閃乱カグラ ケイオス・ブラッド   作:虚無の魔術師

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九十四話 黒装機蠍(アンタレス)シリーズ

忌夢は死闘の最中、敗北を確信した。

ホムンクルス 凱添、順序を入れ替える彼の力。為す術もなく追い込まれ、その正体を看破するがもう少し速ければ良かった。

 

凱添の拳が忌夢の頭を狙う。順番すら関係ない攻撃だが、忌夢が反撃しようとすれば容赦なく入れ替えるのだろう。

 

つまり王手。何をしても無意味、負けることが決定されているのだ。

 

 

(不味い!やられ─────)

 

それを理解した忌夢は覚悟を決めた。せめて一子は報いようと、如意棒に力を入れる。

 

 

しかしその覚悟とは裏腹に、鋭い拳は忌夢を通り過ぎていく。すぐ近くで壁をぶち抜かれるが、呆然とするしかない。

 

だがすぐに状況を理解した忌夢は怒りが込み上げてきた。

 

「何の、つもりだ………ッ!ボクを殺す気すら無いって言うのか!」

「─────へぇ」

 

怒りに目も向けず、凱添は不適な笑みを崩さない。その視線は忌夢の真後ろ、廊下の奥に向けられていた。

 

自分を相手にすらしないのか、と憤るが忌夢もようやく勘づいた。慌てて振り返り、凱添と同じモノを見つける。

 

 

「どうやら来てるのは善忍だけやないな?あんなモノまで放つとは」

 

虫、だった。

ただの虫と言うよりは、機械で出来た代物。半透明な羽を響かせて飛来する羽虫の群れ。

 

忍の世界では間違いなく見ない存在、それを目の前にして忌夢は混乱しかなかった。

 

「何だ………アレ?あれも、お前らの奴か!?」

「ならええけどなぁ。現実ってのは上手くいかへんことが多いやん」

 

言外に違うという意味だった。

それも当然、凱添はあの羽虫に警戒と敵意を向けている。

 

理由は明白、羽虫たちの所々が朱く染まっていた。鉄のような匂いに、凱添の表情の笑みが冷えていく。

 

 

「それにしても、感じるで?血の匂いが。クサイクサイ、こりゃあ多いなぁ。

 

 

 

────このガラクタどもが、そうやって仲間を殺しやがったのか?アイツらをアッサリと!流れ作業のように殺してったのかッ!!」

 

無音の波動が放たれた。未知の脅威に凱添は忌夢の前に飛び出し、腕を横に払った。

 

 

ドゴッ!! と。

衝撃波と凱添がぶつかり、相殺される。しかし凱添の体は弾かれたように宙に舞うが、何度かバウンドしながら起き上がった。

 

口から垂れた血を手の甲で拭い、困ったように嘆息する。それでも、顔から笑みは消えることがない。

 

 

「………なぁるほど。あの羽虫、羽で発生させた音波で攻撃するみたいやで?一匹程度なら大したことないみたいやけど、ああも群れられると厳しいなぁ」

「お、お前………ボクを」

「?そりゃあ、ワイの獲物やし。ほら、肉食動物やって獲物を取られたら怒るやろ?そんなモンや」

 

 

 

 

「そや、少しええか?」

「ん?何だよ、ボクにも戦えって言いたいのか?」

「いやいや!大したことやないって!少し気ぃ抜いとってくれへん?」

 

敵を前にして気を抜けるか、と吐き捨てたかったが無駄なのは分かる。言われるがままに、力を抜いて落ち着こうとするが、

 

 

 

ドゴ! と拳が腹に叩き込まれた。無意識だった故に、その一撃は重く、彼女の意識を容赦なく奪いにかかる。

 

 

「ガ────ハッ!?」

「──────悪ぃなぁ、『忌夢ちゃん』」

 

突然の所業に抗議の目を向けるが、凱添はヘラヘラとしている。更に怒鳴ろうとしたが、揺らぐ思考があることに気づく。

 

 

…………何故コイツは、ボクの名前を知っているんだ?

 

 

「ワイがボコったし、あんま戦えないやろ?こんな人でなしのワイとは違って、死んだら悲しむ人もいそうやし…………………羨ましいわぁ、ホントに」

 

堅苦しくもなくチャラチャラとした態度で彼は答える。最後の最後に、何かを思うだろう呟きを付け足しながら。

 

「心配なさんなって。ワイはこう見えてもやる男やし?あ、そうそう。

 

 

 

 

昔の事はあんま気にしない方がいいで。あと、『雅緋ちゃん』によろしく言っといてなぁ」

 

待て、と忌夢は叫ぼうとするがもう遅い。凱添はそう言いながら忌夢の腕を掴み取り、

 

 

窓から空中に放り投げられる。あまりにも雑だが、配慮したようなものだった。それに、二階から落ちたとしてもあまりダメージは受けない。

 

 

互いの目が合う。

敵に向けるようなものではなく、無茶をしそうや子供を見守る大人の目。

 

何処か面影があった。子供の頃に覚えがある。始めて出会った『彼』と、前に会ったことがある…………?

 

 

「また会おうや忌夢ちゃん。今度はちゃんとした形で殺し合おうぜ☆」

 

「凱添!お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

絶叫する忌夢の前で、凱添は終始笑顔だった。ズガガガガ!! とけたたましい音が響く。機械で出来た羽虫の群れと凱添が衝突したのだろう。

 

そして二階から落下した忌夢は地面に何とか着地を行う。まずは合流すると決意した矢先────見知った顔があった。

 

嬉しさよりも先に嫌な感覚が脳裏に浮かび上がる。それもその筈、目の前にいるのは忌夢の宿敵(本人が思ってるだけ)の日影がいたのだから。

 

 

「ひ、日影!?どうしてここに……!」

 

普通は驚くべきなのに、日影は無表情で忌夢を見ていた。そんな彼女の第一声はこうだった。

 

 

「………何で空から忌夢さんが落ちてくるんや?ラ●ュタ?」

 

「知るか!」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

先手を取ったのは、兵器《アンタレス》だった。機械で造られた肉体を動かし、標的の排除を優先する。カニのような堅い装甲のハサミが近くの建物を噛み砕く。建造物を支える柱の数本を掴み上げ、放り投げてきた。

 

しかし両備と両奈はそれを横に跳ぶことで回避した。両奈は次の攻撃が来る前に《アンタレス》へと突貫する。因みに両備は距離を置いて、ライフルの装填を行う。彼女とて接近戦が苦手というわけではない。

単純な話、スナイパーが後方支援をするのは戦況を変えるのに必要なのだ。

 

凄まじいスピードで近づきながら、両奈は二丁銃を乱射する。だが、《アンタレス》の装甲にはダメージがあまり通っていない。単眼の光が彼女の姿を認視する。

 

 

直後、ハサミが横殴りに、両奈の体に叩きつけられた。それも容赦なく横に食い込む。

 

「ふ、あ───ッ!」

 

「両奈!クソッ!」

 

何度かバウンドして転がる両奈に、両備は怒りを滲ませる。《アンタレス》に向けて複数の銃弾を放つが、効いてる様子は見えない。あまりにも堅い金属装甲の前に全て弾かれてしまっている。

 

ギロッ、と一つだけの眼光が両備の姿を捉える。キチキチと昆虫独特の多脚の動きで、体の向きを変える《アンタレス》。無機質に標的を選別していく怪物が、次の標的を決定した証だった。

 

「効けっての!この虫野郎がッ!」

『!』

 

苛立ったように両備が銃の引き金を引く。しかし銃弾が撃たれたのではなく、彼女の周囲から6つの物体が出現した。

 

自己判断機能により、《アンタレス》も『それら』が何なのか確信する。目の前に並んだ物体を破壊しようとせずに、全ての腕を前に交差させる。

 

 

「【リコチェットプレリュード】!!」

 

続けて放たれた弾丸が直撃したと同時に6つの物体───『機雷』がまとめて爆発した。グラっと《アンタレス》の体が揺れたが、持ちこたえた。

 

カチカチと上半身と結合した下半身のサソリが牙を鳴らす。機械から感じられる筈のない、明確な怒りに気圧されるが、《アンタレス》の動きが開始された。

 

 

ガシャコン!! と右腕の肘に何かが嵌め込まれる。円筒形に伸びた腕、それは戦車の主兵装とされる砲筒だった。

 

「マズ─────ッ!」

 

 

両備が叫ぶ直後に、右腕の砲身が此方に向いた直後に、砲撃が開始された。ドォン!!! と戦車独特の轟音と共に、漆黒の榴弾が直撃し、周囲に衝撃波が炸裂する。それは近くにいる両備にまで届こうとして────

 

 

「───ゴーレム!両備さんを守って!」

 

望の命令を受けて、岩石の肉体を持つ人型『ゴーレム』が両備の前に立ち塞がる。そして爆風や破片の雨を防ぐ壁の代わりとなった。

 

「………ありがと、助かったわ」

「うん。でも気をつけて………今度は直接狙ってくるから」

 

言う間に、戦車の主砲───滑腔砲の装填が終わる。構えられた先は、ゴーレム自体を後ろにいる両備諸とも消し飛ばそうという狙いが見える。

 

「そんなこと───させないよぉ!」

 

しかしそれも妨害される。いち早く戻ってきた両奈が《アンタレス》に向けて二丁銃を乱射したのだ。大したダメージはないのだが、駆動部に弾丸が当たった途端、反応が変わった。

 

 

狙いを中止し、邪魔をした彼女に滑腔砲を向ける。ノーモーションで砲撃が開始された。大した装備をしてない両奈を消し炭に変えようと。

 

「うーん!あの砲撃に当たってみたいな~!でも今はやらない~!」

 

スラリと両奈は俊敏な動きを見せる。照準通りに放れた筈の砲弾は検討違いの場所を削り取る。

両奈は氷の上で舞うスケーターのように地面の上を華麗に滑っていく。素早い動きでバレリーナのような動きを見せる両奈が滑腔砲の照準に入らない。

 

 

滑腔砲では仕留めきれない、察した《アンタレス》も右腕を下げる。代わりと言って左腕を持ち上げた。チェンソーのように側面全てに刃が剥き出しとなった腕が向けられる。

 

その時、刃の一つが射出された。

 

「ッ!」

 

 

 

危険を察し回避した両奈のいた所が、軽く切り刻まれる。地面に出来た一直線の割れ目を深くし、その凄惨さを示す。

 

それはまさに、戦車の砲撃とは違う破壊だった。乱射を避けられた《アンタレス》は左腕の銃口を真上に向ける。それと同時にデカデカと記された文字に、全員の目が釘付けとなっていた。

 

 

『エッジガトリング』

刃の機関銃、その名称の通りだった。銃身の横手から突き出た無数の刃を弾丸のように飛ばす武装。

 

刃の切れ味と発射速度からして、あれが忍を殺す武装に間違いはないだろう。多分彼等の忍法も、あの連射の前には紙屑に等しいものだ。

 

カチン!と新しい刃が発射口にセットされる。側面から出た刃が横に回転して、新しい刃を装填していく機能なのは分かる。

 

 

力づけば二本の協力なハサミと刃の展開した左腕、離れれば重戦車の砲撃と高速の刃の連撃。

 

近距離と遠距離を重ね合わせた戦闘兵器。それが《黒装機蠍(アンタレス)》という兵器だった。これを相手にするなら大人しく降参を選びたくなるほどの性能を持ち合わせたモノ。

 

圧倒的な性能を誇る《アンタレス》が三人を追い込んでいく。その場に最適な武装を展開し、無慈悲に対応する怪物が。

 

直後だった、何かのアイコンタクトをした両奈が高らかと声をあげた。

 

 

 

 

 

「────『秘伝忍法』!!」

 

その単語に、《アンタレス》はすぐに反応した。忍たちにとって必殺技と言っても過言ではない力。それは忍法すら防ぎきる装甲が耐えきれないと判断したのだろう、そう叫んだ両奈に攻撃を放とうとする。

 

 

だが、そうしようとした途中で気づいた。両奈はそう口にはしたが、ただ俊敏な動きをしてるだけで『秘伝忍法』を放ってくる様子は見えない。

 

 

しかし、《アンタレス》の全身にあるセンサーが警鐘を鳴らした。秘伝忍法の反応。

 

反応は、全方位からしていた。囲むように浮遊する機雷を見て、《アンタレス》もようやく理解に追いつく。

 

 

『秘伝忍法』、そう言ったのは両奈本人だ。しかし実際に使ったのは両備だった。

 

《アンタレス》が対忍兵器と称される理由、それは忍を倒せるからではない。忍の力、忍法を感じ取ることが出来るからだ。

 

彼女らは戦いの中でそれを見抜いていた。両備が《リコチェットプレリュード》を使った際、《アンタレス》は自発的に防御していたことが、その理由だった。

 

 

多くの忍にある宣言と実際に感知した『秘伝忍法』の反応。これらに誤解してしまったシステムは、危険ではない両奈に警戒を向けていたのだ。

 

 

その間に、両備の準備が整う。《アンタレス》の隙をついた、反撃の一撃が。

 

 

「【8つのメヌエット】!!」

 

間接部位の付近の機雷が、射撃の直後に誘爆する。至近距離からの爆発を受けた《アンタレス》も無事では済まず、体の部位が吹き飛び、激しい破損を味わっていた。

 

 

しかし、

 

『………………損害率、64%。抵抗を続ける三人を最重要殲滅対象と記録。危険度・高と判断』

 

 

《アンタレス》はまだ倒れてはなかった。体の大半は破壊されたにも、腕や脚の多くを失っているのも関わらず。

 

機械のサソリが半分以下しかない脚を地面に突き立てる。もはや動くことすら考えてない、その場に居座る気なのは確かだ。

 

 

『「エッジガトリング」と「ラージキャノン」、損傷により使用不可能。内部武装も「秘伝忍法」により同等』

 

要約すると、全ての兵器が使えないらしい。だがそれでも警戒を緩められる訳がない。科学的な声が落ち着いてたのも理由の一つ。

 

打つ手の無い筈の《アンタレス》は合成音声で、こう切り出した。

 

 

 

『最終レベル武装─────「メタルクラッシャー」を使用します』

ジャゴッッ!!! と尻尾の装甲が剥がれ落ちた。中から鋭く尖った突起物が姿を現した。一瞬、近くの相手を貫く為の槍かと両備は距離を取ろうとしたが、すぐに間違いだと気づいた。

 

 

 

「ッ、両備さん!」

 

閃光が、迸った。それを破壊光線と呼べばいいのだろうが、白い光の奔流が地面を削り、容赦なく障害となるものを消し飛ばしていく。

 

距離を置いた筈の両備と両奈も攻撃に巻き込まれそうになる。しかし、後ろから突っ込んできた鳥により体勢を崩し、白い閃光から逃れられた。

 

全長三メートルを越える尻尾からのレーザー砲。その火力は今までの兵装とは引けを取らない、射程距離も想像以上…………尻尾を伸ばすことも出来るので、実質逃げ場はないに等しい。

 

それに、

 

 

「ッ、また撃てるの!?」

 

両奈もそれを見て驚愕しかない。レーザーを撃ってすぐに槍からまた閃光が放出されたのだ。空いた時間は三秒しかない。

 

それくらいなら近づける、そう思えるだろうが、簡単にはいかない。《アンタレス》にはまだ大きなハサミが片方だけ残ってる。遠距離からの攻撃はないが、両奈を吹き飛ばせるほどの堅さと重さを持つハサミだ。一つだけでも、脅威には限らない。

 

 

「……………駄目」

 

震えながら、望は呟いた。目の前の怪物に怯えていたのもある、だがそれでも。

 

彼女は折れてすらいなかった。その目に、ある種の覚悟が宿る。

 

「何とかしなきゃ………私が!」

 

 

そんな中、望が勢いよく走り出した。体力の少ない少女らしく、そんなに速いものではない。《アンタレス》も少女の動きに反応し、レーザーを撃とうとするが────目の前で、少女が何かを放り投げた。視線がそれに追いつき、確認が終わる。

 

 

爆薬。

何個も固められ、より火力の増したもの。近くに火薬庫らしき小屋から取ってきたものだ、《アンタレス》はそう判断する。

 

そして、次の行動も充分に速かった。一つしかないハサミで爆薬を叩き落とした。遠くへと飛ばされた爆薬の塊は、起爆することもなく地面に転がる。

 

 

やはり、少女の笑みは消えなかった。最後の手を失敗するというのに、勝ち誇った笑みは残っている。

 

 

 

『────?』

 

そこで、《アンタレス》のモノアイが動いた。壊れかけのセンサーに、動く反応が示される。

 

両備と両奈、その二人が走り出してきたのだ。少女とは比較にならないスピードで迫ってくる。

 

勿論、システムの編み出した答えは単純なものだ。『メタルクラッシャー』で薙ぎ払え、と。レーザーの蓄積を開始する。僅か数秒、その間に何かが変わるはずがない。自らの決定を信じ、《アンタレス》は攻撃を行おうとする。

 

 

 

 

 

 

バゴォンッッ!!!

 

空気を震わせる大音響に続いて、全身を激しい衝撃が襲った。それにより《メタルクラッシャー》の照準もずれる。二人を捉えきず、レーザーは真横を通りすぎていく。

 

『な、なニッ!?ィイee───!!』

 

不意の爆発に、《アンタレス》の自己判断機能がイカれた。防御が疎かだった、真下からの直接な爆発の影響。全身を装甲で守れば動きは制限される、だからこそ守りの浅いところを作らなければならない。

 

それが内側だった。本来なら攻撃などが届かない場所。しかしセンサーが壊れかけていたことにより、見つけるのが遅れた。

 

 

そうして投げられた爆薬は囮でもあり切り札だった────《アンタレス》が、足元の『地雷』の存在に気づかない為の。

 

 

『ビ、ガgガガガガガガガガ──────!!?』

 

目の前の敵の動きに対処しきれない、そもそも敵が前方にいるのかすら、上手く処理できない。混雑した思考に《アンタレス》は何もすることが出来なかった。

 

 

「…………これで、終わり……!」

 

停止した《アンタレス》は確かに前方からの声を捉えた。しかしそれでも動けない、命令を果たす機能が壊れてしまったから。

 

そして、両備は目の前でライフルの銃口を突きつける。不安定にモノアイを揺らす《アンタレス》の頭に。

 

 

 

「フッ飛べ!このデカブツ!!」

 

そのまま引き金を、引き抜いた。

 

 

直後、至近距離で放れた銃弾が《アンタレス》の頭部を吹き飛ばす。遠くからの狙撃や乱射などを受けきった装甲が一撃でぶち抜かれる。

 

頭部を失った《アンタレス》の体が崩れ落ちる。頭を失った虫のように、その動きを完全に停止させた。

 

 

「…………やった、の?」

「みたいね、もう動かないわ」

 

両備は疲れ果てた望に近寄りながらそう言う。

 

 

しかし、これで終わった訳ではない。

 

「望………だった?」

 

自分の名前を呼ばれ、望は気を引き締める。

彼女たちは敵同士。第三者の乱入が無ければ、普通に殺し合ってたのだ。

 

戦いを続けるのかと思っていたが、両備は手を差し伸べた。え?と驚いて顔を見上げる望。その反応に彼女は恥ずかしいのかそっぽを向く。

 

「ありがとうね、アンタがいなかったらアタシたちも勝てなかった」

「うん、私も………一緒に戦ってくれてありがとう」

 

答え、その手を掴む。起き上がり礼を示す望に、両備はどう返せばいいか困っていた。

 

 

本来は敵同士である筈の少女たち。境界など関係なく、分かり合うことが出来るのだ。誰かが語ってであろうとことが、図らずにも証明された。

 

 

「…………ねぇ、両備さんと両奈さんって」

「姉妹よ。あっちのバカ犬の方が姉だけど」

「姉?両奈さんがお姉さんなの?でも両備ちゃんの方がしっかりしてないかな?」

「そりゃそうよ。両奈のやつはそういうのが好きな変態だからね」

 

そんな他愛もない会話をしながら、彼女たちはこの場から離れようとした。少し離れた場所から両奈が走ってくる、そんな彼女と合流し今後のことを決めようとしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、両備の背後でナニかが動いた。小さな動きに、誰も気づくことが出来ない。

 

《アンタレス》の亡骸。頭部を失くした機械の兵器、機能を停止しているだろう静かに沈黙しているソレ。

 

しかし、履き違えてはならない。

 

 

『───────ィ』

 

 

頭を失った昆虫が確実に死んだと限らない。カマキリのようにまだ存命である種もあるのだ。

 

 

 

『───────ジ!』

 

バキン! と《アンタレス》のモノアイが光を帯びる。血のように濃い赤色の単眼が、両備を視認すると同時に尻尾の槍が勢いよく放たれた。鋭い投げ槍のように、両備の胴体を穿とうと。

 

 

「両備ちゃ─────」

 

いち早く気づいた両奈は叫び駆け出すが、それでも届かない。勝利の余韻が、忍としての感覚を遅らせてしまった。

 

故に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────トッ

 

 

 

「……………え?」

 

 

ザシュッ!!

 

目の前で赤が、激しく散った。

 

その光景を直視してしまった両奈は、脚を止める。ただ呆然と、現状を理解できずに立ち尽くしていた。

 

 

 

「──────嘘」

 

 

そして、『両備』は震えていた。彼女の全身は血で濡れている。しかしそれは彼女の血ではない、そもそも両備は大きな傷一つ無い状態だ。

 

なら辺りに飛び散った血は───────誰のものなのか?

 

 

 

「う………………ぁ」

 

鋭利な尻尾の槍が、望を貫いていた。胸元を、心臓のある場所を深々と。血に濡れた矛先が、ホムンクルスである彼女の急所、赤い石の埋め込まれた心臓を────破壊した。

 

 

 

 

 

 

「………………望?」

 

複雑な校舎を移動していた黒雲は首を上げた。嫌な予感を骨の髄から感じている。ゾワゾワ、と怪しい影が足元に揺らいでいた。

 

何か合ったのかもしれない、望の身に。

 

しかし、黒雲は来た道を戻らなかった。共にいた望を信じていたからだ。少女との『約束』の為にもと、黒雲は目的を果たすことを優先する。

 

 

それが一番後悔することになるとは知らず、仲間よりも大切な関係の少女の悲劇から遠ざかって行ってしまった。

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