今後も頑張るゾイ!
ジルクニフに謁見した翌日、とりあえずという事で泊まった宿を出たストレイドは、地図を片手に街を散策していた。しかし、やはりというべきだろうか。鎧姿の騎士という風貌は、街中では当然のように目立っていた。
なんとなく落ち着かない感覚を覚えながら、商店街で珍しいものを探すべく様々な店を見て回っていた。
「店主、これは?」
目を付けたのは、元の世界にもあった玩具ルービックキューブだ。もはや説明不要とも言えるそれは、彼が知っているものとまったく同じであった。だからこそ気になったと言える。
「あぁ、それかい?それはルビクキューだよ。知らないかい?」
「え……あぁ。どういうものなんだい?」
名前までそっくりだという事にとうとう違和感を覚えたストレイドは、“ルビクキュー”なるものの開発経緯と遊び方を聞いた。
どうも、約600年前に現れた六大神なるものが、今のスレイン法国に広め、王国や帝国などに伝わったものらしい。遊び方は彼が知っているものと全く同じで、バラバラの状態から6面綺麗に色を合わせるという基本中の基本のもの……なのだが、聞く限りでは6面揃ったという話は滅多に聞かないらしい。
しかしストレイドの耳に残ったのは、ルビクキューの完成率とかではなかった。六大神という存在が『いた』という事である。その存在についても聞いてみたが、聞けば聞くほど面白い話である。
モモンガに似た容姿の人物が出てきたり、かと思えば人間種がいたりとその6人についての詳しいところはあやふやらしいが、ストレイドにとってはもはや確定情報と言ってもよかった。そう、この世界に自分と同じユグドラシルプレイヤーがいると。
「丁寧にありがとう、これ、買ってくよ」
情報料代わりにその“ルビクキュー”を購入し、ストレイドはその店を後にする。
そういえばと彼が思い出したのは、この謎の現象が起こってからというもの何も口にしていない。だというのに、少しも腹が減っていないのだ。いつもならあり得ない感覚に違和感を覚えつつ、そういえば自分は異形種だったなと再確認する。
異形種の種族スキルとして、食事や睡眠が不要だったり、毒などが無効だったりする種族が存在する。そして、ストレイドの種族も所謂不必要なタイプなのだ。
彼は、人型ではあるが決して人間ではない。
「試しに屋台で何か買って食ってみるか?」
そう思い、角を曲がったときだった。視界のごく僅かな範囲に少女の姿が見えた。鎧のせいで良く見えなかったため、ぶつかるのは避けられないだろう。どうにか少しでも相手が痛くないようにできないかと考えるも、今更遅いようだ。
視界が悪いというデメリットがかなり大きい事が分かったストレイドは、フルプレートやめようかなと微かに思いながら、ぶつかるという運命を受け入れる。
「痛っ!」
妥協案として、せめて転んで怪我をしないよう全力で支えたが、これはこれで犯罪者のようだと自覚し、ストレイドはかなりげんなりする。肩を掴まれた彼女は少々驚いていたが、それ以上にやはり痛みの方が強いようだ。
金髪の如何にも異世界にいそうな少女を見れば、彼女は華奢な体つきをしていて、こんな幼い少女にぶつかってしまった事をストレイドに尚更後悔させる。
「大丈夫……か?」
「……!ひぃっ!」
「ん?」
少女はストレイドの事を見た瞬間、隠せない程の恐怖を露わにする。圧倒的な拒絶の色に彼は戸惑いながらも、この少女をとりあえず落ち着かせようと四苦八苦しつつ奮闘する。
実は、少女が怖がった理由は鎧のせいでは決してない。これは、ぶつかった拍子にたまたま起動してしまった彼女の
彼女は、自分と相手との決定的力の差を感じ取り、本能的に逃げようとしていたのだが、そうとも知らずに落ち着かせようとしてくるストレイドによって、それは防がれていた。
「おい、そこの鎧!」
そんな異様な光景に待ったをかける者達がいた。彼らは3人組で、しかも武装していた。
1人は、レイピアとショートソードの間ほどの細めの刀身が納められているだろう鞘を両腰に1本ずつぶら下げた剣士で、叫んだ様子から見ても彼らのリーダー格であろう。
2人目は弓と矢筒を背負っているあたり、遠距離攻撃と遊撃を担うアーチャー。耳が微妙に尖っている事から、ユグドラシルの中にもいたハーフエルフだとストレイドは判断する。
最後に一番後ろから来たのが、かなりの巨漢で、ストレイドよりも一回りほど体格の差が出ていた。白を基調とした防具に杖という装備から、神官だろう。
ユグドラシルプレイヤーのパーティーを彷彿とさせる彼らは、ストレイドと金髪の少女を力ずくで引き離し、呆気にとられたままのストレイドに対し、敵意を剥き出しにする。
まるでこれでは、被保護者と保護者達だ。
「アルシェに何をしたの!」
少女の名前はアルシェというらしい。ハーフエルフの女が、怖がっている彼女を見てそう叫ぶ。とはいえ、ストレイドにとっては勝手に見てきて勝手に怖がられているのだから、どうしようもないにも程がある。
基本的には温厚な彼も、流石に言われっぱなしは嫌だったのか、反論に移る。
「あのさ、まず一ついいかい?」
「あぁ言ってみろ」
「皆さん、そんなけんか腰にならなくても……」
唯一神官の男だけは、そんなに喧嘩腰の対応ではなかったが、それでも仲間が恐怖のどん底に叩き落されたのを見て、とりあえず黙ってはいられない様子ではある。隙あらば喰ってかかるだろう様子を見て、ストレイドは説得にかかるであろう時間を想像して反吐が出そうな気分を味わった。
辟易したためか、それとも道端で口喧嘩するのが通行人や店に申し訳ないと思ったか、ストレイドは彼らに対してとりあえず落ち着ける場所に移らないかと提案し、脇道にある酒場に場所を移した。
「いや、本当にこの度は誤解してしまい申し訳ない」
約45分かかった説得は、なんとか功を奏してくれた。誤解は解け、自分はただぶつかっただけだという事をしっかりと証明することができた。ストレイドはホッとすると同時に、元の世界で良く話題になっている痴漢冤罪だとかの無罪証明が難しいという事を改めて思い知った。
一歩間違えれば、犯罪者扱いされるところだったからか、身体の疲労は感じないはずなのに、精神的な疲労がかなり溜まるのを感じる。
リーダーの男ヘッケランは、早とちりしたと謝罪した。それに合わせてストレイドも誤解されるような事をしたことを謝ったが、正直な所彼に非は全くと言っていい程ない。というか、ぶつかったくらいしかないだろう。それを分かっているからこそ、心の中でストレイドは何回も舌打ちをしていた。
とはいえ、それを口に出す程無粋な人格の持ち主ではない。そんなわけで彼は、なんで自分の事を怖がったか。その理由を聞く事にした。
「……まぁ、それはいいんだ。ぶつかったこちらも悪い。だが、なぜあんなに怖がった?騎士であればこの国にも数多くいるだろう」
金髪の少女、アルシェはビクッと震えるとおずおずと語りだす。
「あなたが、あなたが持っている魔力が、人間ではあり得ない程多かったから……」
「魔力探知系魔法か?無言詠唱ができるものは聞いた事ないな」
「いえ、魔法じゃないんです」
アルシェが言うには、この世界には数十分の一の確率で生まれつき何かしらの『異能』を持った者が生まれてくるらしい。その異能は、強弱はあれど確かに異能として機能するものであり、どうでもいいものなら「紙を破る時に音がしない」などの本当にどうでもいいものである。
しかし、どうでもいい異能があるという事は、その逆に本当に有用なものもあるという事である。例えば、「召喚魔法で召喚するものを一体多くする」とか「アイテムを見ただけでその効果が分かる」だとかだ。
アルシェもそんな
「タレント、か。スキルのようなものなのかね」
「スキル?」
「スキルについては知らないのか」
どうやら、この世界ではスキルがメジャーではないらしかった。一応、特殊技能だとかいう名前で存在はしているらしいが、殆ど見られることはないという。その代わりにタレントだったり、武技と呼ばれる戦士職用魔法とも呼べるものがあったりするらしい。
ユグドラシルに元々存在したシステムがあるにも関わらず、かと思えば全くない新しいものもかなりの数ある。
(少しずつでも調べて、覚えていかないとな)
もし、この世界に本当に六大神のようなプレイヤーと思わしき人物がいるとしたら、ストレイドが警戒すべきは彼らだ。この状況で、リスポーンができるのかどうかもかなり不安だ。六大神の一人、スルシャーナは何度も復活したという記述が残っているらしいが、それは恐らく拠点ごと転移した例なのだろう―実は、六大神が最初に現れた場所が、現在のスレイン法国であるという説が存在するらしい―し、そもそも彼らができるからといってストレイドがリスポーンできるとは決めつける事はできない。
そして何より、ストレイドにとってのトラウマ『異形種狩り』がこの世界の常識の一つであったなら、それはそれで恐ろしい事になるだろう。何故なら、今はこの鎧と固有スキルのお陰で隠されているが、一度瀕死の重傷を負ったが最後、途端にストレイドが異質な者であることはバレてしまうのだから。
「なぁ、タレントを知らなかったりしてるが、あんた、どこから来たんだ?」
ストレイドの話が終わったとみて、ヘッケランが口に出したがっていただろう言葉をとうとう口にした。ストレイドは、話すべきかどうか数瞬悩み、彼らを協力者に変える事を選んだ。
「この帝国に正体不明の騎士が現れたという話、聞いた事ないかな?」
「あー……あの転移魔法でやってきたとかいう噂があるやつか」
「それが私だ」
人差し指で自分を指し答えた彼に、ヘッケランは、「あなたが?」と人差し指で指しながらもう一度問う。するとやはり、ストレイドはYESと言わんばかりに首を縦に振ってくる。
横にいるイミーナやロバーデイク、アルシェの方にも向いて、それからもう一度ストレイドに顔を向けても、やはり縦に首を振っている。
「本当の本当に?」
「ああ、もちろん」
ヘッケランは頭を抱えた。というのも、その騎士が皇帝と会談したという話は、この街ではとても有名なものだった。そんなものに手を出してしまったことに少なからず後悔した彼だったが、人間開き直った後が強いもので、こうなってしまった以上、逆に関わりを強くしようと決めた。
そして対するストレイドも、彼らのように帝国の事に詳しい人に話を聞けたりすれば僥倖であったし、あわよくば手っ取り早く金を稼ぐ手段だったり、費用が安くてすむ宿だったりを教えてほしいのであった。
先に話を切り出したのはストレイドの方だった。
「まぁそういう訳で、私はこの地について詳しくない。宿がどこにあるのか探すので手一杯なくらいだ。どうだろう、そちらが良ければ一緒に行動させて頂けないか?」
「一緒に?……俺たちはワーカーだからなぁ。あ、ワーカーって知ってるか?」
「ヘッケランは説明下手ですから、私が説明しましょうか」
「いやそれくらいできるって……」
ストレイドが首を振るとロバーデイクが説明を始めた。
ワーカーというのは、言ってしまえば傭兵のようなもので、同じような職である冒険者―帝国では殆どいないらしい―に比べて高収入ではあるが、汚れ仕事の多さや高い危険度を秘めた、所謂いわくつき冒険者って感じらしい。
昔はこの帝国にも冒険者が数多くいたらしいが、それでも冒険者になれなかった人々は数多くいた。その理由は元犯罪者だったり、なにか道場の掟で入れなかったりと様々あるが、それでも彼らは冒険者として働きたいという夢を捨てきれなかった。
そして、そんな人々が集まって作り出したのがこのワーカーという職業だ。冒険者にある難易度別の依頼処理なんてものは一切なく、それぞれの人がそれぞれ個人で責任を負って依頼を受け、それをこなし、成功すれば報酬をもらい、失敗すれば死ぬ。
全てが自己責任の世界だ。制度すらまともではないそれを冒険者たちは蔑んでいたが、新しい帝国となり、冒険者組合の規模と主張、勢力が弱まった今ではワーカーこそが帝国での真の冒険者だった。
そんなワーカーに、ストレイドは心惹かれていた。彼がやっていたゲームの一つにも、そんな傭兵の世界があったのだ。
巨大な人型ロボに乗り込んだ傭兵が依頼を受け、それをこなして報酬を受け取り、新たなパーツを買って機体を組み、そして強くなり過ぎた主人公を世界側が消そうとする。それすら蹴散らした主人公が、世界の真実を悟る。そんな感じのゲームだった。
実際、ストレイドのキャラメイクはそのゲームともう一つのゲームに強く影響を受けていて、種族だったり戦闘スキルだったりもそれを基に作ったものだ。
「ワーカー、傭兵か。面白いじゃないか。なあ君達、私をチームに入れるというのはどうだ?」
「なんだって?」
ヘッケラン達からすれば、戦力アップは頼もしいものだった。特にアルシェからしてみれば、本能的に恐怖を覚える程の者が仲間になるというならば、今後敵になる可能性がほぼなくなる訳なので、非常にうれしい事ではあった。仲間達もそれは分かってる。分かってはいるのだ。
しかし、それと同時に懸念していることがあった。それだけ強い者ならば、報酬を多く取っていくのは当たり前というもので、確実に自分の分け前が減るのだ。そして、一番ストレイドが仲間になる事に対して頼もしいと思っているアルシェこそが、一番悩んでいた。彼女こそがこの四人組ワーカーの中で一番金が必要な人物なのだから。
悩み、相談する彼らに対し、ストレイドはその思考を読んだ。
「ああ……報酬か?そんなものは全体の一割程を貰えれば構わない」
ある意味で破格の待遇であった。だが、タダより高い物はないという言葉が指す通り、ストレイドの目には彼らが信用していない顔をしているのが見えていた。人間美味い話には裏があると思ってしまうものだ。
だからこそ、彼はとある条件を出した。それは奇しくも、とある村を救ったとある骸の王がその村の村長に出したものと同じ条件だった。
「その代わりと言っては何だが、この国とその周辺の情報、そして食と住の確保。それを約束してくれればいい。それ以外は……今のところは大丈夫だ」
「そこまでいうなら……いいか?」
情報は共に依頼をこなしていればある程度手に入る上、報酬は一割で済み食と住はどうとでもなるのだから、ヘッケランとしては本当に助かるものであった。
念のため他のメンバーにも確認してみたが、満場一致で答えはOKだった。
ロバーデイクとイミーナは、更なる生還率上昇のため。アルシェは、自分の分け前が減らないうえで、彼が仲間になるのが心強いといったところだろう。
「よし、じゃあええと……ストレイド。君も今日からこのフォーサイトの一員だ!」
「ああ!よろしく頼む!」
全員の意見が一致したところで、ヘッケランとストレイドが握手を交わし合い、ワーカーチーム『フォーサイト』に一人の騎士がメンバーとして加わった。
そして、それを一番喜んでいるのは、ストレイドでもヘッケランでもなくアルシェである事は、本人を含めて誰も知らないことだ。
アルシェちゃんが吐くと思った?残念、戦士職でした!
今回の独自展開
・フォーサイトにプレイヤーが加入