剣へと。黒曜石の如くの輝きが増していく。

 

ヘルの行動は止まらない。二本の魔剣を強く叩きつけ、交差させる。血を流して、限界な身体を行使しながらも、ヘルは大声で叫んだ。

 

 

「妖忍魔法!【ヘルヘイム=ムスペルヘイム】!」

 

両手に握られる魔剣にそれぞれの変化が起こる。左手の魔剣は煌々しい炎に、右手の魔剣は純白の氷雪に。熱気と冷気、相反する二つを双剣に宿らせて、ヘルは日向へと斬りつける。

 

「話聞いてたかよ!?俺の剣は壊せねぇんだよぉ!!」

 

確かに、双剣は日向の腕の剣を破壊できない。炎の剣で斬っても、氷の剣で叩いても、日向の剣は壊れる様子はない。

 

だが、

 

────ピキ!

連撃を受け続けていた両腕の剣にヒビが入った。他でもない、鮮血の色をした腕から。

 

「な、あ!?」

 

その事実に日向は言葉を失う。直感的にヘルの双剣を防御していく度に、腕の剣のヒビが大きくなっていく。

 

 

「破壊出来ない?それは詭弁だ!どんな物質だろうと冷却と加熱に衝撃を与えれば脆くなる!お前も分かってる筈だろ、日向!!」

 

 

炎魔剣と氷魔剣による十字の斬撃を受けた腕の剣が砕けた。勢いに押され仰け反る日向の頭に何かが炸裂する。

 

────記憶、しかし彼のものではない。別の誰かのもの。

 

喜怒哀楽といった様な姿を目にする度にイライラしてくる。何故今、これを見せられるのか。そう思うだけでも怒りが消えることはない。

 

(クソッタレが………ムカつくんだよ、最近からだ。よく分からねぇモンを何度も見せやがって!俺たちホムンクルスには必要ねぇんだ!!)

『…………本当にそうか?』

 

ズキ!と痛む頭を押さえる日向に声が聞こえてくる。誰だ、とは言わない。

 

この声だ。俺の素体となった誰か、ふざけた記憶を見せてくる元凶。ソイツが今も語りかけてくる、腹立たしくなる言葉で。

 

『ホムンクルスになったと、それで隠してるんじゃないか?自分が偽者だと理解してるから』

「うるせぇッ!ドイツもコイツも馬鹿にすんじゃねぇぞ、俺は日向!ホムンクルスなんだよボケぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェェェェェ!!!」

 

忌々しく脳裏に瞬く優しい声に、日向は吼える。困惑や躊躇といったもの全てを怒りという感情に燃やす。

 

絶叫と共に、砕かれた剣でヘルの腹に切り裂いた。ズバ!!と生々しい血肉が吹き飛び、脇腹が軽く抉られる。

 

しかし、それでも。

 

(───ここで終わるものか)

 

ヘルは止まらない。止まるつもりなど、全くもってない。

 

(未来を奪われたあの少年の為にも!ここで終われるものか!!)

 

「オオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

「ガ、ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

ヘルは全ての力を出しきるような雄叫びを、日向は目の前の現実を否定する絶叫を。

 

生命の証とも言える赤い液体を流しながら、ヘルは両手の魔剣を構える。灼熱と氷結が唸り、

 

 

「我が顎で全ての障害を穿ち砕く!【フェンリル・アガート】!!」

 

 

二本の魔剣が、狼の顎のような鋭利かつ強靭なる斬撃を放つ。放たれた無数の武器を破壊し、宙に舞う日向を切り裂く。

 

その斬撃は日向を殺すには威力が足りなかった。しかし、それで良い。ヘルは、彼を殺すつもりなど毛頭無かったのだから。

 

転げ落ちた日向は仰向けに倒れる。圧倒的な一撃、神を喰らう牙を受けた青年は身動き一つも取れない。

 

「………ぃ、がぼ………げ────」

 

起き上がろうにも体は言うことが効かない。激しい戦いでのダメージ、『武器生成』に大量の血を消耗したのだ。自然に回復するには相当の時間が掛かる。

 

消えかける意識の中で、動くものが見えた。首だけで日向はそれを認視する。

 

ユラリと起き上がり、ヨロヨロとこの場から立ち去る青年の姿。

 

 

 

 

 

 

 

「───ハハ、無茶を…しすぎ……ました………か」

 

力無く、壁に寄りかかったヘルは自身の体を見る。肩や脇腹は抉られ、出血が激しい。少し動くだけで血が滝のように流れるかもしれないだろう。

 

能力演算(コード・ステータス)】による能力の激しい公使、それと戦闘での損傷が激しかったのだ。

 

直感的に理解した────自分はもうすぐ死ぬと。

 

 

「少なく、とも……私以外の誰かが………傷付かずに………済みま、す───」

 

限界だった、支えられていた力がなくなり、壁に寄り掛かる。魔剣から手を離し、地面に倒れこんだ。全身が血に濡れるが、もうどうでもいいだろう。

 

 

「………けど、叶うと………するなら」

 

黄泉という少年の為ではなく────自分自身の、たった一つの願い。

 

「もっと………貴方と、話したかった………詠さん…

 

 

 

出来ることなら………姉さん、と呼びたか─────」

 

それだけ口にしたヘルは限界だと崩れ落ちる。両瞼が静かに閉じられ、意識は消失していた。




今回色々と紹介します。



《日向》
『混沌派閥』のホムンクルス。怒りやすい性格でヘルとは犬猿の仲だった。しかし本心ではヘルに信頼していたらしく、彼の脱退にはショックを受けていた。

日影の尊敬する日向という女性を素体にしたホムンクルス。色々魔改造された事で本人とは違う性格と性別になったのだが。

能力は『武器生成』
自身の身体や血液、細胞から武器を造り出す事ができる。


ホムンクルスたちには素体となった者の記憶ってのがあります。一部の者(ヘル)は記憶が明瞭なのですが、多くがその記憶が曖昧なもので。家族や知り合いの顔や姿が分からず、そのまま思い出せないという事が多いです。

因みに、『混沌の王』は上記のようになるように人為的に仕組んでいます。
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