灰被りの英雄譚   作:パスタまご

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カルネ村のあたりは原作通りなのでパス

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謁見

 バハルス帝国の皇帝ジルクニフは、多忙な日々を送っていた。が、そんな日々に辟易し、同じような事の繰り返しであることに退屈を覚えていた。

 だが、それは終わった。

 とある日、帝国中が驚くような珍事件が発生する。帝都アーウィンタールの大広場に、騎士と思われる何者かが()()()()()()()()というのだ。

 騎士といえばと思い聞いてみれば、王国の戦士ではなく、法国の特殊部隊でもないという。まさかと思い、一応聞いてはみたもののやはり帝国の騎士でもないらしい。

 謎の騎士にジルクニフの興味はそそられた。すぐさま報告してきた衛兵に対し、その謎の騎士を城まで運ぶよう伝え、丁重にもてなすよう言い聞かせた。

 そして、騎士が目覚めたという話が伝わると、すぐさま会談の用意を整わせた。

 とはいえ、相手方にしてみれば突然のことの連続でさぞかしこまっているだろう。心の片隅にほんの少しだけ申し訳なさを感じながら、気になったのだから仕方ないだろうと自分勝手に考えていた。

 得体の知れない相手をする前に、自分の幼い頃からの教育係であり、首席宮廷魔術師であるフールーダに問いかけてみた。

 

「なぁ、じいよ。あの騎士についてどう思う?」

 

「例の騎士ですか。正直言えば胡散臭いと言わざるを得ませんな。なにせ、どこの誰が作った武具か分からないのにも関わらず、それにしてはやけに精巧な作りをしているとも聞きます」

 

「とりあえず、奴の出どころが知りたいところだな……来たか。入れ」

 

 ノック音が聞こえ、ジルクニフは扉を開かせる。そこそこ大きな扉は、大きな音を立てながら開き、そこに騎士の姿をした者を出現させる。

 鎧はフールーダが聞いた噂に違わぬ代物で、高級感がありながら全てにおいて実戦を意識したもので、一目見ただけでそれの価値が高いということが理解できた。腰にぶら下げている鞘に収めてあるだろう剣も、その全体像は分からないが、まず間違いなく一級品だろう。

 ゆっくりと確かな足取りで歩いてくる彼には、緊張や恐怖といったような感情は感じられず、逆にこちらが委縮してしまうようなオーラを放っているように見える。

 額に汗が浮かび、流れていくのをフールーダとジルクニフは実感する。だが、相手が礼を尽くしているのにこちらがそうしない訳にもいかず、急いで顔を上げさせる。

 部下達の手前情けない姿を晒すわけにもいかないジルクニフは、必死になっているのだが、フールーダにはバレバレだった。

 

「さて、まず初めに貴公の名前でも聞くとしよう。余はこのバハルス帝国の皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。こちらが主席宮廷魔術師のフールーダだ」

 

 一方ストレイドはといえば、非常に困っていた。なんとなくそれっぽいロールプレイのつもりで、ここまで来たのだが、それ以降の事を全く考えていなかったのだ。

 名前を聞かれはしたもののそれを簡単に教えていいのかとか、異形種とバレればどうなるのかとか、色々と聞きたい事は山積みだった。が、そんな空気ではない事は、一般人のストレイドでもわかる事だった。実際、こういった事はモモンガだったり、軍師ぷにっと萌えが詳しかったり強かったりするのだが、ここにいるわけでもないのだからしょうがない。

 相手方が名乗ったためにこちらが名乗らない訳にもいかず、仕方なくストレイドは自分の名前を言う事にした。記憶喪失というのも考えたが、後々の事を考えると面倒だし、そもそもバレない保証がない。

 

「我が名はストレイド。とある王に仕える騎士でございます」

 

 ただ、流石と言うべきか。ストレイドは未だにキャラを作るのをやめていなかった。とある王というのはもちろんモモンガの事だし、騎士というのもそんな恰好をしているだけでなったことなど一度もない。

 そんな半分以上が嘘で構成された自己紹介に、ジルクニフは興味を示した。もちろん興味をそそられたのは、『とある王』という部分にである。ジルクニフとしては、自分達が知らない国について情報を得るチャンスであり、その国の騎士を助けたともなれば恩を売る事もできるのだ。食いつかない訳がなかった。

 

「して、その王のいる国はなんという名なのだ」

 

 しかし、ストレイドはタダで情報をやる気はなかったのだ。彼は彼でこの場所について知らない事ばかりで、逆にこの世界に詳しくないわけがない、皇帝に会えたのだ。この機会を逃したくはなかった。

 

「教えますとも。ですが、こちらにも条件がございます」

 

「その条件とはなんだ?」

 

「私は不慮の事故により、ここにいる身。私が今から口にする言葉に聞き覚えがあれば、その都度教えてほしいのです」

 

「なるほど。よい、その条件を飲もう」

 

 交換条件くらいは予想していたジルクニフは、渋りもしなかった。情報の価値は分かっていたが、本当に何も知らないのであろうストレイドにくれてやる情報は、大した機密情報でもないのだ。

 快く条件をのんでくれた事に、ストレイド自身は少し驚いたが、それを態度として出さないように細心の注意を払いつつ、しっかりと脳内で文章を組み立てて話し始める。

 

「私は、ナザリックという場所にいる王に仕えている騎士なのです。諸事情により、王の名前は話す事ができませんが、王としてだけでなく魔法詠唱者としてもとても優秀なお方です」

 

「待ってくれ。魔法詠唱者だと?」

 

 口を挟んだのはフールーダの方だった。魔法というものに人生をかけている彼は、魔法と名の付く物事に関して非常に執着していた。それが異国のものであればなおさらである。

 魔法と一言で言っても幾つか種類があり、単純に術者が持つ魔力を活用して発動する魔力系だけでなく、神への信仰の対価としてシスターやモンクが使う信仰系魔法もある。他にも様々な種類があるため、異国に新しい種類の魔法がある可能性は十分にあるのだ。

 

「ええ、魔法詠唱者です。……私は前衛職なので詳しくは分かりませんが、それでもある程度は理解しています。ある程度の基本魔法などは使用できます」

 

「してその王は第何位階まで使えるのですかな?」

 

 フールーダの質問は止まる事をしらないようだったが、ストレイドはここで一つの単語に引っ掛かった。そう、()()である。ユグドラシルというゲーム上の魔法に対するレベル区分のようなものだった位階が、この場所でも使われているという事に違和感を覚えた。しかも、だ。ユグドラシルプレイヤーにとっては当たり前だった位階魔法という名称は、ユグドラシルにいるNPCはまったく使った事がなかった。つまり、ここがユグドラシルであるならフールーダ(NPC)が“位階”という単語を使うのは不可解だ。

 魔法という単語一つで、ここまで情報を引き出した自分を自分でストレイドは褒めた。だが同様にかなりショックを受けた。諦めたとはいえほんの少しだけ期待していた、夢オチだとかそういった事から、また遠ざかってしまったのだから。

 だがしかし、事は上手く進むとは限らないのは何に関しても同じ事で、ストレイドにとっての“普通”というのは、この場所での異常(イレギュラー)であった。

 

「何位階までって……第十位階まで満遍なくですかね「第十位階!?」……どうしました?」

 

「今、第十位階と言ったか?」

 

「え、ええ」

 

 ストレイドにとって、いや、両者にとって青天の霹靂であった。フールーダからしてみれば、あり得ないのだから。第十位階なんていうのは、聞いた事すらない。そもそも人間が使える最大限というのが六位階魔法であり、それを自分が習得しているのが彼の誇りであった。それに加え、相当に優秀な詠唱者が何人も集まって大儀式を行えば、第八位階の魔法を使う事もある程度の確率で可能ではあるのだ。

 しかし、それでも聞いた事がないのである。そもそも第九位階を聞く前に十を知ってしまった事にショックすら覚えている。

 悶絶しているフールーダを他所に、ストレイドはこちらはこちらでショックを受けていた。どちらかというと「そんなに驚くか?」という事に。基本的にそこそこ熱心なユグドラシルプレイヤーにとって、第十位階というのは珍しいものでもないのだ。大抵は強力な魔法だし、派手なものも多いから人気度も高い。第十位階の存在を知らずにキャラビルドを組み、後で後悔してわざわざリセット用アイテムに課金をする人がいるくらいだ。

 その後も幾つか会話を交えるごとに、魔法についての知識は半前衛職のストレイドの方が彼よりも遥かに多くの知識を持っている事が分かり、バンバン魔法という人参をぶら下げる毎にフールーダは重要そうな情報をどんどん喋ってくれた。

 問答は、フールーダの豹変ぶりに驚き、呆然としていたジルクニフが気を取り戻すまで続き、そこまででストレイドが分かったのは

 

(さては、こいつらレベル低いな)

 

 というものだった。フールーダが使える事を自慢気にしていた第六位階は、ストレイドですら平気で使える程度の魔法だし、敵対している王国とやらにいる戦士長というのも、聞いている限りではレベルは30程だろう。

 ぶっちゃけ言えば、警戒するだけ馬鹿みたいな話だった。

 どっかの死の支配者が、小さな村を襲う騎士のレベルにビクビクしながら助けにいっている中、この騎士の姿をしているストレイドという男はたった今警戒心を半減させた。彼らに奥の手がないとも限らない以上、警戒心を0にする事は不可能だろうと彼は自覚していたし、それを理解できない程愚かではなかったが、それでも周囲にいる大抵の者からの攻撃を無効化できると分かってしまった以上、ある程度は心を休ませられるというものだ。

 フールーダを咎めつつも、ストレイドの話をきっちり聞いていたジルクニフは、話を要約させて確認を取る。

 

「つまり、貴公の国の王は、このフールーダでも使用がまず不可能な第十位階?の魔法を使える。そして貴公もある程度は教わっているから、そこそこは使える。そして、魔法には更にその上の超位魔法なるものがある」

「何かしらの不慮の事故により、帝国領内に偶然にも転移してしまったため、殆ど何も持っていない」

「貴公はここら辺の地理を殆ど知らない。そう断言できる……これでいいだろうか」

 

「そうですね。地理に関しては、先ほど地図まで見せてもらったので断言できます。少なくても、私の知っている大陸ではありませんね」

 

 ただの魔法キチガイなフールーダと違い、話は分かるし要約までしてくれるジルクニフの事が、ストレイドには中々に好印象に映った。好感度ゲージが上がるのを感じたが、そもそも男が男に好感度ゲージが上がったところで誰得というものだし、何もイベントは起きない。

 

「そういえば、その貴公が知っている大陸というのは何というのだ?」

 

「……皇帝ジルクニフ。あなたは、ユグドラシルというものを知っていますか?」

 

「いきなり話が逸れたな……存じ上げないがそれがどうした?」

 

 ニヤリと笑ったストレイドは、ユグドラシルの設定の事を如何にもそれらしく語りだした。

 

 

 ――――神話の時代、ユグドラシルというとてもとても巨大な世界樹がありました。人間やモンスター、異形たちはそれぞれ慎ましくも友好的に過ごしていました。でも、そこに一匹の凶悪な魔物が現れて、ユグドラシルを食い荒らしてしまいました。世界を支えていた樹が荒らされた事によって、世界のバランスは崩壊し大変な混乱に陥りました。

 荒らされて落ちてしまった葉は、世界を変える程の強力な力を持つ宝具へと変化し、残った九枚の葉は、混乱した世界を九つの世界に書き換え、混乱を落ち着かせるに至った。

 しかし、混乱の最中に起こった人間とそうでないものの対立は、世界が分けられてからも続き、また、世界樹を食い荒らした魔物は、世界となった残された九つの葉にも手を伸ばそうとしている――――

 

 

「これは、私達の世界で伝わる神話です。この神話では、私が過ごしていた場所はこの九つの世界の一つ、ヘルヘイムだというのです」

 

「では、ここはどこなのだ?」

 

「私が聞きたいくらいですよ」

 

 長々と語ったストレイドに対し、ジルクニフはまだ微妙な顔をしていた。というのは当たり前の事ではある。ストレイドも、敢えて言うならモモンガも。このユグドラシルのゲーム設定に出てくる“世界樹を食い荒らす魔物”という名前、もしくはそれに類するボスキャラは見たことがないのだ。ある意味本当に神話である。

 そもそも、ユグドラシルはその魔物を阻止するためにプレイヤーが世界を旅する設定である。もしかするとプレイヤー側が全く発見できなかっただけで、それを倒すための条件があったかもしれない。それができなかったからサービス終了という線もある。

 そんな風に、結局プレイヤーにもまだ全てがわかっていないユグドラシルに、素人であるジルクニフが全てを理解しろというのがまず無理な話であった。

 

「ところで貴公、その王が見つかるまでの間で構わん。余の騎士にならんか?」

 

「お断りいたします」

 

 ジルクニフが突然切り出したのは、自分の部下にならないかという提案。情報が入るという点においては、他に類をみないほどのものではある。が、監視が付きまとう事は容易に想像できる。それは、情報と引き換えに自由を失うという選択であった。

 ストレイドにとっては、そこまで魅力的に映らなかった。

 

「そうか、それは残念だ……これからどうするつもりなのだ?」

 

 問題はそこだった。モモンガを探すとしても、まず地理的弱者である以上それはすぐには叶わない。であれば、まずは手ごろな場所から把握するのがいい。そう判断した。

 であれば、今一番手ごろなのはこの帝国だった。帝国領内を全て踏破する事を目標にすると伝えると、別の国に渡るとか言わなかったからか、快くジルクニフは賛成してくれた。旅費としては多過ぎるだろう金貨を貰い、帝国領内全土が書かれている地図を貰う。そして、一般的な街の関所を通るための手形を作ってもらい、お礼を言って城をあとにした。

 

「感謝する。バハルス帝国皇帝ジルクニフ。ありがとう」

 

「貴公が我が軍門に下るのをいつでも歓迎するぞ、未だ知らぬ国の騎士ストレイド」

 

 ストレイドは教えてもらった宿に向けて歩き出す。




今回の独自展開

・フールーダが早々に魔法の極致についての手がかりを掴む

・ジルクニフがユグドラシルについて知る

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